防寒着といえば獣毛のセーターしかなかったその昔にフリースをはじめて誕生させた、「フリースの生みの親」パタゴニアにとって、この画期的な化繊の防寒着は特別な存在です。
世の中的にはここ最近、秋冬登山の行動着として「アクティブインサレーション」が注目されている昨今ですが(もちろんパタゴニアもそれらをリードするメーカーのひとつ)、パタゴニアは発明から50年近く経った今でも、これまでよりも暖かく、より軽く、より快適で使いやすい「新しいフリース」を進化させ続けていることはもっと世に知られていい。
進化したフリース——。それは昨今話題のアクティブインサレーションにガチンコで勝負しても負けない、いや総合力ではそれを凌ぐほどの素晴らしいフリース。それが今回紹介する「R1 エア・ジャケット」です。
パタゴニアの「R1シリーズ」といえば世界中の山岳アスリートが愛用するテクニカルフリースの代名詞ですが、「R1 エア」は、言わばその定番をベースにしつつより現代的なスタイルにアジャストした、フリースの新しいかたち。5年前に初登場した初代バージョンで初めてその驚きのパフォーマンスに触れたときの衝撃は今でも覚えています。
そんなR1 エアに今シーズン、新たにフルジップのジャケットタイプが(ウィメンズではフルジップジャケットとクルータイプが)ラインナップとして加わりました。そこで今回はこの画期的なフリースジャケットのどこかどう新しくてどこかどう優れているのか、またどんなアクティビティやスタイルにマッチするのかなどを実際のフィールドで確かめてきたので、さっそくレビューしていきます。
目次
パタゴニア R1 エア・ジャケットの主な特徴
パタゴニア R1 エア・ジャケットは、ハイスピードの登山やトレイルランニング、バックカントリースキー、クライミングといった高負荷なアクティビティを想定した、高断熱・高通気テクニカルフリースです。100%リサイクルポリエステル製の中空糸ジャカードフリースは、軽量でありながら多くの空気(デッドエア)を保持し、優れた保温性を発揮。またジグザグにデザインされた立体的な起毛構造によって卓越した通気速乾性、優れた重量当たりの保温性を実現。一定の温もりを保ちながら活動による熱や湿気を効率的に外へと放出することで、気温の低い環境でストップ&ゴーを繰り返してもずっと脱ぎ着せず一定の快適さをキープし続けることができます。その他、洗練されたデザインに加え優しい肌触りと動きを妨げない心地よいフィット感、高めに配置したハンドポケットなど、実用性と機能美が細部まで考慮されたR1 エア・ジャケットは、冬の中間着として、または穏やかなコンディションでは単体のアウターとして、あるいは秋冬の日常着として、さまざまなシーンで活躍できる品質を備えています。今回初登場のジャケットタイプの他、用途に合わせてフルジップフーディ、クルーの3タイプをラインナップ。
おすすめポイント
- 活動中も蒸れすぎない高い通気性と、本格的な冬の寒さにも対応する高い断熱性の両立
- ふんわり心地よい肌触りと、動きやすくて行動着に適した快適な着心地
- きつすぎず、緩すぎずでフィールドでも日常でも映える自然なシルエットと垢抜けたデザイン
- 濡れても保温性をキープ
- 高い速乾性
- 気軽に洗濯機でケアでき、環境への負荷や公正な労働環境にきめ細かく配慮された安心感
気になったポイント
- 秋冬でも暖かめの天気(10℃を超えるあたりから)だとアクティビティによってはやや暑すぎることも
- 防風性は低い
- ピリングにはやや弱い
- チェストポケットが小さい
- サムループがあればなおよかった
主なスペックと評価
| 項目 | R1 エア・ジャケット |
|---|---|
| 実測重量 | 340 g |
| カラー | Dried Vanilla、Pelican、Black、Old Growth Green |
| サイズ | XS / S / M / L / XL |
| 生地 | 中空糸を使用した5.7オンス・リサイクル・ポリエステル100%のジャカード・フリース。ブルーサインの認証済み。フェアトレード・サーティファイドの工場で製造 |
| ポケット | 小物の収納に最適なジッパー式ポケットが左胸に1つ。かさばりを最小限に抑えるジッパー式フロントポケットが2つ |
| Outdoor Gearzine 評価 | |
| 快適性 | ★★★★★ |
| 保温性 | ★★★★☆ |
| ムレにくさ | ★★★★★ |
| 動きやすさ | ★★★★☆ |
| 機能性 | ★★★☆☆ |
| 重量 | ★★★★☆ |
| 収納性 | ★★★☆☆ |
| 汎用性 | ★★★★★ |
詳細レビュー
保温性と通気性:アクティブインサレーションに対するフリースからの最新回答は、断熱性と通気性の絶妙なバランス
当然のことではありますが、元来フリースで最も重視されているのは保温性です。ただ従来までは、保温性を重視するあまり、活動中の熱のこもりやすさ(つまり通気性)については限界があったのも事実。クラシックなトレッキングであれば問題なかったのですが、トレイルランやファストパッキングのようなアクティブな活動では、その通気性は物足りないとなっていったのです。近年アクティブインサレーションがその不満を埋めるかように急速に普及していったことは、そうしたフリースの弱点(?) と無関係ではないはずです。
そんな背景を理解すると、この新しく生まれたR1 エア フリースの革新的なコンセプトが理解できます。
従来のフリースの弱点であった通気性の低さを克服しつつ、さらに厳しい低温下でも寒くならない断熱性、この二つの相反する要素を、高いレベルで両立させる。それを可能にしたのがこのジャケットに採用された、中空糸を使用したジャカード・フリースの独自生地です。
革新的な素材:中空糸ジャカードフリース
R1 エアの魅力の中核であるこの100%リサイクル・ポリエステル生地は、糸の内部に空間を設けた中空構造の糸(中空糸)を、立体的なジグザグパターンで織り込むという構造が採用されています。この糸とジグザグ状のテクスチャーの組み合わせが理想的な空気の流れを作り出すことで、これまでになかった効果を生み出しています。
まず中空糸がデッドエアを保持して保温性を確保する一方で、起毛したジグザグの織りパターンが暖かい空気を閉じ込めることで、重量を抑えつつ高い保温性・吸湿性を実現します。さらに生地表面に細かいジグザグ織りの隙間が空気の通り道を作り、激しい運動中に発生する熱と湿気を効率的に外部へ放出。100%ポリエステルだから濡れても非常に速く乾くので、優れた通気性と速乾性も同時に実現しているのです。
実際のテストではこのR1 エア とR1 ジャケット の両方をフィールドに持っていき、同じ状況でどちらも着比べてみました。そこで実際に行動してみると、この生地のフリースらしからぬパフォーマンスが、はっきりと感じられました。
日帰りの荷物を背負って一桁台の気温のなかでの登山でしたが、R1 エア に袖を通した瞬間はすぐに温もりを感じられ、まったく寒さが気にならないほどの暖かさに、このジャケットの保温性の高さを感じます。一方で、朝一でまだ体が温まる前の歩きはじめに剥き出しでいると、ちょっと動いただけで外気を感じることができるほどの通気性の高さも同時に感じられ、瞬間的に風が吹くと冷たい空気がベースレイヤーを突き抜けて身体まで届き、このままだとちょっと寒いかな?と心配になるくらいでした。
ただやや急な坂を登り始めるとその心配はすぐに消え、逆に発汗によって身体はかなりの熱を発してきたにもかかわらず、身体を通り抜ける風によって身体が気持ちよくクールダウンされ、ジャケットを脱ぐことなく行動し続けられました。ベースレイヤーにかいていた汗は不快になるほどたまらず、気づかないうちに乾いてしまいます。
従来のテクニカルフリースの代表であるR1 ジャケットとの比較で説明すると、どちらも基本的に保温しつつ蒸れにくいのですが、R1 エア はここから特に「保温性」と「通気性」が突出していることで、よく暖めやすく、冷ましやすいというイメージ。その意味では寒い季節の高負荷アクティビティにはR1 エア の方がより適しており、逆にクライミングなど耐摩耗性が重要な場合やその他の幅広い用途にはR1 ジャケットの方に軍配が上がるといえます。いずれにしても両者はそれぞれ異なる目的と哲学に基づいて設計された製品であり、どちらにも異なる長所と短所があり、アップグレードの関係ではなく目的によって使い分けるべきものと考えるのが重要です。
一方で、R1 エア のこの働きはいわゆる中綿のみが剥き出しになったタイプのアクティブインサレーションジャケットと同じように機能しますが、厳密にいうとそうしたジャケットに比べて微妙に保温・通気のメリハリの度合いがよりマイルド(暖めすぎず、冷ましすぎない)です。厳しい寒さでは剥き出しのアクティブインサレーションだとやや冷えすぎてシェルを着たりすることも多いのですが、R1 エア の場合はその場合でもアウターとして気持ちよく着られる温度域の幅が広く、その分のバランスの良さを感じました。
高い通気性は稜線の風に注意
そうはいっても、R1 エア はあえて対候性を犠牲にして空気の通りを最高しているフリースであり、この高い通気性によって稜線を吹き抜けるほどの強風下での保温性はほぼ期待できません。止まっていればどんどん体温を奪われていきますので、そこは注意が必要です。
ただ、そんなときは上にフーディニ・ジャケットのようなウィンドシェルやレインウェア・ハードシェルなどと重ね着して通気をコントロールすることで、本来の高い保温性を発揮することができます。このように、このジャケットは単体として考えるだけでなく、レイヤリング・システムのひとつとして機能させることが重要です。
着心地・快適性:ふわっと軽くて心地よい肌触りと、きつすぎず緩すぎない理想的なフィット感と動きやすさ
これまでもずっと言ってきたことですが、R1 エア も他のパタゴニアのウェア同様、最新のニーズに対応し最先端の機能性を盛り込んだテクニカルウェアでありながら、アスリートが極限状況で着るだけでなく、僕のような一般人が日常でも着たくなるようなありがたい快適な着心地を備えています。何よりも肌に密着するのではなく、ふわっと肌に優しく寄り添うような肌触りと、従来のフリースよりも軽くてソフトでしなやかな心地よい風合いが大好きで、この極上の着心地の良さと垢抜けたデザインがあれば、フィールドだけで着るのなんてもったいない。R1 エア が手元に届いてからというもの、こいつはフィールドでの一着としてだけでなく、完全に「お気に入りの普段着カーディガン」としても活躍してくれています。
シルエットはR1 ジャケットと同じ「スリムフィット」とされていますが、どちらも基本的に体のラインに沿うフィットながら実際に着た感じではこちらの方が若干ゆとりがありました(R1 ジャケットの上にR1 エアが重ね着できた)。なお今回実際に着ていませんが、クルータイプはレギュラーフィットとなるため、アクティビティから日常までより幅広いシーンを意識したつくりになっています。
サイズ感的には177センチの自分で、(いつものパタゴニアでは大体Sサイズがちょうどいい場合が多いのですが)このモデルはSサイズがぎりぎりジャストフィット。フィールドだけの着用を考えるとぴったりフィットでも良かったかもしれませんが、日常でも着たい点を考慮し、今回はややリラックスして着られるMサイズがちょうどよい感じでした。どちらも下にベースレイヤーを着用したときに窮屈感はありませんが、上にシェルを羽織るときのレイヤリングのしやすさだけに関して言えば R1 ジャケットの方が相対的にはスムーズかもしれません。
巧みな立体裁断と生地のストレッチ性によって身体の動きが妨げられるようなこともなし。ただし、R1 ジャケットと違ってポリウレタンのような伸縮糸を含んでいないため、あちらと比べれば伸縮性は控えめ。
ジャケットタイプなので頭部のプロテクションはフーディタイプに比べれば低くはなりますが、それでも衿は普通のジャケットに比べれば高めに作られているため、襟を立てれば冷風が衣服に入ってくるのを防ぐことができます。また肩の縫い目をやや後ろにオフセットさせることでバックパックとの干渉を避け、行動時に着用しても縫い目が気になることもありません。
袖口は肌当たりよく緩やかに締まるように掌側だけがエラスティック素材となっています。裾も背面のみエラスティック素材で、レイヤリングしやすさとフィット感、デザインのバランスを考えた仕様です。
その他の機能性:オールラウンドに使いやすいポケットと細かな調整が行き届いた丁寧な作り
収納類は、ジッパー付きのハンドウォーマーポケットが2つ備わっています。配置はバックパックのヒップベルトを締めていても出し入れができるほど高くはないですが、かさばりを最小限に抑えてあるためポケットの厚みが邪魔になるということはなく、アクティビティと日常シーンの折衷案的な趣になっています。そもそもポケットにたくさんの小物を入れると重みでダボついて歩きにくくなるので、行動中このポケットにあまりものを入れるケースは少ないと考えると、この日常用でも使いやすい仕様は個人的にはありがたい。
ただそのうえで、胸ポケットの小ささだけはどうしても気になりました。せめてスマートフォンを収納できる程度には大きくあって欲しかった。収納できるのは車のキーやクレジットカードといった最小限の小物のみで、スマートフォンや地図を入れる場所として使い物にならない点だけは残念です。
耐久性についても問題なし。ただし起毛フリースの表面にだけは注意
R1 エアはMサイズで実測340グラムと、
環境および社会的なインパクトを最小限に抑える配慮の行き届いた作り
多くのパタゴニア製品と同様、R1 エア も環境や社会的なインパクトに対して最大限の配慮が行き届いていることも見逃せません。生地は100%リサイクルされたポリエステルから製造されており、ブルーサイン®認証を受けています。さらにはすべてフェアトレード・サーティファイドの工場で縫製されるなど、製造プロセスにおける環境への影響を最小限に抑えつつ、生産者の労働環境向上にも貢献しています。さらには製品の生涯保証とともに手厚い製品修理サービスがあり、また近年始まった「Worn Wear」中古品プログラムなど製品を長く使い続けることを奨励しそれに応えるためのサポートサービスが行き届いているなど、アウトドア愛好家が安心して製品を使い続けるためにさまざまな障壁を取り払う努力がなされていることは、いつも忘れがちではあるものの、実は大切だったりします。
まとめ:「通気するフリース」が変えた新しい冬の万能行動着は、今どきのアクティブなアウトドアだけでなく、街着としてもおすすめ
パタゴニア R1 エア・ジャケットは、従来のフリースのようなある意味での「万能さ」をあえて捨てることで、寒い季節でのより強度の高いアクティビティにとって最適な通気性と保温性、そして高いレベルでの快適性を実現した、優れたテクニカルフリースでした。中空糸ジャカードフリースのユニークな構造が、軽量性と保温性、通気速乾性を高い次元で融合させています。秋冬のトレイルランニング、スキーツーリング、クライミングのアプローチ、寒い時期のハイペースなハイキングでベースレイヤーの上に着用するといった使い方で間違いなくおすすめです。
ただ、軽さや着心地、耐久性、デザイン性など基本的なクオリティの高さは想像以上。このモデルの”エッジ”である通気性の高さは、本文でもふれたように強みにも弱点にもなるわけで、このことを考えれば、このフリースはレイヤリングのやり方次第で通常の登山からライトなアウトドア、そして旅行やタウンユースなど幅広いシーンで十二分に活躍できるポテンシャルを秘めていると個人的に強く感じました。


