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Review:THULE Versant 60 街めぐりから長期縦走まで、アクティブな旅人に選ばれるべきバックパック

海外からの観光客が日常の光景となりつつある最近では、巨大なバックパックを背負う外国人旅行者の姿を見ることも珍しくなくなりました。

昔から登山などで使われていた50L以上の縦長大型バックパックは、その収納力と運搬性能の高さから、今では旅行やレジャー用途にも使われることが一般的になってきています。そうやって使う人の幅が広がれば、それに合わせてより細やかな配慮や工夫が必要になってくるもの。事実、近年のアウトドア用大型バックパックは、その方向に進化していったともいえます。

もともと車載用キャリアや旅行用カバンで世界的なトップブランドであったTHULEが、そうした現代的なニーズを巧みに取り入れ、旅行やレジャーから本格的な登山まで、幅広いアクティビティをカバーするように開発した大型バックパックが、今回紹介するVersantシリーズです。何度かこのパックで旅をしてみて、これまで編集部でも紹介してきたモデル同様、このブランドならではの先進的な特徴が詰まった完成度の高さを堪能することとなりました。早速レビューしていきます。

目次

THULE Versant 60の特徴

アイテム外観

まず外見をざっと確認してみます。アルパイン向けパックに比べるとずんぐりしたフォルムで、重心はやや低めです。デザイン的に登山向けパックとしてみるとアルパイン向けパックにあるようなゴチャゴチャしたアタッチメントが主張してくるわけでもなく、街での違和感のなさを意識したクリーンな印象。かといってトレッキングに必要な最低限のストラップ類はそろっており、その辺のバランスの良さはさすがです。重量は同じクラスの他モデルと比較して特別軽いというわけではありませんが、60Lで2kgを下回る重量は平均以下の軽さを実現しているといえます。ボディの生地が100D(デニール)ナイロンと若干薄いのが影響しているでしょう。

50・60・70Lとある容量バリエーションのうち、今回試用したのは60L。無雪期のなら3~5泊、積雪期なら1~2泊が最適といったボリュームです。

背面とヒップベルトサイズの調節機能

「バックパックにサイズ調節?なにそれ?」なんて時代など存在しなかったかのように、Versantでは背面長からヒップベルトの長さまでが、いとも簡単に調節できます。

確かに最近の大型バックパックでは背面調節機能がついていることが多くなりつつありますが、ことヒップベルトに関しては大抵の場合、購入前のフィッティング時にS/M/Lサイズを指定するといったところまでで、常日頃から調節できるモデルはまだほとんどありません。それがこのパックなら荷物を入れて、歩いている最中でも気兼ねなく自分の身体に完璧にフィットさせることができます。背面・ヒップともにベルクロを開放し、スライドしながら長さを合わせるだけと、調節の方法はいたって簡単です。

腰まわりの潤沢なパッドによる優れたクッション性

すべてを自分に合うサイズに調整すれば、Versantの背負い心地は快適の一言。腰の潤沢なパッドによって荷重がしっかりと、そして無理なく下半身にかかってきます。ヒップベルトは一見するとクッションの厚みが気になるものの、締めてみると思ったよりも快適です。幅広でそこそこ剛性もあり、腰への荷重伝達を一層サポートしてくれます。ただ通気性に関しては並みといったところです。

肩パッドは高密度のフォームで形成されており、厚みはやや薄めで、通気性を考慮して肉抜きされています。幅は比較的狭く、肩から脇にフィットしやすいS字型。腰に荷重がしっかり乗っていればそれほど気になるものではありませんが、かなりの重量を長時間背負う場合にはややきついかもしれません。

気の利いた収納と、呆れるほど楽な荷物の出し入れ

自分が試したTHULEのバックパックすべてに言えることですが、収納や圧縮のためのジッパー・ストラップ・アタッチメント類の質の高さ、かゆいところに手が届く配慮にはいつも感心させられます。

例えばメインコンパートメントを締めるためのドローコード。通常は「緩めてから開ける」という2アクションですが、タグともう一方の端を引っ張るという1アクションで簡単に開けることができます(下写真)。最近では多くのブランドが採用するようになっていますが、かなり早い段階からこの仕様を採用していました。

フロントには逆U字型に大きく開くジッパーが配置され、天蓋を開くことなく、驚くほどノーストレスで中身を出し入れすることができます。その使い勝手はまるでパネルローディング型のバックパックを使っているようです。こうした使い勝手の良さは、登山よりもむしろ旅行先のホテルではいかんなく発揮してくれるでしょう。

同じくフロントにはストレッチ生地の大型メッシュポケットがあり、防寒着や行動食、地図などのすぐに取り出したい道具を入れておくことができます。

両サイドのウォーターボトルポケットは直立ではなく斜めになっており、歩きながらボトルを引き出すのに便利。ジッパーで幅を拡張することができるため、かなり太いボトルまで収納可能ですが、逆に長細い形状のボトルの場合はサイドポケットからするっと落ちる可能性があるので要注意。またポケットの傾きによって、テントポールのような長物を側面に取り付けようとするのが若干難しくなり、この辺は本格的な山岳用との違いです。

トレッキングポールやアイスアックスを固定するループは標準的な使い勝手で両サイドについています。

ヒップベルトポケットのひとつには、おなじみのTHULE独自のアタッチメントシステム「VersaClickシステム」が配備されています。これは用途に合わせてパーツの交換が可能な収納用アダプターのことで、標準では完全防水・耐衝撃のポケットが装備されています。スマホなどの電子機器を収納するのに最適です。ただ、残念ながら自分の持っている5.9インチスマホは、もはやこのサイズでは収まらず。もっぱらカメラの替え電池などを入れています。iPhoneも大画面化傾向のようなので、早急にアップデートしてもらいところです。

なお、現在このアタッチメントにはこの他、カメラバッグやウォーターボトルホルダーなどのアクセサリーが展開されており、別途購入することで付け替えが可能です。

切り離してスリングパックにもなるトップリッド

もうひとつVersantの注目すべき特徴は、取り外してサブバッグとして活用が可能なトップリッド(天蓋)でしょう。普段は何の変哲もない、2つの大きく開くポケットが付いたトップリッドですが、

ここからトップリッドを取り外し、ストラップを所定の位置に取り付けると、肩掛けのスリングパックに早変わり。いわゆるアタックザックのようなしっかりと背負うザックでなく、スリングパック型デザインをチョイスしたところからして、どちらかというと街歩きを意識しているように感じられます。ただ、ペットボトルとレインジャケット、財布などの小物を入れて歩いたところ、肩はそれなりにクッションがあり、腰回りもぶらつかないようにストラップで固定されているため非常に快適でした。長時間の使用ではなく一時的な短い散索には十分な使い心地です。

効率的で便利なレインカバー

標準で付属しているレインカバーはボトム部分のポケットに収納されています。このボトム部分は防水仕様になっているため、レインカバーはここより上の部分だけを覆う仕様になっており、カバーは側面のループにしっかりと固定できます。

ボトム部分がレインカバーで覆われないことで、普段は気づけなかった「なるほど」というメリットが意外とあるものです。例えばバックパックを地面に下ろした際でもカバーが擦れて傷ついたりしにくくなったり、ボトルを収納したサイドポケットにも、カバーをした状態で簡単にアクセスできたり。

気になる点

横ブレに対する安定性にやや欠ける

Versantの背面はアルミ製のワイヤーフレームと、樹脂プレートで補強されています。そして背面フレームとヒップベルトが接続される部分は、腰の中心部分のみに集中しています。このため例えばパックを背負って身体をスイングすると、その腰の中心部分を軸としてパックがややブレやすく感じられました。同ブランドのGuidepost(下写真)のようにパックの左右からもヒップベルトを固定するストラップなどがついていればより安定性は高くなっていた気がしますが、個人的にはそれが少し残念でした。

通常の移動や歩行では気にならないものの、Versantのヒップベルト固定には写真のようなサイドの固定ストラップがないため、若干ぶれやすい。

まとめ:どんな活動におすすめ?

ここが◎

ここが気になる

THULE Versantは、従来の本格的な山岳縦走を極めるというよりも、幅広いアドベンチャーを楽しみたい新しいバックパッカーのために設計された、プレミアムなバックパック。アウトドアから海外へのバックパッカー旅行まで、幅広い用途で利用したい欲張りな旅人、それもあらゆる体型の人々にフィットするという突出した特徴をもっています。

一方ハード志向の登山者や長距離のスルーハイカーにとっては、その汎用性が逆に中途半端に感じられてしまうかもしれません。もちろんこれで厳冬期にスキーツアーができないというわけではありませんが、より適したモデルがあることは確かです。

メジャーな国の都会を歩くだけに飽き足らず、舗装のされていない道路をゆられながら、森に分け入り、原野を抜けて、そこでしか得られない景色を自分のタイムラインに刻みたいのであれば、Versantはかなりシュアな選択といえるでしょう。一般登山道を進むような縦走であれば、登山でも十分フィットします。細部まで行き届いた質の高さはユーザーに贅沢な、価格に見合ったプレミアム感を実感させてくれ、この点に関してはプレミアムなバックパックの王道Gregoryに勝るとも劣らないと個人的には思われました。

 

主なスペックと評価

スペック
項目 Thule Versant 60L
素材
  • ボディ:100Dナイロン
  • ボトム:420D Cordura
カラー
  • Obsidian
  • Atlantic
  • Slickrock
サイズ(背面長)
  • S/M
  • M/L
容量(リットル) 22
重量(実測) 1.88 kg(VersaClick Pole Holder・レインカバー除く)
寸法 34 x 38 x 71 cm
バリエーション
  • 50L
  • 60L
  • 70L

※すべて女性モデルあり

メインアクセス トップローディング、フロント逆U字ジッパー
背面システム アルミワイヤーフレームと樹脂プレート
背面長調整 背面・ヒップベルト
ハイドレーション対応
レインカバー 付属
ポケット・アタッチメント
  • ヒップベルトは一般的なジップポケットと取り外し可能なVersaClickロールトップ防水ポケット
  • スリングパックにもなる3つのポケットを備えた天蓋
  • レインカバー装着時にも荷物の出し入れが簡単なサイドポケット
  • 長物を設置可能な両サイドストラップ
  • 大きな逆Uジップパネルで荷物の出し入れが簡単
  • ハイドレーションリザーバースリーブとホースの排出口
  • ギア・ループを備えた伸縮性のある大型フロントポケット
  • ポールやアイスアックスを運ぶのに便利な2つのアタッチメントループ
評価
快適性 ★★★★☆
重量 ★★★★☆
安定性 ★★★☆☆
収納性 ★★★★☆
調節性 ★★★★★
使いやすさ ★★★★★
総合 ★★★★☆
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