【忖度なしの自腹レビュー】GREGORY ズール 35 ため息が出るほど快適な背負い心地が魅力のバックパックがさらに洗練されてアップデート
ラグジュアリーな背負い心地と使いやすさにかけては決して妥協のないこだわりを守り続ける老舗バックパックメーカーのGREGORY(グレゴリー)。その代表モデルのひとつ、ZULU(ズール)シリーズが今シーズンアップデートされました。
ハイキング向けのバックパックであるこのモデルは、名前がズール(女性モデルはジェイド)となってから7年ほど、(前身の「Z」の名前で)背中に通気スペースを設けた背面パネル構造を採用してからは10数年あまりという長い年月を経て、温暖な季節のハイキングを快適に過ごせるバックパックとして着実に洗練の道を歩んできました。そんなベンチレーション型バックパックの最前線ともいえるこの注目モデルを、今回も発売直後に自腹購入しこの1ヵ月でテストしてみましたので、早速詳細についてレビューしていきます。
目次
GREGORY ズール 35 の主な特徴
テンションをかけたメッシュがパックと背中の間に空間を設けることで高い通気性を備えたバックパネル、幅広い体型にアジャストできる調節可能な背面長、身体の動きに追従して旋回するヒップベルト等によって高いフィット感と快適な背負い心地を実現したハイキング向けバックパック。使いやすさに重点を置いた基本的な収納を備えつつ、アクセスしやすい入り口や使いやすいジッパー・バックルなど、高品質で使い勝手抜群のパーツ類など細部まで行き届いた作りの良さは、ハイキング初心者にも安心しておすすめできます。テクニカルでハードな登山よりは日帰りから小屋泊まりのハイキングに最適なバックパックです。
お気に入りポイント
- 背面のテンションメッシュパネルによる適度な通気性
- 極上のフィット感と快適な背負い心地(背面通気ながらパックが背中から離れ過ぎず荷重安定性も高い)
- 使いやすさと耐久性に優れたバックルやドローコード、ジッパーなどの各種パーツ類
- 大き目のウェストポケット
気になるポイント
- アックスホルダーやストラップ、デイジーチェーンやループなどの外部アタッチメント類が少ないため、短い距離のシンプルなハイキング以外の長距離縦走やテクニカルな登山には向いていない(55・65リットルモデルでは幾分その点がフォローされてはいる)
- 以前まであったサングラスホルダー(クイック・ストゥ)も、レインカバーもなくなってしまった
- 底部が尖がっているという形状のため直立しにくいこと
主なスペックと評価
アイテム名 | GREGORY ズール 35 |
---|---|
容量 | 35リットル(他に30・45・55・65リットルモデルあり) |
重量 | 公式・実測ともに:約1.5kg |
素材 |
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女性向けモデル | あり(ジェイド) |
サイズ/背面長 | 調整可能 |
ハイドレーションスリーブ | ◯ |
メインアクセス | トップ・U字型に大きく開くフロントジッパー |
レインカバー | なし |
ポケット・アタッチメント |
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評価 | |
快適性 | ★★★★★ |
安定性 | ★★★★☆ |
収納性 | ★★★☆☆ |
機能性(使いやすさ) | ★★★★★ |
耐久性 | ★★★★☆ |
重量 | ★★★☆☆ |
詳細レビュー ~早春の奥秩父をズール 35で歩いてみた~
素材と外観:よりスリムになったボディに、手荒く扱っても心配の要らない高耐久生地
外観は若干縦長・スリムなフォルムに変更されています。前作と比べるとほとんど気にならない程度ではありますが、過去の丸々として不格好だったZシリーズからは考えられないほどスタイリッシュなデザインにはかなりの好感触。さらにデザイン的な意味以上に、縦長になったことで重心がより高めになり、荷重を腰にも乗せやすくなって安定性も増しています。この点からも歓迎すべきバージョンアップといえるでしょう。
また本体メイン部分の素材は210D(デニール)の高密度ナイロンから、リサイクル素材を一部使用した400Dのリップストップポリエステルへと変更されたことによって重量は微増。ただ生地の厚みは増したため、強度に関しては同程度かそれ以上と考えてよさそうです。そう簡単な摩擦や引っかかりで破損するということは考えにくく、初心者が手荒く扱っても安心です。
背負い心地(快適性):テンションメッシュであってテンションメッシュでない。ベンチレーションバックパックの新時代キタ!?
ドイターによって1984年に発明され、このシリーズでも10年以上前から採用されている、背中に空間を設けたいわゆる「背面メッシュパネル(テンションメッシュとも、ベンチレーションバックパックとも)」は、今ではほとんどの専門ブランドで同じようなモデルを見かけるおなじみのタイプ。きっとご存じの方も多いのではないかと思います。この背面の特徴はいうまでもなく、背面フレームにテンションをかけることでメッシュの背面が密着せず、汗の溜まりやすい背中の通気性が爆上がりするという仕組み。湿気の多い日本では特に暑い季節での発汗は想像以上のため、こうしたバックパックによる爽快感は密着型モデルに比べると段違いです(写真は2代前のモデル)。
さて前置きはこのくらいにして、今回も引き続きテンションメッシュを採用している最新のズールですが、初見で眺めて何とも言えない衝撃が走りました。
なぜって、テンションメッシュ構造なのに背面の空間が(見た目上)消えているから。背負ってみてもこの通り(下写真)で、背中に空間が無いではないですか。これって本当にテンションメッシュなのだろうかと、頭に?マークが付き続けていました。
しかしこれが背負ってみると、メッシュパネルの背面はしっかりと浮いていて抜群の通気性は前作から特に変わったような感じは受けません。
それどころか、ここ数年で背負ってきた(このサイズクラスの)あらゆるバックパックの中でも一二を争うほどのフィット感と心地良さに、二度目のショックです。テンションメッシュパネルの特徴である背中に吸い付くようなフィット感と通気性がありながら、しかもパックの重みも(テンションメッシュにありがちな)後ろに引かれるようなことなく、身体近くに寄り添い腰の上に荷重が乗ってくれている感覚があります。背面長の調節も前作から引き続き可能なので、幅広い身長の人でもジャストフィットを感じられるはず。
よく見ると構造的には従来のテンションメッシュパネルなのですが、その空間がないかのように見えているのは、テンションによる湾曲が極力マイルドになっていることと、今回から隙間が見えるサイド部分に新たなメッシュパネルが配置されたのが原因のようです(下写真)。
前回モデルでも徐々に背面フレームの湾曲具合は控えめになりつつありました。これはベンチレーションタイプのバックパックの弱点である「1: 重心が身体から離れるため、後ろに引っ張られやすい」「2: 荷室も湾曲するのでパッキングがしにくい」といった点に対応するべく、構造や素材を見直していったことが大きいのですが、今回はさらに弱点が解消され、ついに見栄えまで洗練されてくれました。ブラボーという他ないでしょう。
また、前モデルから引き続き、歩行時の動きに追従しやすい柔軟な「フリー・フロート・ヒップベルト(下写真)」によって身体の揺れに対しても安定した重心をキープし、背負った直後の快適さがずっと続きます。
収納性と使いやすさ:相変わらず使いやすさ抜群の収納とパーツ類
バックパックにおける「背負って運ぶ」以外にもうひとつ最も重要な役割である荷物を「収納する・取り出す」という部分でもまったく手を抜かず快適さを追い求めるのがグレゴリー。このモデルもとにかくストレスなく使える工夫が満載で、相変わらずさすがと感心せずにはいられないポイントがたくさんあります。
まずメイン収納へのアクセスは、前作同様スムーズに開け閉めできるドローコード(下写真)に、
同社のフラッグシップモデル「バルトロ」シリーズにもあったフロントで大きく開く逆U字型のジッパー開閉(下写真)によって、パッキングも出し入れも楽々。
両サイド底部には配置されたサイドメッシュポケットは、伸縮性も耐久性も十分で、ペットボトルやナルゲンボトルもしっかりと収納できます(下写真)。サイドのストラップはポケットの外に出して細長いアイテムを固定させることもできます。
なお、今回の35リットルモデルではポケットの出入口は上方の1方向のみであり、背負いながらボトルを取り出すということは難しいのですが、55リットル以上のモデルでは横方向の口が用意されているため、歩きながらボトルの出し入れが可能です。個人的には35・45リットルモデルでも欲しかったなぁ。
フロントのメッシュポケット(下写真)は前モデルの全面メッシュから、摩耗しやすい部分をポリエステル生地にしたハイブリッド仕様に。伸縮性は減ったものの、メッシュ生地は破れやすかったので、その意味で耐久性は高まっています。デザイン的にも最近のグレゴリーらしくなりました。
ポールやアックス用のループはフロントに1つのみ配置されています(下写真)。
トップリッド(雨蓋)ポケットはぐるりとコの字型に開くジッパーによって大きく口を開けることができます(下写真)。出し入れはしやすいのだけれど、コの字にジッパーを引くのがどうしても苦手。ジッパーのラインがカーブしているため、一気にスッと引くことができない。小さなことですが、個人的には大きく開いてかつ一文字のジッパーの方が好みです。
ヒップベルトの両サイドにジップポケットは、昨今のスマホ大型化に合わせてか、非常に横長でマチも大きく豊富なスペースが確保されています。6.7インチの大き目スマホも余裕をもって収納できます(下写真)。
ハイドレーションのセッティングについては、チューブを通す孔の位置も中央で出しやすいだけでなく、右のショルダーストラップにはチューブの固定クリップもついて、かなり手厚くスマートなセッティングが可能です(下写真)。同社のハイドレーションブラッダーならばさらに固定しやすくなっています。
気になる点:サングラスホルダー(クイック・ストゥ)は?付属レインカバーは?
快適な背負い心地と使いやすい収納でどこまでも完成度の高いバックパックではあるのですが、一方でどうしても気になる点がないわけではありません。
ひとつはこのバックパックの弱点ともいえると思うのですが、基本機能こそ充実しているものの、ハードな行程にあると便利なアタッチメント類やベーシックなトレッキング以外のアクティビティに対応できるような柔軟なパーツが決定的に不足しているという点です。例えば底部や上部などにクローズドセルマットを括り付けられるようなストラップが付いていない(55リットル以上には付属)。ポール・アックス用のループは1つのみ。自前のストラップやコードロックを外付けできるようなループやデイジーチェーンもほぼなし。これでは冬にスノーシューなど取り付けようとしても(不可能とは言いませんが)かなりの工夫が必要です。
また、前モデルまであって気に入っていたサングラスホルダー(クイック・ストゥ)や付属のレインカバーも省略されてしまいました。邪推ですが生産コスト増の影響がこうした細部に大きく影響している気がして残念です。
まとめ:爽快・便利の完成度をより高めたベンチレーションバックパックのトップランナーは、初めてのバックパックに激おすすめ
GREGORY ズールシリーズは今回のアップデートによって、背面メッシュの利点を保ちながら、弱点である重心の安定性や収納しにくさをある程度気にならない程度に克服し、従来の密着型バックパックと双方のメリットをバランスよく兼ね備えたことによって、これまで以上に快適さを進化させた温暖シーズンのハイキング向けバックパックです。
特に山を始める人にはまずこのバックパックを選んでおけば重い荷物にも疲れにくく、かさばる荷物もノンストレスで持ち運ぶことができるはず。というかこのモデルで不満があるようなら、他に何を勧めていいか分からない、それほどに入口として最もふさわしいバックパックのひとつといえます。
ただ、最高クラスの背負い心地があるからと言って、自分のようなこだわりの強い人間にとっては物足りなさが目立つパックであることも否めません。冬期など過酷なシーズンに持ち出そうとしたり、一歩進んだマウンテンアクティビティでこだわった使い方をしようとしたとき、そのシンプルさが他の製品の拡張性や汎用性に比べて見劣りすることは確かです。
いずれにせよその辺りの特徴をしっかりと見極めれば、このバックパックはきっとかけがえのない相棒になってくれる。そんな実力は十分備えていることは確かです。