空気圧によってコーヒーを抽出する「Aeropress(エアロプレス)」を知っていますか。
2005年、元々フリスビー・メーカーであるAEROBIE(エアロビー)社によって開発されたこの道具は、端的に言えば大きな筒状の容器にコーヒー豆とお湯を注ぎ、注射器のように空気圧で押し出すことによってコーヒーを抽出するちょっと変わったコーヒー抽出器具。発売以来、野外でも簡単に手早く上質なコーヒーが作れる、しかも工夫次第で味わいのバリエーションが豊富に楽しめるといった奥の深さも相まって世界中でファンを増やし、今では抽出技術を競う世界大会が開かれるまでに地道な広がりを見せ続けています。
ただ、かくいう自分もコーヒー×アウトドアというキーワードにつられて数年前に試してみたのですが、正直なところ個人的にはあまりハマらず。味と手軽さは認めつつも、やっぱりちょっと全体的に器具自体が大きすぎて、個人や少人数ですることが多いアウトドアではちょっとな……と持て余していたのでした。
そうこうしていたところ、エアロプレスは今シーズン待望の!進化を遂げ、再びぼくの目の前に現れました。その名も「AeroPress Go」。いや今度は見事にハマらせていただきました。実際に使ってみたところこれ自体の魅力もさることながら、ちょっとしたカスタマイズによって、ついにソロハイク用自己流贅沢コーヒーギアセットが完成してしまったので、その辺を含めて早速紹介してみます。
目次
持ち運びできる形状に進化した最新モデル「AeroPress Go」とは?
よりコンパクトになったことで、ハイキングにも十分持ち運べる大きさが◎
オリジナルのエアロプレスのサイズは遠足用の大きな水筒くらい(14×11×10cm)、あまりにも大きすぎ、おまけに持ち運ぶにしては余計なパーツも多く、さすがにハイキングに連れ出そうと思える代物ではありませんでした。
それがどうでしょう。今作は明確に「持ち運ぶ」ことを十分意識して作られており、一度に作れる量こそ減ったものの、1~2人で使用・携行するのにギリちょうどよい大きさ(12×12×9cm)に。加えて付属部品を極力省きながら、さらに新たに「マグ」をセットに加えるという便利かつスマートな構造に生まれ変わりました(下写真)。
上写真のすべての道具を収納し、ポップな赤いゴム製のリッドを被せればバックパックの中でもさほど主張しない程の大きさになってくれます(下写真)。ほんと、よくぞやってくれました。
エアロプレスなら、より「コーヒー豆が持つ本来の味わい」が楽しめる
もちろん山で普通にコーヒーを飲むだけなら、ドリッパーとフィルターでも別にいいでしょう。最近ではおしゃれで超軽量のドリッパーはそこら中に山ほど売られていますし、実際いくらコンパクトになったとはいえ、軽量ドリッパーの方がまだまだ軽量なのは事実です。ただ、それでもぼくがわざわざエアロプレスを山にもっていき、コーヒーを飲みたくなる大きな理由は、その何ともいえない味わい深さにあります。
エアロプレスはドリッパーなどの「重量による抽出方法」と違い、空気圧を使って短時間でコーヒーを抽出します。これがより「コーヒー豆が持つ本来の味わい」を強く引き立たせることができ、それが多くのファンを引きつける何よりも大きな魅力といわれています。
実際に自分が飲んでみて気に入っているのは、コーヒーの抽出時間が短いため雑味や酸味が少なく、すっきりとした味わいであること(もちろん、コーヒー豆の質や種類によっても大きく印象は変わると思いますが)。それでいて、作られる量も少量かつエスプレッソのように圧力がかかっているためコク(心地よい苦味)も出ている。それはメーカーの主張するように「他の抽出方法では実現できない」のかどうかまでは正直分かりませんが、少なくとも自分の求める「おいしいコーヒー」に近づいている気はしています。
屋外でも手軽にすばやくおいしいコーヒーが安定して作れる
コンパクトさや味の他に、もう一つ見逃せないのがその手軽さです。
「ドリップコーヒー 美味しい淹れ方」を検索したことがある人は分かると思いますが、やれ分量だとか蒸らしだとかお湯の入れ方だとか、守ることや細かいコツが多くて閉口してしまう人も多いかもしれません。それ自体悪い分けではないのですが、日頃からずぼらを公言している自分としても、当然煩わしくないわけがありません。
でも、エアロプレスGOは違う。さすがアウトドアな人間が考えた器具、手順はそこそこアバウトであっても、誰でも簡単に一定以上の美味しさのコーヒーが淹れられます。もちろん抽出技術で世界大会が開かれるほど同時に奥の深い世界でもあるので、どんな適当に淹れても最高の味ができるという訳ではありません。そこは念のため強調しておきます。
エアロプレスGOを使ったアウトドアでのコーヒーの淹れ方
さてエアロプレスGOを使ったコーヒーの淹れ方ですが、まずはセッティング。抽出の先端部分にあたるフィルターキャップにペーパーフィルターをセットします。
そのフィルターキャップを外側の筒(チャンバーと呼んでいます)にセット。
次にチャンバーに挽いたコーヒー豆をがさっと投入します(下写真)。
豆の挽き具合は基本的には標準的なドリップコーヒーと同じ「中細挽き~中挽き」の挽き方でOK。量も普通にコーヒーを作るときの塩梅で構いません。もちろん量や挽き目、お湯の量や淹れ方によって様々な味わいのバリエーションが自由自在に作れるのですが、あまりこだわらずに作ったとしてもきちんと美味いコーヒーになるところが、忙しいアウトドアにもナマケモノな自分にもピッタリです。まずはゆっくり楽しみながら、徐々に興味と余裕が生まれてきたところで、満を持していろいろな淹れ方を試してみることにしましょう。
チャンバーを軽く振ってコーヒー粉を平らにしたら、それをマグの上にセットします(下写真)。
準備できたところで、おもむろに80℃のお湯を注ぎ入れます(下写真)。
特に時間を置いたりする必要もなく、流れるようにお湯とコーヒー粉を10秒ほどかき混ぜます(下写真)。
そしてお待ちかねの内筒(プランジャー)を真上から挿入し、静かに圧力をかけていきます(下写真)。
各自おまじない念じながら、少しずつコーヒーを抽出していき、プランジャーがこれ以上押せなくなるまで(底まで)達したら抽出完了です。
この通り、お湯を入れてからあっという間に上質なコーヒーが出来上がり(下写真)。なお下の写真はたくさん飲みたかったため2回ほど連続で作った後の状態。1回の抽出で作れるコーヒーの量は多くても約1.5杯(237ml)分程度です。
至福の時。
片付けも簡単!
この器具の魅力、極めつけは後始末の簡単さ。
使った後はフィルターキャップを取り外し、プランジャーを押して使用済みのコーヒー粉とフィルターをまとめてボロッとゴミ箱へ。プランジャーの先端のゴム部分についたコーヒー粉を少し拭くだけで、他にほとんど洗い物は出ていません。
さらに山に持ち運びやすく、俺流コーヒーセットへカスタマイズしてみた
このコンパクトさ、スマートさ、そして美味さはたしかにホンモノでした。でも分かります、ファスト&ライトで軽量化に関心のある人々からすれば「そうはいってもやっぱりまだまだまだゴツイし荷物大杉だろ」と突っ込みたくなるだろうことは。確かに自分も感じました、スゴイ、けど「あと一歩」な感じ。でもこのスマートで贅沢なコーヒー時間をできる限りいつもの登山に取り入れていきたい……。
そこでいろいろと、ここからカスタマイズする方法を考えてみました。
まず削れる道具を削ること。
粉の計量スプーンやかき混ぜ棒はもちろん、ペーパーフィルター(&フィルターケース)をカット。フィルターはサードパーティから出ている「ステンレスフィルター」を導入することで、無駄を省きつつより油分を残したリッチなコーヒーを楽しむことができるようになります。
次に、マグです。今回新たにセットとして加わったマグですが、樹脂製のため火にかけることができません。これではお湯を沸かすために別のクッカーが必要となり、どうしても荷物がかさんでしまいます。
せっかく新たにセットとなってくれたこのマグですが、これを湯沸かしも可能な金属製のマグに差し替えることができれば、1台でお湯を沸かすクッカーとしても、抽出したコーヒーを受ける器としても利用可能な、無駄のないキッチンセットになるはず。
ただここに収まるためのマグは「チャンバーをマグの上に立ててコーヒーを抽出することができるピッタリの内径である」ことと、「チャンバー等の部品が内部に収まり、リッドをかぶせて固定(パッキング)できる」ことが同時に実現できる大きさの器である必要があります。
例えば内径の大きすぎるマグ(クッカー)では、エアロプレスができません(下写真)。
また、内径がちょうどよくても、浅すぎるマグでは(不可能ではないものの)微妙に収まりが悪くあまりイケてない(下写真)。
丁度よい大きさの内径で、さらに浅すぎないマグはないものか……。引き出しをを片っ端から探したところ、これまでほとんど現場に出ることのなかった不人気道具たちの中に、そいつはいました。それはまさかのモンベル チタンカップ600(下写真)。チャンバーが引っかかるだけの丁度いい内径の狭さ、そしてパーツがすっぽりと入るだけの底の深さ。これまでそのクセのある細長寸胴シルエットによって長らく日の当たらない場所に追いやられていた彼が、一躍檜舞台へとのし上がった瞬間です涙。
各部品をまとめ、筒の中の余った空間には2杯分程度のコーヒー豆と、カトラリー(兼かき混ぜ棒)の小型スポーク(TOAKS チタニウムフォールディングスポーク)を入れます(下写真)。
最後にそれらをチタンカップ600に入れ、上からリッドを被せると、見事なまでに完璧なフィット。これによってわざわざエアロプレスを飲むためにマグなどを余分に持つこともなく、食事などと兼用できる無駄のないキッチン装備が整えられます。
まとめ:登山でも、エアロプレスでこれまでにない上質なアウトドアコーヒー体験を。
今シーズンこのサイトでは、アウトドアでも美味しいコーヒーを飲むためのおすすめ道具(「コーヒーグラインダー」や「ボトル」)をいくつか紹介してきました。個人的にはそれら「理想の山コーヒーセット」を完成させるために、エアロプレスGOは今では欠かすことのできない、他にない素晴らしい魅力を備えたアウトドア向けのコーヒー抽出器具であることが分かりました。また核となるパーツさえあれば、自分なりにアレンジすることでさらに自分の好みに合わせた理想的なセットを構築することができるため、キャンプや旅行だけでなく本格的なソロハイキングやファストパッキングまで、用途や志向に合わせてその人のこだわり次第で楽しみが広がるでしょう。
山コーヒーはすべての人にとって必要なものでないことは確かです。ただ「美味いコーヒーがある旅」の豊かさを知ってしまった人間にとっては必需品以上の価値が生まれてしまうこともまた事実。今日も朝焼けにきらめく一杯のために、メンバーからの「んまいね」の一言のために、ちょっとくらい重くかさばっても、山コーヒーを連れて行くのです。