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【忖度なしの自腹レビュー】里山から大キレットまで怖いものなし。LA SPORTIVA AEQUILIBRIUM ST GTX はマウンテンブーツの垣根を越えた

LA SPORTIVA(スポルティバ)は登山、クライミング、トレイルランニング、スキーモなど、手掛けるすべてのジャンルにおいてトップブランドのひとつであり続けるイタリアの老舗アウトドアシューズメーカー。それが称賛されるべきなのは当然ですが、ぼくが日々スポルティバに感じている”真のやばさ”とは、彼らが常に現状に満足せず、既存の価値観を壊すことも恐れず新しいチャンレンジをやめないことです。

気がつけば6年も前の話ですが、このサイトの黎明期にTrango Cube(トランゴキューブ) GTXのレビューを書きました。今読み返すとちょっと行き過ぎなくらいのテンションですが、その良し悪しはさておき、少なくとも彼らが昔からずっとアウトドアシューズの新しい形を常に模索し続けているということが分かっていただけると思います。

そんなスポルティバの新作マウンテンブーツAEQUILIBRIUM ST GTX(エクイリビウム )は、彼らが7年前にトランゴキューブで鮮やかに切り開いてみせた軽量山岳ブーツの新しいスタイルを、さらに上の次元へと押し上げるかのようなイノベーションの香りが強烈に漂っています。

軽くて横方向に歩きやすいトレッキングブーツのようでいて、強固で岩場・雪上で安定感のあるアルパインブーツのようでもあるマウンテンブーツ。言ってる自分でも何をいっているのかとツッコミを入れたくなるような、まったく新しい本格登山靴。トランゴキューブ以来の期待を胸に発売と同時に入手しました。今回は実際に20kg前後の重荷で残雪の妙高山テント泊、そして奥秩父の山々を歩いてみたので、早速レビューしていきたいと思います。

LA SPORTIVA AEQUILIBRIUM ST GTXの主な特徴

おすすめポイント

気になったポイント

主なスペックと評価

項目 LA SPORTIVA AEQUILIBRIUM ST GTX
重量 659g(EU 43 サイズ 片足実測)
アッパー
  • 防水60.6ナイロン+ハニカムガード
ミッドソール
  • アウトソールと一体化した独自のソールパッケージ
アウトソール
  • ビブラム インパクトブレーキ+ダブルヒールシステム
防水透湿 GORE-TEX® Performance Comfort
快適性 ★★★★★
重量 ★★★★☆
グリップ ★★★★☆
堅牢性 ★★★★☆
安定性 ★★★★☆
推進力 ★★★☆☆

詳細レビュー

歩きやす杉!その1:快適なフィット感と柔軟な足首周りを可能にするアッパー

外観はブランドらしい黒とイエローのハイコントラストなカラーリングに、細かい幾何学的なパターンがなんともハイテク感を漂わせています(下写真)。

全体が軽量かつ頑丈な合成繊維で形成されたアッパーは思った以上に柔らかく、内側の適度なクッションと相まってシューレースを締め込むと足の甲全体を隙間なく包み込んでくれるようなゴキゲンなフィット感が得られました。この包み込んでくれるような快適な履き心地は、人間の足を立体的に型どって作られた人間工学的に計算されたラスト(靴型)によるところも大きいとか。

サイズ43の重さは実測でわずか659グラム(下写真)。見た目のゴツさとは裏腹に、ふわっと抵抗なく足が上がります。

軽さ自体でいえば、それこそトレッキングブーツなどと比べると重いのは当然なのですが、その重さを感じさせない優れた構造がこのブーツには備わっています。自分の大好きなトランゴキューブの頃から着実に進化し続けている「3Dフレックスシステム」がそれ。今回は「3DフレックスシステムEVO」ですって。

その構造は、例えばしっかりと足首全体を覆うハイカット構造でありながら、後部分を柔らかいストレッチ素材にして脱ぎ履きしやすく、足首に優しく密着してくれつつ、前後の動きを超スムーズにしてくれたり(下写真)、

足首のホールド感や安定感を損なわず、同時に足首の自然な動き(屈曲)を実現するよう計算された側面の作り(下写真)などによって支えられ、これらが歩行中に堅牢なアルパインブーツを履いていることを忘れさせてくれます。急坂やトラバース、雪の斜面、凸凹の岩場などでも、足裏をしっかりと斜面に着けたまましっかりと重心の上で踏ん張ることができました。

実際に数日間歩いてみて、AEQUILIBRIUMは残雪期を含めた3シーズン用のアルパインブーツとして自分がこれまで履いてきたどんなブーツよりも軽快な歩行を提供してくれました。ブーツの締めすぎにさえ注意すれば、慣らし履きすら必要なく、履いた瞬間から快適なフィットを提供してくれるはずです。

シューレースの最先端部はアッパーの下に隠れるようになっており、引っ掛けや摩耗を防ぐだけでなく、デザイン的なアクセントにも(下写真)。

歩きやす杉!その2:安定感と快適さを両立したソールパッケージ

いくら軽快な履き心地だからといって、高所や岩場などのテクニカルな地形でのパフォーマンスが不十分であれば、それは単なる「丈夫なハイキングブーツ」でしかありません。その意味で、コイツはどんな地形にも強かった。

歩いてみて印象的だったのは、岩場などの登下降でも、スピーディに移動するときでも、同じように安定している(安心して足を置ける)ということ。こんなに「苦手な地形」という言葉が似合わないシューズは初めてです。

岩場で細かいホールドの足場を拾って歩く際にはソールの剛性が必要であり、一方で素早く、力強くステップを踏んで横移動してく際にはソールの柔軟性(反発)が、安定した行動にとって必要であるはずですが、この登山靴にはそのどちらもが高い次元で兼ね備わっています。

まず雪や岩場などのタフな地形で重荷で行動するときに必要なソールの剛性に関しては、冬山で使うのでなければ問題ない程度にはしっかりとあります。踵にコバが付いていることからも分かるように、セミワンタッチのクランポンも取付可能(下写真)。残雪の斜面をキックステップで登っていったりすることもイージーです。

アウトソールのつま先にもクライミングゾーンが配置されており、本格アルパインブーツや冬用登山靴などと比べると流石にソールの強固さ(フレックス)は弱いものの細かいホールドの上でもしっかりと荷重をかけて立ち込むことができます(下写真)。

そして見た目にもインパクトが強いラグパターンは全体的に深く大きく、特に「かかと部分」は、まるで絶壁を駆け下りるアイベックスの蹄のように大きく大胆な形状で構成されています。このかかとは「ビブラム インパクトブレーキ + ダブルヒールシステム」と呼ばれさまざまな工夫が仕込まれているようですが、中でも自分が実感できたお気に入りポイントは2つ。

ひとつはかかとの縁が斜めにカットされていることによって、歩行時の足運びが最高にスムーズになったことです(下写真)。

通常、本格アルパインブーツはスキーブーツのようにかかとからつま先へと着地が「バッタン・バッタン」とロボットのようにならざるを得ないのがデフォ。それがこのようにちょっと角を削り角度を付けるによって、近年トレイルランやトレッキングシューズなどで流行りのロッカー形状(とまでは言わないものの)に近いような足が自然と前に出る感覚が得られました。

もう一つのお気に入りポイントは、見た目でも明らかかもしれませんが、もちろん下り坂での安定感です。テストでは残雪ルートの下山で思い切りよくかかとを雪に食い込ませながら下っていったのですが、気持ちいいくらいに力強くブレーキが効いていたのが印象的です。

これはまず従来から同社のハイキングシューズなどでも広く採用されていた「インパクトブレーキシステム」をベースとした高いクッション性とブレキー性能を両立したラグ形状に加え、かかと最後部とそのすぐ前の2つの巨大なブロックによる二重のブレーキが作り出す「ダブルヒール」という2つの高機能グリップ構造によるところが大きい。

しかも、ここまでボリューミィなアウトソールを採用しながらそこまで重量がかさまないのにも工夫が隠されていました。

このシューズでは、アウトソールの大きなラグの裏側はくり抜かれており、ここにクッション性の高い低密度ポリウレタンを直接注入するという新しい技術が採用されています(下写真)。これによって最小限のパーツで重量を抑えながら、最大限のクッション性を実現しています。そう言われて一つ一つのラグを試しに押し込んでみると、確かに思ったよりもじんわりと柔らかいことに気づきます。

※La Sportiva公式Youtubeチャンネルより引用。

それでもここだけは気になる(気をつけたい)

3シーズンで、岩・雪・土など多様な地形がミックスしたルートで使用するのであれば不満はまったくといっていいほど見当たりません。ただし、これから述べる点もメリットとの表裏ではあるので仕方がない部分もあろうかと思いますが、あえて細かい部分で気になったところとしては、相変わらず(?)シューレースは緩みやすい。丈夫で凍結しにくい素材を使用してのことではあると思いますが、普通に蝶々結びでいると数時間と持ちません。しっかりと解けにくい結び方にする必要があります。

また、これもハイキングシューズのような柔らかいラバーと比較すればということではありますが、高い性能を誇るアウトソールも、それは岩稜帯を中心とした高所ルートを想定した場合での話しであって、低山や樹林帯での歩行では注意が必要。硬いソールの宿命でウェットな岩の上や木の根、草などでは滑りやすいので、当然のことながら油断は禁物です。

まとめ:多様なアウトドアシューズの良いところ取りとしての「AEQUILIBRIUM(平衡)」

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シューズ名の「AEQUILIBRIUM」とは、日本語では平衡・釣り合いといった意味をもちます。それが意味するところは、一言でいうと強固で岩場・雪上での安定感が求められるアルパインブーツの良さと、軽快で歩きやすいトレッキングブーツの良さが融合したブーツ。ただ、さらによく見ていくとそこにはトレイルランニングシューズやハイキングシューズなど、さらに多様な分野での進化をも巧みに取り込まれていることも分かります。まさにアウトドアシューズの「良いところ取り」をしたような登山靴であり、あらゆるマウンテン・アクティビティで一流のシューズを作ってきたスポルティバだからこそできたブーツといっても過言ではありません。

これまで相反する特徴と考えられてきた、快適な歩行性能と安定した登降性能を高次元でバランス良く実現したAEQUILIBRIUMは、厳冬期しか使わないという場合や、特定の地形しか出てこないようなルート、ピンポイントで困難な地形があるルートなどを除けば、3シーズンの日本中どこにでも履いていきたくなるような、安全性と快適さが高次元でバランスのとれたブーツです。

特に樹林から岩場、残雪までバラエティに富んだルートが堪能できるアルプスや八ヶ岳などでは理想的。これまで軽快な足回りが好きでこうしたルートでトランゴキューブを履いてきた自分にとって、より歩行安定性が高く、しかもちょっとした雪も行けるなどより幅広い範囲をカバーしているという意味では、もうすっかり手放せなくなりそうな勢いです。ちょうどそろそろソールが擦り切れる頃だったので、間に合ってよかった。

ちなみに、AEQUILIBRIUMシリーズは今回紹介したST(化繊)モデルの他に、LT(レザー)モデルが同時にラインナップされています。重量や基本的な性能はほとんど変わらずなので、多少のメンテナンスの手間を考慮してもレザーの馴染み良さが捨てがたい、という人はそちらを選ぶのが良いでしょう。

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