【忖度なしの自腹レビュー】ORTOVOX AVABAG ライトリックツアー40 レビュー より軽く、より使いやすく進化したアバランチエアバッグの決定版
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もはや”外国”といっても過言ではないパウダースノー天国、ニセコスキーリゾート。ホテルやレストランでの物価の高さや、話されている言葉のほとんどが英語といった事実も驚きですが、ぼくが今シーズンのニセコで何よりも驚いたのは「アバランチエアバッグ」装着率の高さでした。ざっと見た印象では出会うライダーの半数近くが何かしらのアバランチエアバッグを背負っていたように思えます。
もちろんニセコ特有の事情もあるかと思いますが、いずれにしても昨今のパウダー人気にともない、雪崩に見舞われた際の生存率を大幅に向上させるアバランチエアバッグは世界でも着々と「常識」となり始めているという大きな流れを実感しました。
そんなアバランチエアバッグの構造・仕組みには大まかにガス式や電動式など昔からさまざまなタイプがありますが、なかでも2017 年の冬にスイスのAlpride 社によって開発された電子式のエアバッグシステム「Alpride E1(現在はE2)」はその優れた性能と使いやすさによってここ最近のアバランチエアバッグのメインストリームといっても過言ではありません。
このAlpride E1システムは低温下でも影響を受けずに急速充電・放電が可能な画期的な電源「スーパーキャパシタ」を採用。充電によって何度も展開・再収納を繰り返すことができ、軽くて使い勝手の良い構造もあって、今ではBCA、ABS、Deuter、Osprey、Scott、Millet など名だたるバックパックメーカーによって採用されています。自分もスコット、オスプレーのアバランチエアバッグをこれまで愛用してきました。
しかしそんな「Alpride E1 / E2」に、強力なコンペティターが今シーズン登場。それが今回紹介するスーパーキャパシタ搭載の新しいエアバッグシステム「LiTRIC(ライトリック)」です。
Outdoor Gearzineでは、ORTOVOX とArc’teryx のコラボレーションによって誕生した「LiTRIC アバランチエアバッグシステム」搭載のアバランチエアバッグ、ORTOVOX AVABAG LITRIC TOUR 40(ライトリック ツアー 40)を自腹で購入し、今シーズンのべ20日以上実際に本州と北海道でのバックカントリースキーで使用してみましたので、さっそくレビューをお届けします。
目次
ORTOVOX AVABAG ライトリックツアー40 の主な特徴
ORTOVOX AVABAG ライトリックツアー40 は、新開発の電子アバランチエアバッグ・システム「LiTRIC」システムを備えたスキー・スノーボード対応バックパック。「LiTRIC」システムは現在の市場で最も軽い重量を実現し、従来の電子式エアバッグと比べて多くの点で安全性と利便性の高い仕組みを搭載。スキーツアリングパックとしては大容量の40リットルサイズながら、荷室部はジッパーで着脱できるモジュラー構造のため、別サイズのオプション・コンパートメントを組み合わせることによって用途に合わせてさまざまな容量にカスタマイズが可能。スキー・スノーボード両方に対応、スキーツアーを快適にする機能的な収納も細部にまで配慮され、技術的な先進性と実用性の両方でトップクラスの完成度を実現したアバランチエアバッグ。
おすすめポイント
- アバランチエアバッグとしては最軽量の軽さを実現
- 1回の充電で2回膨張可能(単三電池不要で再充電)
- エアバッグ展開後の再収納もカンタン、行動中の緩み易さもナシ
- USB-Cでの素早い充電時間
- 40リットルという十分な大容量(少ない荷物のときでもブレずに圧縮可能)
- オプションのコンパートメントによって18~40リットルなどにサイズ変更可能
- スキーはダイアゴナル方式に対応でスノーボードも装着可能
- たくさんのBC装備を効率よく収納する考え抜かれた収納類
- 着脱簡単なレッグループ
- フライトでの持ち運びも問題無し
気になるポイント
- 50回展開、あるいは5年後には品質保証のために製品検査を受ける必要がある
- ウェストベルト収納と使いやすいゴーグル収納が欲しい
- 高価
主なスペックと評価
アイテム名 | ORTOVOX AVABAG ライトリックツアー40 |
---|---|
外寸 | 縦60 × 横32 × 奥23cm |
背面長 | レギュラー: 42 – 50cm(ショート: 36 – 44cm) |
容量 | 40リットル |
ウィメンズモデル | ◯(男女という分類ではなく、大柄/小柄な人向けモデルという分類) |
公式重量 |
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素材 |
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ヘルメットキャリア | 標準装備 |
スノーボード対応 | ◯(付属のストラップを使用) |
スキーの取り付け | ダイアゴナル方式 |
付属品 | 充電用USB-Type Cケーブル、スノーボード用ストラップ、日本語マニュアル |
Outdoor Gearzine 評価 | |
エアバッグシステム性能 | ★★★★★ |
ハイクアップ快適性 | ★★★★☆ |
滑走時安定性 | ★★★★☆ |
収納性 | ★★★★☆ |
バックカントリーでの利便性 | ★★★★★ |
重量 | ★★★★☆ |
詳細レビュー:バックカントリースキーで実際に使ってみた
エアバッグシステム性能:Alpride E1/E2システムを超える軽さと使い勝手の良さ
これまで自分が愛用していたバックカントリー用のバックパックは、「Alpride E1」システムを採用したOsprey のソールデンプロ 32 。非常に良くできた優秀なバックパックであることは間違いないのですが、所々で惜しいところがなかったわけではありません。
詳細が知りたい方はリンク先のレビューをぜひ読んでいただくとしていくつか代表例を挙げると、例えば「Alpride E1」システムの仕様上、エアバッグ展開後の再収納では手順に沿って決まった形に折りたたまなければいけなかったり、行動中の再充電のために単三電池が必要だったり。また32リットルという容量は(エアバッグユニットに占有されているスペースもあって)実質的にはロープやハーネス、クランポンなどBCフル装備を詰め込むには容量がやや足りなかったりと、微妙に惜しい部分がいくつかあったことは確かでした。
「LiTRIC」システムのAVABAG ライトリックツアー40を実際に使ってみて何よりもガツンとやられたのは、「Alpride E1」系のアバランチエアバッグであった多くのの気になる点が見事に解消され、使いすく進化していることでした。
電子式エアバッグでは最軽量クラス
かつて「Alpride E1」システムが登場したときにはその衝撃的な軽さ(システム重量 1280g)が話題になりましたが、「LiTRIC」システムは現世代の「Alpride E2(システム重量 1140g)」よりもさらに軽い「1100g」を実現しています(ライトリックツアー40全体としては2460g)。
しかも「LiTRIC」システムは再充電するための二次電源にAlprideシリーズのような単三電池ではなく充電式内蔵型リチウムイオン電池を使用しているため、実際には単三電池2本分(約50g)を加えた「Alpride E2」の重量に比べて、実質100gほど軽くなるということになります。
100グラムというと僅かな違いに思えるかもしれませんが「アバランチエアバッグ=重い」という先入観から背負ってみると意外なほどアバランチエアバッグとしては規格外に軽いと感じます。エアバッグ・ユニットが上部にあることことでバランス的に肩周りに重心が近づくため、重さを感じにくくなっていることも関係しているかもしれません。
エアバッグの展開はAlpride と同じように簡単・スピーディ
「LiTRIC」システムはUSB-Type C端子によって素早く充電でき、使用の際にはパックの入り口すぐ近くにあるボタンを押せばすぐにスタンバイされ、連続作動時間は60時間なので、数日のツアーでも充電不要で使い続けられます。
-30℃という超低温下でも安定して動作し、レバーを引くと瞬時に膨張(4~5秒でMAX)するのはAlpride と変わらず。アバランチエアバッグの展開自体は従来のアバランチエアバッグと大きな違いはなく、バックパックの上部に仕込まれたエアバッグがレバーのスイッチによって展開し、パックの上部(頭の周辺)を覆うように大容量(150L)のバルーンが膨らむというもの。膨張後は欧州の安全認定基準によって3分間MAX状態を維持する必要があるため、エアバッグは最初の膨張から約1分おきに2回ほど空気が再注入されます。
そんな最初の膨張までの様子を撮影したのが下の動画。
ちなみに、LiTRICのような電子式のファン駆動システムでは、充電すれば何回もエアバッグ展開することができ、ガス式のように1回ごとにキャニスターを購入・補充することなく気のすむまで練習できるという大きな利点があり、やっぱりガス式に比べれば圧倒的に初心者にもおすすめしやすい方式といえます。
※「LiTRIC」システムは10 年間で50回までの膨張が保証されていますが、50回の膨張後はLEDランプがそれを知らせ、メーカーでの検査サービスを受ける必要があります。普通の使用であれば現実的に10年間で50回以上膨張することはまずあり得ないものの、無限に使えるわけではないので注意が必要です。
1回の充電で少なくとも2回のエアバッグ展開が可能
「LiTRIC」システムはAlpride E2 よりも一歩進んで、1回の充電で少なくとも2回の膨張を保証しています。したがって、行動中に誤って展開してしまったりしても安心です。エアバッグが一度展開されると、内蔵されたリチウムイオンバッテリーによってシステム自体が再充電され、約25分でまた2回使える状態に回復しますので、行動中万が一エアバッグが作動したとしても、その後もほぼ途切れなくエアバッグはスタンバイされた状態でいることができます。
展開後は折りたたむ必要もなく再収納も簡単
エアバッグの展開後の再収納は、これまで使ってきたエアバッグの中でも最も簡単かつスムーズに行えました。ここで再収納の手順①~④を説明します。
まず膨張したバルーン(①)の空気を抜くのですが(②)、抜き方はパックの上部ポケットに備え付けられたフォーク型のプラスチック製ツールをエアバッグ本体のスロットに挿入するだけ。挿入されている間はずっとバルーンの空気が排出される仕組みなので、開放スイッチを摘まんでいなければならないAlprideよりも簡単でした(下写真)。
空気が抜けたらバルーンをコンパートメントに収納します(③)。Alpride E2をはじめとする多くのエアバッグバルーンは硬めのコーティングされた生地で作られている一方で、LiTRICのバルーンはしなやかで耐久性の高い2層の生地を採用しています。このため、ライトリックツアー40ではエアバッグを展開後、再収納する際に決まった手順で折りたたむ必要がありません。格納スペースに均一に押し込んでいくだけの簡単設計、まさにストレスフリーでした。
バルーンを無事押し込めたら、バルーンコンパートメント中央のロックをカチッとなるまで閉めます(④)。次に両サイドのジッパーを閉じます。最後にフラップをジッパーが隠れるまでしっかりと被せて、次の展開への準備が完了です(下写真)。
この新しいロックシステム非常に優秀で、これまでのAlpride やJetforce システムで見られた「パンパンに詰めたバックパックでしばしば勝手にジッパーが緩んでバルーンコンパートメントが開いてしまう」という地味に煩わしかった問題点はもう過去のものになりました。
収納性と利便性:バックカントリースキーを快適に楽しむために考え抜かれた数々の収納・機能
現在でも多くのBCスキーヤーに愛される優れたバックパックを数多く手掛けるORTOVOXだけあって、収納類に関しての抜け目なさは見事という他ありません。シンプルさを保ちながらバックカントリースキーに必要な質と量が細部まで考え抜かれたポケット・アタッチメント類によって常にほとんど不満なく荷物をパッキングすることができました。
ベースと荷室部が分離し、組み合わせによってさまざまな容量にカスタマイズできるモジュラー構造
AVABAG ライトリックツアー40は、背面パネルとエアバッグシステムで構成されたベース部分と、ジッパーで着脱できる荷室部分との組み合わせによるモジュラー構造になっています。
このためオプションで販売されている大小の荷室パーツを組み合わせることによって、半日の軽いサイドカントリーから数日にわたるロングツアーまで様々な用途に合わせたサイズ調整が可能となります。
もっとも、自分が購入した40リットルの大容量バックパックはサイドストラップの作りが良くできているため、少ない荷物でもしっかりとコンプレッションが可能であり、半日のサイドカントリーだろうがフル装備のツアーだろうがどちらでも快適に荷物を運ぶことができました。ちなみにこのサイドストラップはセットするスリットの高さによって位置を調節することも可能です(下写真)。
必要十分で使いやすさに一味加えたポケット・アタッチメント類
メイン収納はスーツケースのようにぐるっと一周するジッパーによって大きく開き簡単に出し入れ可能(下写真)。エアバッグユニットがコンパクトなため、40リットルという大きなスペースを存分に使うことができます。
アバランチエアバッグでの最大の不満のひとつは、エアバッグシステムが荷室で大きなスペースを占めてしまうことです。BCビギナーがいつもの感覚で容量を判断すると、たいていの場合微妙に足りないと感じるに違いありません。自分の経験上ではロープやハーネス、クランポンなどの装備が加わると、30リットル台のアバランチエアバッグではやや容量が不足することが多いのです。その意味もあって個人的には(一般的に大きいといわれている)40リットルのモデルは求めていたサイズであり、この十分な収納力には大満足でした。
メイン収納のジッパーはダブルジッパー仕様のため、上部・下部どちらからも開けることができます。
アバランチセーフティ・ギアの収納もきちんと配置されています。ここのジッパーはダブルジッパー仕様で、どんな状態でも素早い開け閉めが可能となっています。
フロントにはもうひとつ、先ほど紹介した空気を抜く際に使用するツールや軽食、日焼け止めその他小物などを入れるジッパーポケットがあります。一応物理的にはゴーグルも収納することができましたが、ポケットの裏地がフリース地である分けでもなく、硬いエアバッグユニット本体と干渉し合って凸凹になってしまうため、あまり適しているとは思えませんでした。できればゴーグルをもう少しスマートに収納できるスペースが欲しかったところです。
メイン収納の裏面には上下にポケットが2つ。USBケーブルや地図類など細かい物・薄いものを入れるのに便利です。
最近では珍しくなくなりましたが、フロント下部にはヘルメットを固定するためのヘルメットホルダーもきちんと装備されています。
大きくてミトンに優しいジッパープル(下写真左)や、操作しやすく着脱可能なアックスホルダー(下写真右)などの使い勝手の良さもかなり気に入りました。
ミニマルなフロントループにはアイスアックス2本を取り付けることができます。
内部からショルダーストラップに抜ける隙間があり、そこにはハイドレーションチューブやトランシーバーのスピーカーマイクなどを通すことができました。
ダイアゴナルでスピーディに装着可能なスキー・スノーボードアタッチメント
スキーはダイアゴナルにセット可能。Aフレームでも不可能ではありませんでしたが、エアバッグと干渉するためマニュアル等では不可とされていますので注意。
付属のストラップを使用することで、スノーボードやスノーシューの取り付けも可能です。
快適性:重荷でも疲れず、滑走時でも安定感抜群の快適な背負い心地
ライトリック ツアー 40は基本的なフォルムや作りでは同社の「HAUTE ROUTE」シリーズと似ていますが、若干軽量化のために背面・ショルダーやウェストベルトが薄手に調整されている部分が少し異なっています。とはいえ不満を感じるほどのそぎ落とされ方ではなく、快適な背面と立体構造のハーネス、そして肩口のショルダースタビライザーにより、ブレにくく快適なフィット感が得られました。
システム自体の軽さと計算された重心バランス、長年の積み重ねによって培われたシンプルながら快適な背面システムによって40リットルの容量でも無駄な重さやストレスは感じられません。
バックパックのサイドストラップをしっかりと締めてパックを圧縮し、ウェストベルトにショルダーハーネス、スターナムストラップ、ショルダースタビライザー、レッグループをしっかりと締めれば、どれだけハイスピードで滑走してもパックはブレることなく、違和感は皆無です。
まとめ:性能・実用性ともに大満足。アバランチエアバッグの現時点でのベストチョイス
ドイツ・ミュンヘンで雪崩ビーコンの開発・製造からスタートし、今ではバックパックをはじめとして質実剛健で良質な登山ギアを数多く手がける総合アウトドア・ブランド、オルトボックスが満を持して世に送り出したアバランチエアバッグは、「Alpride E1」採用バックパックの秀作であるオスプレー ソールデンプロ 32 をこよなく愛する自分ですら、乗り換えを決断させるほど総合的にみて想像以上に「使える」バックパックでした。
背負い心地の快適さに関してはまだオスプレーに分があると感じていますが、それ以外の部分(エアバッグ性能・容量・使い勝手)ではちょっとずつライトリック ツアーが勝っていると感じます。
アバランチエアバッグがあれば雪崩に遭遇しても必ず生き残るという保証はありませんが、生存の可能性を倍にするといわれており、危険と隣り合わせの雪山で、少しでも安全性を高めてくれることは間違いありません。
確かに価格だけを見るとまだまだ高いと思うかもしれませんが、ただ、バックカントリーで年に数日以上過ごす人にとってはこれを10年分の保険だと考えると、考えようによってはそこまで異常な価格ともいえないはず。そんななかでORTOVOX AVABAG ライトリックツアー40 は、これから必須となるであろうアバランチエアバッグの中でもトップクラスの安全性と快適性・機能性を備えたベストな選択肢のひとつとして、BCスキー・スノーボードだけでなく、雪山登山やスノーシューなど雪崩地形でのアクティビティを楽しみたいすべての人に検討をおすすめしたい一品です。
ORTOVOX AVABAG ライトリックツアー40の詳細と購入について
製品の詳細についてはマジックマウンテン 公式サイトをご確認ください。