登山やトレイルランニングでの不安定な歩行を補助し、怪我のリスクや疲れを軽減してくれるだけでなく、より軽快な歩行を可能にしてくれるのがトレッキングポール。
確かにパット見た感じは、いわゆる「杖」でしかないシンプルな道具。でもだからといって、どれを選んでも大体おんなじ、見た目と材質(重量)、せいぜい固定方法の違いくらいだけで選んだりしているとしたら、それは大間違い。この一見地味な山道具には、より使いやすく、より安全にするための各ブランドそれぞれの工夫が細部に渡って数多く詰まっており、それらは一歩ずつ着実に進化を続けています。
今回紹介するのはそんなトレッキングポールの最新系。世界的な名門ポールメーカーLEKIがモダンで新しいアウトドア・アクティビティに対応するために開発した最新トレッキングポール、MCT12 バリオカーボンです。専門ブランドならではの確かな品質に加えて「もうちょっとこうだったら」といったかゆいところにまで手が届く小さな革新とバランス調整が数多く盛り込まれた絶妙な一本。この春から使いはじめたところ、荷物の多くないハイキングやトレイルランニングなど、トレイルを軽快に抜けていく最近の遊び方では常に手放せなくなったこのトレッキングポールを、早速レビューしていきます。
目次
LEKI MCT12 バリオカーボンの主な特徴
おすすめポイント
- 外れにくくて着脱も簡単。握力を必要とせず、握れば力を伝達しやすい独自ストラップシステム
- 快適な握り心地のグリップ
- 信頼性と使いやすさ、軽快さをバランスよく実現したロック・長さ調節・先端チップの構造
- 軽量でありながら、ライトな登山までなら十分に安心できる耐久性の高さ
気になったポイント
- ストラップ単体での着け心地
- 積雪期用の大きなバスケットのオプションがない
- 本格縦走には耐久性がやや不安
- 価格
主なスペックと評価
名前 | LEKI MCT12 バリオカーボン |
---|---|
重量(g) | 約400g(組) |
連結方法 | 三段折りたたみ式 |
ロック・長さ調整方式 | コア・ロッキングデバイスレバーロック+スピードロック2システム |
サイズ(cm) | 110-130 |
収納サイズ(cm) | 42 |
シャフト素材 | カーボン |
シャフト径(mm) | 14/12mm |
グリップ素材 | クロスシャークグリップ(コルク調EVAフォーム) |
衝撃吸収機構 | × |
スノーバスケット | × |
エクステンショングリップ | △(若干あり) |
ディッププロテクター | ○ |
その他付属品 | スタッフサック |
評価 | |
快適性 | ★★★★★ |
重量 | ★★★★☆ |
固定・調整 | ★★★★★ |
収納性 | ★★★★★ |
耐久性 | ★★★☆☆ |
汎用性 | ★★★☆☆ |
詳細レビュー
3~6月にかけて、低山から2000m程度の雪のないトレイルで、日帰りハイキングやトレイルラン、1泊のファストパッキングなどで使用してみました。
外れにくくて着脱も簡単。握力を必要とせず、握れば力を伝達しやすい独自ストラップシステム
軽快さを志向するアクティビティの場合、リズミカルに、スピーディにストックをついていくための「軽さ」が何よりも重要。ただ、トレイルを勢いよく駆け抜けるとき、しっかりとグリップを握っているその両手が外れてしまわないかどうか、もしくはずっと握っていることによる握力の疲労など、気になるのはポール自体の軽さだけではありません。そこで登場するのが、LEKI MCT12シリーズ特有のユニークで革新的なストラップシステムです。
親指と他の4本指で握る幅広のストラップ「シャークフレームストラップメッシュ」は基本的にポールと分離された構造になっており、ループというよりは手袋のようにフィットします。全体がメッシュ地で通気性があり、面ファスナーによって幅も調節可能と、手の大きさを気にせず幅広いサイズをカバーしています(下写真)。
ストラップを装着してから、ポールに接続、そして取り外す動作は一瞬。
グリップにある赤い切り込み部分にストラップのループを引っ掛けるだけです(下写真)。
ストラップをポールから取り外すときには先端にあるレバーを親指で押すと切り込みにあるシャッターが開き、ループが外れる仕組みです(下写真)。
この新感覚のストラップシステム、何が優れているかって、まず握るための握力がほぼ必要ないこと。しっかりとフィットしてズレにくいストラップが手をグリップの丁度いい位置に置いてくれるため、平地や下り坂などでは余計な力を使わずにポールを保持できるし、もちろん握ればよりしっかりと力を伝達できるため、上り坂などでも存分に力を発揮することができます。
ちなみにグリップはさすがポールの専門メーカー、このモデルに限らずLEKIの計算され尽くしたエルゴノミックデザインによって、うっとりするほど握りやすいのは相変わらず。グリップ素材にはコルクライクなEVAフォームを採用することで、馴染みやすい弾力性と滑りにくさ、汗の吸いやすさを両立し、快適な握り心地を約束してくれています。ただ欲を言えば、多くのLEKIグリップに採用されている「エルゴン グリップ」形状であればなお良かった。個人的にあれを超えるグリップはまだこの世に存在していません。
ボタンを1回押すだけでストラップを外すことができるので、歩幅を乱すことなく、歩きながら片方のポールをもう片方の手に移して水分や食料を補給するなんてせっかちなこともできてしまいます。
はじめにストラップを装着するという手間こそありますが、一度装着しさえすれば快適なストックワークと自由な手作業をワンタッチで切り替えながら行動を止めずに続けることができる、これまでになくスマートな仕組みは、トレイルランやファストパッキングにピッタリです。
信頼性と使いやすさ、軽快さをバランスよく実現した各パーツ
他にもこのポールには、シリーズ特有というわけではありませんがLEKIの先進的なロック・調節機構が搭載されています。
ポールを固定・開放する仕組みは、例の、よく指の皮を挟んで後悔するあの忌まわしい、いわゆる「ぐっと引っ張ってバネ式のピンストッパーをを引っ掛ける」方式ではなく、最長まで伸ばすことでカチッとロックしてくれる「コア・ロッキングデバイス」(下写真)。よりスムーズかつ安心の設計になって、小さな悩みがまた一つ消えたよ。
さらに長さ調節するためのロック機構も、同ブランド最新の「スピードロック2システム」を採用(下写真)。従来に比べてかなり小さく軽量になり、スイングバランスに影響がなく抜群の使い心地を実現しています。
ポール先端のバスケットは雪や深い泥などを前提としないことで、軽量・コンパクト性を第一に設計された、バスケット一体型(取り外し不可)のチップを採用しています(下写真)。軽量・コンパクト、スイングバランス抜群という点については大満足ですが、できれば幅広のスノーバスケットにも交換できるオプションが欲しかった。
軽量でありながら、ライトな登山までなら十分に安心できる耐久性の高さ
軽量ハイキングからトレイルランニングといった軽快に野山を移動するアクティビティに照準を合わせて設計されたこのポールは、いうまでもなく「軽さ」を前提に作られていますが、だからといってことさらに最軽量を目指しているわけでもないところが個人的には逆に好感がもてる部分です。
軽くて強いカーボン素材のシャフトは一般的な登山向けよりは細く、トレイルランニング向けと比べれば丈夫で安心という、絶妙なサイズ感です。
収納時は42cmというかなりコンパクトなサイズに簡単に収納することができる三段折りたたみ式を採用(上写真)していますが、ジョイント部には強度の高いアルミを使用したり、中のワイヤーが捻れたり摩擦で傷まないようにチューブで補強されていたりと、軽さを意識しながらも壊れにくさを十分にケアされています(下写真)。これぞLEKIの安心感。
惜しい点:ストラップ単体でのつけ心地にはさらなるフィット感と快適さを期待
独自のストラップシステムの機能的な素晴らしさは踏まえたうえで、あえてこのストラップの快適さにはまだまだ改善の余地があると思われました。
従来のストラップと違って、一度着けたらポールを握っているときも握っていないときも基本的に着けっぱなしというこのストラップは、耐久性も通気性も十分なのですが、手のひら部分の厚みによる違和感がどうしても消えません。このため長時間ポールを使わない長い休憩時や外して手作業しているときなどに脱ぎたくなることもしばしば。
その意味では、いっそのことこのストラップがストラップではなく「指ぬきグローブ」くらいに、単体でのつけ心地も含めて考えられたパーツであったならば、満足度も高かったかもしれません。
まとめ:軽快なアクティビティに必要な全ての要素がバランスよく備わった、王道かつスマートな一本
「従来の登山用トレッキングポールとランニングポール、それぞれの利点を損なうことなく融合」書くだけならば簡単ですが、実際には難しいものです。仮に重量と耐久性のバランスをとっただけのモデルであれば、下手をするとどちらのアクティビティにとっても物足りない、どっちつかずの中途半端な製品になりかねないのですから。
その点、LEKI MCT 12 バリオカーボンは、軽さを損なうことなく最低限の耐久性を保ち、なおかつ軽快なアクティビティに求められる利便性をとことん追求した新しい機能を付加することで、トレイルランはもとより週末ハイキングまで含めた幅広いアクティビティで十分に満足できる、これまでになかった絶妙なバランスと使い勝手の良さを実現しました。ただ流石に従来の登山向けに比べれば細くて弱いことは確かなので、テント泊装備と数日の食料を背負うような重荷での行動で使用するのまではおすすめできません。
ちなみにこのモデルは軽快なアクティビティでの使い勝手を第一に考えて開発された新開発の“クロスシャークグリップ”を搭載する『MCTシリーズ』の中でのフラッグシップモデルであり、このシリーズでは他にも女性向けモデルや、アルミシャフト・伸縮式モデルなど、用途や価格帯のバリエーションが存在していますので、興味のある方はそれらも見てみると良いでしょう。
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