僕が初めて機能性タイツを購入したのは、もうかれこれ10年ほど前のこと。ヒザに違和感を感じていたので、何か良いものはないかと思っていた時に、スキーヤーの友人が紹介してくれました。当時は一部のスキーヤーがで使用している程度で、もちろん選択肢はほぼなく、勧められるがままCW-Xを購入しました。その頃はまだ市民権を得ておらず、タイツを履いていると変質者?という目で見られるので、必ずズボンを履いて隠して走っていたのを覚えています。そこから数年後、僕の記憶では山ガールが出没し始めた辺りから広く知れ渡るようになり、今では堂々と使えるようになりました。
今では多くのアスリートが着用し、普段の生活でも使用されるまでになり、選ぶのに苦労するほどの数々の種類の機能性タイツが各メーカーから販売されています。
今回はそんな機能性タイツの中でも、トレイルランニングに適しているかという視点で、特徴の異なる3種類のモデルを選んで、実際に使用比較してみました。
目次
今回比較したスポーツタイツについて
機能性タイツといっても、目的や機能などによって様々なタイプが存在します。今回はトレイルランナーが練習からレースまで使用するという目線で、3種類の異なるタイプのタイツを選んでみました。
まずはおなじみのアシックスが走るために必要なサポートを進化させたという、ランナーのためのランニングタイツがMMS LONG TIGHT2.5。そして言わずと知れた機能性タイツメーカーの老舗CW-Xからは、機能性タイツで最上位モデルであるジェネレーターモデル。ひざ・腰・股関節に加え、カラダを支えるのに重要なおしり・ふとももの筋肉までサポートし、スポーツ時に多い動きからカラダを守ります。そして最後のC3fit インスピレーションロングタイツは数少ない、一般医療機器「弾性ストッキング」の血行促進効果をもつ段階着圧設計のロングタイツ。血行促進効果によってむくみを軽減することができ、長時間の着用にも快適さを維持。同時に運動時の余分な筋振動を抑えることで運動効率をアップさせます。
テスト環境
評価項目については、以下の5点を指標に設定しレビューしました。
- サポート性・・・タイツがフィールドの中でのランニング動作をどれだけサポートしてくれるか。着用することで走りがどう変わるのかを中心に評価しました。
- 快適性・・・どれだけ機能がよくても、着用感が悪ければ元も子もありません。履き心地からランニング中のズレ・不快感の有無、長時間着用でのストレスなどを評価。
- 機動性・・・タイツを履くことで動きが制限されてしまっては本末転倒。ここではランニング時の各動作でマイナスに働く要素はないかなど、動きやすさをチェックしています。
- 疲労感・・・運動中・運動後の疲労の感じ具合を比較してみました。ここはやや主観の要素が強く出てしまいますが、そこはしょうがない。
- 耐久性・・・特にトレランでは、通常よりも小枝やイバラなどで破れたりするリスクが高く、生地の丈夫さは気になります。厳密な試験はできませんが、ある程度無理な使い方をしてのインプレッションで比較しています。
以上の5点を意識して、ロードでのランニングや、アップダウンの比較的多いトレイルでのランニングを各モデル数日行いました。その他、長時間着用での快適性を測るため、1日のうち長時間着用して生活してみたりもしました。
テスト結果&スペック比較表
各モデルのインプレッション
ワコール CW-X ジェネレーターモデル(レボリューションタイプ)
CW-Xの高機能タイツは現在、「ジェネレーター、スタビライクス、エキスパート、スタイルフリー」の4モデルがあります。今回使用のジェネレーターモデルは腰・おしり・股関節・太もも・膝・ふくらはぎと下半身全般をサポートしてくれる、CW-Xシリーズの最上位のモデルです。
生地は一見しっかりとして履きにくそうですが、実際には伸縮性もありスルスルっと難なく履け、3モデルの中では一番履きやすかった印象。その割にテーピング部分の伸縮性はほとんどなく、そこはしっかりサポートしてくれているので非常にメリハリが利いて好印象。腰から下半身全体がサポートされているという感じがひしひしと実感できました。
実際に走ってみると、その「サポートされている感」はさらに確信へと変わります。足が勝手に前に出るだとか、そういった効果はではないのですが、一つ一つの動作をしっかりと支えてくれるというか、安定感を与えてくれる、文字通りサポートを実感できるのがこのモデルで強く感じた印象です。
特にトレイルランの下りでは、通常のランニングではありえないような不安定な着地や体のねじれなどが突発的に発生してきます。そんな不測の動きに対しても、より少ない不安で走ることができました。とにかく下半身の安定感が素晴らしかったです。
ただ、そのサポート力は誰もが感じられるほどに強めです。走り込んで体ができているような高レベルのランナーにとっては、逆に窮屈と感じるかもしれず、そういった人には本番よりも、むしろ惰性になりがちな普段のロードでのLSDなどにちょうどいいかもしれません。
C3fit インスピレーションロングタイツ
医療機器認定を受けている弾性ストッキングを使用したモデルです。今回比較対象であるアシックス MMS LONG TIGHT2.5やCW-X ジェネレーターモデルのようなテーピング機能はまったくなく、血行を促進し、筋肉のブレを抑えることで”運動効率をアップ”することを目的としているのが他モデルと大きく異なる点です。
なお、C3fitがすべてそのようなタイツしか扱っていないということではなく、テーピング効果を備えたElement Air Long Tights、Impact Air Long Tightsなど目的に合わせた複数のラインナップを揃えているということは念のため付け加えておきます。
実際に着用してみると、さすがに他の2つと比べるととびぬけてソフトな穿き心地。そして軽い。マイルドな段階着圧がとても気持ちよく、素足でいるより履いている方が楽なんじゃないかと感じさせてくれるほどです。もちろん長時間着用してもそこまでストレスはありませんでした。
走ってみての第一印象では、やはり、はっきりとパフォーマンスを上げてくれるという印象はあまりなく、ロードでのランニングのような負荷が低めの動作では特に走りでのサポート感を体感することは難しいかもしれません。しかしアップダウンの多いトレイルでのランニングでは、普段より登りの調子は良く、足の上がりも悪くなかったです。個々の動作がテーピング効果で促進されているというよりは、なんだか今日は調子がいい?と感じるような、そんな楽さを感じながら走れました。
また今回は坂道ダッシュでのテストのような高負荷トレーニングでの比較も行いましたが、トレーニング後もずっと履きっぱなしで過ごしていた場合、血行促進のおかげで疲労物質が排出されやすいのか、最も足のだるさが軽減されているように感じられました。もちろん商品の特徴を知った上での比較なので、先入観の影響かどうかの疑念はぬぐい切れないものの、他のモデルにはない疲労の軽減具合が感じられました。
テーピング効果のような直接的なサポートは体感しづらいのですが、これを履くことで全体的により少し上のコンディションを引き出してくれる、そんな印象のタイツです。
アシックス MMS LONG TIGHT2.5
3アイテムの中でも、唯一のランニング用モデル。
まず第一に、とても履くのに苦労します。今回のレビューだけでなく、これまでにも何種類かタイツは履いたことはあるのですが、履きにくさはダントツな気がします。ひざ下までは履けたのですが、膝~太もも~おしりにかけてサポート部分を適切な位置に宛てながら履くのに時間がかかりました。
もちろんサポート部以外の生地には伸縮性があるものの、他の2モデルと比べるとそこすらあまり伸びません。僕の太ももとおしりが太め・大きめなのも履きにくさの原因かもしれませんが…購入する場合はしっかりとサイズを確認して、試着を強めにオススメします。
ただ、サポートタイツの比較対象であるCW-Xと比べると、履いた直後にはサポート感はそこまで強く感じられません。ただ走っていると、後半になってもしっかりと姿勢・フォームを自然と維持でき淡々と走る分には非常に楽に走れました。動きの隅々まで体感できるようなサポートは期待できませんが、ロードでランナー本来の走力を長時間維持してくれるサポートタイツだと思います。ただしトレイルランのような臨機応変の動きに対しては、窮屈さの方が気になってしまい、あまりおすすめではないかもしれません。
各項目詳細レビュー
サポート性
CW-X ★★★★★
C3fit ★★★☆☆
アシックス ★★★★☆
サポート性を最も感じられるのはまずCW-Xです。履いた時からテーピング効果によるサポート感は抜群です。ランニングだけでなく、様々な動きに対してしっかりとサポートしてくれます。トレイルランニングのように、走る動作でなく、様々な動きが入るトレイルランニングにはうってつけかもしれません。
アシックスもテーピング効果はあるのですが、こちらはある程度の時間ランニングしたときに実感できるような設計になっている気がしました。後半も姿勢を崩さず走りきれるようなサポートなのかもしれません。
一方C3fitは着圧による血行促進がメインのため、テーピング効果は感じられず、一方で普段より体を良い状態にしてくれているような意味でのサポート感覚を与えてくれます。
快適性
CW-X ★★★★☆
C3fit ★★★★★
アシックス ★★★☆☆
快適性は、履いた時の肌当たりの良さ、穿き心地、長時間履いた時にいかに快適に過ごせるかどうかで判断しました。
やはりテーピングがないC3fitはソフトな穿き心地で長時間着用してもそこまでストレスなし。適度な着圧がとても気持ちよく、素足でいるより履いている方が楽かも!と感じさせてくれます。
一方他の2モデルはテーピングの効果で多少の圧迫感があり、動いている・いないに関わらず長時間履いているとだんだんとストレスを感じてきます。テーピング付きのモデルは、メーカーも注意を促していると思いますが、運動時のみ着用するのが良さそうです。
機動性
CW-X ★★★★☆
C3fit ★★★★★
アシックス ★★★☆☆
全てのモデルでランニングの基本的な動作において、動きが妨げられたりというストレスを感じることはありませんでした。ただ、アシックスはテーピングの締めつけがきつめで、登坂時のもも上げ動作で若干引っかかるような感じがあります。ランニング用と謳っているだけあって、ランニングではしない激しめの動作は想定外なのでしょう。
生地の伸縮性もアシックスはCW-Xと比べると低いです。それに対してC3fitを着用しての動きやすさは、テーピングがない分3種類の中ではピカイチです。
疲労感
CW-X ★★★★☆
C3fit ★★★★★
アシックス ★★★★☆
走行中・後に感じる疲労感については、どれも素足の時より疲れにくさは感じられたものの、若干複雑な印象の違いがありました。
まず走行中に感じる疲労感では、テーピングによるサポートがあるCW-X および アシックスで明らかに動作の軽さが感じられ、その意味で疲れにくいと感じられました。走る動作自体をテーピングによってサポートしてくれるので、それに対する疲労感は普段より低減されていると思われます。
一方でC3fitで感じられた疲れにくさは、走る動作が楽ということからではなく、走った後に疲れが残りにくい(回復が早い?)という側面からです。これは客観的に実験したわけではないので印象でしかないかもしれませんが、少なくとも血行促進効果によって、素足で走った時よりも確実に走行後、楽な感覚が実感できました。
感覚的には、運動中はテーピング効果のあるCW-X・アシックスの方が動作が楽な感じがする分疲労感は感じにくいが、運動後まで通して感じる疲れにくさはC3fitの方が優れているというイメージです。
耐久性
CW-X ★★★★☆
C3fit ★★★☆☆
アシックス ★★★★☆
今回のレビューのために、新品状態から4~5回ずつ履いたのみなので、毎回洗濯はしたものの、長期間使用した時の耐久性は判断していません。というわけで、今回はトレランで気になるトレイルでの引っ掛けや転倒時の破れがあるか。生地はすべてのモデルで薄すぎず、厚すぎずでトレイルで小枝やイバラなどに引っ掛けたくらいじゃ破れたりしないと思います。ただ、転倒時はC3fitが一番破れやすそうだと感じました。膝など伸びた箇所や、テーピングがない部分が強めに擦れると破れやすいような気がします。
まとめ
今回の3モデルは前提として「ランニングサポート」「スポーツサポート」「血行促進」と、明確に異なる狙いをもったモデルの比較のため、万人にとってこれが一番!とおすすめすることはできません。また繰り返しになりますがサポート性や疲労感といった要素は容易に数値化できるものではなく、どうしても評価は主観的な感覚に頼らざるを得ないということは念頭に入れておく必要があります。
そのうえで今回比較してみて「自分ならどう使い分けるか?」ということを考えてみると、筋力が十分でない初心者のころや(故障など含めて)下半身のパフォーマンスそのものに不安がある場合、短~中距離のレースには抜群のサポート力のCW-X。動きやパフォーマンスのサポートよりも全体的な疲労の蓄積を抑えたいという方、または長距離レースに使用するならばC3fit 。トレーニングにしろレースにしろロード限定で距離を伸ばして走り込みをしたいという方にはアシックスをおすすめします。
冬は寒さで血行が悪くなり、筋肉も硬くなりがちで、予想もしていなかった故障が発生しやすくなります。そんな不安がよぎった時は、高機能タイツを試してみても良いのではないでしょうか。その時のタイツ選びの参考になれば幸いです。
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横山貴史 (Yokoyama Takashi)
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