遡ること4年前、中国南京でのアウトドア展示会ではじめて出会って以来、その誠実なものづくりへの姿勢と良質へのこだわりに惚れこんだ中国のアウトドアメーカー、Mobi Garden(モビガーデン)が、またもたまげたクオリティのテントを届けてくれました。
今回はそんなMobi Gardenのフラッグシップ・テント「LIGHT WINGS DAC UL1」をこの夏から今までの約半年、登山や沢登りで使ってみた感触をレビューしていきたいと思います。
目次
LIGHT WINGS DAC UL1ってどんなテント? ~大まかな特徴~
LIGHT WINGS DAC UL1は、中国アウトドアテント市場でトップシェアのMobi Gardenによる同社最軽量の山岳向けテント。軽さと堅牢性、建てやすさ、快適性を兼ね備えたオールシーズン・自立式・ダブルウォール型ソロ用山岳テントです。高品質で名高いテントポールブランド、DAC製の軽量ポールをはじめて採用し、約1kgという軽さにも関わらず、わずか数分でセットアップできるスマートな構造、十分な居住性・耐久性を実現しています。さらにインナーテントはハーフメッシュタイプ(中国仕様)の他、日本の登山愛好家のために極薄ナイロンの通気撥水加工生地タイプ(日本仕様)の2バージョンを用意。高品質なペグ10本とフットプリント、ガイラインなどフルセットを標準で装備しながら、良心的な価格設定を実現した高いコストパフォーマンスも魅力です。
おすすめポイント
- わずか2~3分でセットアップ可能な一体型設計
- フライのみでのシェルタースタイルも可能なカスタマイズ性の高さ
- 軽量なテントにしては十分な耐久性
- 各部の作りはしっかりしていて、なおかつペグやフットプリントなど全部入りでもお財布に優しい価格設定
気になるポイント
- インナーテントにポケット的な収納が欲しい
- 上部の空間がやや窮屈
- ベンチレーションの通気性
- フライの吊り下げフックがやや硬い
主なスペックと評価
スペック | |
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アイテム名 | Mobi Garden LIGHT WINGS DAC UL1 |
就寝人数 | 1名 |
携行時実測重量 |
総重量:1,320g(以下、内訳)
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インナーテントメイン素材 | 高密度ファインメッシュナイロン |
インナーテントボトム素材 | 20Dリップストップナイロン シリコンコーティング(4000mm防水) |
フライ素材 | 15Dリップストップナイロン シリコンコーティング(2000mm防水) |
ポール素材 | DAC Featherlite NSL |
フットプリント素材 | 20Dリップストップナイロン PUコーティング(4000mm防水) |
室内サイズ | 幅105(前室幅60)/65cm × 縦205cm × 高さ105(インナー95) cm |
フロア面積 | 1.74㎡ |
付属品 |
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評価 | |
居住快適性 | ★★★☆☆ |
設営・撤収の容易さ | ★★★★★ |
耐候性 | ★★★☆☆ |
耐久性 | ★★★★☆ |
重量 | ★★★★☆ |
携帯性 | ★★★☆☆ |
汎用性 | ★★★★☆ |
LIGHT WINGS DAC UL1 詳細レビュー
余計なオプションの必要なし。必要な物が全部揃っての良心的プライスに小躍り
最近の軽量テントでは軽さを強調する傾向にあり、中身の付属品も含めて必要最低限のことが多いのですが、すでに何個もテントを持っている慣れた人にとってはありがたいものの、ペグは何本必要?フットプリントは常に必要?など、はじめてテントを購入する人にとっては戸惑うことも多いのが実際のところ。
その点、LIGHT WINGS DAC UL1には、本体・レインフライ・ポールの他、ペグが10本、ガイライン、フットプリントと、はじめて購入する人でも心配無用のフルセットが最初から揃っています。
すべて収納したときのサイズは1人用としては極端にコンパクトとは言えませんが、すべてセットと考えると大きすぎることはまったくありません。重量に関しても全部セットでの実測重量は1,320gと軽いとまでは言えないかもしれませんが、フットプリントなどを含めなければ約1.1kg、さらにギリギリまで切り詰めてフライ・ポールのみのセットならば700g余りにカットすることも可能です。
しかも、それらの各パーツは寄せ集めではなく、ひとつひとつが納得のいく高品質な素材と作りによって積み上げられているところが素敵。
例えば何といっても、テントポール・ペグにDAC製を採用している点。DACといえば、軽さ、丈夫さ、適度なしなやかさを兼ね備えたハイクオリティなアルミ製ポールを供給し、またたく間に世界の本格テントポールの勢力図を塗り替えた、今や泣く子も黙るハイエンドブランドです。しかも「GREEN」ロゴのついた種類は「グリーンアノダイズド」という特別な技術で製造され、有毒物の排出などの環境負荷を極力抑えたサステナブル対応製品ライン。通常であればこの部品を採用するだけで価格は1万円以上跳ね上がってもしょうがないとなる代物です。
フライシートには薄さとしなやかさ、耐久性を兼ね備えた15Dナイロンリップストップを採用。生地にはポリウレタンコーティングに比べて経年劣化しにくく耐久性も高い、シリコンコーティングによる防水加工がされています。一般的には高価格帯のハイエンドテントに採用される仕様がここにも。
インナーテントは2種類。一つは暑い時期に強い通気性抜群の高密度ファインメッシュ素材。もう一方は雨風の多い日本の山岳向けにニーズの高い非メッシュで、通気撥水加工を施した10D透湿リップストップナイロン(入り口はメッシュとの二重構造)を採用しています。こちらは雨風に対するある程度の耐候性を保ちながら透湿・通気性を実現し、さらにはメッシュ素材よりも軽量にできていたりと、日本での使用を考えるといたれりつくせりの作りになっています。
ただし、ある程度覚悟はしていたものの、透湿・通気生地とはいえ当然室内の湿気をまったく寄せつけないわけではありません。これまでまったく結露しないテントというものに出会ったことがないようにこのテントも例外ではなく、一晩寝れば結露はそれなりにあります(下の写真はあえてお湯の入ったヤカンから短時間に湯気を出してテストしてみた写真)ので、期待し過ぎは禁物です。
あっという間にセットアップ可能!爆速・簡単な設営システム
結論からいうと、このテントの設営しやすさは感動的。一度設営した人ならば、誰もがそのセットアップの簡単さに驚愕するに違いありません。百聞は一見にしかず、2分足らずでほぼ完璧に設営が終了する実際のセッティング映像を御覧ください。
これだけのスピード設営を可能にしている秘密の一つは、インナーテント・レインフライ・フットプリントの3つをあらかじめバックルで接続できる一体化構造です(下写真)。
この本体が一体化しているために、設営は四隅にあるシンプルなアルミ製の接続金具に伸ばしたポールの先端を差し込むだけですべてのパーツが固定されるという仕組み。この時点でインナーテントはフライの下に隠れているため、雨の中での設営でも中が濡れる心配はありません。
あとはフライにあるフックを引っ掛けるだけでテントがほぼほぼ建ってしまいます。必要に応じて打ち込むペグも、テントの四隅の他フライの各辺、そしてガイライン用に10本と豊富に用意されています。わずか2分ちょっとで、ピンと張りのあるテントが設営完了、ってすごくないですか。
入り口は長辺側に1つ。
フライのみでのシェルタースタイルも可能なカスタマイズ性の高さ
テントポールがフライの外側にあってインナーテントが取り外し可能という構造は、趣向や状況によって面白い使い方も可能です。
例えばはじめからインナーテントをつけずにフライ(とフットプリント)だけ建てられます。夏の暑い時期や荷物を軽くしたいときなんかにこのセットで持っていけば、より軽量な装備での山行も可能です。もちろんこの状態からインナーテントを取り付けるということも容易に可能です。
必要十分な居住空間と不便さを感じさせない細部への気配り
薄手ナイロン素材の入り口はダブルジッパーで大きくU字型に開くタイプで開け閉めは楽にできます(下写真)。
テストしたバージョンは撥水生地1枚でしたが、現在販売されているバージョンでは嬉しいことに撥水生地とメッシュの二重構造なので、気温に合わせて換気性を調節できるよう便利になっています。
室内はソロ用としては十分な広さ。フライと入り口の間にある前室も、広々とはいかないまでもバックパックやシューズが置けるほどには空いています。
横幅はレギュラーサイズのマットを敷いても枕元にまだ余裕があり、ある程度荷物を置いたりするスペースも確保されています。
縦の長さは欧米のテントよりもやや短めの2mちょいで、これは逆に日本人である自分にとっては丁度いいサイズ感と思えました。テントの形状は入口側から足の方へいくほどに狭くなっているものの、上半身側は高さも広さもある程度あるため、あまり気になるほどではありません。とはいえ顔付近のクリアランスは広いという程ではなく、昨今の最先端に比べると相対的には低いと言わざるを得ないのがやや残念。
足元をはじめ、底部の厚手防水生地は高めまで確保されており、作りの丁寧さが感じられます。
入り口を開放したままにしておくためのフックはしっかりと固定できる設計(下写真)。
室内の天井には頂点にライトなど吊るすのに使えそうなミニカラビナがついており、小さなことですが好感度高し(下写真)。ただし室内にポケットが1つも無いことにはやっぱり不満が残ります。
室内換気のためのベンチレーションは短辺の上部に備わっています(下写真)。開けるときには芯材を起こしてベルクロで留めるという最近流行りの方式。芯材のおかげで不用意に閉じてしまうなどの不便さも無く、熱が抜けやすい天井付近の位置など、よく考えられたスマートな設計であることがわかります。ただ大きさ的にはとびきり通気性が良いという程ではありませんので、大きく換気するためには入り口の開放と合わせて行う必要はあります。
風で飛ばされないように補強するガイライン(ミニカラビナ付き)は標準で3つ付属。下写真のようにポールに引っ掛けてもよいですが、日本の代理店は日本での使用を考えて、より耐久性を高めるため専用のガイポイントにかけられるように変更してくれています。そんな1点からも、メーカーが日本で山道具を提供するということを親身に考えていることが強く伺えます。
気になるあのテントとの比較
最後にLIGHT WINGS DAC UL1の購入を検討する際に、おそらく多くの人々が比べるであろうテントについても簡単に比べてみます。ぼくはこれらのテントも好んで使用してきたので、それぞれに良いところ・残念なところがあることを知っています。どれが良い悪いではなく、それらを知った上で自分にベストマッチするモデルを選ぶのがより後悔しない買い物になるでしょう。
BigAgnes フライクリークHV UL1 EX
もうかれこれ10年近く前から続く超軽量ダブルウォールテントの先駆者、BigAgnes フライクリークHV UL1。当時数多くの独創的な機構によって驚くべき軽さと快適さを実現したロングセラーは、きっとLIGHT WINGS DAC UL1もベンチマークとしているに違いありません。
実際、このモデルに比べればLIGHT WINGSは設営の簡単さ、室内空間の広さや通気性などの居住性の高さ、フットプリント付属などの総合的なコストパフォーマンスなど、かなり多くの点で勝っているといえ、流石に時代の流れを感じてしまいます。ただそれでも全体の重量でいえばわずかにフライクリークの方に軍配が上がるので、その辺りをどう判断するかでしょう。
NEMO ホーネットストーム 1P
つい最近新登場したこのNEMO ホーネットストーム 1Pも、上のフライクリークをベンチマークとして作られたであろう、超軽量ダブルウォールテントの1つです。こちらは最近開発されただけあって、随所に最新技術と新しいアイデアが盛り込まれ、現状において非常に完成度の高い軽量テントの1つです(詳細のレビューに興味のある方は以前の記事を参照ください)。
その最新型テントとLIGHT WINGSをこのテントと比較すると、重量と居住性の高さに関してはホーネットの方に軍配が上がります。底面積の広さだけでなく上部のクリアランス、室内の各種ポケットなど、快適性ではホーネットの方がかゆいところに手が届いています。ただ、設営に関してはインナー・フライ分離型でスピード設営とはいかず、また半自立式のテントゆえにポールを立てただけでは快適なテントとはならないため、LIGHT WINGSの方が優れているといえます。さらに底面も薄い生地のため、フットプリントは必須と思われますがそちらは別売りと、コストパフォーマンスに関しても断然LIGHT WINGSが上です。
まとめ:こんな人におすすめ
十分な性能と品質の高さに加えて、価格についても良心的なMobi Garden LIGHT WINGS DAC UL1は、1年を通じて数日~十数日程度泊まりの登山するといった、趣味として登山を楽しむ愛好家にとって絶妙なバランスの良さでニーズを満たしてくれる選択肢といえそうです。機能や快適性についてはフラッグシップとはいかなくとも全体的にはハイエンドと言ってもおかしくないクオリティを備え、そして何よりも軽量ながらタフな山岳用にしっかりと素材や作り、日本の使い手のことを考えた仕様と価格には相変わらず信頼がもてます。最上を求める人にとっては物足りなさを感じてしまうかもしれませんが、よほどのヘビーユーザーでないかぎり大きな不満もなく十分活躍してくれるはずです。
なお、現在発売されているモデルは現在の在庫数が無くなると販売が終了し、今後は新たな仕様と価格での展開となってしまうそうなので、購入するならばお早めに。