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LA SPORTIVA AEQUILIBRIUM SPEED GTX レビュー:トレイルから泥・岩・雪にも強い究極のオールラウンド・マウンテンシューズがさらに軽快に

常に先陣を切って新しいジャンルを切り開いていく登山靴メーカーとしていつも楽しませてもらっているスポルティバから、また新たな扉を開く画期的なブーツが登場しました。それが一昨シーズン鳴り物入りで誕生した「AEQUILIBRIUM(エクイリビウム )」シリーズの新作「AEQUILIBRIUM SPEED GTX(エクイリビウム スピード GTX)」。発売を今か今かと待ち続けていたところ、この秋になってようやく日本に到着したとの知らせが届いたので、早速メーカーよりサンプルを借りて試してみました。

日本語で「平衡・均等」といった意味をもつエクイリビウムシリーズは、登山靴に求められる強さと軽さ、快適さと安全性といった数多くの機能を可能な限り妥協せず、高い次元でバランスよく兼ね備えたというのが基本コンセプト。まさにアウトドアシューズの「良いところ取り」をしたような登山靴の最先端です。

そのエクイリビウム誕生から2年後に登場した今作は、何やらこれまでの高いレベルでの均衡を保ちながらさらなる軽快さに挑んだ意欲作だというではないですか。前作「AEQUILIBRIUM ST GTX」が個人的に最高だっただけに、今回も楽しみでしょうがありません。

そんなわけでこの新しいマウンテンシューズを早速レビューしていきたいと思いますが、個人的に特に気になっているのはスタンダードモデルの「AEQUILIBRIUM ST」と比較してどうなのかという部分。その辺あまり語られていないので、深く掘っていこうと思います。

LA SPORTIVA AEQUILIBRIUM SPEED GTXの主な特徴

スポルティバのAEQUILIBRIUM SPEED GTXは、テクニカルな地形を含む幅広いオフロードを素早く移動するためにデザインされた、非常に軽量で汎用性の高いビルトインゲイター付きローカットシューズ。足型をを立体的に捉えたエルゴノミック・ラストとクイックシューレースによる優れたフィット感のローカットインナーシューズに柔軟かつ撥水生地のゲイターを組み込み、その周囲を軽量で丈夫なTPU素材で覆うことで、重量を最小限に抑えながら非常に優れた耐久性を実現。衝撃を吸収しながらスムーズな重心移動と高い推進力をもたらすミッドソール・アウトソール一体型の独自ソールパッケージが急坂やぬかるみ、岩場、雪上など厳しい路面を高速で移動しても安心の安定性とグリップ力、トラクションを提供。タフな地形での強さだけでなく、極限までの軽さとスピードを求めるストイックなアルパイン・ハイカーに最適な一足。セミオートマチックアイゼンも装着可能。

おすすめポイント

  • 程よいフィット感と遊びが共存した快適な履き心地のローカットインナーシューズ
  • 柔軟性とプロテクション、防水性を両立した一体型アウターゲイター
  • 高いプロテクションを保持しながら驚きの軽さ
  • ぬかるみでのグリップ力と岩場の立ちこみやすさ、トレイルの走りやすさとすべてをバランスよく兼ね備えた一体型ソール
  • 脱ぎ履きしやすく緩みにくい100% リサイクル素材のクイックレース

気になったポイント

  • 通気性が低いため暑い季節には中が蒸れやすい
  • 高価な価格

主なスペックと評価

項目LA SPORTIVA AEQUILIBRIUM SPEED GTX
重量567g(EU 43 サイズ 片足実測)
アッパー
  • シンセティックファブリック
  • エルゴノミック・ラスト
  • 撥水ストレッチゲイター
  • 100% リサイクル素材で作られたクイックレースシステム
ミッドソール
  • アウトソールとミッドソールが一体化した独自のソールパッケージ
  • セミワンタッチアイゼン対応
アウトソール
  • Vibram Dura Step
  • ダブルヒールコンストラクション
  • インパクトブレーキシステム
  • 張り替え可能な「リソール可能シューズ」
防水透湿GORE-TEX® Performance Comfort
Outdoor Gearzine 評価
快適性★★★★★
重量★★★★★
グリップ★★★★☆
堅牢性★★★★☆ ←★3.5
安定性★★★★☆ ←★3.5
推進力★★★★☆

詳細レビュー

快適性(履き心地):程よいフィット感、やや遊びがあるトゥボックス、くるぶしのパッド = すべてが絶妙

AEQUILIBRIUM SPEED GTX(以下SPEED)はすぐに見てわかるように外側がゲイターで覆われた一体型構造になっているシューズで、砂や小石、枝、水、雪などが歩いている最中に靴の中に入るのを防いでくれます。ゲイターの内側はローカットのシューズとなってていて、靴紐はコードロックで締めるタイプのいわゆる「クイックレースシステム(下写真)」です。

履き方はまずゲイターのジッパーをフルオープンにしてローカットシューズを履き、クイックレースを締め、そして最後にゲイターのジッパーを締めるというシンプルなもの。操作は簡単で特にゲイターが邪魔になって締めにくいといったこともなく、非常にスムーズなセッティングです。なおこのクイックレースは途中で緩むということも特にありませんでした。

この手のゲイター一体型シューズの経験があまりない自分でしたが、足を入れてすぐ想像以上に柔軟で程よいクッションの利いた肌当たりのアッパーにまずひと安心。

ゲイターの両くるぶし裏側にはさりげなくパッドが入っており履き心地は快適そのもの。慣らし履きなど当然必要なく、買ったその日から心地よい感触でフル回転してくれます。足首に当てられた柔らかいストレッチファブリックはしっかりと肌にフィットしてくれ、動きの中で擦れが気になったりもしません(下写真)。

初代に比べてよりゆとりがあって心地よいトゥボックス

エクイリビウムシリーズ全体で採用されているエルゴノミック構造の靴型は今回も健在のようです。靴内部のつま先とかかと部を足の形状に合わせて立体的にデザインされたというそのシェイプは、まるで靴が足全体に隙間なく吸いつくような抜群のフィット感の良さが感じられます。

初代エクイリビウムと比べるとトゥボックスはゆとりが増した印象で、足の指も靴の中で動かしやすくなっています。ただ基本的な快適さには変わりなく、これは形状が大きく変わったというよりも、生地の質や厚みなどが変わったことによる印象の違いのような気がします。好みはあると思いますが、激しく素早く動くことが多くなるであろう本モデルにとってこの適度な”遊び”は個人的には好意的に受け止められました。

重量と耐久性:ぎりぎりまでそぎ落とすことでさらに軽く

自分が最も嬉しかったのは何といってもここ。初代のエクイリビウムだって登山靴としてはそこまで重くはないわけですが、良くも悪くもアルパインブーツ然とした重量感はありました。でも今回のSPEEDはそこからさらに100グラム近く軽量化され、ほとんどトレッキングブーツといってもよいくらいの重さになってきました(もちろん依然として岩場も雪稜も対応する本格登山靴であるにもかかわらず)。しかもこのフィット感の高さがあるので、不思議とその重さすらもそこまで強く感じられません。

もちろん、ここまで軽くなっているということは当然どこかでトレードオフの部分があります。例えばシューズ自体がローカットになっており、これによって足首周りのサポートは減っています。それから生地や周囲のプロテクションがより軽量素材で簡易的なものへと調整されていることなども見受けられました。初代エクイリビウムは同社のハイエンドアルパインブーツ「TRANGO TOWER GTX」にも採用されているようなかなりしっかりとした生地と厚めのTPU保護素材が採用されているのに対し、SPEEDはそれに比べて薄くて軽量なTPU素材へと変更されています(下写真)。

ただ簡略化されたとはいえ、このSPEEDのプロテクションも貧弱というにはほど遠いほどしっかりと丈夫です。初代に比べれば多少重荷での歩行やより険しい岩稜の通過が厳しくなりはしたものの、これによって得られた軽さと俊敏性、柔軟性を天秤にかければ、惜しくも何ともないはず。

歩きやすさ・走りやすさ:従来あった抜群の安定感に「軽さ」と「柔軟性」のスパイスが振りかけられた

高まる期待に胸を膨らませながら、その真価を知るべく実際のフィールドで歩いて、走って、登ってみました。試したのは両神山の八丁尾根。ここならばそこそこ本格的な岩場の登高から登山道の歩き・走り、すべて試すことができます。

まず初代のエクイリビウムの時に感動した「どんな地形でも安定して快適に歩ける弱点のなさ」は相変わらず。土や砂利の不整地から木の根やぬかるみなどのグリップが効きにくい斜面、そして細かいホールドにつま先をかけて登るような岩場でも、難なく体重を預けられるだけの十分なパフォーマンスを発揮してくれます。

なお唯一雪道は試せていないのですが、これは前回初代のエクイリビウムで試し、それとほぼ変わらない構造であることからまず大きな違いはないだろうと推測されます。ちなみにこのSPEEDも踵にコバが付いており、セミワンタッチのクランポンが取付可能(下写真)。雪道や凍った路面でも安心です。

撥水ストレッチゲイターとGORE-TEXブーティのおかげで、防水性能は超優秀。

従来の安定感に加えて絶妙な柔軟性によって、さらに高速でスムーズな足運びが可能に

この異次元の軽さと他にはないあらゆる地形に対する安定した対応力だけでもAEQUILIBRIUM SPEED GTXの価値は十分に思えるのですが、SPEEDの真の魅力はここから。ソールの見た目のごつさからは想像できないくらいに柔軟で、足運びがスムーズに行え、驚くほど軽快にトレイルを走ることができました。下の動画はちょっと細めの尾根を速足で通過している場面ですが、実際にはもっと広い道なら自然なランニングも可能。その際登山靴の時のように足裏が「バタンバタン」となることもなく、まるでハイキングシューズ並みのスムーズさが感じられました。

スムーズな足運びを可能にしている要因のひとつは、初代から引き続き採り入れられている「ダブルヒールシステム」。かかとの縁が斜めにカットされていることによって、かかとからの着地後、足はスムーズに前への重心移動へと促されます(下写真)。

さらに初代モデルに比べてソールの柔軟性を増したことによって前足部が曲げやすくなり、より素早く力強いステップに対応。高速での移動をより気持ちよくしてくれています(下写真)。

これによって確かに岩場での立ち込みしやすさは(初代に比べて)減りましたが、軽量な荷物であれば不安を感じることはなく、トレランシューズや柔らかいトレッキングシューズに比べてもまだまだ岩場に強いシューズです。

ソールのラグパターンは初代エクイリビウムと変わらず全体的に深く大きく、岩や泥など厳しい路面でもブレーキ性能と安定性、トラクションを実現し、つま先立ちが多い岩場でも安定して立ち込めるように計算されたラグパターンが採用されています(下写真)。特に急斜面でも気持ちいいくらいに安定して着地できる抜群の踵ブレーキの安定感がお気に入りで、初代エクイリビウムでも雪の坂を下るのが大好きでした。

気になった点:暑さ・蒸れやすさ

軽量化と歩きやすさ、プロテクションとあらゆる要素で高いレベルに達しているAEQUILIBRIUM SPEED GTXですが、唯一通気性だけはあまり高くありません。それがこのシューズの唯一不満に感じた点で、10月の低山を半日歩き終わってシューズを脱いだ時にはソックスがいつもよりも汗で濡れており、ゲイターの裏面にもうっすらと結露が見られていました(下写真)。

たとえインナーローカットシューズ自体にGORE-TEXメンブレンが搭載されていたとしても、ゲイター自体は透湿しておらず、発汗による内側の水蒸気が逃げる隙間が極端に少ないためこのような事態になってしまうと考えられます。ゲイター一体型シューズの宿命なのかは分かりませんが、少なくともこのシューズで真夏の低山を歩くときには注意が必要です。

まとめ:秋冬でも軽快にアグレッシブに山歩きしたいハイカーに最適

テストを通して、AEQUILIBRIUM SPEED GTXは初代エクイリビウムの快適性とグリップ力を維持しながら、多少の耐久性と安定性を犠牲にすることで、さらなる軽さと柔軟性・横方向への推進力を獲得したマウンテンシューズであることが分かりました。

初代エクイリビウムは地球上のどこでも行けるほどのタフさと軽快さを両立したオールラウンドな性能を誇っていましたが、それでもアルパインブーツ的な剛性とプロテクションは保っており、積極的に「走る」シューズといえるものではなかったのも事実です。その意味でこの新しいゲイター一体型シューズは「走れるアルパインシューズ」という登山靴のまた新たな境地を切り開いたとも言えそうです。

いずれにせよ、アルプスや八ヶ岳などの稜線上に厳しい岩場が現れるルートをできるだけ軽快な足取りで進みたいというハイカーには、新たなベストチョイスが現れたといっていいでしょう。一方でたとえば20キロの荷物を背負って夏のアルプスを縦走するといった重荷での高山の長期トレッキングや、スピードよりも安定性を重視したい人には、こちらよりも初代エクイリビウムの方が総合的にはよりフィットします。蒸れやすさは予想していなかった点で、ベストシーズンはやはり厳冬期を除く秋冬。標高の低い場所から森林限界を超える稜線までを歩くようなルートで縦横無尽に活躍してくれます。真夏の低山など明らかに暑い場所ではおすすめしませんが、とはいえ気をつけていさえすれば年間通して使えないことはありません。ソールの張替えも可能なこのシューズは、ファストパッキングなどアクティブな登山が好みのハイカーにとって一度手に入れたら長いことさまざまなシーンで頼りになるおすすめの一足といえそうです。