数年おきに移り変わる、バックパックデザインのトレンド──。
古くは軽量バックパック、あるいはロールトップ開閉方式、そして背面に空間を設けたベンチレーションパックなど、今日では当たり前となったバックパックの形も、歴史を紐解けば最初はいちメーカーのいちアイデアであり、それがやがてユーザーに認められ、いつの間にか多くのメーカーが手掛けるようになる「定番」として定着したという例はこれまで枚挙にいとまがありません(時にはひっそりと消えていくものもありますが)。
そして2023年、ここ最近の大きなデザイントレンドといえば、間違いなく今回紹介する「ベストスタイルのショルダーストラップ(ハーネス)」でしょう。ひと言でいえば、トレイルランニング用のランニングベストのような大きなポケット付きの幅広ショルダーストラップと登山用バックパックが融合したデザインです。
数年前から登場したこれらの「登山用」バックパックですが、ここ1~2年で大手の専門ブランドも新しいモデルを開発し始め、その結果多様な個性をもった亜種が生み出され、ギア好きにとっては久々に興味深い様相を呈してきたといえるのではないでしょうか。
そこで今回は昨年新登場し、この春に日帰りの中型サイズ(35・45リットル)が追加されたミステリーランチのベストスタイルストラップ搭載型バックパック、ブリッジャー 45を取り上げてみます。
目次
Mystery Ranch ブリッジャー 45 の主な特徴
高耐久で快適な背負い心地、そして独自の便利で多彩な収納を兼ね備えた山岳アクティビティ向けバックパック。抜群のクッション性とフィット感を可能にする独自のヨーク(背面システム)は、新たにランニングベスト由来のベストスタイル・ショルダーストラップを採用。収納面では大きく開くフロントアクセスやスリーピングバッグ用コンパートメント、大きなトップリッド(雨蓋)などスマートなパッキングと十分な収納スペースを提供します。安定の耐久性に優れた生地・パーツはサステナビリティにも配慮されています。一般的な山歩きから過酷な縦走まで対応し、軽さよりも快適さを優先したい、多くのギアを長い距離持ち運びたいという人に最適なバックパック。
お気に入りポイント
- 豊富で出し入れしやすい、豊富な収納類
- 重荷でも安定して背負える快適な背面システム
- 取り外してサコッシュにもなる、出し入れしやすい大きなトップリッド
- 引き裂きと摩耗に強い十分な耐久性
気になるポイント
- 重量
- ベスト型のショルダーストラップが重い荷物に対してはやや頼りなく、暑くて蒸れやすい
- ひと目では仕組みが分かりにくい(一部の)パーツ
- レインカバーなし
主なスペックと評価
アイテム名 | Mystery Ranch ブリッジャー 45 |
---|---|
外寸 | 65cm x 33cm x 28cm |
容量 | 43リットル(他に35・55・65リットルモデルあり) |
重量 |
公式・実測ともに:2.0kg |
素材 |
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女性向けモデル | あり |
サイズ/背面長 | 調整可能 |
ハイドレーションスリーブ | ◯ |
メインアクセス | トップ・大きく開くダブルサイドジッパー |
レインカバー | なし |
ポケット・アタッチメント |
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評価 | |
快適性 | ★★★☆☆ |
安定性 | ★★★★☆ |
収納性 | ★★★★☆ |
機能性(使いやすさ) | ★★★★☆ |
耐久性 | ★★★★★ |
重量 | ★★☆☆☆ |
詳細レビュー ~早春の奥秩父をブリッジャー 45で歩いてみた~
素材と外観:丈夫さとルックスの良さは申し分なしだが、その代償としての重量には注意
まずはいつものとおり外観からチェックしていきます。
アウトドア好きならば知らない人はいないであろう伝説的な創業者で知られる、モンタナ州ボーズマン発バックパック専門メーカーの新作は、相変わらずの安定したルックスの良さ。スマートにデザインされたポケットにデイジーチェーン、フロント・側面には大きめのサイドポケットが配置され、。そして背面に回ると、骨太な支柱に45リットルにしては潤沢な背面・腰周りのパッドが組み合わされ、見るからにタフな印象が期待を抱かせてくれます。
素材的にも耐久性は問題なし。ナイロン生地の中でも耐引き裂き性や耐磨耗性が強化された100D ロビック ナイロンリップストップ(リサイクル)を採用しており、さらに底部やフロント(リッド)部分は特に太い糸(330D)で補強することでこのクラスの登山向けバックパックの中でもトップクラスに擦れや破れに強くなっています。YKK製ジッパーやDuraflex(デュラフレックス)製バックルも安定感も申し分なし。手袋をはめたままでも使いやすく、長く使っても劣化しない確かな耐久性を備えています。
ただその分、45リットルサイズで2kgという重量はやや眉をしかめたくなります。現在の登山用バックパック重量といえば大体1~1.5kgあたりが主流の中で、このバックパックはお世辞にも軽いとは言えません。手にもった感じもやっぱり期待に比べてズシリとした重みを感じてしまうのは確かです。軽さと快適さ・耐久性とのトレードオフは致し方ない部分もあるとはいえ、この点から重さを避けたい人にとってはきつい判断を迫られています。
背負い心地(快適性):重荷に対しての万全さと利便性を兼ね備えた「エンデュランスヨーク」背面(ショルダー)システム
ブリッジャーシリーズに搭載された最新の背面パネルについては、2つの面から評価する必要があります。
重荷に対して万全の快適さと安定感を提供
頑丈なスチール製のワイヤーフレームと、通気性を確保しつつ弾力性に優れたパッドで構成された背面・腰周りは、重心を身体の近くにしっかり引き寄せながら荷重を腰上に乗せることができ、重さを極力感じずに快適に背負うことができます。
おなじみの背面調節システムも健在で、体型に関わらずちょうどよいフィット感をセッティングすることができます。これらはミステリーランチのバックパック全体に通底する「究極のフィットと快適性をもった世界最高の荷物運搬装備」というコンセプトからまったくブレておらず、ブランドのファンにとってはまったく心配する必要はありません。
かつてない利便性を実現したベストスタイル・ショルダーストラップ(ハーネス)
そして次は新しいショルダーストラップ(ハーネス)について。
見た目の通りトレイルランの世界では一般的なランニングベストの流れからくるベスト型デザインのショルダーストラップは、肩周りには背中や腰と同様の厚いパッドが当てられており、脇から下にかけてはパッドが抜かれたメッシュの柔らかい素材と大きなポケットによって構成されています(下写真)。
前面に十分な大きさのメッシュポケットが付いていることによって、ソフトフラスクはもちろん500mlのペットボトルやスマートフォンまで、行動中によく使うアイテムは大体このポケットに収納することができ、バックパックを下ろさず容易にアクセスできます。トレランでは当たり前であったこの便利さが一般的なハイキング用バックパックでも標準化されつつある(現状はオプションのパーツを取り付けるなどしていた)ことはプラスでしかなく、個人的にも待望の進化といいたい。
ただすべて手放しに喜べたかというとそういう訳にもいかず。たとえばトレラン用ランニングベストのように薄くて密着面積の少ない場合に比べてストラップにこれだけのボリュームがあると、思った以上に熱が逃げにくいのです。このモデルのように胸ストラップを締めることが前提の構造だと、それによる暑苦しさや蒸れ感が気にならなかったといえばウソになります。もちろん逆に言えば保温性があるということで寒い季節にはありがたい場合もあるわけで、温暖な季節で使う場合にはその分衣服などで熱の逃げにくさを考慮する必要があります。
またこのショルダーストラップの下半分(ポケット裏のパッドがない部分)はパッドがなくて非常に柔いため、より重荷の時にその柔軟さが個人的には少し物足りなく感じてしまいました。かなり重い荷物になってくると柔らかいストラップ部分がへたって肌に食い込んできます。
ちなみにこのショルダーストラップポケットですが、ペットボトルなど硬いものを一番下まで突っ込み過ぎるとフィット感が著しく低下し胸に当たって痛くなる(下写真左)ので、最下部(ロゴあたり)まで荷物を詰め過ぎない(下写真右)ように注意です。
収納性と使いやすさ:実用性抜群のユニークで多彩な収納類
ミステリーランチといえば「3ジップデザイン」といったユニークかつ実用的な収納システムで有名ですが、このバックパックにも負けず劣らず常により優れた利便性を追求する新しいポケットやアタッチメント類が満載です。
まずメイン収納は、通常のドローストリングでの巾着式開閉の他、フロントを大きく開閉できるダブルジッパー方式(下写真)。まるで旅行用のキャリーバッグのようにガバッと開くフロントによって、パッキングのストレスは激減。開閉の仕組みも単にジッパーを両側に付けましたというものではなく、ワンアクションで両ジッパーを開くことができる作りのため開け閉めは思いのほか簡単なのです。おかげでメイン収納へのアクセスはほとんどこちらを使用しています。
メイン収納内部にはハイドレーション収納の他、整理整頓に役立つメッシュポケットが両サイドに2つ配置されています(下写真)。どれだけ使えるのかは正直未知数ですが、メイン収納がこれだけ大胆に開くのであれば、ここに手袋や帽子、サングラス、ゴミ袋といったちょっとした小物を入れておくということで価値が出てきそうです。
さらに正面ボトム部分は寝袋などを収納(出し入れ)できるSpeed Zip™ コンパートメント(下写真)。内部に仕切りも付いています。
両サイド底部には配置されたサイドメッシュポケットは、ナルゲンボトルがしっかりと入るほど深さも十分(下写真)。もちろん長いアイテムもサイドストラップでしっかり固定できます。
フロントのメッシュポケット(下写真)はそこまで伸縮性はなく、ちょっとした上着等が入る程度。すぐに取り出したい雨具や防寒着などにはちょうど良いですが、テントフライなどにはやや小さい。
下部のストラップにはクローズドセルのスリーピングマットが固定可能(下写真)。
ポールやアックス用のループはフロント両サイドに2つ配置されています(下写真)。
最も気に入っている収納がこのトップリッド(雨蓋)ポケット(下写真)。比較的大きなサイズで、入り口はコの字型ジッパーで大きく開くことができ、裏地にもキークリップ付きメッシュポケットがあってとにかく使いやすい。
おまけにこれ、バックパックから分離してサコッシュやウェストパックにもなってしまうんです(下写真)。
ヒップベルトの両サイドにはメッシュの小さなジップポケット(下写真)。行動食やハンカチ等はすんなり入りますが、6.7インチの大き目スマホはさすがに入りませんでした。ただショルダーストラップポケットがあるので特に不便は感じません。
最後に当然ですがハイドレーションのセッティングも、チューブを通す孔もしっかりと付いています(下写真)。
まとめ:高耐久・快適・機能的バックパックにベスト型ストラップの利便性が追加され意欲作
Mystery Ranch ブリッジャー 45は、ミステリーランチの魅力である「タフで快適」なバックパックに最新トレンドである「ランニングベストの軽快さと利便性」を融合させたという意味で、野心的かつ画期的なモデルであり、初心者から経験豊富なハイカーまで、すべての「重い荷物を長い距離、快適に運ぶ」ことを目的とした人のための最新の機能性を備えたバックパックです。
自分は実際に背負って歩くまではその革新性ゆえに「果たしてランニングスタイルのハーネスがより重い荷物を運ぶためのバックパックに馴染むのだろうか」という心配が拭えませんでしたが、今回歩いてみてその先入観の多くは杞憂であったと確信できるほどに、非常に完成度の高いバックパックであることが実感できました。少なくともこれからは腰で背負う従来型のバックパックだからといって、ベストスタイルのショルダーストラップが合わせられないということは決してないということは証明されたようです。
新しいエンデュランス ヨークシステムは、これまで軽快なバックパックに採用されていたベスト型構造をミステリーランチらしさである「タフ&快適」を失わずに見事に融合させているといえます。これによってどんな重荷でも快適に背負うことができ、かつ前面の収納によってさらなる機動力を手に入れたという進化を感じることができました。
一方でこのバックパックには、従来のベスト型構造のバックパックが持ち合わせていた軽快さはまったくと言っていいほどないことには注意が必要です。これをファストパッキング用のバックパックとして使うのは禁物。ベスト型デザインだからと言って決して軽快さを期待してはいけません。とはいえ春~冬と季節を選ばず、登山やハイキングをはじめとしたタフな山岳アクティビティ全般、特にたくさんの荷物を安全・快適に運びたいというユーザーにピッタリくるのではないでしょうか。