「ベースレイヤー比較なんていまさら…」かもしれません。でも比較します。比較させてください。
なぜなら数多のベースレイヤーを着ては失敗を繰り返し、ベースレイヤージプシーしてきたから。約10年前登山初心者の当時は、どれも一緒に見えて違いがわからなかったんです。しかも肌がアトピー気味なので素肌にウールなんて絶対考えられませんでした。
何回も失敗を繰り返した結果、今は一定のベースレイヤーに落ち着きました。そんなわけで私のベースレイヤー遍歴&レビューをもとに、主に素材の違いに着目した女性の登山向けベースレイヤー比較をお伝えします。
目次
ベースレイヤー右往左往
個人的な話ですが、そもそもベースレイヤーに「ウール」という概念はありませんでした。大人になって頻度は減ったもののウールのタートルネックを着て汗をかいた暁には、首がチクチク痒すぎて真っ赤に。それが怖くてウールは着られませんでした。
なので私にとってこれまでベースレイヤーといえば化繊一択。化繊ならなんでもいいやと勝手に思い込み、初心者の私は某ファッションブランドの保温インナーを着て冬の鍋割山(神奈川県)へ。道中大汗をかきインナーは汗でびっしょり。山頂ではガクブルものの汗冷えです。急遽インナーを脱いで直に山シャツを着て鍋焼きうどんを食べ、難を逃れました。
無知すぎました。それに懲りてからは登山用速乾ベースレイヤーを探しますが、当時の私にとってそれはなにげに高く、結局とんちんかんな買い物(バレーボール・バスケットボール用の速乾ウェア)をして、やはり登山向きでないのを知りお蔵入りさせてしまいます。
もしかしたらウールもいけるかも?と思い登山用のウェアを買いますが、繊維が太い製品だったのかやはりチクチクしてそれもお蔵入り。最終的にモンベルのジオライン中厚手に落ち着きました。ここにたどり着くまでだいぶ遠回りしたもんです。その後チクチクしないメリノウールの薄手のRabのベースレイヤーにも出会い、かなりモケモケしていますが未だに使っています。
アンダーウェアについて
冬の韓国岳と高千穂峰に登りに鹿児島県に行った時のこと。想像していたより現地が寒いことを知り、市内に到着するなりアウトドアショップに直行。不足していたウェアを買うことにしました。
そこですすめられたのがベースレイヤーの下に着用するアンダーウェア。ファイントラックのドライレイヤーが発売されて間もなかった頃です(たぶん)。ウェアについて相談していた店員さんに「これを着て先日フランスの山に行ったら、全く汗冷えしなくて。この上にベースレイヤーだけで登りましたよ」とおっしゃる。どんな山で寒さはどうだったとは聞かなかったですが、「とにかく持っておいて損はない」とのことだったので購入。
予報通り風雪吹きすさぶ状況でしたが、確かにそれまでに比べ寒さは感じませんでした。そういえば雪の甲武信ヶ岳でガクブルしていたのも思い出しました。その時アンダーウェアは着用しておらず。無知は怖いというか情報収集は大事ですね。鹿児島での登山以降、アンダーウェアは必ず着用しています。
話が脱線しましたが、今回は最近愛用しているミレーのいわゆるあみあみインナー「ドライナミックメッシュ」をアンダーに着てレビューをお送りします。
評価のポイント
このサイトでは、ベースレイヤーに求められる機能として以下の要素と定めています。ただ、当然すべてが備わったような神モデルは存在しておりませんので、評価にあたっては各要素がどのようなバランスで含まれているのかをチェックして判断しています。
- 快適性・・・いわゆる着心地の良さ。肌ざわりやフィット感、動きやすさ、縫い目のスムースさ、抗菌防臭性、UVカット機能など、生地と仕立てによってどれだけ行動中、気持ちよく着られるかどうか。
- 保温性・・・単に低温下で暖かいかどうかだけでなく、心拍数と体温が上昇したときには過剰な熱を和らげてくれるかどうか(調温性)、さらには濡れた時の汗冷えしにくさなど、行動中の様々な状況でいかに体温を一定に、ドライな状態に保てるかどうか。
- 吸汗速乾性・・・肌面を常にドライな状態に保つため、かいた汗を素早く吸収し、衣服の外側へ排出し、蒸発させる能力。汗が衣服に残り続けると、冷たい風で肌面の汗が蒸発する際にヒヤッと感じる、いわゆる「汗冷え」不快感が発生しやすくなります。
- 消臭(防臭)性・・・汗等によってニオイが発生しにくいかどうか。
ちなみにどのような目的・シーンでどのような特徴のベースレイヤーを選んだらよいかについては、下記の記事でまとめています。
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テスト環境
- アップダウンが多い&舗装路がある神奈川県の某山。気温は10度前後。
- 環境は晩秋~冬登山を想定。春夏とは違う結果になると思われるのであしからず。
- 化繊やウールとひとくくりにいっても、製品によって当然品質や加工等に違いがありますので、今回のインプレッションが同じ素材すべてに当てはまるものではないことはご理解ください。
- 感覚は個人の経験・主観によるものなのでこちらもあしからず。
テスト結果&スペック比較表
アイテム | 【ウール100%】 icebreaker 200 オアシス ロングスリーブ クルー |
【化繊100%】 MAMMUT モエンチ アドバンス ハーフジップ ロングスリーブ |
【化繊×ウール混紡】 MILLET ホールガーメント・ワッフルウールクルー |
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ここが◎ |
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ここが△ |
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着心地 | ◎ | ◯ | ◎ |
保温性 | ◎ | ◯ | ◯ |
吸汗速乾性 | △ | ◎ | ◯ |
消臭性 | ◎ | △ | ◯ |
スペック | |||
生地・素材 |
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【素材別】ベースレイヤーのインプレッション
【ウール100%】icebreaker 200 オアシス ロングスリーブ クルー
冒頭でお伝えしたように、実はウールには個人的な抵抗がありました。痒いのに高い。「山のベースレイヤーといえばウール一択」的な雰囲気もあまり好きではなく、ひたすら化繊の道へまっしぐら。
ウール嫌い街道をそのまま行くのかと思いきや、突然の出会いがRabのメリノウール。これもアウトドアショップの店員さんにおすすめされた商品です。店員さん曰く冬山はほぼそれ一枚を着回しているとのこと。「チクチクが嫌で」話をしていたら「まぁ一度試着を」ということで着用。…チクチクしない!肌ざわりが良い!なんか体にフィットしてる!セール品だったのもあり、お試しでお買い上げしました。着らず嫌いだったんでしょうね。
ウールが痒かったのは「繊維の太さが原因であって、繊維の種類がウールだからではない」(ザ・ウールマーク・カンパニーの資料より)そうで、なんと今では「湿疹患者に効果がある」(同上の資料より)とのこと。「ウールは痒い」だったのが今では皮膚疾患の治療にまで使われるとは。
…とここでメリノウールに関するおさらいを。「メリノウールとはウールの中でも最高級のもので、メリノ種の羊からとれる。 メリノ種は主にオーストラリア、ニュージーランド、フランスなどで飼育されている。 繊維が特に細くて柔らかく、肌触りが良い。 メリノウールの中でも特に繊維が細いものは、エクストラファインメリノウールと呼ばれ、高級ニットウェア・スーツ・ドレス等に使用される」(https://www.fashion-press.net/words/385より)。ウールの中でもメリノウールは最高級のウールで、その中でも繊維の太さが細いほど質が良いとされているわけです。私のRabは今は無き廃盤商品ですが、チクチクかゆかゆではなく肌ざわりが良く、セールといえども高かったので上質なメリノウール素材だったんですね。今のところ虫食いもなく健在です。
さて、メリノウール素材のGood & not Goodな部分ですが、
【Good】
- 肌触り・着心地がいい
- 吸湿性および吸水性が高い
- 保温性が高い
- 通気性が高い
- 消臭性が高い
【Not good】
- 速乾性が低い
一般的にはこのような特徴です。さてはてその通りなのか。今回着用した製品はicebreaker「200 オアシス ロングスリーブ クルー」。
最初に実感したのは肌触りが滑らかなこと。かゆかゆになることもなく肌に柔らかくなじみます。
着てすぐでもほわっと暖かい。優しく包む暖かさが持続する安心感たるや。メリノウールの暖かさはなにものにも代えがたいものがあります。快調な歩き出しです。
舗装路を黙々と歩き、汗をじわっとかきますがジメジメしません。急な山道を登り切った小高い丘でいったん休みます。背中と腋はかなりの汗まみれ。
ちょうどその日は風が強めに吹いており、風をモロに体全体で受けることに。…寒い。メリノウールの中厚手の生地なのに寒い。通気性が高いからか、スースーと体の中を冷たい風が通り抜けていきます。いつ頃乾くか試しに5~10分待機。なかなか凍れます。10分待機の後ハードシェルで防風するも背中の冷たさは一向に変わらず。背中が冷たいのって体温と体力が持っていかれるんですよね、これが。
そういうわけで、次のベースレイヤーに着替えました。生地が厚いのは保温性があって良いのですが、汗かきの大汗(気体の汗ではなく液体の汗)も全部吸収し保水してしまうので、化繊に比べると明らかに乾きが遅い。歩き出しは吸湿で発熱効果があったかもしれませんが、吸水してしまうとどうにもこうにも…。汗かき人間の冬登山にはメリノウールはあまり向いていないのかもしれませんね。
【化繊100%】MAMMUT モエンチ アドバンス ハーフジップ ロングスリーブ
私が最初にまともなベースレイヤーを手にしたのは前述の通り、モンベルのジオライン中厚手(ポリエステル100%)でした。その次に愛用しているのがノースフェイスの今は無き中厚手の一品。素材はポリエステル81%・マキシフレッシュ(消臭・抗菌機能がありそれが持続する素材)14%・ポリプロピレン5%。こちらは着すぎて細かい毛玉だらけになっています。ちなみにポリエステルは毛玉ができやすい素材です。最後にウェア着用後のニオイについてお伝えしますが、マキシフレッシュが使われているからか使用後のニオイはあまり気になりません。自身が持つ他のベースレイヤー数着もほぼ化繊素材。汗かきゆえ汗冷え対策で秋冬のベースレイヤーは速乾性重視だからです。
そんなベースレイヤーに使われる主な化繊素材はポリエステル、ナイロン、ポリプロピレン。
化繊素材(といっても素材の違いや加工・縫製の違いによって機能性はさまざま。あくまで大まかな分類での化繊素材)のGood & not Goodな部分ですが、
【Goodな部分】
- 速乾性が高い(ポリエステルは他の化繊より速乾性が高い)
【Not goodな部分】
- 保温性が低い
- 吸湿性および吸水性が低い(ナイロンは他の化繊より吸湿性がある)
- 消臭性がほぼ無い
天然繊維とほぼ真逆のスペックです。着用したのはMAMMUT「モエンチ アドバンス ハーフジップ ロングスリーブ」。
素材はポリエステル49%・ナイロン41%・ポリウレタン10%です。ポリエステルで速乾性を高め、ナイロンで肌触りを良くしてべたつきを抑え、ポリウレタンで伸縮性を持たせている感じでしょうか。着心地はというと、ナイロンが4割混紡されているとはいえ、化繊特有のキシキシ感があります。自身は慣れているので気になりませんが、メリノウールの優しい柔らかさにはかないません。
さて行動開始。プリマロフト(羽毛並みの保温力がある化繊)などが入っているわけではないので特段暖かいわけではありませんが、目のつまった厚手の生地のため風が入りづらく体温は奪われにくくなっています。小さいアップダウンを繰り返すうちにじわじわと汗が。夏ではないのでべたつきはそこまで気になりません。長い急登を終えた後には定番の大汗。生地に吸水性はほとんどないので汗は体にへばりついたまま。さすがにここで風に吹かれると寒いです。
休憩もそこそこに歩き出します。さすが化繊ということでしょうか、水分が肌表面にずっと残り続けることはなく、気がつけばピタつきもなくなり「汗冷え」的な持続する寒さがないのは良いところ。なんせ背中が冷えない。これは私にとっては大事なポイントです。勾配がなだらかな山道を歩いているうちに大汗で湿気ていたウェアも乾き、生地と肌の間がカラッとしてきました。
冬は体のべたつきや”もわっと”感なんて気にしません。私はとにかく汗冷えしなければOK。化繊の「いつの間にか乾いてます」感がとても好きです。肌への張り付き感も特に感じず。ただ通気性が低くても風に吹かれればスースーすることはします。前述したプリマロフトなどが入っていれば暖かかったかもしれません。化繊は一般的に保温性が高くはないので暖かさを求めるならメリノウールか保温力のある特殊繊維が入った製品をおすすめします。「大汗をかいても、とにかくウェアが早く乾いてくれればそれだけで良い」という方にとって化繊はぴったりと言えるでしょう。
【化繊×ウール混紡】MILLET ホールガーメント・ワッフルウールクルー
最後は昨年秋冬の新作、ウールと化繊のハイブリッドベースレイヤー、MILLET「ホールガーメント・ワッフルウールクルー」。
素材はウール70% ナイロン26% ポリウレタン4%です。ウールで保温性・吸湿性を高め、ナイロン・ポリウレタンで速乾性を持たせ、ポリウレタン・ウールで伸縮性を高めていると考えられます。ウールと化繊のメリットをどちらも備えた、自身初の天然×化繊の混紡素材の感触は如何に。
着た瞬間まず暖かい。ワッフル生地がふんわりと肌に優しくなじみます。肌と生地の間に暖かい空気をため込んでいる感じがします。生地の厚さもありさすがウール70%。保温性の高さは文句なし。日が当たらない道ではその効果を存分に発揮します。じわじわ汗をかいてもウールの吸湿性で気にならず。風が吹けば湿気た生地が乾き肌は快適です。行動中暑く感じられる時もありましたが、ウールの調湿性と化繊の速乾性でオーバーヒートすることもありません。
ただ急登の連続を終えた後の大汗には対応できなかったのが残念でした。繊維めいっぱいに吸水してしまって背中とわきの汗はなかなか乾かず。ほんのりとですが冷えは感じられてしまいました。
速乾できる域も超えてしまったのでしょう。メリノウールの乾きの遅さが目立ってしまいました。Icebreaker着用時と同じく、しばらく待ってみても乾く様子はなし。じっとしていたら汗冷えしてしまいます。自身の一番のお気に入りになるかと思いきや、汗かきには無理があったようです。着心地はパーフェクトだったのに、無念。
化繊とウールのニオイ比較
最後に残っているのが、ニオイ比較。これはみなさんの想像通り、メリノウール=におわない、化繊=におう、ハイブリッド=におう、でした。一日数時間着用しただけで化繊は「くさい…」。メリノウールの配合が多いハイブリッドも「くさい…」。化繊には防臭加工がしてあり、メリノウールは消臭効果が高いにもかかわらず。
ロングトレイルを歩く方や縦走する方がメリノウールを選ぶ気持ちがわかりました。自身以外の誰かに嫌なニオイを感じられていたかはわかりませんが、着用すると明らかに自分がニオうのがわかります。我慢するか否かは個々人の見解によるので、ここは皆さんにお任せします。
まとめ
比較してみた感想をまとめると、以下のような感じでしょうか。
【ウール100%】
大量に発汗しない・ヒートアップしすぎない強度の登山や縦走、ゆっくり歩く登山、軽ハイキング、汗かきではない方向け
【化繊100%】
トレイルランニングなど強度が高い運動、早いスピードで歩く方の登山、汗かきの方向け
【ウール×化繊の混紡】
強度があまり高くない運動、コースタイム位の普通のスピードで歩く方の登山、汗かきでもないがほどほどに汗はかく方向け。汎用性があるのでオールマイティーに使える。
「風を完全にシャットアウト」「速乾性と保温性を両立した」「優れた消臭効果」など購買意欲をかき立てる謳い文句が商品には並びますが、実際に使ってみると良くも悪くも「あれ?」なんてことありますよね。そう、使ってみないとわからないんです。だからトライアンドエラーを積み重ねて現在に至った過程をお伝えしたかったまでで。
肌に一番近いベースレイヤーは命をも左右する大事なウェアです。ダウン・フリース・ハードシェルなどのアウターが気になりがちな冬ですが、これを機会にご自身のベースレイヤーを見直してみるのもいいかもしれません。