もしもあなたがレースを離れ、自分だけのトレイルを走りたくなったら。あるいはもしもあなたがもっと遠くへ、もっと自由に山歩きを楽しみたくなったら──。最適なのは軽量で繊細なレースギアでもなく、重厚な山道具でもないかもしれません。
用途や目的に対応した幅広いラインナップを誇るサロモンのランニングシューズに昨年秋冬から仲間入りしたXAシリーズの最新作XA ELEVATEは、バラエティに富んだハードなルートを走破したいランナーや、より速く、遠くを目指し始めたハイカーにとっての最適解となるべくデザインされたシューズ。一方、レースに求められる軽快さと登山に求められる耐久性という相反した機能が同時に求められるスピードハイクで活躍できるようにデザインされた20LのバックパックがOUT PEAK 20。この2つが組み合わさると、これまでオーソドックスなスタイルでトレイルランやハイキングを楽しんでいた人たちにとって、山旅の風景は一変することでしょう。
今回はこの2つのギアを実際に1泊できる程度の荷物で、実際にフィールドを走ってみたインプレッションをもとに、SALOMON製品担当者へその答え合わせもしてみたりして、その使い心地をレポートしてみます。
目次
大まかな特徴
XA ELEVATE
クロスアドベンチャーを意味する「XA」を冠したXAシリーズはアウトドアシーンにおいてさまざまなアクティビティをこなし、最速でゴールするというコンセプトが源流にあります。そのためXAシリーズはトレイルランニングだけをターゲットにしたモデルではなく、多様な路面状況、気候条件で対応できる高いプロテクションと機動性が最大の特徴です。
そのコンセプトを受け継ぐXA ELEVATEは、アッパーには突起物から足を守るTPUプロテクションがシームレスに圧着され、ミッドソールには高い安定性を実現するAdvanced chassis™にゴツゴツした地面からの突き上げを防ぐプロフィールフィルムを搭載、そしてアウトソールには濡れた路面でも高いグリップ力を発揮するPremium Wet Traction Contagrip®を採用するなど、トレイルだけでなく岩場やガレ場、泥道、そして登山道を離れたヤブ漕ぎまで、さまざまな悪路を長時間縦走しても安心のプロテクションを実現しました。もちろんサロモン独自のSensiFit™とQUICKLASE™による抜群のフィット感も健在。防水性を高めたGORE-TEX®モデルもラインナップされています。
OUT PEAK 20
軽量性と機動力が求められるトレイルランニング向けパックと、長時間背負っても安心の快適性と利便性、耐久性が求められるハイキング向けパックのベストバランスを求めて生まれたスピードハイク向けバックパック。タフな環境でスピーディに行動するための軽さと耐久性を兼ね備えたファブリック。高い通気性とフィット感を備えた背面パネルとショルダーベルト。メインコンパートメントだけでなく全体に配置された豊富なポケット類は容量表示以上の高い収納性を発揮します。背負った状態で最適なフィッティングを可能にするSensi Fit™(パック)と激しい振動にもぶれにくいMotionFit™ トレイルによって大きな荷物でも安定して快適に行動することができます。
主なスペックと評価
XA ELEVATE
項目 | スペック・評価 |
---|---|
重量 | 298g(27cm片足実測) |
スタックハイト | 25mm/17mm (8mm ドロップ) |
アッパー |
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シャーシ |
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アウトソール | Premium Wet Traction Contagrip® |
快適性 | ★★★★☆ |
重量 | ★★★☆☆ |
グリップ | ★★★★☆ |
プロテクション | ★★★★☆ |
安定性 | ★★★★★ |
総合評価 | ★★★★☆ |
OUT PEAK 20
項目 | スペック・評価 |
---|---|
公式容量(L) | 20 |
参考実測容量※(L) | 27.5 |
公式重量(g) | 514 |
実測重量(g) | 536 |
実測1Lあたり重量(g) | 19.5 |
生地 | 100D ナイロン製ミニリップストップ、防水 500mm 70D ナイロンダブルリップストップ、防水 500mm |
背面システム | MotionFit トレイル SensiFit™(パック) |
ポケット |
|
付属品 | エマージェンシーシート |
重量 | ★★★★☆ |
快適性 | ★★★☆☆ |
機動性 | ★★★★★ |
収納性 | ★★★★☆ |
機能性 | ★★★☆☆ |
総合評価 | ★★★★☆ |
※ ピンポン球(直径40mm)をパック全体に詰めた個数をリットルに換算した独自の計測結果によるものです。
詳細レビュー:XA ELEVATE
フィット感とプロテクションに優れたアッパー
このシューズと初めて対面して思ったのは、ほぼ同じ時期に登場したSENSE RIDEとかなり似ているなということ。確かにサロモン独自フィッティングテクノロジーであるSensiFit™とシューレースQUICKLACE™を搭載し、メッシュの生地にプロテクションが圧着されている点は同じ。しかし足を入れた時のフィーリングは思ったよりもかなり別物でした。
とはいえ前提として、基本的なフィット感は相変わらず素晴らしい。土踏まずの底から甲全体を包み込むように固定してくれ、足が靴の中で暴れません。
ただSENSE RIDEは全体的に柔らかく包み込んでくれるフィーリングである一方、XA ELEVATEはそれに比べるとやや硬質な感触を受けます。その理由はこのモデルがよりプロテクション機能を重視した結果、つま先・ミッドフットなどにより高耐久なTPU素材を圧着しているためで、これによって突起物から足をしっかりと守ってくれます。ハードなコースも見据えていくのであれば、この程度のトレードオフはむしろ歓迎するべきでしょう。
そのアッパーの質感の違いからか、サイズ感についても微妙に印象が異なります。個人的にはXA ELEVATEの方がややタイトな感じでしたので、自分はジャストサイズの26.5cmよりも登山靴で多い27.0cmの方がしっくりきました。
地面の突き上げをガードするプロテクションの高いミッドソール
今回のレビューでは5kg以上10kg以下の荷物を背負い、高低差の激しいコースを選んで積極的に走ってみたところ、その足運びのスムーズさとかかとを置く時の安心感にまず驚きました。基本的にランニングシューズな作りですから290gという重量も、柔軟なミッドソールも登山靴として見れば歩き(走り)やすいのは当然ですが、この軽快さでハイキングシューズのように随所に安定性とプロテクション機能が配慮されている点が違います。
かかと周りには軽量かつ高機能なAdvanced Chassis™が一般的なトレイルランでの着地以上の強い衝撃に対しても優れた安定性を実現します。
さらにミッドソールには軽量で固いTPUフィルムがPROFEEL FILMとして内蔵されています。これがゴツゴツした岩など地面からの突き上げをしっかりと防いでくれるため、長時間のガレ場歩きでもダメージが蓄積されません。
ちなみにSENSE RIDEではある程度整備された路面でのトレイルランニングが前提のため、同じEnergy cell+という高反発ミッドソールでもVibeテクノロジーによって非常にやわらかい振動吸収素材OPALが内蔵され着地の衝撃吸収感は強く、その点フィーリングは大きく異なります。欲を言えば高プロテクションとVibeテクノロジーどちらも搭載されているのが一番ではありますが、まだ贅沢すぎる望みのようです。
悪路にも強いグリップ力を発揮するアウトソール
考えられる最悪の路面でも難なく走破できるようにデザインされたこのモデルは、当然アウトソールも徹底して悪路に対応しています。
素材には同社のマウンテニアリングモデルに使われるような、濡れた路面に強い配合のPremium Wet Traction Contagrip®を採用。それをトレッキングシューズに近いラグパターンで構成することで、走りやすさだけでなく登りでの牽引力(つま先から外側部分)、下りでの強い衝撃に対するグリップ力(かかと部分)、濡れた路面や柔らかい路面での滑りにくさ(中足部分)が感じられるように考慮されています。下りでかかとを地面に勢いよく着地できる安心感はここからも起因しているわけです。
ただ少し気になったのは、同じPremium Wet Traction Contagrip®を採用している同社のハイキングシューズOUTPATHと履き比べてみると、濡れた岩場でのグリップ性能は若干XA ELEVATEの方が滑りやすかった印象です。このためどれだけ悪路に強いという印象であっても、それはあくまでランニングシューズのなかではという注釈つきで認識しておくのがいいのかとも思いました。
気になる点
フィット感の部分でも若干触れましたが、トレイルランニングシューズとして基本的な性能は高いものの、どちらかというとプロテクションを重視して作られているため、全体として履き心地や走りのフィーリングが(ランニングシューズとしてみると)やはり”硬め”です。ソールが薄いわけではありませんが衝撃の吸収性も特に高く作られているわけではありません。このため整備されたマイルドなトレイルを走ったときの快適感でいえば、いわゆるSENSE RIDEのように柔軟かつクッション性の高いシューズと比べるとやや低め。そこは現状ではどちらを重視するかによるため注意が必要です。
詳細レビュー:OUT PEAK 20
登山をするバックパックとしては規格外の軽さと通気性
手に取ってみると、まず何といっても軽い。一般的な20Lクラスの登山向けデイパックならば800g程度が主流、そしていわゆるウルトラライト系のバックパックでも500gレベルはそう簡単には見当たりません。本体に使用されている生地が極端に薄いというわけでもなく、薄くする部分と最低限の強度を保つ部分を適材適所で使い分けているようです。
もうひとつ、発泡素材の背面パネルと背面全体にクッション性と通気性・速乾性を考慮して編まれたメッシュ地、カットされたウェストベルトも軽さの要因でしょうか。ここはトレイルラン用のパックでの知見が上手に活かされている部分といえます。
見た目以上に大容量、出し入れも簡単な収納性の高さ
公称でのパック容量は約20Lとなっていますが、実はこのパックの収納力はそんなものではありません。まずこのモデルの収納周りをチェックしていきます。
まずメインコンパートメントは上にいくほど底面積が広くなるタイプなので、見た目よりも多く入る印象です。アクセスは縦に配置されたダブルジッパーからなので、出し入れも簡単。防水性こそロールトップ式の入り口に劣るものの、利便性については確実にこちらの方が優れています。
フロントには左右にボトル(フラスク)ホルダー(下写真左上)、5インチのスマホも入る大きなジッパーポケット×2(下写真左右下)、メッシュのタブレット収納ジッパーポケット×2(下写真右上)などかなりバラエティー豊富。
サイドにもメッシュポケットが付いており、ボトル・ポールなど容易に収納可能です。
これだけ豊富な収納があってほんとに20Lなのか?試しにこのサイトで以前軽量バックパックの比較レビューをした時のように、パックの中に直径4mmのピンポン玉を入れてみて、実際のおおよその容量を測定してみました。
するとどうでしょう。約20Lというのはメインコンパートメントの部分であって、それ以外のサイド・フロントのポケット類を含めれば、おおよそ27L程度入ることがわかりました。フロントのボトルホルダーやポケット類がないことが多い登山用のバックパックと違って、全体の収納が充実かつ効果的に機能しているこのパックでは、予想外にたくさんの荷物が収納できることが分かりました。例えば下の写真ように、超軽量シェルターとキルトの寝袋で極限まで切り詰めて、テント泊なんてことも不可能ではありません。
この軽さとコンパクトさからは想像できない収納性の高さは、このパックの最も好きな部分です。
立ったまま身体に確実にフィット、走ってもブレない機動性の高さ
非常に独特で便利な機能だと思ったのが、「パック版SensiFit」といわれるフィッティング機能。このパックのサイドからヘッドにかけてコンプレッションコードが張り巡らされ、それをパックを背負った状態で肩口から引っ張ると、パック全体が圧縮され、背中にフィットさせることができる仕組みです。これは実際にやってみるとわかるのですが、行動姿勢で締め上げることができるためしっかりと身体にフィットさせ調整することができます。
さらに胸のスターナムストラップは3つのジョイント、計6列の平ゴムを使用し、微妙なテンションを調整することができます。
もちろん脇腹にも調節ベルトが配置され、身体に密着させてしっかりと面で背負うことができます。パックの重心が上部にあること、そしてこの絶妙なフィッティングと固定によって激しい揺れにもパックのブレをかなり抑えてくれました。個人的には以前使用していたULTIMATE DIRECTION FASTPACK 30よりは断然こちらの方がブレは少なかったです。
斬新であるがゆえに気になる点
さまざまな課題を独自技術で解決している独創的なパックは、それゆえにまだ詰め切れていないと思われる部分がないわけではません。
まずフロント(胸部分)のスターナムストラップ。フックを紐のループに引っ掛けるようになっているのですが、とても狭くて付けにくい。そしてテンションを調節するのも、均等にするためには調節箇所が多すぎてやや不便です。
そして立ったままフィッティングできるSensiFit™(パック)機能も、基本的には素晴らしいのですが、パーツ的に煩雑になっており、締めたあと伸びた紐が煩わしかったり、緩めるのも若干手間だったり。うっかり肩を通っていた紐が抜けてしまって困ったこともありました。おもしろい機能だけに、さらに使い勝手を高められて欲しいものです。
その他、ショルダーハーネスの外側はメッシュ生地の縁を縫い合わせてあるのですが、ここが若干硬く盛り上がっているため、重めの荷物(その時は8kg)での行動時には擦れが気になってしまいました。ここもぜひ改善されて欲しい部分です。
まとめ:こんな人におすすめ
適度な軽さと耐久性を兼ね備えたランニングシューズとバックパックは、自分のようなレース主体でないトレイルランナー、別の言い方をすれば、コースタイムの6~7割程度のスピードで歩くハイカーにとってはベストなバランスを備えた装備だという気がしました。バックパックは20Lとはいえ収納がパック全体に分散されていたり、コンプレッションが上手くできるため、たとえ日帰りで荷物が少なくてもコンパクトにまとめられ、不快にならない汎用性の高さがあります。その意味では一見中途半端なサイズのようでいて日帰り~小屋泊まり、あるいはU.L.スタイルでの数日山行に幅広く使えます。
またシューズについてもウルトラライトな荷物で走ることをメインと想定すれば同社のX ULTRAのようなハイキングシューズより、いっそのことこちらくらいの軽快さ・プロテクションの方が十分な安全性で疲れにくいように思います。冒頭でも触れたとおり、レースを離れて自分だけのルートを模索し始めたランナーや、同じ時間でももっと遠くへ、より貪欲に距離を稼ぎたいハイカーにとっては素敵な選択になることでしょう。一方でこのモデルのコンセプトからするとしょうがない部分もあるのですが、あくまでもランとハイクの複合的なアクティビティを念頭に作られているため、レースを意識するならば、その見極めが大事になってきます。特にある程度整地されたコースでスピードが求められる場合には別の選択肢もあり得るでしょう。また特に大きな荷物や体重のある人で、自重が重くなる場合には、よほどの健脚でない限りはより安定性の高い登山靴が必要になってくるのでそこも留意しておくといいでしょう。
製品の詳細について、問い合わせ等はSALOMON公式サイトもあわせてご確認ください。