天候の変わりやすい日本の山では、登山であろうとトレイルランであろうと、お構いなしに必携の装備がレインウェア(雨具)。
どんよりジメジメとした天気が続く梅雨時ではいつにも増して重要なこのアイテムをいざ選ぼうとなると、幸か不幸か、山での遊び方が多様化した最近では色やデザインはもちろん素材や重さや機能など、途方に暮れるほど多種多様なモデルの中から選ばなければなりません。
そこで今回はそんな数多あるレインウェアのなかでも特にここ数年でにわかに注目を集めつつある、トレイルランやファストパッキングといった山の中で「走る」ことの多いアクティビティを想定したレインジャケットについて、今シーズン注目したモデルをピックアップし、比較評価してみました。
目次
トレイルラン・ファストパッキング向け軽量レインウェア比較レビューについて
比較候補を選ぶ
トレイルランやファストパッキングといったアクティビティは、軽くて少なめの荷物で、高い運動量(発汗)を伴いながら素早く行動するのが基本です。当然走ることも多くなってきます。
今回選んだレインウェアは、まずそうした活動に適した特徴をもっていることが前提です。例えばそれは重量であったり、それから汗をかいてもムレにくさだったり。最近ではそうした基本的な特徴だけでなく、もっと細部に渡って使い手のことを考えた機能なども搭載されているモデルがちらほら出てきているので、そうした面白そうなギミックがあるということも選定のポイント。ここは大いに悩ましかったのですが、いくら「軽い」からと言っても、どちらかというと登山やU.L.ハイキングに適したモデルは今回選んでいません。
上記の枠組みが基本ですが、その他では
- なるべく今シーズンの新作(もしくはほぼ新作)であること
- 旧作だけど未体験で興味のあるもの
- 比較候補同士で素材・生地が被らないように
- 予算(!)
といったこちらの都合も思い切り入っていますので、残念ながら漏れてしまっているモデルについてはご理解ください。そんなわけで、今回Outdoor Gearzine が「これは!」と選んだ6着のベスト候補はこちら。
Patagonia ストーム・レーサー・ジャケット
2020年の発売以来、ずっと使ってみたかった、見た目のインパクトからして「やりやがったな!」と思わせる斬新なレインウェア。こういうぶっ飛んだ製品は大好物。もともと同名の軽量レインウェアは存在していましたが、昨シーズンパタゴニアがマウンテンランニング向けのラインナップを一新した際に、このジャケットも大きくアップデートされました。実際のところどうなのか、気になります!
THE NORTH FACE ハイパーエアーGTXフーディ
防水透湿メンブレンがむき出しという過激な構造によって、持続する撥水性と桁外れの軽さ・透湿性を実現したGORE-TEX SHAKEDRY™は、登場から年月が過ぎ、流石に採用されたレインウェアも増えてきました。その中からは、生地の質だけに満足せず、さまざまな「走れる」特徴や機能を詰め込んだこのハイパーエアーGTXフーディをピックアップ。開発にはトップアスリートとともに独自の開発を行い、いかに機能的に快適にトレイルを走り続けられるかというコンセプトのもと開発されています。とにかく走るためにだけに開発された尖った一着。※今回テストしたモデルは現在の最新モデルの一つ前のモデルです。最新モデルでは一部パーツが変更されていました(背面腰のポケット)が、評価に大きく影響するものではないと考え、前モデルでテストしています。
OMM Kamleika Jacket
「山岳レース Original Mountain Marathonでいかにワークするギアを作れるか」ということに集中し続けたものづくりが潔いOMMは、綿々と続く登山用レインウェアの歴史からは出てこなかった斬新な防水透湿ジャケットを開発しました。それがOMMを代表するプロテクティブ・アクションジャケット、Kamleika Jacket。レインウェと同等の防水性がありながら、ソフトシェルのような抜群のストレッチ性と透湿性を備えた唯一無二の機能性と使い勝手は今年の新作モデルではないとはいえ、候補から外すわけにはいきません。
Teton Bros. FEATHER RAIN FULL ZIP JACKET 2.0
国内メーカーのなかでも、トレイルランニングやファストパッキング愛好家の間で多くの支持者をもつTeton Bros.からは、かなりの軽さにも関わらず快適性・耐久性・機能性をバランス良く備えた3レイヤー生地のレインウェア、FEATHER RAIN FULL ZIP JACKET 2.0をピックアップ。この手の新しいアクティビティ向け道具はどうしても海外ブランドに押され気味ですが、日本代表として頑張ってもらいたい!
mont-bell バーサライト ジャケット
日本の登山向けレインウェアといえば、もう言わずもがなの mont-bell 大明神、やっぱり入れないわけにはいきませんよね。とにかく全方位にラインナップを揃えるモンベルですが、今回は生地にGORE-TEX INFINIUM™を採用した同ブランド内でも最軽量のトレイルラン向けシェルを選定。コスパだけではない、予想外の実力を見せてくれるか?
inov-8 ULTRASHELL HZ
英国のトレイルランニングシューズメーカー、inov-8が開発したのは、驚くほど軽く、それでいてしっかりと防水透湿性を備えたレインジャケット。100gを下回る重量ながら、トレイルランや山岳レースでの必携ギアリストの基準も問題なくクリアする性能を持った、まさにレースのための防水シェル。確かに用途は限定されるかもしれませんが、ひょっとするとコレで十分!となるかもしれないという期待も込めて。
なお過去にもこうした軽量レインウェアの比較レビューは行っておりまだ参考になるはずですので、そちらもよかったら参考にしてみてください↓
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評価ポイント
今回のテストでは各モデルを以下の7つの評価基準をもとに評価しました。
- 防水性・・・レインウェアとしてまず第一に評価しなければいけないポイント。単に生地の耐水圧だけでなく、実際の雨のときに衣服内に雨が入ってきにくいかどうかを総合的に評価。
- ムレにくさ・・・透湿性の評価は各ブランド独自で公表されている場合もありますが、その条件は同じとは限りません。このためそうしたスペック上の透湿性能と合わせて、ベンチレーションによる換気性なども含めた、行動中のムレにくさを総合的に評価。
- 快適性・・・袖を通したときの肌触りやフィット感といった着心地のよさを評価。
- 機動性・・・走ることが多い今回のテストでは、上半身の激しい動きに対してストレスが少ないかどうか、動きやすいかどうかなど、動きの中での着心地のよさを評価。
- 耐久性・・・生地の摩擦やひっかきに対する強さ、パーツの壊れやすさ、洗濯による劣化の少なさを評価。短期間・主観的な評価にならざるを得ないため、あくまでも参考程度に。
- 機能性・・・フードや袖、裾の調整しやすさをはじめ、ポケットやパッキングしやすさなど、実用レベルでの全体的な使い勝手の良さを評価。
- 重量・・・実重量をもとに、実際に着たときの重量感も含めて評価。
テスト環境
5~6月、長野県北信州のトレイルで、アップダウンを交えた日帰りコースを、それぞれのアイテムを着て歩く・走るを重ねてテストしました。また防水性のテストでは雨の中で着てみるほか、豪雨を想定したシャワーテストも行っています。
テスト結果&スペック比較表
スマホ向けの軽量表示で表が見づらいという方はこちら
総合評価 | AAA | AAA | AAA | AAA | AA | A |
---|---|---|---|---|---|---|
アイテム |
Patagonia ストーム・レーサー・ジャケット |
THE NORTH FACE ハイパーエアーGTXフーディ |
OMM Kamleika Jacket |
Teton Bros. FEATHER RAIN FULL ZIP JACKET 2.0 |
mont-bell バーサライト ジャケット |
inov-8 ULTRASHELL HZ |
ここが◎ |
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ここが△ |
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防水性 | ★★★★☆ | ★★★★★ | ★★★☆☆ | ★★★★☆ | ★★★★★ | ★★☆☆☆ |
ムレにくさ | ★★★★★ | ★★★★★ | ★★★☆☆ | ★★★★☆ | ★★★☆☆ | ★★★☆☆ |
快適性 | ★★★★☆ | ★★★☆☆ | ★★★★☆ | ★★★★☆ | ★★★☆☆ | ★★★☆☆ |
機動性 | ★★★★☆ | ★★★★☆ | ★★★★★ | ★★★★☆ | ★★★☆☆ | ★★★★☆ |
耐久性 | ★★★★☆ | ★★★☆☆ | ★★★★☆ | ★★★★☆ | ★★★★☆ | ★★★☆☆ |
機能性 | ★★★★★ | ★★★★★ | ★★★★★ | ★★★★☆ | ★★★☆☆ | ★★★☆☆ |
重量 | ★★★☆☆ | ★★★☆☆ | ★★★☆☆ | ★★★★☆ | ★★★★★ | ★★★★★ |
スペック | ||||||
公式重量 | 198g | 215g | 265g | 170g | 134g | 97g |
実測重量 | 195g | 192g | 255g | 181g | 136g | 93g |
耐水・透湿素材 | H2Noパフォーマンス・スタンダード・シェル | GORE-TEX Active with SHAKEDRY™ Product Technology | Kamleika ‐ナイロン4方向ストレッチ | PU多気孔素材 | GORE-TEX INFINIUM™ ウインドストッパー® | ポリエステル100% (ポリウレタン樹脂加工) |
レイヤー数 | 3 | 2(メンブレン+裏地) | 2.5 | 3 | 2 | 2.5 |
耐水圧(mm) | 非公表 | 非公表(50,000以上?) | 20,000 | 20,000 | 30,000以上 | 10,000 |
透湿性(g/m² 24hrs) | 非公表 | 非公表(80,000以上?) | 20,000 | 20,000 | 43,000 | 10,000 |
ポケット数 | 0 | 0 | 2 | 1 | 0 | 0 |
パッカブル | 〇 | × (収納袋付属) |
× | × | × (収納袋付属) |
× |
各モデルのインプレッション
Patagonia ストーム・レーサー・ジャケット
ベスト型パックとの相性抜群!着心地・快適さも絶妙なトレラン向けレインウェア
ここが◎
- バックパックの上から着られ、全体を雨から守る
- 着たままパック内部にもアクセスできる
- 抜群の換気性
ここが△
- 生地自体の透湿性はそこそこ
- 万が一パックの中身を取り出したくなると脱がなければならない
何よりも眼を引くのは首元から両脇下へと続くジッパーライン。まるで前掛けをしているような奇抜なデザインです。向かって左側のジッパーは下まで完全に開き、右側は脇下あたりまでで止まる仕様。最初のうちは少し上げ下げしにくいかもしれませんが、慣れてくると素早く開閉できるようになるのでご安心を。それよりも、一度慣れてしまうとこの構造が可能にした多くの機能性の高さが手放せなくなるかもしれません。
まず前提として、このレインウェアはそのまま着るだけでなく、薄型のベスト型バックパックの上から羽織る想定でもあることに注目。10L以下程度の薄めのトレランパックならばさほど窮屈さはなく羽織ることができます。
この状態でジッパーを開ければ、ベスト型パック前面にあるボトルや小物類にスムーズにアクセスできることが、この奇抜なジッパー構造第一の狙いです。バックパックを背負いながらスピーディーに脱ぎ着ができ、行動中もパックを濡らさない、その上着たまま水・食料の補給ができるというスグレモノ(ただ、着てからパックの中身を取り出したいとなると逆に面倒ですが……)。
もう一つ、このジッパー構造が実現する新たな利便性として、よりダイナミックな換気が挙げられます。ファスナー類をすべて締め切った状態では透湿性もそこそこですが、左右のジッパーを胸の下まで開ければかなり外気を取り入れることが可能です(下からも開けることができたらもう少し使いやすいかな、とは思いました)。もちろんあまりずっと開けていると濡れてしまうので、そこは常識の範囲内で。
優れた機能性の高さの他にレインウェアとしての快適さもなかなかのものです。Patagonia独自のH2NOの3レイヤーは裏地もサラサラ、巧みな立体裁断で細身ながらストレスなくフィットし、着心地はかなり気に入っています。裾は長めで保温性・防水性を高めていますが、登りやランニングに集中したいときなどは腿が引っかからないよう、スナップボタン留めのスリットが入っています。この辺りの細かい部分も快適さに少なからず影響しています。
そのほかパッカブル仕様により、ポケットを裏返してコンパクトにしまえるのも高ポイント。
信頼性の高い独自の軽量・快適生地を用いて、細部まで気を配った作りは、全体として期待以上に満足のいく出来でした。トレイルランナーはもちろん、ファストパッキングやスピードハイカーにとっても使いやすいジャケットです。
ただ1点だけ注意したいのは、当然のことながらパックの上から羽織ったり、ベストの前面収納にアクセスしたりといった利便性は、あくまでもその使い方にマッチしたバックパックを背負っているときだけである点です。純粋なレインウェアとしても良くできてはいますが、15リットル以上のバックパックで、しかも前面には特にボトルなどを付けない人にとってはあまり多くの恩恵を受けられるものではありません。ちなみにザックを上から背負ったらジッパーが干渉しないか?と思ったので、一応確認してみましたが、なんとかそれは避けられているようです(下写真)。
その意味で、10リットル以下のベスト型パックとの組み合わせでは今回一番におすすめできるジャケットでしたが、汎用性という視点を加えると、もっとベーシックなモデルでもよいかなと思う、アクの強さも印象に残る一着でした。
THE NORTH FACE ハイパーエアーGTXフーディ
他の追随を許さない圧倒的な撥水力とベスト型パックでの便利な機能がハードなトレイルランでも安心
ここが◎
- 撥水性
- 透湿性
- バックパックの上から着られ、全体を雨から守る
- 着たままパック内部にもアクセスできる
ここが△
- 表地の耐久性
- バックパックを背負っていないとフィッティングがややルーズ
- 万が一パックの中身を取り出したくなると脱がなければならない
袖を通してみるとかなりしなやか、裏地はソフトでサラサラの心地よい肌触り。そしてやはり特筆すべきはGORE-TEX SHAKEDRY™ガーメントによる撥水性・防水性の高さ。ツルツルの表地は水をかけてもまったく染み込むことなく、水滴はビニールの表面のようにポロポロと落ちていきます。おまけにこの撥水力は洗濯すると落ちていってしまうようなものでもありません。
水蒸気が通る膜が1層少ないということは、透湿性に関してももちろん影響します。通常であればGORE-TEXの生地は動き始めるどうしても蒸れは感じるのですが、その感覚はこのモデルではほとんどありません。この異次元の撥水性と透湿性による雨の中での快適さは、未だに他のモデルと比べても頭一つ抜けてでいると言えました。
そしてハイパーエアーGTXフーディもう一つの利点はやはりベスト型パックとの相性。背中にちょっとしたマチがついているため、15リットル前後までのバックパックならば上から羽織れるゆとりがあります。
さらに肩から胸にかけてベンチレーション兼インナーアクセスジッパーがついていて、ガバッと開けることができ、ボトルや小物などにアクセスできる仕組みになっています。このジッパーのおかげで、高い運動量が続く場面では換気性能を大幅に上げられるし、ジャケットを着ながらにして給水・エネルギー補給などができます。
さらにフードは後頭部のコードでぴたっとフィットしやすいだけでなく、芯材の入った大き目のつばのおかげで強い雨でもフード内に入るどころか、顔にもかかりません。
レインウェアとしての優れた防水性・快適性に加え、小型ベストパックを前提とした機能性の高さは、どんなに過酷なトレイルでも、あるいはハードなレースでもこれ以上なく心強い味方になってくれるでしょう。ただちょっとライトなランナー・ハイカーにはちょっとごつすぎるかも。
また、パックを背負ってない状態では身頃の生地が多少ダブついてしまうので、やはりこのモデルも組み合わせて使う道具に気をつけなければならないことは注意が必要です。また生地そのものの耐久性は問題ないものの、表地は摩擦やひっかきなど外部からのダメージにやはり気を遣うことは否めません。
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OMM Kamleika Jacket
レインウェアとしても、防風ジャケットとしても優秀。一着で何でもこなせる便利屋アウター
ここが◎
- 抜群の動きやすさ
- サムホール
- 大きいポケット
ここが△
- 蒸れやすい
- 重量
まずは何といっても他モデルとは明らかに異質な動きやすさに触れないわけにはいきません。OMM独自のKamleika生地は、一般的なレインウェアと同等の十分な防水透湿性を備えているにも関わらず、4方向に伸びる抜群のストレッチ性を備えており、着心地の良さは格別。袖通りはレインウェアというよりもソフトシェルを着ているかのよう。これはただ伸びる生地を使用しているというだけでなく、伸縮方向を計算に入れた生地配置なども含めた裁断の妙でもあります。
伸縮性のあるフードはフィット感もバッチリ。襟の高さも・ツバの長さも十分で防水性も申し分ありません。
OMMではおなじみですが、袖口が面ファスナーで留めることによりサムホール状になります。より深く袖をガードすることができ、防水性もアップ。
レインウェアとしての基本性能と段違いの動きやすさを兼ね備えたカムレイカジャケットは、不意の雨に対する雨具としてだけでなく、雨が降っていないときの防風アウターとしても重宝する、汎用性の高いレインウェアです。荷物を極力減らしつつ、多用途で使え、いざというときには頼りになるという特徴は数日のファストパッキングなどにはピッタリ。防寒ジャケットとしても使いたい気温の低い時期でのトレイルランにも相性いいです。
一方でやや重量がでてしまっていることから、短距離のトレイルランになら別モデルをおすすめしたいし、高温多湿な日本の真夏に使うという場合も、換気性の限界と裏地のベタつき感からおすすめしにくい気がします。
Teton Bros. FEATHER RAIN FULL ZIP JACKET 2.0
ここが◎
- 軽量レインジャケットとしての欠点のなさ
ここが△
- 特になし
Teton Bros. FEATHER RAIN FULL ZIP JACKET 2.0は3レイヤーながら200gを切る軽量性と、耐摩耗性に優れた耐久性を誇るレインウェア。まずは3レイヤーのサラサラとした裏地とこの軽さによる肌当たりの良さに感心。自分の体型にしっくりとフィットするスリムで無駄のないシルエットと着心地の良さにうっとり。ストレッチ性はないものの、ストレスのない動きやすさを支える細かな立体裁断にも満足。その細かな縫製箇所にはもちろんしっかりとシームテープで覆われており、防水性に関してもまったく問題はありませんでした。
多湿な日本での使用を考え、軽量化の中でも換気性もしっかりと配慮されています。脇下部分は雨が入らないようにしながら空気の通り道(ベンチレーション)を設け、少しでも空気の流れを作ってくれます。この生地の高い透湿性と合わせてムレ感は思ったほど高くはありませんでした。特に3レイヤーになっているため、裏地がある程度水蒸気を処理しているくれているというのも大いにありそうです。
3レイヤー生地の快適さと耐久性の高さを備えつつ、防水性とムレにくさ、軽さも失わない。そして見た目も着心地も素晴らしいエンジニアリングの高さ。軽量レインジャケットとして必要な部分をどこも失うことなくこの完成度の高さに仕上げたのは日本人としても誇らしいくらい。それくらいに穴のないレインウェア。温暖な季節・比較的短期間・活動量が多い、この3つが当てはまるなら、どんなアウトドア・アクティビティでも、どんなレベルの人でもおすすめできる一着といえます。もちろんなにか特定のアクティビティに特化したモデルや、1つの特徴が秀でているものをあえて求めている場合にまでおすすめするつもりはありません。
mont-bell バーサライト ジャケット
ここが◎
- 軽量性
- コストパフォーマンス
ここが△
- 裏地がベタつく
- フィッティングがややルーズ
- フードの密着性が低い
必要最低限の耐候性・機能性で、とにかく軽い防水ジャケットを作ったら?その使命を持ってモンベルが開発したバーサライトジャケットで採用された素材は、ここ数年で新しくはじまったGORE-TEX INFINIUM™ウィンドストッパー®というシリーズ。これは従来のレインウェアのようにゴア社のストーム(防水)テストを通過しているわけではないのでゴア社がその製品に総合的な防水性を保証するものではないが、ある種のGORE-TEX防水透湿素材であるという、ユーザーにとってはややこしい種類ですが、実際の生地の組成などについては非公表なので、あまり深入りするのはやめておきます。
とにかく、薄くて、軽い。生地自体は極薄10デニールのナイロンとGORE-TEXメンブレンの2層構造。GORE-TEX製品にもかかわらず136gという破格の重量となっています。
この薄さと透湿性の高さによって、フロントジッパー以外にベンチレーションないにも関わらず、透湿性は高いといえます。ただ日本の高温多湿状況で使用すると、どうしても生地の透湿性だけでは追いつかなくなり、どこか換気口が欲しくなってしまうのがしょうがないところ。それを含めて考えると、せっかくの透湿性の高さも活かしきれていないのが残念。
また2層構造であるため、半袖で汗をかきはじめると裏地が肌にベタつきやすくもなってきます。
またモンベルのウェアあるある、緩めの体型に合わせたルーズめフィッティングによる野暮ったいシルエットと動いている最中のバタつきが気になり、軽量性と防水性を考えたせっかくの「K-Mono カット」裁断も動きやすさ的には快適とはいえず、ややストレスを感じてしまうのが正直なところ。特にベトついていると余計ツッパリを感じました。
フードも体部分と同様かなりゆったり目に作ってあり、調節性は高いので頭の形に合わせることはできるのですが、小さい頭の人は余りが多すぎてシワが結構よってしまい、防水性を残ってしまいます。
いろいろと不満点も並べてしまいましたが、何よりもこのジャケットの推しポイントは「軽さ」と素材としての「防水透湿性」をどこよりも高いレベルで揃えたところです。大量に汗をかくとベトつきやすいのですが、ドライな状況で万が一のときに忍ばせるファストパッキングやトレイルランで、ウィンドジャケット兼レインジャケットとして考えるのが良さそう。何よりこれだけのスペックでお手頃価格いうコストパフォーマンスの高さは代えがたいものがありますから。
inov-8 ULTRASHELL HZ
異次元の軽さと透けるデザインはレースに最適だが
ここが◎
- とにかく軽量
- ダブルジッパーのフロント
ここが△
- 脱ぎ着がしにくい
- 長時間ではムレやすい
- 長時間では前面の隙間から浸水しやすい
- すぐに破れそうな耐久性
重量は100g切り、今回のテストだけでなく世界トップクラスに軽いレインジャケット。生地は非常に薄く、白いカラーリングの半透明生地を使用しているせいもあり、下のシャツがそのまま透けるほど。トレランレースでゼッケンを常に見えるようにしておくレギュレーションに合わせた色味でもあります。
また今回の比較では異例のプルオーバータイプ。これによって脱ぎ着は面倒になりますが、重量をかなり抑えることができています。
生地自体の防水性は10,000mmと、いわゆる山用レインウェアとしては最低限のレベルですので、弱い雨ならば問題ないにしても、本降りで数時間も着続けていると浸水は避けられません。おまけに胸のジッパー終点部分はフラップもなにもないため、流れていく雨が染み込んでいってしまいますので、防水性については今回のうち最も注意しなければならないレベルでした。
さらに透湿性についても、気温が高い、運動量が多いような時は、ムレやすく汗抜けがよいとは言えません。ただ上からも下からも開閉できるダブルジッパー仕様のフロントジッパーは、下から開けることにより雨の侵入を多少抑えつつも換気することができ、その点は気に入りました。ムレやすいことでベトつき問題もありますが、生地裏面にはベトつきにくい加工がしてあるのと、横方向にストレッチが効くのでベトつきよる機動性の妨げは最小限に抑えられています。
肘や肩回りなど、動きのある部分には多少の立体裁断を施し、その面はしっかりとシームテープで補強しています。フードは顔にピッタリとフィッティングするタイプですが、後頭部とおでこから頬にかけてゴムを配置しているので、しっかりとフィットします。
とにかく軽量、そして動きを妨げない立体裁断とストレッチ性が際立った魅力です。着るというより纏うという方が実感として正しいかもしれません。
一方それゆえに長時間の雨の中で快適に行動したいというニーズには十分に応えてくれるものでは正直ありません。レインウェアを着る可能性が高い山行や、奥深いフィールドに入るときには怖くて持っていけるようなものではありませんが、人の管理がなされたレースやすぐに山を降りられるルートでは万が一のために携帯してもまったく負担になりませんのである意味おすすめできます。言うなればとにかく1グラムも増やしたくないときに、お守りのとしてパックに忍ばせるための一着です。
まとめ
最後に参考として、今回レビューした全モデルのフィッティングの比較図を。
今回はトレイルランナーやファストパッカーなど、軽量性・機動性の高さを重要視するような人のためのレインジャケット比較でした。ここ数年の新作はひところのような重量や透湿性などの「スペック競争」が一段落し、代わりに実用的な意味での快適さや使いやすさによる差別化がでてきている気がします。そのこと自体は歓迎すべきですが、一方で未経験者や初心者にとってはなかなか違いが分かりにくくもなってきているので、こうした実着レビューが少しでも役に立てば幸いです。
比較でも言及したように、同じ高い活動量のアクティビティ向け軽量レインウェアでも、THE NORTH FACE ハイパーエアーGTXフーディのようにタフな豪雨にまで耐えられるようなモデルから、inov-8 ULTRASHELL HZ のようにレインウェアとしてギリギリ頼れるというレベルまで意外と幅があります。
たくさんのレインウェアを持てるならば、当然それぞれに特化したモデルを状況に応じて使い分けるのが良いのですが、なかなかそんなに余裕があるケースは多くないのが現状。そうした場合にどれか一着、となれば、Teton Bros. FEATHER RAIN FULL ZIP JACKET 2.0のようなオールラウンダージャケットが断然使い勝手がよいはず。さらにソフトシェル的なアウター持ってないよ、という人は、OMMは本当に使い勝手が良いので、ぜひ一着持っているときっと幸せになれます。ドッグイヤーで進化してなかなか悩ましいレインウェア選びですが、こうした情報が少しでも参考になって、自分にピッタリな一着が選べますように。