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Rab Mythic G Jacketレビュー:「軽さ×暖かさ」の限界を突破した、至高の超軽量ダウンジャケット

重量を犠牲にすることなく圧倒的な暖かさを実現する超軽量ダウンジャケット

雪山登山やバックカントリースキーなど、極寒でのアウトドアに携行する防寒着といえば、真っ先に思い浮かぶのは、昔も今もやはりダウンジャケットです。水鳥の羽毛がもつ、厳しい寒さをシャットアウトする断熱性の高さと圧縮したときのコンパクトさは、これだけ科学技術が進んだ今でもこれに勝る素材はありません。

そんな登山向けダウンジャケットのなかでも、重量当たりの暖かさという点で現在のアウトドア業界で頭一つも二つも飛び抜けた存在なのが、欧州の優れたアウトドア製品に与えられるISPOアワード受賞「Rab Mythic G Jacket」です。ダウンをはじめとした中綿製品に関して創業以来から研究開発を積み重ね「マスターオブインサレーション(中綿の達人)」を自負するRab が到達した渾身の一作といえるこのモデル。今回はそんな超軽量テクニカル・ダウンジャケットについてレビューしていきます。

Rab Mythic G Jacketの主な特徴

Rab Mythic G Jacket は、重量あたりの断熱性で驚異的な高パフォーマンスを実現した超軽量ダウンジャケット。環境に配慮され最高品質の1000FP RDS認証ヨーロピアン・グースダウンを、超軽量でPFCフリーDWR加工済みの7 デニール Atmos™ ナイロンリップストップの表生地、そして独自開発の「TILT(サーモ・イオン・ライニング・テクノロジー)」裏地で挟み込んだことよって、最小限の重量で最大限の保温性を提供します。緻密に計算された立体裁断によってスタイリッシュなシルエットと心地よいフィット感、動きやすさを実現。極寒環境での素早い行動に求められる理想の防寒着を目指してあらゆる部分を徹底的に見直し極限までそぎ落としながら、隙間風の侵入を防ぐ裾や袖口、フィット感と保温性に優れたフード、ハンドウォーマーポケットなど最低限必要な機能性を保っています。

お気に入りポイント

気になるポイント

主なスペックと評価

項目 Rab Mythic G Jacket
重量 277g(Mサイズ実測)
カラー Black, Cloud, Orion Blue
サイズ S / M / L
レディースモデル
表地 7D Atmos™ ナイロンリップストップ (23gsm) フロロカーボンフリー DWR (耐久性撥水加工)
裏地 TILT(熱イオンライニングテクノロジー)を採用した7Dリップストップ・ナイロン(23gsm)
インサレーション 1000FP RDS認証ヨーロピアングースダウン(127g サイズM)
ポケット 左右ジッパー付きハンドポケット
その他機能 収納用スタッフサック
Outdoor Gearzine 評価
快適性 ★★★★★
保温性 ★★★★★
ムレにくさ ★★★☆☆
動きやすさ ★★★★★
多機能性 ★★☆☆☆
重量 ★★★★★
収納性 ★★★★★
フィールドでの実用性 ★★★★☆

詳細レビュー

Rab Mythic G Jacketの魅力とは何か——、フィールドで使ってみて実感した自分にとってこれほど簡単な質問はありません。このダウンジャケットの魅力はぼくの中ではシンプルに次の2つに集約されました。ひとつは圧倒的に「軽くて暖かい」こと。もうひとつはフィールドで使っていてぶっちぎりで「着心地がいい」ことです。順番に説明していきましょう。

断熱性と重さ:必要十分な暖かさを、1グラム単位の極限までそぎ落とされた軽さで実現

なぜMythic G Jacketは他のダウンジャケットに比べて圧倒的に軽くて暖かいのか。そこには細部まで突き詰めた工夫の数々が積み重なっていることは確かですが、何よりもまず決して見逃せない大きな点が二つあります。

ひとつは何といっても中に詰められているダウン(羽毛)の品質です。このジャケットには、現在実質的に最高クラスの復元力(かさ高性)といってよい「1000FP(フィルパワー)」のヨーロピアングースダウンが127g 、たっぷり封入されています(メンズMサイズ)。よってこのジャケットはこれだけでも、着用すればモコモコ・ホカホカ、畳めばとびきりコンパクトというかなり高機能なダウンジャケットであることは言うまでもありません。

1000FPのダウンはわずかな綿量でも極めて高い保温力を発揮する。

もちろん1000FPのダウンを中綿に使用したジャケットは他メーカーにもあります。代表的なのでいえばモンベルの「プラズマ1000 アルパインダウン パーカ」など。ただこのMythic G Jacket がそれらと比較してもまだ頭一つ抜き出た「軽さ×断熱性」を実現しているといえるのは、ここにもうひとつの工夫、すなわち独自の「断熱性爆上げ機能」が備わっているからです。それがもう一つの大きなポイント、このジャケットの内側に見える何やらキラキラした「TILT(熱イオンライニングテクノロジー)」の裏地です(下写真)。

脇下部分を除いて裏地全面に張られたTILT生地

仕組みの詳細はこちらの本国公式チャンネルにある動画を参照いただくとして(生地の説明ですが、内容は寝袋についてになっています)簡単に説明すると、特殊な技術によって繊維1本1本をチタンでコーティングすることで、生地の通気性を損なうことなく放射熱を衣服内に反射させることができます。その効果はRabによると、放射熱損失を何もない時と比べて最大30%と大幅に低減するとか。ちなみに安物の防寒ジャケットに使われている「アルミ蒸着」とは似て非なるものです(あれは重いし蒸れ蒸れになるので正直山では使いたくない)。

重量やかさ、さらには通気性に何の影響も与えることなく断熱性を高めるこの技術によって、最小限の重さで最大限保温性を高めることができています。

実際に着てみるとすぐに、ジャケットから熱を発しているのではないかと疑ってしまうほど衣服内の暖まりを感じ、それが着ていることを感じさせないくらい軽い羽織り物一枚で起きているのだから、その感覚はなかなかに感動的です。

稜線で肌寒さを感じた際、圧縮袋から取り出して着たところ、すぐに高い断熱性を発揮した。

 

しかも個人的にニクイと感じるのは、このTILT生地をフードを含む裏地の大部分にわたって展開しながら、脇下部分のみあえてTILTを外したりしている点。さらにいうとダウンのバッフルは「ステッチスルー構造(表裏を貫通して縫い合わせる)」にすることで、あえて熱効率を下げ、縫い目から微弱な熱が逃げるように配慮しています。つまり基本コンセプトとしては軽さと保温性を最大限に追い求めながら、フィールドで使用するための「道具」としてきちんと快適に使えるように、脇下はじめ要所の不要な部分では熱を「逃がす」ことも考慮しているわけです。これらの微妙なアジャストは実際にフィールドで注意深くテストを重ねなければ気づけることではありません。完全に「分かっている」人の仕業です。

着心地とフィット感:行動中のストレスをほぼ感じさせない絶妙なフィット感と動きやすさは見事という他ない

176cm、64kgでMサイズを着用。フィット感はジャストか、やや余裕あり。シェルの上から着ない、薄着にジャストで着たいならばSサイズでもいけそうです。

多くのダウンジャケットが街着としてのデザインを考慮してか寸胴型でゆったりめのシルエットであるのに対し、このジャケットは身体のラインに沿ったスリムフィットにやや長めの着丈というパターン。裾は前面よりも背面側が長くなっており、お尻を広くカバーしてくれます。

スリムといってももちろん窮屈なわけではありません。上半身の動きを妨げない立体的なカッティングは相変わらず素晴らしいものがあり、腕を自由に動かすことができ、手を上げても裾がめくれ上がることもほとんどありません(下写真)。

見事な立体裁断によって腕を高く上げても裾がずり上がることがほとんどない。

ちなみに最適なサイズについてですが、176cm・64kgの自分がMサイズを合わせた場合、普通にベースレイヤーやミッドレイヤーの上から着ることはもちろん、シェルの上から着る余裕も十分にありました。より肌との隙間をなくしてピッタリ着たいという場合はSサイズもチョイスするのもアリです。

袖口は部分的に伸縮素材を使い、甲部分を少し伸ばすことで、心地よい肌触りと共に隙間風を防ぐのに十分な締め付けを実現しています。

冷気をシャットアウトしつつ、優しい肌当たりを提供する袖口のデザインが素晴らしい。

また軽量ジャケットらしく、フードは至ってシンプル。調整はできませんが、縁の左右に適度な伸縮性素材を配置してフィット感を高め、上部は硬質なつばによって風にも耐えられる構造になっています。ヘルメットの上から被る設計にはなっていないようですが(いざというときは被ることもできます)、ニット帽の上からにぴったりとフィットします。襟は高めで、内側の起毛チンガードもいい感じです。

十分なダウン量で暖かくフィット感の高いフード。

耐久性・耐候性:軽さを考慮すれば十分なプロテクションだが、必要以上に丈夫にはできていない

ジャケットのシェル生地は内側・外側ともにダウン抜けを防ぐために高密度で織られた7デニールの極薄リップストップナイロンが使用されています。極めて高い次元で超軽量と耐久性を両立した素材であることは確かですが、一般的な重さのジャケットと同じような手荒さで使ってよいとは決して言えないこともまた事実。これまで使っている中では特に問題はなかったものの、粗い岩肌や樹木に擦ったり、鋭利なものに引っかけたりすることがないように慎重に扱いたいものです。

また雨風に対して、このジャケットはほとんどの風を防いでくれ、PFCフリーのDWR加工によって軽い雨ならブロックすることもできます。ただ残念なことに撥水加工のダウンではないため油断は禁物。湿気や濡れには注意が必要です。

表面のDWR加工によってある程度の水は弾いてくれる(防水ではない)。

機能性・使い勝手:無駄を極力省いた最小限度の機能性

Rabの開発スタッフが目指したのは、極寒の極限環境で高速移動する人々のための、最高の暖かさ(重量比)を備えた超コンパクトなキットです。そのために必要でないものは極力そぎ落とされてしまう以上、はっきりいって機能性については多くは期待できません。

とはいえ、そこには最低限の2つのジッパー付き大きなハンドポケットと、丈夫で凍結にも強いYKKビスロンジッパー、そして裾の密着度を高めるドローコードがあり、それらは最低限とはいえよく考えられており、致命的な物足りなさは特に感じられません。

目立たないコンシールファスナーのハンドポケット。

とはいえ、個人的にはやはり胸ポケットは欲しい。左右のポケットには着心地が悪くなるしウェストベルトと干渉するので基本的に物を入れることはなく、やはり何か収納するためには胸ポケットが必要となるのです。極限のアクティビティには無駄なのかもしれませんが、自分のようなお気楽アウトドア愛好家のためにも、十数グラムなら我慢しますのでどうか胸ポケットを付けてください。

スタッフサックに収納したときのサイズ。かなりコンパクトになるが、自分の場合、パッキングしやすいという理由でスタッフサックに入れずにバックパックの隙間に押し込んで収納している。

まとめ:ダウンの良いところを凝縮した現時点で最高の携帯防寒着は、一度着たら山でも街でも手放せない

「軽さ・暖かさ・着心地の良さ」というダウンジャケット本来の長所である3つの良さをこれでもかというほど磨き上げ、新しいレベルにまで引き上げた Mythic G Jacketは、過酷なミッションに挑むアルピニストやより重量を切り詰めることを重視するミニマリストたちが冬山でのバックパックに忍ばせておく携帯用防寒着として、間違いなく現時点でトップクラスに使える一着です。

ただ一方で機能や便利さという意味では(価格の割には)極端にシンプルであるため、決して万人向けともいえず、軽さと暖かさ、着心地だけでなく、安全・便利さもまんべんなく欲しいという人にとっては費用対効果が薄いかもしれません。

自分の場合、これまでは長いことMountain Hardwearの「Ghost Whisperer UL」が軽量ダウンジャケットにおける不動のエースでした。あちらの方が軽いことは確かですが、このジャケットに出会ってしまったことで、今後は断熱性と着心地で大きく上回るこちらへとシフトする予定です。実際山では万が一の防寒着としてバックパックの中で存在感を発揮する一方、下界ではここ1ヵ月お気に入りの外出用アウターとして毎日着まくっています。

クセがあることは確かですが、そのクセを理解し、逆に潔さとして魅力に感じられるのであれば、この一着は少なくとも10年以上は現役として付き合えるであろう至高の一着といえそうです。

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