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Review:inov-8 TERRAULTRA G 260 UNI ノーベル賞受賞の“夢の素材”がもたらした、ロングディスタンス向けシューズの革命とは?

自分のような、どちらかというと100kmを超えるようなロングディスタンス派トレイルランナーにとって、常について回る悩みがあります。それとはズバリ、シューズの消耗とグリップ性能のジレンマ。

長距離を走るために丈夫でアウターソールの耐久性を高いものを選ぶと、重くてグリップ力もイマイチ。かといって軽くてグリップ力を高いものを選ぶとすぐボロッボロに。シューズに関するジレンマは長年の悩みのタネでした。

しかし、昨年inov-8からリリースされた「Gシリーズ」はそんな悩み多き長距離トレイルランナーたちの切り札となるかもしれません。

inov-8のGシリーズとは、アウターソールにグラフェン、アッパーにケブラーを採用した高グリップ・高耐久モデルの総称です。グラフェンは、原子一層分の薄さにも関わらず、鉄の200倍の強度があり、伸縮・折り畳み可能、とまさに最強の素材。inov-8はマンチェスター大学と共同でグラフェンの研究進め、アウターソールにその素材の特性を活かすことに成功しました。

今回はinov-8が満を辞してリリースしたGシリーズの中でも、汎用性が高くロングディスタンス向けのTERRAULTRA G 260 UNIを実際に履いて走って試してみました。まさに現代科学の結晶とも言えるこのシューズ。本当に最強なのか!?

TERRAULTRA G 260 UNI の大まかな特徴

グラファイトという物質が発見されたのは1500年中期のこと。それから約500年後の2004年、イギリスのマンチェスター大学がグラファイトを単層で取り出すことに成功しました。その功績により、2010にはノーベル物理学賞を受賞しました。その物質こそがグラフェンです。

グラフェンは、原子一層分の薄さで軽量にも関わらず、鉄の200倍の強度があり、伸縮・折り畳み可能。世界で最も引っ張りに強いといわれています。inov-8はマンチェスター大学と共同でグラフェンの研究進め、パウダー化することに成功し、その粉末をアウトソールにコンパウンドしたシューズがこのTERRAULTRA G 260 UNIです。

同社の通常のトレランシューズに比べて強さ・反発性・耐久性を50%上昇させたGRAPHENE GRIPを採用し、アッパーにはケブラーを使用し耐久性・フィット性・軽量性を向上させています。スタックハイトはフォア9mm/ヒール9mmのゼロドロップで、ナチュラルランに対応。反発性・衝撃吸収性に優れるEXTEROFLOWを採用することで、ミッドソールは9mmと薄めにも関わらず長距離レース向けモデルとして十分なパフォーマンスを発揮するとされています。

噂の素材を確かめるべく、屋久島のトレイルを存分に流してみた。

おすすめポイント

気になったポイント

主なスペックと評価

項目 スペック・評価
公式重量 260g(27.0cm)
実測重量 258g(27.0cm片足実測)
スタックハイト 9mm/9mm
ドロップ 0mm
ミッドソール EXTEROFLOW
アウトソール GRAPHENE GRIP
快適性 ★★★★★
重量 ★★★★☆
グリップ ★★★★★
クッション ★★★★☆
安定性 ★★★★☆
総合評価 ★★★★☆(パフォーマンスは★5だが、圧着部の剥がれやすさにより)

詳細レビュー

アッパー

アッパーはしなやかで通気性が良い生地が採用されています。そして部分的に、防弾チョッキに使用される堅牢な素材ケブラーを使用し、耐久性を大幅に向上させています。

通気性の高いベース素材に、高耐久なケブラー素材が圧着され、強度と軽量性・通気性を両立。

つま先部分は補強されていますが、ガチガチではなく適度にやわらかいの素材を使用しているので、つま先が当たっても痛くありません。岩・石・木などを蹴っても十分つま先を守ってくれるでしょう。シューボックスも比較的広めで指の自由度は高め。

ロング向けともあってかトゥーボックスは広めで快適。プロテクションも特に不満はない。

踵のヒールカップは控えめで、軽量化が重視されているようです。しかしここにもケブラーを使用し耐久性およびホールド感を損なわないようなバランスがとられています。ゴツいヒールカップを使用しているシューズと比べると、やはりホールド感は若干劣りますが、それでも踵をしっかりと包んでくれ、ホールド感は十分です。

ヒールカップは軽量に作られているが、そこまでやわいというほどではない。

ミッドソール

ミッドソールには「EXTEROFLOW」を採用。「POWERFLOW+」といった他のinov-8のミッドソールよりも衝撃吸収性・反発性に優れます。シャンクには踵から足底筋に沿うようにランナーの走りをサポートするDYNAMIC FACIABAND(DFB)が採用されています。

耐衝撃、反発性、安定性を重視したミッドソール。

ソールは全体的にとてもしなやか。ソールの屈折ポイントは母指球あたりで、かなりやわらかいです。シャンクが踵から足底筋に沿ってのみ使用されているので、このポイントはしっかり屈折してくれます。

このシューズの自由度の高さは、脚力の強い人ほど大歓迎だろう。

シャンクが入った部分もかなりしなやかなうえ、反発性も程よくあるため、あくまでも自然な走り心地。

アウトソール

アウトソールには、このシューズの目玉であるGRAPHENE GRIPを使用。直接触ってみた感じは、いかにもグリップがありそうな柔軟性をもった柔らかい、グですが、ラフェンをパウダー化したものをコンパウンドされているためアウトソールの耐久性は大幅に向上されているはず。inov-8によると強さ・弾力性・耐久性が通常のアウトソールより50%向上しているそうです。

アウトソールのパターンは浅めのラグに足裏の動きに沿ったスリットなど、ロード・トレイル問わず疲れにくい設計。

重量

メーカー公表重量は260g、実測258g(両方とも27.0cm)と誤差なし。グラフェンを使用していない同形モデルTERRAULTRA G 260も同重量の260gであることから、グリップ・耐久性がアップしているにも関わらず、軽量に抑えられています。

実際走ってみたインプレッション

トレイル・ロード両方で走ってみました。耐久性の高さが売りの靴なだけに、もっと長く履いてみるべきなのでしょうが、今回はトレイルで100km・ロードで30kmほど走った感想です。

長距離向けモデルでは味わえなかったこの感覚と使い勝手

ロングディスタンス向けのシューズは、当たり前ですが長距離を走るために設計されているので、どうしても諦めざるを得ない部分がありました。特に顕著なのはグリップ力とアウトソールの耐久性との関係。たとえばSalomon S/lab シリーズには、長距離向けシューズとは思えない軽量性・グリップ力を誇る素晴らしいモデルがありますが、アウトソールの減りも冗談抜きで半端ない。コースによっては、100マイルのレース一本でおしゃかになることもあります。ロング用シューズにグリップ力を求めることと、耐久性を諦めることは、同義のようなものでした。

しかし、このモデル、ロング向けシューズではありますがグリップは控えめに言って最高。岩でも木でもしっかり噛み付いてグリップしてくれます。個人的には、よく使用されるビブラムのメガグリップと同等で、下りでもビビることなく安心して足を置いていけます。しかしそれに対しての耐久性!写真は、トレイルで100km程、ロードで30km程走った後のアウターソールの状態。グリップ力が高いシューズはアウターソールが柔らかく、ロードを走るだけで削れがちですが、これくらいの走行ではほとんど削れませんでした。耐久性が不安要素だったメガグリップに対し、この耐久性は恐れ入ります。

高グリップシューズであれば100kmも走ると擦り減りやへたりが見えてくると思うが、この通り確かになかなかの耐久性。

耐久性を上げることで、ソールのしなやかさが失われがちなのですが、アウターソールにある縦横に適度なスリットのおかげでで、頻繁に横方向へ体重移動するようなテクニカルな場面でも、しなやかに対応して安定感は高い。ロードでも違和感なくしっかり走ることができます。

ソールの一見無造作なスリットや溝は、足裏の自由な動きを妨げず、地形に対する高い対応力を見せてくれた。

そして着地した時、地面の感触をとても鋭く足裏で感じられます。特に岩や木の根などが露出しているようなトレイルではダイレクトに伝わってきます。しかしソールが適度に衝撃を吸収してくれるので問題はありません。むしろ地面の感覚をしっかり感じながら走りたいランナーには、この衝撃吸収性とのバランスの高さには感動を覚えるはずです。

スタックハイトは踵〜つま先まで均等9mm厚のゼロドロップです。普段からゼロドロップシューズを履いている方には、ピッタリハマるシューズです。ミッドソールのしなやかさ、地面とのダイレクト感も相まって、裸足感覚で気持ち良く走り続けられます。ゼロドロップシューズの中でもハイレベルなシューズです。

他のロング向けと比べるとクッション性やプロテクションはそこまで高くありません。しかしアッパー・ヒールカウンターの適度なホールド感や、重量以上の軽い走行感で快適性、安定性は抜群です。

気になった点

これはどうしようもないことなのですが、やはりロング向けシューズ。耐久性を度外視したショートディスタンス用シューズのように、スタッドレスタイヤのようなグリップ力はありませんし、ビックリするほど軽量性などの、飛び抜けた性能はありません。これは長距離向けシューズの宿命かもしれません。

その他に気になった点としては、レビュー中に圧着されたアッパーの補強部分が剥がれてしまいました。レビュー中に、グネグネと走るときにはないような動きを無理やりさせたことによる弊害なのかもしれませんが、ソールの非常に高い耐久性に対し、素材同士の接着部分の耐久性は少し心配になりました…

ケブラー生地の圧着部分が思った以上に早く剥がれてきてしまっていた。すべてがそうとは限らないが、見たくない光景。

まとめ:こんな人におすすめ

すごいシューズが出てきたものです。長距離レース向けシューズでは諦めざるを得なかったグリップ力と耐久性両立を実現した、これまでのスタンダードを塗り替える一足といっても過言ではありません。

アウトソールの高い耐久性ばかりフィーチャーされているシューズですが、耐久性はもとよりトレランシューズとしての全体のバランスは非常に高い。トレイルを選ばない高いグリップ力、安定性、ミッドソールの適度なやわらかさと反発性など、うまくまとまっています。Hoka one oneのような高いクッション性を求めないランナーには、ウルトラトレイル用にまたとないシューズとなるでしょう。特にタイムを追い求めるシリアスレーサーにはうってつけです。

ロング向けとはいえ、ショートからミドルを主戦場とするランナーにも、しなやかなアウトソール・耐久性を鑑みても、長く使える練習用シューズはもとより、レースでもしっかり活躍してくれそうです。普段ゼロドロップシューズを愛用しているランナーにも、ぜひ試して欲しい!

長距離レースを主戦場としているランナーにとって耐久性の問題は常に付いて回るものでしたが、今回紹介したTERRAULTRA G 260 UNI は、そんな悩みをあっさり解決してくれそうです。夢の素材グラフェン。その実力をその脚で確かめてください。

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