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Review:SALOMON SPEEDCROSS 5 悪路での安定性はそのままに、ロードにも対応した最新作は、まったくもって隙がなし。
9月ももう終盤。山はすっかり秋の気配を感じる。巷では100km前後のロングレースが開催され、まさにトレイルランの本格的なシーズン到来。走り込んでいるランナーも多いだろう。10月には日本を代表するトレイルランの草分け的な大会 日本山岳耐久レース(ハセツネ)も行われるわけで。そんなターゲットレースを目前にしているであろうランナーからも長年愛され続けているSPEED CROSSの五代目にフォーカスを当ててみた。
目次
SPEED CROSS 5 の大まかな特徴
1947年、フランスで誕生し、マウンテンスポーツブランドとして業界を牽引し続けるSALOMON。そのSALOMONが誇るベストセラーシリーズSPEED CROSS。抜群のフィットを誇るアッパーシステム「SENSIFIT」、牽引力と粘りを両立させた独自ラバー「Contagrip® 」をくさび形状に配置したラグパターンで悪路や急坂にめっぽう強いアウトソール、ワンタッチで足をしっかりホールドする「QUICKLACE」など、岩場でもマッドなトレイルでもガシガシ走れる高性能が話題を呼び、今でも多くのトレイルランナーに愛用され続けている。
そのSPEED CROSSから待望のバージョン5が誕生した。アウトソールにはぬかるみやガレたトレイルで最もグリップ力を発揮するよう設計された「Contagrip® TA」を採用。また、ミッドソールにはSPEED CROSS 初となる超軽量の新素材「EnergyCell™+」を取り入れた。入れ替わりが激しいトレイルランシューズで、5世代も続くとはやはりユーザーからの高い信頼を得てきた証だろう。バージョン5は原点に立ち返り、オリジナルの特性を生かした次世代モデルとして銘打たれている。そのSPEED CROSSがどのような変貌を遂げたのか……。
おすすめポイント
- ウェット・ガレ場に加えてロードでも安定した足運びを可能にする進化したアウトソール
- 足全体を優しく包みこむアッパーの素材と構造
- 優れた衝撃吸収と反発力を兼ね備えた超軽量ミッドソール
気になったポイント
- 数が減り、大きくなったラグパターンの耐久性
主なスペックとOGZ独自評価
項目 | スペック・評価 |
---|---|
重量 | 320g (318g 27cm片足実測) |
スタックハイト | 30mm/20mm (10mm ドロップ) |
ミッドソール | EnergyCell™+ |
アウトソール | Contagrip® TA |
快適性 | ★★★★★ |
重量 | ★★★☆☆ |
グリップ | ★★★★★ |
プロテクション | ★★★★☆ |
クッション | ★★★★☆ |
安定性 | ★★★★☆ |
総合評価 | ★★★★☆ |
詳細レビュー
ホールド感抜群の「SensiFit™」とゆとりの増したラスト形状
まずはアッパーから見ていきたい。ミッドソールからレーシングシステムまで足全体を優しく包む「SensiFit™」は前作から継承されているものの、前作よりも伸縮性の高いメッシュ素材が多く見受けられる。それに前作はシュータンにSPEED CROSSのロゴが前面にあったが、メッシュカバー下のシュータンにさりげなくロゴがデザインされていた(なんともクールなシュータンではないか!)。
人によってはややタイトなラストデザインかもしれないが、実際に足を入れてみると、足を包みこんでくれるアッパーのソフトな感触が心地いい。ラストの形状的に、前作にも増してゆとりができた前足部によって履き心地はより万人向けになったといえよう。ワンタッチでしっかりとしたホールド感を実現するシューレースシステム「QUICKLACE」はもちろん健在。トゥボックスも前足部に柔らくフィットし、シュータンや足首の周りのパッドは厚く、あたりはかなりソフト。ヒールカップもかかとをしっかりとホールドしてくれ、なんとも頼もしい安定感。直感的に自然な足運びができそうだ。
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悪路でもブレない走りがよりしやすくなったSPEED CROSS 5。安定性とグリップ力が格段を進化している。
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メッシュカバー下のシュータンにはしっかりとSPEED CROSSの文字が!!
新素材「EnergyCell™+」を取り入れた高反発のミッドソールコンパウンド
ミッドソールとアウトソールはどうだろう。特に気になるのがミッドソール。本モデルよりSPEED CROSSでは初となる優れたクッション性と耐久性を誇る超軽量フォーム「EnergyCell™+」 を採用している。優れたエネルギーリターンを実現する反発力の高いミッドソールコンパウンドと称されているが、その実力はいかに……。結果は後ほど。
一見、ヒールの厚みが増したように見受けられるが、ヒール30mm、フォア20mm、ドロップ10mmと前作と同じスペック。つまり、ミッドソールが厚くせり上がっているということ。新素材「EnergyCell™+」の実力がかなり期待出来そうだ。インソールは軽量でクッション性、耐久性を実現した「OrthoLite®」を採用。
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新素材「EnergyCell™+」から誕生した肉厚のミッドソール。いかにも衝撃吸収と反発力がスゴそう!足首周りのパッドも厚めだ。
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インソールには快適なクッション性、通気性、そして耐久性を実現した「OrthoLite®」。
見た目以上に大きく進化したアウトソール
アウトソールには代々にわたり受け継がれている「Contagrip®」のなかでも牽引力と粘りに重点を置いた「TA」を採用。さらにSPEED CROSSを象徴する深くシャープなくさび形状のシェブロンラグによって、急な登りやガレ場、泥などの悪路でも安心して強く踏み出すことができる。SPEED CROSS 5では、一つひとつのラグの形状が一新され、広い間隔で配置されている。シェブロンラグ自体は、大きく、やや浅めになった。これによってオフロードではしっかりと路面をとらえ、ウェットで柔らかいトレイルや硬いガレたフィールドでも安定したグリップ力を発揮してくれるだけでなく、ロードでもより安定感を感じながら走ることができるだろう。
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深いくさび形状の「Contagrip® TA」。大きくなり、進化したグリップ力。しっかりと路面をとらえる。
丹沢を代表する大倉尾根(バカ尾根)をSPEED CROSS 5で走ってみた
標高差約1200mを誇る丹沢の大倉尾根。そのトレイルにはガレ場や濡れた路面など、実にコンディションはバラエティ豊富。そこで、SPEED CROSS 5を履いて走ってみた。
重量は前作の4よりも20g加算されているものの、重さが増したというよりも、着地時の安定性が増した感じだ。足全体を包み込み、優れたフィット性とホールド性を実現したアッパー構造「SENSIFIT」。ミッドソール部分をつなぐようにアッパーを補強している「QUICKLACE」も(安定の!)ジャストフィットだ。走行中でもシューズ内で足が動くような感覚はなかった。さらに、ヒールユニットがかかとをしっかり包み込み、ソフトで肉厚なシュータンやパッドが足をしっかりとホールドしてくれているので、路面状況に問わずに、着地時の安定感は高め。足首がねじれるといった心配は感じられなかった。メッシュカバーも目が細かく砂などの侵入を防いでくれるのでストレスが少ない。
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砂などの障害物の侵入を防いでくれるメッシュカバー。走行中、ストレスなく走れる。
スタンダードフィットだが、シュータンやパッドが肉厚になっているためか、やや狭まっている感じがする方もいるかもしれない。その際は、ソックスで微調整すれば問題なし。シューレースはワンタッチ操作でアッパーをホールドする「QUICKLACE」なので、緩んだりほどけたりすることは、まずない。余ったレースの先端はシュータンのレースポケットへ。
新素材「EnergyCell™+」が走りを大幅にサポート!
SPEED CROSS初となる新素材「EnergyCell™+」の取り入れたミッドソール。着地時のクッション性と蹴り出しの反発力。ヒール部分の厚いミッドソールの威力ではないだろうか。優れた衝撃吸収とクッション性はさることながら、前へ勢いがつくような蹴り出し感覚が味わえるのはなかなか面白い。
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ミッドソール「EnergyCell™+」が前へ進む力を強化!!
「Contagrip® TA」と最新くさび形状のラグパターンで、前進力UP & ロードでの安定感UP
アウトソールは地面をとらえ、前へ進む力が強い「Contagrip® TA」。前作よりもくさび形のシェブロンラグが大きくなったことにより、着実に路面をとらえ、岩場やウェットなトレイルでも臆することなく走れた。蹴り出し時やブレーキを掛ける際のグリップ力も格段と向上し、前作よりもシェブロンラグは硬くなった印象だ。なので、硬いアスファルトのロードでも安定した走りが続く。また、シェブロンラグの間隔が広くなったためか、泥のつまりが少ないく、ガンガンイケる。つまり、ロードからウェットなトレイルまで、オールラウンド性が大幅に向上。これ一足で攻めの走りができるってわけだ。 ただ、シェブロンラグの数が減ったということは、その分、一つあたりの衝撃負荷が増したということ。そのあたりの耐久性が気にはなるが……。
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石が多いフィールドでもしっかりと深いラグが食い込む!
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ぬかるんだところでも、大きいラグがしっかりと路面をとらえる!
前作からオールマイティーさが格段にアップ
SPEED CROSS 5を前作4と比較してみた。アウトソールは前作同様に「Contagrip® TA」。5のラグの深さは相変わらず高いとはいえ、前作に比べて微妙に低くなった。これによってかつてロードで感じられたグラつきが格段に影を潜め、トレイルとロードのハイブリッドなコースでも無理なく穿けるようになったと感じられる。よりオールラウンドな性能を備え、日本のトレイルシーンでもより積極的に使いやすくなったといえよう。
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アウトソールのラグ比較。手前が5で、奥が前作4。一目瞭然で、ラグが大きくなった。数も減って31個(前作4は36個)。
ロードを走ってみると、違いが明確にわかった。大きく、やや浅くなった「Contagrip® TA」が硬いアスファルトでも地面をしっかりととらえ、よりブレずに安定した走りができるようになった。
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安定したフィット感が得られる「SENSIFIT」と「QUICKLACE」。SPEED CROSS 5ではメッシュカバーを搭載したことにより、かなり精鋭されたデザインとなった。
また、ヒール部分に搭載された「EnergyCell™+」の衝撃吸収と前へ進む反発力はかなりポイント。かかと部分で着地し、反動でもって、アウトソール前足部のラグが蹴り出しがとてもスムーズ。「着地」から「蹴り出し」への連動性に勢いを増し、走るという動きが加速するような感覚すら得られた。
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ヒール部分を比較すると、高さは変わらず、ミッドソールに厚みが増した。
まとめ:こんな人におすすめ
シュータンやパッドの柔らかくも強固なホールド感。優れた衝撃吸収力と反発力を持つ「EnergyCell™+」の安定感。マルチなシェブロンラグをまとった「Contagrip® TA」のグリップ力。路面を問わず、安定して走り続けたいランナーには、是非とも試して欲しい。石や根っこが多いトレイル、ゴツゴツしたガレ場、滑りやすい路面、そしてアスファルトといったバラエティに富んだコースでも、より汎用性が高くなったこのシューズなら常に安定した足さばきが可能だ。距離は概ね50〜160kmあたりがこのシューズの本領を発揮する距離か。
トレイルでもロードでも、高いパフォーマンスをキープしたまま攻めの走りを楽しめるこのシューズは、逆にこの汎用性の高さによって、トレイルランニングとは何ぞやという人が初めてのオフロードを安全に走破するのにも最適だ。そういう意味ではもちろん、滑りやすかったり、ガレていたりする難易度が高めなトレイルが苦手な方にも最適な一足だ。