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比較インプレ:ランニングスタイルから考える、冬ランにぴったりな防寒ランニングジャケット

立春が過ぎ、暦ではもう春ですが、まだまだ寒い日が続きますね。明日は走りに行こう!と意気込んで準備している時に、テレビから「明日は寒くなるでしょう」と聞こえてくると尻込みしてしまいます。

そんな気温の低い季節のランニングにピッタリの防寒着といえば、防寒ランニングジャケット、またの名をアクティブインサレーション・ジャケット。従来までのいわゆる「防寒着」としてのミッドレイヤーと比べ、保温性と透湿性のバランスがよく、さらに高い機動性も確保されているため、動きの中でも寒さや不快感を感じにくくなっています。防風や撥水等、アウターとして必要な機能もある程度備わっていることから、厳冬期にもランニングするアマチュアランナーから、自分のような山を走るトレイルランナーまで、活動し続けるアスリートのためには最適な防寒着といえます。

そこで今回も様々なメーカーから発売されているアクティブインサレーションのなかから注目のアイテムをピックアップして、幅広い視点から比較してみました。ご自身の使用目的・用途などと照らし合わせてみてください!

目次

今回比較した防寒ランニングジャケットについて

以下は今回比較した4モデル。冷やしすぎず、温めすぎず、動きやすさも考慮された、冬のトレイルを走るためにデザインされたインサレーションジャケットをチョイスしてみました。※()内は中綿素材

テスト環境

評価項目については、以下の5点を指標に設定しレビューしました。

  1. 保温性・・・行動中に着るジャケットといっても、防寒着としてしっかりと保温性が確保されているか。
  2. 透湿性(快適性)・・・アクティブインサレーションとして、行動中の発汗を処理する透湿性も重要な指標です。
  3. 機動性・・・快適であっても動きにくくて着ずらいのでは意味がない。走ることに対してストレスなく集中できるか。
  4. 機能性・・・インサレーションとしての性能以外で、ランニングやトレランで役立つ機能がどれだけ備わっているか。
  5. 重量・・・単純に重量だけでなく、実際に走った時に感じる重量感も評価しました。

以上の5点を意識して、いつものロードやアップダウンの多いトレイルでのランニングで数回テストしました。

テスト結果&スペック比較表

総合評価 AAA AAA AAA AA
アイテム Outdoor Research DEVIATOR HOODY Patagonia ナノエア・ライト・ハイブリッド・ジャケット THE NORTH FACE ベントリックストレイルジャケット Salomon Pulse Warm Jacket
参考価格 28,080円 28,080円 25,920円 15,120円
ここが◎
  • 透湿性
  • 重量感
  • 機動性
  • 透湿性と保温性のバランス
  • 肌触り含めた着心地のよさ
  • 保温性
  • 軽量性
  • 山・街に使いやすい汎用性
  • コストパフォーマンス
ここが△
  • 耐候性
  • 耐久性
  • かさばる
  • 若干中綿量が多く、走行時暑く感じることも
  • 生地が厚く重い
  • 完全なアウター向けで重ね着には向かない
保温性 ★★★☆☆ ★★★★☆ ★★★★★ ★★★★☆
透湿性 ★★★★★ ★★★★☆ ★★★☆☆ ★★★★☆
機動性 ★★★★★ ★★★★☆ ★★★★☆ ★★★☆☆
機能性 ★★★☆☆ ★★★★☆ ★★★★☆ ★★★☆☆
重量 ★★★★☆ ★★★☆☆ ★★★★★ ★★☆☆☆
スペック
アイテム Outdoor Research DEVIATOR HOODY Patagonia ナノエア・ライト・ハイブリッド・ジャケット THE NORTH FACE ベントリックストレイルジャケット Salomon Pulse Warm Jacket
実測重量 275g(Sサイズ) 267g(Sサイズ) 166g(Mサイズ) 380g(Mサイズ)
素材 Polartec Power Grid 2L
84% polyester
16% spandex knit face with plaited knit grid backer on arms
hood and back panel 100% nylon 7D ripstop front body and back side panels
100% polyester stretch mesh lining
Polartec Alpha Insulation 100% polyester
64 g/m2 front body
hood and back side panels

シェル:メカニカル・ストレッチ織りの1.3オンス・20デニール・リップストップ・ナイロン100%。DWR(耐久性撥水)加工済み。裏地:メカニカル・ストレッチ平織りの2オンス・50デニール・ナイロン100%。DWR加工済み。袖口:4.9オンス・ポリエステル・ワープニット100%。DWR加工済み。インサレーション:ポリエステル100%の40グラム・フルレンジ・ストレッチ・インサレーション。ニット:6.3オンス・ポリエステル100%のストレッチ・ワッフルニット。ポリジン永続的防臭加工済み

12D Rip Stop Nylon AC Coating(ナイロン100%) <中わた>Ventrix 25g(ポリエステル100%) <脇>AMP Stretch Knit AC Coating(ポリエステル100%)<内衿>FLASHDRY? Enduro Tricot(ポリエステル75%、ポリプロピレン25%) body: 93% Polyester, 7% Elastane body insert: 100% Polyester filling: 100% Polyester
ポケット
  • 胸×1
  • サイド×2
  • サイド×2
  • サイド×2
    (左ポケットがパッカブル)
  • 胸×1
サムホール ×
フード付き(無し)モデルの有無 × × ×

各モデルのインプレッション

Outdoor Research DEVIATOR HOODY

ここが◎

ここが△

Polratec Alphaを使用した部分(前身頃・首周り)の裏側には、メッシュ生地を配置しより通気性を高めています。

Polartec Alphaを体幹正面部から首回りにかけのみに使用し、その他の部分には Polartec Power Gridを使用すことにより積極的に換気をし、絶妙なバランスで保温性と透湿性を保ってくれます。他のモデルが ”保温性が良く、通気もできる” のであれば、このモデルは “通気性がとても良く、保温もできる” という、突出した透湿性を持っています。

走り出せば体幹部分はすぐに温まってきますが、他部分はかなり通気が良いので、全体の印象は暖かいというより、寒くないという印象です。防風性・撥水性もある程度あるのですが、それも体幹前面部のみなので、風が強かったり雨が降ってくると、すぐ冷えてききます。体幹部は適度に温めてくれるので、走っているときは問題ないのですが、ストップ & ゴーが多いと体が冷えてきてしまします。それ故ストイックに活動を続ける人のための行動着です。ただ、悪天候時用に防風・防水ジャケットを携行しているのであれば、これほど心強いものはないでしょう。ガンガン山中をストレスなく走りぬきたい人には、最高の選択です。

Patagonia ナノエア・ライト・ハイブリッド・ジャケット

ここが◎

ここが△

PatagoniaのDWR(耐久性撥水)加工は、かなり優れていた。

体幹部正面・腕の前面に東レが開発したフルレンジ・インサレーションという中綿を配置し、体側面から背面・腕の後側にはワッフルニットを使用し、保温性・通気性を確保したモデル。着心地はとてもよく、着た人のみが味わえる瞬間のあのフワッと感は、幸せな気分にさえしてくれます。

走り出すとすぐ体が温まってきて、登りに差し掛かると顔からは汗が出るけど、体はそこまで蒸れないという釣り合いの取れた状態に保ってくれます。全体の伸縮性も程よく、トレイルランニングの動作では、ストレスは感じませんでした。

撥水性もしっかりとあるので、小雨や少量の雪くらいであればアウターは不要です。中綿も化繊なので多少濡れても保温性が低下することはなさそうです。最低限の防風性はあるものの、通気性も良いことから強風が吹くと抜けてくるような感覚はあるので、よほどの好天でない限りはウィンドブレーカーや薄いレインジャケットも準備しておくべきです。

見ての通り背中がごそっと抜けているので、流石に長時間止まっていると、背中から徐々に寒さが襲ってきます。やはりここは保温用ではなく、行動用のアクティブインサレーションなんだと思い知らされます。またかさばるため、使い方としてはやはりリュックに入れて持ち運ぶウェアではなく、ずっと着続けるためのウェアになりそうです。

THE NORTH FACE ベントリックストレイルジャケット

ここが◎

ここが△

背中裏地には細かい孔があり、動きと共にここが開いて通気性が向上。襟の裏地にはニット素材の肌触りもよし。

体側面から腕内側までストレッチ素材を使用。そこ以外にはストレッチ性の中綿を配置し、今回の中では最も中綿部分が多いモデルです。その中綿には細かいスリットが入っていて、体を動かす度にスリットが開閉し、湿気を逃す独自のベントリックス™テクノロジーを採用しています。

保温力は今回比較したモデルの中でもピカイチで、ある程度の低温でも走り出せばすぐに温まってきました。ロードでのランニング時には、袖口から汗が垂れてくるほど。防風性・撥水性もかなり高く、よっぽどの悪天候でない限りこれ一枚でいける心強さがありました。

驚くのは、その中綿量にもかかわらず重量は200g強と最軽量であること。実測値は166gと今回の比較対象外の保温性を確保したアクティブインサレーションの中でも最軽量の分類ではないでしょうか。

また唯一のパッカブル仕様になっていて、左のポケットに仕舞い込めば、500mlペットボトルほどの大きさになります。一枚持っていると万能に使える、頼り甲斐のある相棒になりそうです。

Salomon Pulse Warm Jacket

ここが◎

ここが△

他の3モデルと比較すると若干系統の異なるモデルです。体正面胸部・後背部に中綿を使用し、それ以外はやや厚手のストレッチ性フリース生地を使用。多少の風雨も防いでくれます。スペック自体は悪くなく、保温性・透湿性も十分。実際着て走ってみると快適なランニング環境を作り出してくれます。

しかしやはり他のモデルと比較してしまうと重みを感じ、相対的には窮屈さを感じます。これは中綿部分以外のストレッチ生地が厚めなことが原因のようです。中間着というよりは肌寒い時のランニングアウターといった感が強く、実際この上から薄手のジャケットを羽織って走ると、ゴワゴワしてかなり気になってしまいます。

その分、価格は他のモデルの半額程度と、コストパフォーマンスはかなり高いです。また見た目も、機能を最優先して見た目が奇抜な切り返しをしているわけでなく、アウターとして自然なルックスなので、肌寒い日は普段着でも使用できそうです。というか、唯一普段着で通用しています。山よりもロードを走ることが多い方は、このモデルを選択するのは全然アリだと思います。

次ページ:各項目の詳細レビューへ

前ページでは比較したモデルのランキングと、評価・スペックの一覧、そしてそれに基づくおすすめを紹介しました。ここからはその評価について、どのような基準で評価したのか、なぜそのような評価になったのかについて補足していきます。

各項目詳細レビュー

保温性

The North Faceの保温性は抜群です。低温で、そこそこの風であれば、走っている最中や、多少止まることが多くても寒さは感じません。むしろ僕には、ランニング用途としては暑くなりすぎるくらいでした。逆にOutdoor Resarch は、体幹全部にしか中綿がないので、もちろん保温性は高くありません。止まっていると背中から腕にかけてスースーするし、ベースレイヤーから汗が抜けていく感覚が体感できて一気に冷えが回ります。しかし、走り出せば寒くないという絶妙なバランスは見事です。

体幹側面から腕内側にのみストレッチ素材を使用したTHE NORTH FACEは、高い保温力をキープする。

透湿性(快適性)

防寒着に保温性は当然重要な機能ですが、アクティブインサレーションに限っては、いかに寒さを感じずに快適な環境で走りに集中できるかも非常に重要です。そういった点では、Outdoor Resarchは暑くもなく寒くもなくという、保温性と透湿性の絶妙な環境を作り出してくれました。もちろん体幹前面部にしか中綿がないので、透湿性が他のモデルと比べ高いのは当たり前なのですが、最適な快適性のバランスを提供してくれます。その点Patagoniaも優秀で、1段階暖かい環境を提供してくれます。

Patagonia・Outdoor Resarchの背中部分は、高い透湿性へ振り切った仕様。

機動性

機動性に関しては、すべてのモデルでストレスなく走れるレベルではあります。が、やはりOutdoor Resarchを着た時の自由度は頭一つ抜きんでています。他のモデルも、トレイルランニングでの動作ではストレスを感じることはありません。上にジャケットを着た時も、Outdoore Resarchは生地のボリュームが全体的に薄いおかげで、他のモデルよりも機動性は高く保たれます。一方Salomonはそれ自体の生地が厚めなので、上にシェルジャケットなどを着ると、ややゴワツキが動きを妨げます。

動作で生地がつっぱりがちな肩・背中・ヒジ部分がストレッチの効く素材のOutdoor Resarchは機動性バッチリ。

機能性

Salomon 以外のモデルは両腰にポケットが付いていますが、作りが弱いように感じるので、スマートホンなどの少し重量のあるものをいつも入れるというより、ハンドウォーマーの役目と思っておいた方が良いでしょう。Salomon には左胸にしっかりとしたポケットがあり、実際走る時にスマホを入れて走っていましたが、問題なさそうです。

唯一パッカブル仕様のThe North Faceは500mlペットボトル程度の大きさになるので、非常用の保温着としてバッグに入れる使い方もできます。

ポケットに入れ込めば、500mlペットボトルほどの大きさに。

重量

実際のメーカー値ではThe North Faceが圧倒的に軽く、着て走った時の感覚もその通りといった印象です。メーカー値での次点はPatagonia、次いでOutdoor Resarch なのですが、実際の着た感覚ではOutdoor Resarch の方が軽く感じます。メーカー値各286g・321gでしたが、実測値では267g・275gとあまり差はなかったのと、インサレーション部分が少なく機動性が高いのがそう感じさせているのかもしれません。Patagaoniaも重くはないのですが、ボリュームがあるせいで体感では重量感を感じてしまうのかもしれません。

まとめ

今回は同じアクティブインサレーションでも、保温重視のものから透湿性のものまでを比較してみました。のんびり景色を見ながら、仲間と大勢でワイワイに走るスタイルや、ストイックに追い込むスタイルなど、人によって楽しみ方は様々。また季節によっても最適なチョイスは大幅に変わってきます。

私自身のベストチョイスは、一人で淡々と、かなり負荷をかけて走り続けることが多いため、かなり厳しい寒さでない限りはOutdoor Resarchが一番しっくりきました。走っていて「寒くもなく暑くもない」という感覚はなかなか新鮮でした。とはいえ流石にこれ一枚では不安なので、山に入るのならばレインジャケットは必携です。

逆にThe North Faceは激しく走るとかなり暖かくなるので、特に寒い季節や冬の緩いランニングにはおすすめです。ただそれでもファスナーを上下したりという細かい調整をすれば、これ一枚で幅広い季節に対応できると思いますので、その意味では頼もしい一枚です。荷物を少なくしたい、ストップ&ゴーが多いという方にはベストチョイスだと思います。

Patagaoniaはその中間的なバランスの良いモデルと位置づけられます。十分暖かい環境を作ってくれるので、使い方や目的が定まらない、という方はPatagoniaを選べばまず後悔はしないでしょう。非常に高バランスです。

最後にロードのランニングに使うアウターとしてなら、Salomon。街に溶け込むスタイリッシュさと激しい動きがなければ十分な機能性を発揮し、街ランでは最も自然に着こなせるかと思います。

体が冷えると怪我もしやすく、疲れもたまります。しっかり防寒対策をして、まだまだ続く冬のトレイルを思いっきり楽しみましょう!

横山貴史 (Yokoyama Takashi)

屋久島在住、この海あり山ありの素晴らしい環境で、素潜り、登山、サイクリング、ボルダリングからトレランまで自然をこよなく愛してやまない少年(心は!)です。現在はアメリカのトレラン文化に傾向中。アメリカのビックレース Western States Endurance Run・Hardrock100の完走を目標に、日々トレーニング中。「とりあえずやってみる。」 をモットーに様々な挑戦を続けます。無類のモグラ好き。

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