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Rab Phantom Jacket レビュー:極限までの軽さを実現した超軽量レインウェアの金字塔がさらに使いやすくアップデート

100グラム前後の驚異的な軽さと動きやすさ、確かな防水透湿性を兼ね備えた、超軽量レインウェアのひとつの”到達点”ともいえる傑作 Rab Phantom シリーズ(このサイトでも以前レビュー済みが今シーズン「Phantom Jacket」としてアップデートされました。

より軽く、より速く、より遠くへと志向するトレイルランやULハイカーらのためにデザインされたこのレインウェアは、誕生から5年を迎えた最新モデルでどのように進化したのか?今度はどんなユーザーにマッチするのか?

この春じっくりと試してみることができましたので、さっそくレビューをお届け。梅雨を間近に控えたこのタイミングでまだこの夏の装備を迷っている方の参考になれば幸いです。

Rab Phantom Jacket の主な特徴

Rab Phantom Jacket は、世界トップクラスの軽量コンパクトさと十分な防水透湿性、快適な着心地と動きやすさ、実用性を備えた超軽量防水透湿ジャケット。本格レインウェアと同等レベルの耐水圧と透湿性を備えながら、7デニールという極薄生地を採用した防水透湿素材、2.5層のPertex Shieldによって116.5グラムという驚異的な軽さを実現。適度なストレッチ性と動きを妨げない立体裁断が身体の動きに無理なく追従します。フロントジッパーがフルジップ仕様へとアップデートされたことで脱ぎ着も容易になり、掌に収まるほどコンパクトに収納可能なポケットとしても機能するフード等によって、製品の実用性と汎用性が格段に進化。シビアなレースからエクストリームなアドベンチャーまで、軽さとスピードを重視する幅広いアクティビティにより高いレベルでの適応力を発揮します。

前モデルからの進化ポイント

お気に入りポイント

気になるポイント

主なスペックと評価

アイテム名 Rab Phantom Jacket
公式・実測重量(g) 116.5
生地・素材 Pertex® Shield 2.5レイヤー 7デニールナイロン 
フルオロカーボンフリーDWR加工(51gsm)
レイヤー数 2.5
耐水圧(mm) 20,000
透湿性(g/m² 24hrs) 20,000
ポケット数 0
リフレクター
パッカブル
評価
防水性 ★★★☆☆
ムレにくさ ★★★☆☆
快適性 ★★★★★
機動性 ★★★★★
耐久性 ★★★☆☆
機能性 ★★★★★
重量 ★★★★★

詳細レビュー

素材と重量・携帯性

前作から多少の重量増があったものの、引き続きそのトップクラスの軽さは維持されています。もちろん極限の軽さにチャレンジしたた前作の「90グラム」からは、ジッパーなどの部材が増えた影響で「116.590グラム(Mサイズ実測127グラム)」にはなりましたが、相変わらずこの軽さは着ていることをほとんど感じさせず、驚異的というしかありません。

「7D(デニール)」という極限に近い薄さで、必要十分な強度を両立したマイクロリップストップナイロンを採用した2.5レイヤーのPertex® Shield生地は健在。さらにポケットやドローコード、ジッパー、裏地のシームテープなど思い切ったそぎ落としなども相変わらず細部まで追求されています。

つまりこの異次元の軽さは、これら素材から裁断・縫製、パーツ選定に至るありとあらゆる細部に軽量化のコンセプトが貫かれていることによって実現されています。

今回の最もしびれた進化ポイントのひとつは、この軽量コンパクトさを最大限に活かしたパッカブル仕様への変更です(下写真)。フード裏にある小さな収納へ本体を裏返して詰め込んでいくと、掌よりも小さなサイズに収納が可能。前モデルのようにミニサックが不要となったことで紛失の心配もなく、驚くほど小さくパッキングすることが可能になりました。

着心地と動きやすさ

袖を通してみて案の定、まるで何も着ていないかのようにストレスフリーの着用感。長年Rabのジャケットを着てきた自分のような人間からすれば驚くことではないのですが、衣服としての快適さにもまったく妥協がみられないのは相変わらず。毎度ながら着心地・動きやすさ・シルエットと三拍子そろった見事なパターンには感心させられます。

176cm、64kg、Mサイズ着用。スリムながら動きやすさを確保した巧みなカッティング。ずり上がりにくいように背面の丈は長めにデザインされている。

ただ前作との比較でいうと、今回プルオーバーからジャケットタイプへと変更されたことでシルエットやフィット感などが気持ち変わっています(下写真)。

前モデルはハーフジップで軽さと機動性を重視していることから、身幅・着丈は(今作と比べて)ほんの若干スリムでした。一方、Phantom Jacket はアウターとしての使い勝手も鑑みてスリムながらも気持ちゆったり目、着丈も長めに。自分のように年間通じてさまざまなアクティビティで重ね着したいと思っている人間にとってはありがたいアップデートといえます。

最新Phantom Jacket(左)は前モデル(右)に比べて、ジャケットだけに気持ちゆったり目のシルエット。

その他では、ただでさえ動きやすかった肘関節が前作からさらに改良され、腕振りなどでの肘の曲げ伸ばしが今作でよりスムーズになり、機動性が向上しています。あれだけストレスフリーな着心地が、まだ進化の余地があるのかとあらためて脱帽です。

特に肘関節の動きやすさが向上し、相変わらず肩回りもツッパリ感を感じさせない見事な立体裁断。

風によるバタつきを防ぐ無駄のないスリムなフィットにも関わらず、ランニング中の動きを妨げずまったく窮屈さを感じさせない巧みな立体裁断、そして適度な生地のストレッチ。洗練されたシルエットのなかに詰め込まれたここまでの高い機能性は、おいそれと真似できるものではありません。

機能性

極限まで軽量化を突き詰めた前モデルに比べて、新作 Phantom Jacket は依然として軽量・軽快なアクティビティに求められる機能に全集中しながらも、(おそらくユーザーのフィードバックなどを受けて)前作にはなかった利便性・快適性を向上させるいくつかの機能が追加されています。

フロントはより幅広いシーンで使いやすいフルジップへ

ひとつは、前モデルが軽さを追求した結果選択した「プルオーバー」のフロントジッパーが、今作では「フルジップ」へと変更されたこと。これによって微妙な重量増になってしまったのは確かですが、その代わり大幅な通気・換気性の向上、そして脱ぎ着のしやすさが加わったことは間違いありません。

前作で行動中に脱がずにはいられないほど不快になったことはありませんでしたが、それでもフルジップになれば、アクティビティも、使い方も、対応できる気温の幅も広がり、使えるシーンは明らかに増えてくれます。

より機能的になったフード

もうひとつ明らかに進化したのがフードの作りです。

前モデル同様、本格調節機能はないので完璧にフィットさせることはできないのは残念ですが、それでも後ろにあるドローコードによってちょっとだけ幅をつまんでフィット感を微調節することができました。

実際この後頭部のドローコードの役割はサイズ調節のためではなく、前述したパッカブル機能で収納した時の出入口のために付けられたものなので、これで完璧に調節できるようになったわけではないと思いますが、フィット感の向上につながっていることは確かです。

ただやはり依然としてピッタリと調節できるわけではないので、長時間の着用で安定した視界を得ようとするならば相変わらずキャップを着用することをおすすめします。

その他、この後頭部にはレーザーホールによる換気口「フード内ベンチレーション」が新たに追加されました。

衣服内の湿気は上方に流れるため、なるべく高い部分にベンチレーションが配置されていることが重要ですが、その意味ではこのベンチレーションは理想的な位置といえます。さらに強風時に前から風を受けたとしても、この孔を通って風が抜けていくことで以前よりもフードのバタつきがかなり抑えられ、悪天時でも快適な着用が可能でした。

前モデル同様、好天時には首の後ろ部分のフックでフード自体を折りたたむことも可能。

リフレクターはロゴマーク含めて全体に配置(左)。浸水を防ぎ程よいフィットとまくりやすさを両立した袖口(右)。

防水透湿性

カタログスペックでは、防水透湿メンブレンに実績のある Pertex Shield 2.5層素材を使用し、この薄さ・軽さでありながら、耐水圧20,000mm、透湿性20,000g/m²/24hと、本格レインウェアとしては及第点の防水透湿性能を誇っています。

生地の基本的な仕様は前モデルと同じ(なはず)ですが、生地の質感からすると今回の Phantom Jacket の方が若干ハリがあってしっかりとしています。また裏地の0.5層ラミネートは(微妙ではありますが)より凹凸が際立ってサラっとした肌触りが感じられ、(3層の肌触りの良さにはかなわないものの)アウターとしての着心地の良さは増している印象です。

薄手にもかかわらず耐水性はしっかりとしていて、DWR撥水加工も想像以上に長持ち。裏地は微細な凸凹によってベタつきも抑えられている。

4月の本降りの雨のトレイルで数時間着用したかぎりでは問題なく生地は浸水を防ぎ、衣服内はドライな状態を保ってくれていました。とはいえこのジャケットはやはり軽さと機動力を最優先したコンセプトであることは間違いなく、その意味では悪天時のプロテクションに過剰な期待はできないということも事実。例えば長くなったフロントジッパーは止水ジッパーではないということが以前よりも防水性に大きく影響し、長時間の豪雨を前面から受けていると多少水が染み込んでくる可能性があるのが気になりました。またDWR耐久撥水コーティングもPFCフリーの変更されたことで、それが影響しているかどうかは未知数ですが(Rabかどうかに限らず)耐久性が高いという程ではない印象です。とはいえ数時間の悪天に耐えるだけのパフォーマンスを提供してくれることは間違いなく、温暖な時期に使用する緊急用雨具として考えれば問題ないレベルです。

 

まとめ:こんな人におすすめ

アウトドア・アクティビティの中でも、特にトレイルランニングやファストパッキングのような強度の高いアクティビティでのレインジャケットには、風雨からのプロテクションを犠牲にすることなく、できる限りの軽量コンパクトさを優先したいもの。Rab Phantom Jacket は、相変わらずそうした本物を求める要求の高いひとに迷わずおすすめの一着です。前モデル

プルオーバータイプで極限までミニマルなデザインであった前モデルに比べると、ジャケットタイプになったことでより気軽に羽織ったり脱いだりすることができ、利便性も向上したことで、トレイルランやファストパッキングだけでなく通常の日帰り登山やハイキング等でも使いやすくなったのは一番の進化ポイントでしょう。

もちろん豪雨などの過酷な状況で一日中耐えられるような防水透湿性と耐久性を求めるなら、別のより重厚なモデルの方が適しているのは確かですが、万が一にも安心な堅牢性よりも重量を優先したいトレイルランナー、ファストパッカー、軽量スタイルのハイカーなどが緊急時の一時しのぎのために携行するシェルとして、十分活躍してくれるでしょう。

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