完成度高すぎ!ついにアバランチエアバッグはここまで進化した。OSPREY ソールデンプロ 32 レビュー
昨年はじめて当サイトでも取り上げた「アバランチエアバッグ搭載式バックパック(通称アバランチエアバッグ)」のひとつ、Black Diamond ジェットフォースプロは非常に良くできた素晴らしいバックパックでした。しかし、当然ですが最高のアウトドアギアをめぐる旅はそこで終わったりしません。人類の、雪山という底なしに危険なフィールドで安全に、快適に過ごしたいという欲求はとどまるところを知らないのです。今シーズンもまた素晴らしいアイテムが登場し、山好きたちを悩ませてくれています。
それが今回レビューするバックパック、Osprey Soelden Pro 32(ソールデンプロ32。女性モデルはソリスプロ30)です。ケストレルシリーズをはじめ、アトモス、イーサー、バリアントといった愛すべき優れたモデルを数多く生み出し、バックパック専門メーカーの世界的な巨人として君臨するオスプレーが、満を持して手掛けたアバランチエアバッグ搭載バックパック、それがソールデン。
期待に胸をふくらませてこの冬使ってみたので、早速レビューをお送りします。
目次
Osprey ソールデンプロ32 の主な特徴:ぐうの音も出ないほど快適な使い心地と、最新鋭の雪崩安全性能を両立
ソールデンプロ32(女性モデルはソリスプロ30)はオスプレーのスノーパックシリーズでもフラッグシップモデルであり、アバランチエアバッグシステムを搭載した新しい雪山用バックパックです。多くの優れた登山用バックパック開発によって長年培われてきた軽量で丈夫な作りや身体にフィットする快適な背負い心地に加え、低温下での安定性・軽量性・メンテナンス性などトップクラスのパフォーマンスを発揮するエアバッグシステム「Alpride E1」を搭載し、他にも冬山バックカントリー登山のために考え抜かれた便利な収納類などを兼ね備え、優れた快適性と安全性、機能性を高次元でバランスよく実現しました。スキー・スノーボード・スノーシュー・冬期トレッキングなど雪山でのあらゆるアウトドアアクティビティで次元を超えた安全・快適性を提供してくれます。
おすすめポイント
- 軽量ながら優れた耐久性と耐摩耗性
- フィット感抜群、かつ登り・滑降どちらでも快適な背負心地
- 軽量で安全かつ使いやすいAlpride E1 アバランチエアバッグシステム
- たくさんのBC装備を効率よく収納する考え抜かれた収納類
- 幅広くフィットしやすい男性用・女性用のラインナップ
- ガスでもリチウムイオン電池でもないためフライトでの持ち運びにも便利
気になるポイント
- 満充電で基本的には1回しか展開しない
- 展開したあとの再収納で折りたたまないといけない
- もう1つトップに小物用ポケットがあればなお良し
- もう1サイズ大きな40L以上のサイズがあればなお良し
- エアバッグのジッパーが(荷物をパンパンにしていると)自然に開いてしまうことがしばしば
- 高価格
主なスペックと評価
スペック | |
---|---|
アイテム名 | Osprey ソールデンプロ32 |
外寸 | 縦56×横32×奥27cm |
容量 | 34リットル(Alpride装着時=32リットル) |
重量 |
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素材 |
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サイズバリエーション | 男性向けワンサイズ(ソールデンプロ)/女性向けワンサイズ(ソリスプロ) |
ヘルメットキャリア | 標準装備 |
スノーボード対応 | ◯ |
スキーの取り付け | Aフレーム、ダイアゴナルどちらも◯ |
付属品 | 充電用ミニUSBケーブル |
評価 | |
エアバッグシステム性能 | ★★★★☆ |
快適性 | ★★★★★ |
滑降時安定性 | ★★★★★ |
収納性 | ★★★★☆ |
バックカントリーでの利便性 | ★★★★☆ |
重量 | ★★★★☆ |
詳細レビュー:バックカントリースキーで使ってみた
背負った瞬間に分かる極上の背負い心地
今回のようなアバランチエアバッグ搭載のバックパックは、これまでどちらかというとスノーセーフティー用品の専門メーカーによる制作が大半でした。ソールデンプロがこれらのモデルと明確に違うのは、アウトドア・バックパックの専門メーカーが作ったバックパックであるということ。その影響が最も実感できることのひとつが背負い心地です。
軽量ながら十分なクッション性を備えたEVAフォームの背面・ショルダーストラップ・ウェストハーネスは肌当たりもよく、さらに雪が付着しにくく保水しないように配慮されています。
適度なボリュームのウェストハーネスは腰にしっかりと荷重が乗り、身体のラインに沿って自然なカーブを描くショルダーストラップと合わせて荷重を背中全体にバランスよく分散させてくれます。肩口にはスタビライザーストラップが配置され、抜群のフィット感をもたらすとともに、ザックが振られたり後ろ側に引っ張られるような感覚も皆無です。春夏用のバックパックを背負っている時とまったく違和感のないうっとりするほど快適な背負い心地に、テンションが上がらずにはいられません。
このパックの振られにくさ(重心のブレにくさ)に関しては、パックを圧縮できるサイドストラップの存在も見逃せません。アバランチエアバッグ搭載のパックではエアバッグの展開と干渉しないようにどうしてもサイドストラップがつけられないケースがちょくちょくあるのですが、このモデルではバックパックのサイド上下にバックルが配置され、中身の荷物が少なくてもパック全体を圧縮してダボつかないようにすることができます。もちろんこれによってメインジッパーを開ける際にバックルを外す必要は出てきてしまうのですが、その代わりどのような状態でも快適な背負い心地を保つことができるというわけです。
おまけに軽量・高耐久なナノフライ生地とUHMWPE(いわゆるダイニーマ)生地のコンビネーションによって、30リットル以上の電子式エアバッグにしては比較的軽量性を実現しつつ、耐久性・耐摩耗性でもまったく妥協しない安心の堅牢さを実現しています。もちろんエアバッグ無しの一般的なバックパックに比べれば重いことは確かですが、十分に「慣れる」重さです。
細かいことをいえば、パックのサイズがワンサイズで背面長の調節ができないという点は確かにありますが、そもそもそこまでできているアバランチエアバッグはまだどこにもありません。しかも体格の小さい人のためには女性モデルがありますので、現状でも十分幅広い体型に対応しているといえるのではないでしょうか。
ハイクアップでも滑降でも安定感抜群
前述したように、重心近くの腰から背中にしっかりと荷重が乗ってくれるため、重い荷物を背負ってのハイクアップでは快適そのもの。アバランチシステム自体も下方に位置しているため、重心が極端に上方に来るようなこともなく、重荷での滑降時でもしっかりとフィットし、身体が振られるような感覚もありません(下動画参照)。
軽い・安全・使いやすいAlpride E1 アバランチエアバッグシステム
このパックに搭載されている「Alpride E1 アバランチエアバッグシステム」は、ガスでもなく、バッテリーでもない「スーパーキャパシタ」という電源を利用した、最新鋭のエアバッグシステム。これまでのエアバッグにあった欠点をいろいろと克服したスグレモノといわれ、主に下記のような特徴があります。
- -30℃という超低温下でも安定して起動(上は50℃まで)
- 素早い膨張(約3秒で150LのバルーンがMAXまで膨らむ)
- USBまたは単三電池を利用して20~40分(電池の場合40~80分)の充電で何回でも利用可能
- 長寿命(500,000回以上の充電が可能)
- 軽量コンパクト(エアバッグシステムのみの重量は1280g)
とにかく、収納スペースを専有しない軽量コンパクトさ(下写真1)に加え、シンプルな操作とUSBによる充電しやすさ(下写真2、3)と、使いやすさ抜群なのがAlpride E1システムなのです。はじめてエアバッグ式バックパックを購入するユーザーや、万が一に備えてしっかりと練習をしたいユーザーにはもってこい。ただし1回の充電で基本1度しか展開しないという点は、昨年レビューしたBlack Diamond ジェットフォースに比べると劣ることは事実。気にならないといえば嘘になりますが、単三電池をセットしておけば(下写真3)現場でも40~80分で充電完了しますので、余程のことがない限りは問題ありません。
電源は下写真のようにオレンジのボタンを持ち上げて回すだけ。そこから自動で動作テストが走り、問題なければランプがついてセット完了です。
正常動作では、パックのサイドの位置に外側から見えるランプが緑にゆっくりと点滅します。
この状態で、万が一雪崩に見舞われた場合、操作するのは肩口のトリガーを強く引くだけ(トリガーは右肩・左肩と好みによって変更することができます)。
そこから瞬時に150Lのバルーンが膨張します。膨張の様子は下の動画から。
ちなみに行動中は、ウェストハーネスと一緒に胸のスターナムストラップ、ウェストに配置されたレッグストラップを必ず締めておきます。そうすることで万が一雪崩に巻き込まれてエアバッグを作動させた際に、バックパックが身体から抜けてしまったり、ずり上がったバックパックによって首を絞めてしまうといった事故を防ぎます。
レッグストラップはウェストハーネスの付け根に目立たないようにしまうことができ、取り出しも簡単。先端のループをストラップに通す仕組みですが、自分はそこにカラビナをつけて、いつでも固定しやすくなりました(下写真)。
エアバッグが開ききったあとは、安全な場所で再度収納する必要があります(下写真1)。ここはやや面倒ですが、排出ボタンを押しながら自力で空気を抜き(下写真2)、折り畳まなければなりません。畳み方も決まっており、パックの内側にある説明書など(下写真3)に従って畳んでいきます(下写真4。とはいえ慣れれば見なくてもすぐに畳むことができる程度に簡単ではあります)。
たくさんのBC装備を効率よく収納する考え抜かれた収納類
バックパック専門メーカーの作品と感心したくなるのは背負い心地だけではありません。煩雑なBC装備を収納・携行するために考え抜かれたポケット・アタッチメント類も、ため息が出るほどの充実ぶりです。
U字型のフロントジッパーで簡単にアクセスできるメインコンパートメント
メイン収納はU字型に大きく開くジッパーが配置され、パッキングでも荷物の出し入れでもまったくストレスなし(下写真)。エアバッグシステムが専有している隙間にも隈なく荷物を押し込めることができます。
個人的なお気に入りはこのメイン収納のジッパー(下写真)。耐久性抜群でなおかつスムーズ、グローブをしていてもつまみやすいフックと、ヤバいくらい使いやすく、愛おしさすら覚えます。
ダイアゴナルだけでなくAフレームも装着可能なスキー・スノーボードアタッチメント
スキーの装着は斜め掛けのダイアゴナル(下写真右)だけでなく、なんとAフレームでも取り付けが可能(下写真左)。安定性と歩きやすさではAフレームの方がありがたかっただけにこれは嬉しい。
スキーを固定するバックルは、しっかりとストッパーが搭載されていて、歩いているうちにストラップが緩む心配もありません(下写真)。細かい部分への配慮はこれまでの同社の優秀なスノーパックで培われたノウハウが活かされています。
なお、もちろんスノーボードもフロント部分に取付可能。その場合はフロントに仕舞われたドローコードを全面に引き出して取り付けることができます。
さまざまなBC装備もスマートに収納可能
メイン収納とスキーアタッチメントの他にも、雪山で使う道具を整理して収納できるポケット類がきちんと配置されています。この辺は当たり前のようで、アバランチエアバッグの特性上、なかなかきちんとできているパックもなかっただけに、感激もひとしお。
まずフロントには、多くのスノーパック同様アバランチツールが収められるJ字のジッパーポケット収納があります(下写真1)。サイドにはゴーグルなどが収納できる横に長いスタッシュポケット(下写真2)。中の裏地は起毛フリースではありませんが、他の裏地に比べてきめ細かい表面をしており、ある程度のキズ付きを防いでくれる仕様のようです。そしてウェストハーネスの左側には小物の入るジッパーポケット(下写真3)。ここにはレンズ拭きと緊急発信デバイス(inReach mini)など、すぐに取り出すべきアイテムを入れています。
フロント上部には、ヘルメットホルダーが収納されており、引き出すことでヘルメットを固定できます(下写真)。
サイドとフロントストラップを使えば、アイスアックスやポールの固定もしっかりとできます(下写真)。
パックの中にはトランシーバーを固定し、スピーカーマイクをショルダーストラップの中に通してしまっておくこともできます(下写真)。その他にも便利な収納が盛りだくさん。
まとめ:安全性だけにとどまらず、バックパックとしてのポテンシャルも秀逸な、モダン・アバランチエアバッグ
アバランチエアバッグとしての安全性だけでなく、荷物を背負い、運ぶためのバックパックとして極めて優れているのがソールデンプロの最大の魅力です。昨年レビューしたアバランチエアバッグ、Black Diamond ジェットフォースは、総合的な使いやすさはもとより、特にエアバッグの性能がピカイチでした。ただ背負いの快適性や収納性といったバックパックの使い勝手という面では、はっきり今回のソールデン/ソリスプロに軍配が上がります。
もちろんスーパーキャパシタによるAlpride E1システムも、ジェットフォースシステムよりも優れているとは言わないまでも、多くのブランドで採用されるだけあるトップクラスに高性能のエアバッグシステムであり、信頼性抜群で使いやすさも間違いなし。初めてのユーザーでも難なく安全を身にまとうことができるでしょう。
相変わらず価格についてはまだまだ手の届きやすいとは言えませんが、春から秋まで背負っていたお気に入りとほとんど変わらない快適さと使い勝手を提供してくれるこのバックパックは、アバランチエアバッグの敷居をさらに下げてくれる1作なってくれるはずです。
注意
ここに書いてある内容はあくまでも筆者の理解と経験に基づく個人的考察であり、製品の安全性や正当性を保証するものではありません。雪山という極めて危険なフィールドで使用する道具であることを認識し、製品の購入、使用については各メーカーの公式情報を必ず十分に理解した上で、自然環境におけるリスクを十分に配慮し、各行動判断については各人の責任をもった判断により自己責任でお願いいたします。