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Dynafit(ディナフィット)というアウトドアブランド をご存知でしょうか。「By athletes, for athletes」という明確なコンセプトを掲げ、夏でも冬でも一年を通じて活躍するすべての山岳耐久アスリートたちが常に最高のパフォーマンスを発揮するためのあらゆるギアを手掛ける、機能性への飽くなき探求心と革新的なマインドを胸に秘めたブランドです。今ではスキーマウンテニアリング(スキーモ)、トレイルランニング、登山、サイクリングなど、幅広い分野で世界中のアスリートをサポートしています。
そんなディナフィット、日本ではバックカントリースキーをはじめとした冬のアクティビティ分野でこそトップブランドのひとつとして多くのファンを抱えていますが、トレイルランニング界隈では、数年前までは世界的に見てもあまり知られているとは言えなかったかも知れません。
自分がこのブランドのトレイルランニングシューズに出会ったのは忘れもしない2016年のドイツでのアウトドア見本市。このブランドが満を持して2017SSシーズンからトレイルランニング市場に進出すると発表された、まさにそのタイミングでした。
その後、ディナフィットのトレイルランニングシューズは着実に進化を続けてきましたが、残念ながらこれまで実際に試してみる機会がなく、今回紹介するシューズに出会うまではその実力に関しては未知数で、どちらかというと正直「きっとゴリゴリのアルパインでレース仕様の、良くも悪くも通好みなランニングシューズなのかな」といった偏見しか持ち合わせていませんでした。
それが今では(この靴ですでに数十キロ以上走っていますが)この最高に心地よく長い距離を走らせてくれるシューズが毎日手放せなくなっています。従来のクッション性のある靴にありがちな、フワフワした不安定さや重さがなく、クッションとサポートがありながら非常に機敏に反応してくれる。そのパフォーマンスの高さから、ついつい履き続けてしまっています。
そんな隠れたダイヤモンドの原石「Dynafit Ultra 100」をこの春ようやく実際のトレイルで試してみることができましたので、早速レビューしていきたいと思います。
目次
Dynafit Ultra 100 の主な特徴
Dynafit Ultra 100 は、急斜面や泥、岩場などのテクニカルな地形を含めた多様なトレイルを長時間快適に走るために作られたトレイルランニングシューズ。高い通気性と耐久性を備えたアッパーは抜群のフィット感を提供。ミッドソールは十分なクッション性を備えながら、軽さと繊細な接地感、優れたエネルギーリターンと安定性を高い次元で兼ね備え、トレイルでの長い一日を快適に過ごすことができます。アウトソールは濡れた岩場でも滑りにくく踏み込みの力をしっかりと地面に伝える最新の「Vibram MegaGrip & Traction Lugテクノロジー」を採用し、タフな地形から急勾配の登り下りでも自信をもって足を置くことができます。山岳地帯を軽快に踏破するために必要なすべてを高い次元で備えたUltra 100 は、超長距離レースからスピードハイキング、あるいは単にクッション性の高いオフロードシューズとして最適です。
おすすめポイント
- 抜群のクッション性がありながらしっかりと踏み込める反発性を両立したミッドソール
- テクニカルな地形でもあらゆる方向で優れたグリップを発揮する深さ4mmの「Vibram MegaGrip & Traction Lugテクノロジー」
- 十分なゆとりを提供しつつ柔軟で心地よいフィット感を両立した履き心地快適なアッパー
- かかとの抜群のホールド感で安定した着地を可能にする「ヒール プリローダー」システム
- 踵のクッション性と自然な足運びを提供する6mm ドロップ
- 長い距離走ってもヘタらない耐久性の高さ
気になったポイント
- 重く感じることはないが、超長距離シューズの中で特別軽いわけでもない
- いつもと同じサイズ感覚で履くと若干細身なので、サイズはいつもよりも1サイズ大きめがちょうどいい
主なスペックと評価
項目 | Dynafit Ultra 100 |
---|---|
重量 | 299g |
スタックハイト | 32mm/26mm |
ドロップ | 6mm |
アッパー |
|
ミッドソール |
従来のEVAよりも20%軽量で10%以上高いエネルギーリターンを実現したクッション性の高いミッドソール |
アウトソール |
Vibram MegaGrip & Traction Lugテクノロジー (4mmラグ) |
Outdoor Gearzine 評価 | |
快適性 | ★★★★★ |
重量 | ★★★☆☆ |
グリップ | ★★★★★ |
足裏の繊細さ | ★★★☆☆ |
クッション | ★★★★★ |
安定性 | ★★★★☆ |
プロテクション | ★★★★☆ |
詳細レビュー
アッパー構造(外観、サイズ、フィット、耐久性)
その名前が示す通り、Ultra 100は「ウルトラトレイル」と呼ばれるような100マイルクラスの超長距離を想定してデザインされたシューズです。ほぼ丸一日走り続けるシューズに必要なのは、長い時間履いても苦にならない快適な履き心地、数万回に及ぶ衝撃に耐えて疲れを貯めないクッション性、オフロードで壊れにくいタフさ。スピード重視のシューズと違い、ロングディスタンス向けのシューズはどうしてもゴツくてずんぐりと、不格好になりがち。そこから考えるとこのUltra 100 は厚底ながらも十分に洗練されたスタイリッシュな外観で、モノトーンとアクセントカラーで構成されたカラーリングも品があり、まずもって第一印象で好感が持てました。
足を入れる前にサイジングで気になったのは、このシューズのサイズ感です。極端ではないものの若干小さめ(細身?)に作られているようで、いつもUS 9(27cm)サイズでちょうどよい自分の足が今回のモデルではUS 10(28cm)がジャストフィットでした。ただそれでつま先が過度に余るということもなく、しっかり足を合わせて適切なサイズを選べば問題ありませんでした。ただクセのある足型であることは確かなので、購入前には実際に試し履きして自分に合うサイズを確かめてみることをおすすめします。
実際に足を入れてまず感じた印象は、土踏まずから甲にかけてぴったりとしたフィット感、そしてかかとのしっかりとしたホールド感。それでいながら適度に伸縮するメッシュ生地によって窮屈感は感じられず、前足部にも足指を動かせる余裕があり、正確さと遊びとがバランスよく共存した、悪くない感触でした。長距離用にデザインされているといってもあまり気にする必要はなく、どんな距離・地形で履いたとしても問題なく快適なトレイルへと導いてくれます。
このメッシュ生地は通気性もしっかりとあって、ランニング中つま先から冷たい空気が入り込んでくるのが感じられ、暑い日でも走り出してヒートアップする靴内の温度をうまくコントロールしてくれます(下写真)。
シュータンにはたっぷりとパッドが入っており甲への当たりもフカフカで心地よく、チューブ状で柔らかい靴ひもは上部または中央部分から引っ張るだけで簡単に締めることができ、シューレースホールの適度な摩擦によってその後もずれにくい設計になっています(下写真)。
またシュータンの上には結び目とシューレースを収納できると同時に適度に甲の締まりをよくするストレッチメッシュのレースガードが付いています。ここはトレイルで小石の侵入を防ぐと同時に、ここに靴紐を仕舞うことで引っかけや緩みを防いでくれるので、(このシューズ自体のフィット感の良さもあって)頻繁に靴紐を結び直す必要はありません。靴ひもを隠して靴をすっきりと見せてくれるところも気に入っています。
つま先部分はゆとりがありながら、指の付け根辺りにある補強の白いオーバーレイが靴紐と連動し、適度にブレを抑えてくれるので、下りの時などでも靴の中で足がずれたりすることも少なく安心です(下写真)。この熱圧着された補強材は薄くて軽量ながら岩に擦れて破れるような心配は特になく、靴の周囲をしっかりとガードしてくれました。とはいえ登山靴ではないので、重い重量や激しい衝撃にはさすがに耐えられるようなものではありません。
かかと周りにはヒールカウンター背面を包み込むバンド状の「ヒール プリローダー」を備えており、強い着地の衝撃でも足が靴の中でブレず、歩いている際もかかとがすっぽ抜けそうな感覚は皆無で、非常に快適です。このかかと周りのしっかりとしたホールド感、サポート性、安定性には正直驚かされました。
総じてこの快適で正確なフィット感の高さはハードでテクニカルな地形に最適で、山での長い一日や岩場の多い地形でのランニングでも安心して履いていくことができると感じられました。
実際に履いてみての走り心地(ミッドソールとアウトソールを中心に)
極上のクッション性を損なわずに適度な反発力と安定性を両立させたバランスの良いミッドソール構造
できるだけクッションはたっぷり欲しいけど、マシュマロの上を走りたくない、シューズからの適度なフィードバックがある方がいいという方には朗報です。
前モデルから大きく見直されたEVA ミッドソールは、潤沢なフォームの上で足が沈み込んでいるという確かな感覚の、十分なクッション性があります(スタックハイトは32mmと厚め)。
ただ、だからといってただ柔らかすぎるというわけではなく、反発性も少なからずあるように感じられます。ミッドソールの硬さ的には中程度の範囲に入りますが、ミッドソールの内部は母指球辺りまで硬めのプレートが入っているようで、下からの突き上げにも強く、加速しようとしてグッと足を踏み込んだときにもしっかりと反応してくれます。逆にいうと強い反発力を求めるスピード重視のランナー、あるいは足裏の繊細さ重視のミニマリストには合わないと感じるかもしれません(そもそもそういったスタイルを想定しているシューズではないですが)。
もうひとつ気に入っているのは、優れたクッション性がありながら、着地時でも不安定さを感じない安定感の高さです。
それはおそらく前述した「ヒール プリローダー」によるかかと周りをしっかりとホールドする構造であったり、足のサイズよりも外側にやや広がったベース(幅広のアウトソール)が大きく寄与しているのでしょう。いずれせよここは Ultra 100 の大きな魅力であり、テクニカルな地形で想像以上に安定感と敏捷性を感じられる要因であることは間違いありません。
ドロップに関して言えば、自然な足の運びやすさと着地から前への推進力のバランスが取れた 6mm。ロングディスタンスにはちょうどいいといえます。さらにかかとから前方にかけて、ソールが船底状のロッカー形状になっているため着地から踏み込みまでのストライドをスムーズにしながら、長距離での継続的な衝撃を吸収しやすくすることを可能にしています。
Vibram MegaGrip と Traction Lug テクノロジーの組み合わせによる、かつてないほど強力なグリップ力
Ultra 100 は急勾配の上り下りから、岩や泥といったテクニカルなトレイルを走行する際にも滑りにくく、しっかりとグリップしてくれることがわかりました。その強いトラクションを可能にしている大きな要因は言うまでもなく、ヴィブラム社の「MegaGrip」と「Traction Lugテクノロジー」を組み合わせたアウトソール構造です。
「Vibram MegaGrip」といえば、端的に言えば滑りやすい濡れた岩場などでも驚くほど粘着性のあるグリップ力を発揮するラバーソール。そして数年前に誕生した新しい「Traction lugテクノロジー」とは、ソールのひとつひとつのラグ(突起)に段差をつけたり突起(下写真のブツブツ)を増やししたりして表面積を最大50%増やすことによって、トラクションを最大25%増強するという複雑なラグ構造のことです。Ultra 100にはこの2つを組み合わせることで、厳しい地形でもしっかりとグリップするようなトップクラスの高いトラクションを実現しています。
Ultra 100 で奥多摩、丹沢、那須の急な砂利道やトレイル、泥、木の根、濡れた岩の上、ガレ場、舗装道路などさまざまな地形を走ってみましたが、高さ4mmのシェブロン(逆V字型)ラグが散りばめられたこのアウトソールはあらゆるシーンでトレイルにしっかりと食い込んでくれました。よほどの悪路でない限りは概ね自信をもって着地し、力強く踏み込むことができ、特によりテクニカルになればなるほどその効果を実感できると思います。
まとめ:アスリートだけには勿体無さすぎる。優しさと力強さを両立した厳しく長い旅を支えてくれる頼もしいパートナー
これまで日本ではあまりなじみのなかったDynafit のロングディスタンス向けトレイルランシューズ、Ultra 100 のパフォーマンスには、良い意味で非常に驚かされました。トレイルで長い距離を走っても、普段履きなら一日中履いていても心地よい履き心地がずっと続きます。
ややトリッキーな足型さえ合えば全体的にクセが少なく快適な履き心地を備えており、その優れたクッション性とプロテクション、スムーズで安定感のある乗り心地と安心のグリップ力は、オフロードトレーニングからテクニカルなウルトラレースまで(もちろん普段のアウトドアシューズとしても)、あらゆる用途に気持ちよく履くことができます。実際に100マイル走ったわけではありませんが、数十キロ走った限りではハードな長距離走でもその真価を発揮するだろうことは想像できます。
Dynafit はまだなかなか日本では定着していないブランドとはいえ、ヨーロッパではシリアスなトップアスリートたちに支持されるハイパフォーマンス・ブランドとしてその実力は折り紙付き。今回試してみて、正直これほどまでに自分にフィットするとは思いませんでした。まさにダイヤの原石を見つけた気分です。どこで履いても、どれだけ長い距離を走っても上手く機能してくれる、非常に汎用性の高いランニングシューズは、これからしばらく厳しく長い旅を支えてくれる頼もしいパートナーとして欠かせなくなるでしょう。
「Dynafit Ultra 100」の詳細と購入について
Dynafit Ultra 100 の製品の詳細については、公式サイトをご確認ください。
また、東京都千代田区神田神保町にある「カンダハー 山の店」では実物を試着してみることができます(2024年6月13日時点)。