焦らずゆっくりマイペースなトライアスリートがお届けした前回の記事ではエンデュランス向けに気になるシューズ5選をピックアップしてご紹介しました。
まずはその際に予告した比較候補絞り込みのための市場調査について、”ウルトラマラソン・トライアスロン向けシューズ選びについて”という切り口でアンケートを行った結果(下グラフ)をご覧ください。あくまでも参考ですが、実際にレースで使用したシューズのメーカーについて、断トツ1位がアシックス、続いて2位にadidas、3位は横並びでトライアスロンの老舗ZOOT、新生のOn、厚底なのにとても軽い!と話題沸騰中のHOKA ONE、国内老舗のミズノとなっています。
これらの意見に加えてシューフィッターとの相談を踏まえながら、前回のピックアップシューズから更に3つに絞り込んでいきます。
最初に訪れたのはアンケートでも人気No1だったメーカーでアシックス直営の東京ストア「RUNNING LAB」。QUICKスキャンと呼ばれる計測器で足形を計測してきました。
みなさんのシューズ選びの比較対象として、あらかじめ私の足についてのご案内をいれておきます。ここ最近の使用シューズはZootかAdidasが中心で、ずっと24cmを選んでいました。しかし実測値が24cmでフィッターによる判断ではシューサイズは25.5cmとかなり大きめ。また自分では横幅は広いと思っていたのですが、足囲を測るとやや狭めで偏平足気味。特に右足が内側に傾くオーバープロネーション型ということが判明。そこで勧められたのがGel-KAYANO 23。これにはDuomaxという素材が傾きがちな内側部分に内蔵され、足のぐらつきを支えてくれる仕組み。まず1足目のシューズはこれに決定しました。
続いては場所を移して、Victoria青山外苑前店と御茶ノ水ワードローブ店へお邪魔し様々なシューズに足を入れていきます。中でもHOKA ONE ONE CLIFTON 3は足入れ感がソフトで第一印象が良く、選抜シューズ中で最軽量という理由から2足目に、最後は2名のシューフィッターが絶賛するBROOKS Transcend 4を履いた感触が良かったので決定しました。
アンケートで2位のadidasは私の愛用メーカーですが今期モデルにピンとくるものがなかったこと、前回提示の選抜から漏れたZootは国内店舗で品揃えが少なく試足できなかったこと、Onはクッション機能が売りの特殊な靴底ゴムの耐久性に若干の不安があったため、今回のテーマ上やむなく候補から外れました。
さぁこれでようやく比較する3モデルが決まりました。次から実際に走行テストを行い、それぞれのインプレッションを比較スペック表にまとめていきます。
目次
目次
テスト環境と結果&スペック比較表
テスト環境
最初はそれぞれ1時間10kmほど、平地基調のオンロード・軽めアップダウンのオフロード・歩道橋の階段昇降時、1km軽いダッシュ走など変化走を取り入れながら数回に分けて履き比べ、続いては長時間の耐久テストをおこなっていきます。使用者がサブ4.5レベルの一般的なボリュームゾーンであるランナーで、オンロードでの長時間×長距離のダメージから守ることをテーマに選抜したシューズですので速く走れるか?よりも、いかに楽に長く走り続けられるか?というクッション性とプロテクト効果に加え、最終的な快適性が総合評価のキーポイントとなっています。
なお今回の比較では、長時間のランニングを安全・快適に行うために必要な要素を大きく以下の5点としてそれぞれ評価しています。
- 通気性やフィット感などの総合的な「快適性」
- 少しでも足上げの負担を軽くする「重量」
- 効果的な蹴り出しやブレーキに必要な「グリップ」
- 足裏への衝撃と膝の負担を和らげる「プロテクション」
- 重心のブレを抑えるのに必要な「安定性」
テスト結果とスペック比較表
※5km (JOG 4km + WS 1km) 走行時におけるランニングダイナミクスの結果。ピッチは一分間に走る歩数でフルマラソンだと理想は180以上と言われていますが、今回は軽めのJOGなので少し低め。ストロークは歩幅となります。ピッチ(歩数)×ストローク(歩幅)=走速度を見るパラメーターとなります。(ガーミン920XJTデータより)
各モデルインプレッション評価
ここから各モデルのインプレッション詳細についてレポートしていきます。
アシックス Lady Gel-KAYANO 23
全ての走路にスムーズに順応してくれる優等生
ネットではよく初心者向けなどと紹介されていたりしますが、実際に履いてみてもたつくようなこともなく、重さもさほど感じません。ソールの厚さを比較すると今回選んだプロテクト系アイテムの中では一番うす目です。これは従来のミッドソールを約55%も軽量化させたFlytForm素材によるもので、その分GEL部分が大型化されて前モデルより優れたクッション性をもたせています。国内メーカーならではの丁寧なアッパーの縫製は見た目にも美しく細やかで、フィット感やムレを防止する通気性などの機能の高さにも唸らされます。走ってみて強く感じたのはぐらつかない安定感。これは先に解説したオーバープロネーションタイプの足が内側に落ち込むのを防ぐというDuomaxの効果だけでなく、ヒール部分が今回の比較では最もしっかりとした硬いカップでかかと全体をホールドしていることなども高い安定感に繋がっていると感じました。グリップ力はオンロード・オフロードどちらを走っても安心してしっかり足を蹴りだすことができます。スムーズな重心移動をアシストするGUIDANCE LINE機能も安定走行性を高めている秘訣のひとつ。
上の写真の真ん中をみると特徴的なのがトラスティックと呼ばれるプラスティック形状で、中足部に補強があることに気が付くかと思います。これはねじれを生じやすい中足部の剛性を高めることで走りの安定感を高めるもの。ん?プラスティックが外面に?と思うかもしれませんが、前後のゴム部分より少しくぼんでいるので、地面への接地はなく濡れた路面に対する心配もありません。計算しつくされた構造に脱帽です。どんな走路でも安定した走りを見せてくれる優等生という言葉が相応しい一足と言えるでしょう。
BROOKS Transcend 4 Women’s
強さと速さを兼ね備えた感のあるシューズ。Brooksの技と力が生きている。
BROOKSはアメリカのランニング専門誌のベストバイに選ばれたことのあるGHOST 9モデルが気になっていたのですが、そちらは軽量×ライトクッショニング機能というバランスでサブ4~5向け。なかなか履き心地も良かったのですが、シューフィッターに「このメーカーの最高峰モデルです。」と後押しされて履いたTranscend 4はクッション性とサポート機能を備えたエントリーモデルでありながら加速も捉えくれる優れもの。BROOKS独自のクッションであるスーパーDNAは軽いジョグには柔らかく反応し、ペースアップすると強い反発を見せてくれるという、走り方に合わせて変化してくれる機能で、試走を重ねるほどその効果の違いを実感することができました。ただ最初の足入れ(試足)の際には気が付かなかったのですが、初回走行時にベロ・タンの部分の硬さが甲に当たって気になりました。しかし二度目の走行ではマシで登り時の傾斜角がある時のみ気になる程度、履き慣らしていく度に次第に馴染んで違和感が少なくなっていきました。国内ブランドは総じて非常に丁寧な作りが多く、足入れ時から違和感なければ大丈夫的な優等生が多い中、こういう馴染み方って外資メーカーっぽい。
アッパーの馴染みに反して二回目の走行で新たにアレっと気が付いたのがグリップ力。オフロードの登り・やや湿った土の所で、一度だけ軽くスリップしました。しかしオンロードでは問題はナシ。ランニングダイナミクスを見るとピッチが一番高く、蹴りだした力がダイレクトにシューズに反応するので回転数を上げるのが楽しく、それがスピードにも繋がってくるのかなと。BROOKSの集大成と言わしめた技がまだまだ隠されていて、超・長距離の路面の変化が楽しめそうな予感のする嬉しいシューズ。ヒールカップはアシックスが硬めの素材でがっしり安定したホールド感と比べ、こちらは流線形のラインの硬い素材でかかとのブレを防いでいるのですが、前者よりリラックスしたホールド感が個人的には好みで気に入っています。
HOKA ONE ONE CLIFTON 3 Women’s
厚底のクッション性を反発力として生かせば、プロテクト効果だけでなくスピードもついてくるはず
足を入れた途端になんですか?これ?と良い意味でショッキングだったのがこのシューズ。厚底の安全靴みたいな見た目なのに、ふわふわした究極の履き心地で三点の中では圧倒的に軽量がメリット。こちらは先にランニングダイナミクスのパラメーターから説明しますと三点中でピッチ(歩数)もストローク(歩幅)も一番落ちています。つまり走速度が落ちたということ。理由のひとつに3足を10kmずつで、最後にHOKAで走ったので疲れが生じている可能性があり、逆からの履き比べも別日に同様で実験してみましたがやはりデータ結果は同様。
マシュマロのような履き心地に実走を一番の楽しみにしていましたが、何故か私にはイマイチ巧く走れない。JOG程度のスピードでは自重でクッションが落ち込みむのか、反発力を吸い取ってしまうようなもどかしさが。しかし!スピードを上げた時には、沈み込みも突き上げ感もなく足が自然にス―――っと前に運ばれて印象が変わります。恐らくこれは着地から蹴りだしまで自然なローリング運動を生み出すメタロッカーテクノロジーと呼ばれる、ゆりかごのようなアウトソールの形状によるもの。これがJOGとスピード走行時における違いを如実にしているのではないかと思います。下りではこのローリングが自然と生かされ、これまでのシューズの中では一番スムーズに流れるように足を運ぶことができました。
厚底なのでグリップ感はどうかな?と思っていましたが、こちらはなかなかのもの。特に接地面の多い部分に耐久性の高い素材が用いられグリップ力の高さに繋がっているので、下りでスピードを乗せても突っ込めます。ヒールカップは一番柔らかく(外観上では前者2種のようにガードする硬い素材はナシ)アッパー素材も縫い目のない縫製なので、締め付け感が一切なく足指の動きに自由度が高い。足囲の幅がある人には楽に履けて良いかと思います。総合的に見てHOKAはかなり特徴のあるシューズなので、その分やはり癖があるもの。それを生かす術を身に付けて運転すれば必ずや味方になってくれる可能性の高いシューズではないかと思います。
まとめと次回予告
今回は企画部・編集部、筆者、シューフィッターと共にチョイスした厳選シューズ3種のインプレッションとスペック比較表を差し示しました。ご協力頂きましたショップや関係者の方々、アンケートにご回答頂いた皆さまには心より感謝の意を表明させて頂きます。ありがとうございました。総合では1位にアシックスとなりましたが、2位のBROOKSもベロ・タンの足の甲への当たりに違和感さえなければ1位の座を奪った可能性もありました。当初一番の期待かけていたHOKAは、おそらくこれまでにない厚底やその特徴に履き馴れていないことなどから私的には性能を十分生かしきれずの3位ですが、すぐにスピードに乗せる力のある方にはお勧めできるシューズかなと思います。次は少しお時間を頂戴して、更に長時間走や長距離走で耐久テストをしたのち、それぞれのシューズの詳細を伝えていきたいと思います。また新たな発見がまた出てくるかもしれません。お楽しみに。
曽根 倫子
” 焦らずゆっくりマイペース ” をモットーにトライアスロンを楽しむ水陸両用ライター。2015年:企画編集プロダクションを立ち上げフリーランスとして活動中です。優しい言葉でわかり易く心が伝わる記事を提供するよう心掛けています。半径100km以内なら、いつでも自転車に乗って取材に駆けつけるバイタリティーを持ち、ご用命とあらば、山の中を走り、海の中を潜り、世界中を飛んで参ります。自慢できることは、面白そうなコト・モノを探し出す嗅覚が鋭いこと。
企画編集プロダクション:Office Astro Writing
Blog:Rinko’s Diary
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