THE NORTH FACEが展開するVECTIVシリーズの中でも、優れたクッション性と安定性でロングトレイル攻略を強力にサポートするために開発されたシューズ、それが「VECTIV Enduris 4」です。
VECTIVシリーズといえばこれまでも、どうしてもフラッグシップである「Summit VECTIV Pro」が注目されがちですが、実はそれ以外のラインナップもターゲットは違えど細部まで作りこまれた秀作ぞろい。今回は、そんな隠れた実力を秘めたシューズをたっぷりと試走させてもらう機会を得ることができたので、実際に山道や林道で走り込んだリアルな感想を交えつつ、このシューズの実力を徹底検証してみました。VECTIV Enduris 4が前作からどう進化したのか、長時間の山岳走行でその真価がどう発揮されるのか、そしてどのようなランナーにとって最適な選択肢となるのかを深掘りしていきます。
目次
THE NORTH FACE「VECTIV Enduris 4」の主な特徴
VECTIV Enduris 4は、THE NORTH FACE独自のVECTIV 3.0システムを採用しており、推進力、安定性、クッション性を高める設計思想が徹底されています。前作からの最大の進化はソール厚が4mm増加したことで、クッション性を大幅に向上し、長距離走行時の快適性をアップデートしました。
VECTIV 3.0システムは、着地から蹴り出しまでの推進力を高めるプレートとロッカー構造が特長です。Enduris 4は、より柔らかく安定感のあるTPUプレートを採用。これにより、「誰もがより遠くへ快適に走れる」ことにフォーカスした設計となっています。
主なスペックと評価
項目 | THE NORTH FACE「VECTIV Enduris 4」 |
---|---|
重量 | 約285g (片足27cm) |
スタックハイト | 35mm/29mm |
ドロップ | 6mm |
アッパー |
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ミッドソール |
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アウトソール | SurfaceCTRL™ラバー(4mmラグ・10%天然ゴム) |
Outdoor Gearzine 評価 | |
快適性 | ★★★★★ |
軽快感 | ★★★★☆ |
グリップ | ★★★★☆ |
クッション | ★★★★★ |
プロテクション | ★★★☆☆ |
安定性 | ★★★★★ |
推進力 | ★★★★☆ |
詳細レビュー
フィット感と履き心地:足を入れた瞬間の安心感
足入れ感
履き口とタンに厚めのパッドが配置されているので、足入れ時の快適性は抜群でした。柔らかくクセのない履き口は、まるで足がシューズに吸い込まれるような感覚で、本当にスムーズに足が入っていきます。内側にしっかりとパッドが配されているおかげで、足全体を心地よく包み込むようなフィット感に、すぐに安心感を覚えました。
足を入れる前にサイジングで気になったのは、このシューズのサイズ感です。極端ではないものの若干小さめ(細身?)に作られているようで、いつもUS 9(27cm)サイズでちょうどよい自分の足が今回のモデルではUS 10(28cm)がジャストフィットでした。ただそれでつま先が過度に余るということもなく、しっかり足を合わせて適切なサイズを選べば問題ありませんでした。ただクセのある足型であることは確かなので、購入前には実際に試し履きして自分に合うサイズを確かめてみることをおすすめします。
実際に足を入れてまず感じた印象は、土踏まずから甲にかけてぴったりとしたフィット感、そしてかかとのしっかりとしたホールド感。それでいながら適度に伸縮するメッシュ生地によって窮屈感は感じられず、前足部にも足指を動かせる余裕があり、正確さと遊びとがバランスよく共存した、悪くない感触でした。長距離用にデザインされているといってもあまり気にする必要はなく、どんな距離・地形で履いたとしても問題なく快適なトレイルへと導いてくれます。
ウィングタン構造
大きな特徴であるウィングタン構造は、初めて足を入れた時から「おっ!」と感心させられました。足の甲を本当に優しく包み込みながら、それでいて確実にホールドしてくれる感覚です。おかげで、どんなに激しい下りのトレイルでも、シューズの中で足が前に滑ったり、横にブレたりすることがなく、自分は終始安心して走り続けることができました。
まるでシューズが自分の足に吸い付いているような感覚で、必要以上にシューレースを締め上げる必要もありません。これが、長時間のランニングでも足のストレスを最小限に抑え、快適性を保てる大きな要因だったと実感しています。まさに「自分の足のために作られたかのようなフィット感」と言っても過言ではありません。
ただし、ウィングタンが中足部から前足部全体を包み込む構造になっているため、もし不運にもタン部分から砂利や泥などが侵入してしまうと、これがなかなか取り除きにくいです。これは、この構造ならではの弱点だと感じました。ちなみに、同じシリーズのSummit VECTIV Pro 3では中足部のみを包み込む構造になっているので、この点は解消されていました。
アッパーのフィット
アッパーはシームレスな作りで、非常にしなやかなのが印象的でした。これにより、長時間走り続けても靴擦れで痛みを感じることは全くなかったです。また、トゥボックスが幅広設計なので指先の自由度が高く、トレイルでの細かなコントロールも安心して行えました。特に長距離を走る際には足がむくむことがあるのですが、この幅広さのおかげで足へのストレスを大幅に軽減してくれたのは本当に助かります。普段から幅広シューズを愛用しているランナーなら、きっと自分と同じように「これだ!」と感じるはず。初めてのロングディスタンスレースでも、このシューズが持つ高い快適性は大いに貢献してくれると確信しています。
シューレースシステム
デコボコしたシューレースが採用されているため、テスト走行中もフィット感の調整が本当に容易でした。コースの起伏が激しく、また足のむくみでフィット感を微調整したい場面が多いロングレースでは、このシューレースが大いに役立ってくれるはずです。締め具合を簡単に緩めたり締めたりできるので、どんな状況でも足に合わせた最適なフィット感を維持できるのは、ランナーにとって非常に心強いポイントだと感じました。
クッション性と安定性:長距離走行の疲労を徹底軽減
衝撃吸収性と足への優しさ
まず驚いたのが、着地時の衝撃吸収性です。ミッドソールに採用されたDREAMフォームの柔らかさと、厚底設計の組み合わせが本当に素晴らしい。ロードの硬い路面から、ゴツゴツした岩場、木の根が張り出すテクニカルなトレイルまで、どんな路面でも「ドンッ」という突き上げ感を効果的に吸収してくれるのを感じました。おかげで、膝や足裏への負担が大幅に軽減され、普段なら後半にくる疲労感がずっと少なく、長時間の走行でもパフォーマンスを維持できたのは、自分にとって非常に大きなポイントでした。
高次元で両立する安定性
ミッドソールに内蔵されたTPUプレートは、スタイライザーの役割も果たし、ソールの捻じれや横ブレをしっかり抑制してくれるおかげで、不安定なトレイルでも足元がぐらつくことなく、安心して走り続けることができました。特に足元が不確かな場所でも、特に、木の根が張り出していたり、小石がゴロゴロしていたりする足元が不確かな場所でも、しっかりと自分を支えてくれる感覚は、非常に頼もしかったです。
ただ、一つだけ走り込んでいて気になった点もあります。このプレートがヒールの中心部分には配置されていない構造のためか、急な上り坂で不意に踵から着地してしまった場合、ソールの沈み込みが大きく、わずかに不安定に感じる場面もありました。この辺りは、個人の着地スタイルや走り方によっても感じ方が変わってくるかもしれません。
推進力と走行効率:自然な前進をサポート
転がるような走り
足を入れた瞬間から、つま先がキュッと立ち上がるロッカー構造の恩恵を感じました。トレイルに出ると、まるで地面を転がるように、足が勝手に前へと進んでいく感覚に驚かされます。VECTIV Enduris 4に採用されているTPUプレートは、想像していたよりも柔らかく、適度に「しなる」んです。おかげで、特別なランニングフォームを意識しなくても、重心移動が驚くほどスムーズ。ロッカー形状のシューズは初めて、という方でも、この「転がしやすさ」はすぐに体感できるはずです。
この「転がるような走り」は、シューズが持つ自然な反発力と相まって、まさに「自然な前進感」として足を押し出してくれました。特に長距離を走る際には、余計なエネルギーを消耗することなく、身体がスッと前に出るような効率的なランニングができたのは、本当に心強かったです。
「厚底シューズやロッカー構造ってどうなの?」と少し構えている方もいるかもしれません。自分自身、最初からいきなり長い距離を走ってみましたが、全く問題ありませんでした。でも、もし少しでも不安を感じるなら、まずは3〜4回、短めの距離でその独特の感覚を試してみてください。きっと、すぐに足に馴染んで、この新感覚の走りに夢中になるはずです。
TPUプレートの推進力
ミッドソールに内蔵されたフォーク形状のTPUプレートは、ミッドソールの反発力を効率的に推進力へと変換してくれるのを強く感じました。特に上り坂では、この推進力によって普段よりもスムーズに登ることができます。おかげで「もう少し頑張れるな」と、ポジティブな気持ちになれました。
さらに、下り坂では踵部にプレートを配していない設計が功を奏し、スピード調整が非常に容易に感じられました。これはテクニカルな下りでも安心してペースをコントロールできる大きなメリットです。
このTPUプレートはカーボンプレートのような「ぐん!」と蹴り出す瞬発的な推進力とは少し違います。どちらかというと、より穏やかで安定した前進をサポートしてくれる感覚です。リラックスして「どこまでも走り続けたい気持ち」が湧いてきます。
路面からの反発を効率的に前方への推進力へと変換してくれるおかげで、全体として省エネで走れる、そんな印象を受けました。
グリップ性能:あらゆるトレイルに対応する信頼性
トレイル別のグリップ力
アウトソールに使用されているSurfaceCTRL™ラバーは、4mmのしっかりとしたラグを持ち合わせています。これがもう、あらゆる路面で確実に地面を捉えてくれます。乾いた土のトレイルはもちろん、ゴツゴツした岩場やザレ場では「ググッ」と食いつき、まるで地面に吸い付くかのようでした。
特に、雨で濡れたトレイルでも安心できるパフォーマンスを発揮したのは驚きました。一般的なシューズだとツルッと滑りがちな場面でも、Enduris 4は高いトラクションを発揮してくれました。コントロールを失うほど滑ることはなく、期待以上の安定感でした。
ただし、粘り気のある深い泥濘地では、バランスを崩してしまう場面もありました。それでも、泥抜けは非常に良いので、シューズに泥がこびりついて不快感が続くようなことはありませんでした。
最適化されたラグパターンのおかげで、登りでは力強く地面を蹴り上げられ、下りではしっかりとブレーキが効くのを実感できます。どんなテレインでも安定したグリップ力を提供してくれる汎用性の高さは、本当に頼りになります。
また、グリップ力だけでなく、アウトソールの耐久性にも感心しました。ラバーの配合とラグの設計が絶妙で、長い距離を走り込んでも、アウトソールのパターンがしっかりと残っていて、「これならロングディスタンスでも安心して使えるな」と好印象でした。
環境適応性と耐久性:長く、快適に走り続けるために
通気性・排水性・速乾性
アッパーに採用されたブリーザブルメッシュは、確かに優れた通気性でシューズ内の蒸れを効果的に軽減してくれる印象でした。しかし、走り込んでいて気づいたのは、タン部分のパッドが厚めに作られていること。これが、特に気温の高い環境下では足の甲に暑さを感じさせ、少し蒸れやすくなる原因になっています。だから、VECTIV Enduris 4は、真夏の炎天下や高温多湿な時期よりも、涼しい季節での使用が特におすすめだと感じました。
渡渉のあとでも排水性と速乾性は優れていました(左)。インソールを外した下の層、ストローベルボードが滑りにくい素材でできているため、濡れたインソールがシューズ内で滑るような不快感は一切ありませんでした(右)。
一方で、雨の中を走った際には、その排水性と速乾性が光りました。水たまりに突っ込んでもシューズ内に水が溜まりにくく、走り続けているうちに乾いてくれるので、長時間濡れたままで不快になることがありませんでした。この速乾性の高さは、ランニング後もこまめに洗えるという点でも、自分にとっては嬉しいポイントでした。実際に、メッシュ素材のおかげで、手で軽くこするだけでも十分に汚れが落ちるのには感心しました。
ロングディスタンスで活きる軽快さ
このシューズを手に取った時、厚底モデルの割に「軽っ!」と感じたのが最初の印象です。この感覚、実際に走り出してみるとさらに際立ちます。足運びが本当に軽快で、厚底なのに足の一部になったかのような感覚でトレイルを駆け上がっていける。この軽量性は、ロングディスタンスレースにおいて体力を温存し、後半パートでもパフォーマンスを維持する上でとてつもなく重要な要素になるでしょう。長い距離を走っても、足への負担が少なく、疲労の蓄積をしっかり抑制してくれるのを実感できたのは、大きな収穫でした。
頼れる保護性能
トレイルでは、不意に枝や岩に足をぶつけてしまいますが、Enduris 4は適度な補強パーツとしてトゥガードとヒールガードを配置しているため、安心して踏み込むことができます。テクニカルなセクションで何度か擦れてしまいましたが、足もシューズも無事で、「これならどんなレースでも頼れるな」という確かな安心感がありました。
まとめと結論:信頼できる相棒として
今回のテストを通じて、自分はVECTIV Enduris 4がTHE NORTH FACEの掲げる「ランナーのポテンシャルを最大限に引き出す」というVECTIVシリーズの理念を、まさに「誰もがより遠くへ快適に走れる」という形で具現化していると確信しました。
正直なところ、厚底シューズやロッカー構造に対して、「本当に自分に合うのだろうか?」と半信半疑な部分もありました。しかし、実際にこのEnduris 4を履いて山道や林道を走り込んだ結果、「これはすごい!」と、これまでの常識を覆されるような感覚がありました。
Enduris 4は、軽量性、高クッション性、高安定性、そして高グリップ力を驚くほどバランス良く備えた、まさに万能型のトレイルランニングシューズだと感じます。自分自身、さまざまなトレイルを走ってきましたが、「ストレスフリー」を目指して開発されたシューズのひとつであるのは間違いありません。
特にトレイルランニング初心者の方や、「もっと長く、もっと楽に走りたい」と願うウルトラディスタンス挑戦者まで、本当に幅広いランナーにおすすめしたい一足です。24,200円(税込)という価格で、VECTIV 3.0テクノロジーの恩恵を受けられるのは、価格以上の価値があると言えるでしょう。
VECTIVシリーズの中でも、Summit VECTIV Pro 3のような攻めのレース用モデルとは一線を画しています。Enduris 4は構造がシンプルで、自分の足にはより柔らかく、何より汎用性の高さを感じました。カーボンプレートのような瞬発的な推進力ではなく、長時間走り続けても足を守り、疲労を軽減してくれる、まさに「快適性や安定性を追求し、ランナーを強力にサポートする」設計思想が光っています。
最近はたくさんの厚底トレイルシューズがありますが、その中でもEnduris 4は「クセがなく、誰にでもフィットしやすい」履き心地と安定感が際立っています。あれこれ悩むくらいなら、まずはこのEnduris 4を試してみることをおすすめします。価格も含めて、本当にバランスの取れた、”間違いのない”選択肢だと自分は思います。
VECTIV Enduris 4 の「良いところ」と「気になるところ」おさらい
良いところ
- とにかくクッション性と安定性のバランスが素晴らしい!
長時間走り続けても、足裏や膝への衝撃が驚くほど少ないです。厚底なのにグラつきにくく、安定感があるから、安心してどんどん前に進めます。 - 幅広・甲高ランナーにも合う、優しいフィット感!
私のような幅広・甲高の足でも、締め付け感がなく、足全体を包み込むような快適さがあります。特に長距離で足がむくんできてもストレスを感じにくいのは、本当に助かります。 - 長時間の走行でも足が本当に疲れにくい、これは感動レベル!
DREAMフォームの恩恵を存分に感じられます。まるで足が優しく守られているようで、普段なら疲労困憊になるようなアップダウンのある岩場を走っても、足へのダメージが少なく、翌日へのリカバリーも早かったです。 - 悪路でも頼れる優れたグリップ性能と、長く使える耐久性!
濡れたトレイルや岩場でもしっかりと地面を捉えてくれる安心感があります。アッパーの補強もしっかりしているので、タフなトレイルでも気兼ねなく履き続けられます。
気になるところ
- 瞬発的な推進力は、正直期待しちゃダメ!
カーボンプレートのような「ぐいぐい前に押し出す」爆発的な推進力は期待できません。穏やかに、効率良く進むことにフォーカスしたモデルだと理解しておきましょう。 - 路面からの細かい情報を感じるのは難しいかも!
クッション性が高い分、路面の細かな凹凸や変化を感じ取る感覚は、他の薄いソールシューズに比べて鈍くなります。テクニカルなセクションでは、慣れが必要かもしれません。 - 「スピード命」のランナーには、もしかしたら物足りない可能性あり!
レースでタイムを狙うような、アグレッシブなスピードランナーにとっては、もう少しダイレクトな反応や軽快さが欲しくなる場面もあるかもしれません。 - 斜面を横切るトラバースのようなシチュエーションは、ちょっと苦手!
厚底でクッション性が高い特性上、急な傾斜のトラバースでは、足裏の感覚が掴みにくく、横方向の安定性にやや不安を感じることがありました。
自分の推薦度: ★★★★☆(5段階評価)
「トレイルランニングって楽しい!」を安全に、そしてとことん快適に体験したい。そんなすべてのランナーに、自信を持ってVECTIV Enduris 4を推薦します。ぜひ一度、このシューズがもたらしてくれる快適なトレイル体験を、あなた自身で味わってみてください。
THE NORTH FACE「VECTIV Enduris 4」の詳細と購入について
THE NORTH FACE「VECTIV Enduris 4」 の製品の詳細については、公式サイトをご確認ください。
執筆:東條 一矢
茨城県水戸市生まれ。社会人になってトライアスロンを始め、苦手なランニングと格闘しているうちに山岳耐久レースにハマり、第1回日本山岳耐久レース(通称:ハセツネ)を完走。そこからマウンテンスポーツの世界へ。30代で埼玉県川越市に引っ越してからウルトラマラソンという新たな沼にハマり、信越五岳、上州武尊、KOUMI100といった過酷なロングレースを連戦完走しながら国内各地のトレイルレースを駆け回る日々。
「自然の中で思いっきり遊ぶこと」と「その美しい自然を守ること」は、絶対に切り離せないという信念に基づき、実際にフィールドで体験したことや、本当に信頼できるギア情報を皆さんにお届けしたい!とOutdoor Gearzineに参画。現在はNPO法人「彩の国ウルトラプロジェクト」(https://npo-sup.org/)の代表としての顔を持ち、レースをプロデュースしたり、地域のイベントを開催したりと、走る以外でもアウトドア界の盛り上げに奔走中。