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躓く王者 GORE-TEXと、その隙を伺う新メンブレン。2026年の登山向けレインウェア選びと注目の新作

ここ数週間、新シーズンのレインウェア市場を俯瞰し、注目モデルのテストを繰り返す中で、私はある確信に近い「転換点」を感じています。これまでいくつもの取材現場で耳にしてきた断片的な情報が、今、パズルのピースが埋まるように一つに繋がり始めました。

かつて、レインウェア選びの正解は今よりももっとシンプルでした。しかし現在、マーケットは群雄割拠の時代に突入しています。ここでは、現在進行形で起きている地殻変動の輪郭と、それを踏まえた今シーズンの注目モデルについて書いてみます。

「絶対王者」不在の今、レインウェア迷子の皆さんに届けば幸いです!

王者の行き詰まり:PFCフリーGORE-TEXの誤算と「ポストGORE-TEX」の台頭

かつて「防水透湿=GORE-TEX」という図式は絶対的でした。過酷なストームテストに裏打ちされた信頼性は、高価な価格に見合う安心感を提供してくれたものです。しかし今、その足元が激しく揺らいでいます。

環境負荷を抑えた新世代の「GORE-TEX ePEメンブレン」に対し、フィールドからの評価は複雑です。「撥水の低下が早まったのではないか?」「以前ほどの透湿性を感じない」……。Outdoor Gearzineのレビューでも何度か触れてきましたが、実際に新GORE-TEXのレインウェアを何着も来ていた自分も、実感としてもその辺は多かれ少なかれ否定できない事実です。

メーカーは「こまめな洗濯」を推奨していますが、たとえこまめに洗濯したとしてもフィールドで使用している最中にパフォーマンスの低下が感じられる現状では、根本的な問題がそこには無いといわざるを得ません。フッ素を使わない「PFCフリー撥水剤」に起因するウェットアウト(表地の保水)の早さが、メンブレンの孔を塞ぎ、本来のスペックを阻害してしまうのです。

こうしてGORE-TEXに対する絶対的な信頼性が薄れたことで、多くのアウトドアメーカーは「ポストGORE-TEX」探しに動き始めました。

静かな地殻変動:各ブランドが取り組み始めた「オリジナルメンブレン」

Outdoor Gearzine的に興味深いのはここからです。GORE-TEXの信頼性低下によって、普通に考えるならばこれまでライバルだった「eVent」や「Polartec NeoShell」といったライバルが台頭するかと思いきや、これらの素材は脱フッ素(PFCフリー)の荒波に揉まれて残念ながら次世代製品の開発が思うように進んでいないのか、市場から姿を消しつつあります。唯一「PERTEX」は何とかアウトドア向けメンブレンメーカーとして頑張っているような状況。

でどうなったかというと、GORE-TEX製品はこれまで通り手掛けつつも、各ブランドはこぞって「独自メンブレン」を看板に掲げた製品を次々と発表し始めました。もちろんこれまでも地道にオリジナルメンブレンを開発していたメーカー(モンベルやファイントラック、パタゴニア、ノースフェイスなど)はありましたが、ここ数年でそうしたブランドが一気に加速した印象です。

例えばざっと少し例を挙げてみますと、

などなど。

ちなみに、これらのほとんどは構造の同じ「親水性無孔質」タイプで実質的には性能に大きな違いは見られない。色々と周辺から得た情報を基に推測すると、常識的に考えてこれらのメンブレンの裏には東レや帝人、旭化成といった化学・素材メーカーや、その関連メーカーの存在が大きいと想像されますが、こうしたプレーヤーが躍進できている要因としては、やはりGORE-TEXのプレゼンス低下が影響していると考えるのが自然でしょう。

かつてのGORE-TEXには、厳しい使用制限や高額なロイヤリティを払ってでも使う価値がありました。しかしそのパフォーマンスとブランド力が低下しつつある今となってはそこまでの価値はありません。しかもかつてGORE-TEXの競合であったメーカーもそろって足踏みをしているなかにあって、今デザイナーたちが求めているのはGORE-TEXというラベルではなく、より自分たちの理想を形にできる自由さと高いパフォーマンスです。

確かな防水透湿性はもちろん、ストレッチ性、しなやかさ、耐久性。これらを高いレベルで備えながら、さらにブランドのニーズに合わせてオーダーメイドで開発を進められる素材メーカーの技術力は、今の市場において各ブランドにとって圧倒的な魅力を放っています。パタゴニアの「H2No」や、ティートンブロスの「Täsmä」、ファイントラックの「エバーブレス」など、いずれも高い技術力をもった素材メーカーとの強いパートナーシップによって生まれています。黒子として世界のトレンドを支えてきた日本の技術は、今まさにGORE-TEXの牙城を崩しつつあるといっても過言ではありません。

防水通気メンブレン:登山用レインウェアとは別ルートでの進化

もう一つ忘れてはならないのが、かつての「Polartec Neoshell」や、THE NORTH FACEの「FUTURELIGHT」に代表される「防水通気」メンブレンの進化と定着です。これらは「水蒸気」ではなく「空気そのもの」を通すナノファイバー構造を持ち、高出力なアクティビティで真価を発揮します。

今季登場のミレー「ティフォン ノヴァ」は旭化成とタッグを組んで生まれたという新開発のメンブレンです。このように多くのプレーヤーがこの種の市場にも参入してきており、ここでも多様な進化が見られます。

これらのメンブレンは、今となっては「GORE-TEXと比べてどっちがいいか?」といった次元で語るのは意味が無くなっているというのが自分の感覚です。つまり同じ雨具ではあるけど「用途がまるっきり違うもの」として考えた方がいい。

GORE-TEXに比べて高い耐久性や防水性は望めないので、一般的な登山でレインウェアとして使うのは(役に立たないとは言わないが)万全とはいえません。

一方で蒸れにくさ、空気の抜けは明らかにGORE-TEX(その他防水透湿系のレインウェア)よりも高いことが実感できます。このことから、こちらのタイプの雨具を選ぶ方がいいケースは、「温暖期で」「高出力・短期間のアクティビティ」といった季節・用途・目的で、その特徴を理解したうえで使用するのが適した使い方でしょう。端的に言えば春~夏~秋口での日帰り~週末ファストパッキングやトレイルランニングです。

PFCフリー時代の「高撥水性」モデルの探し方

今レインウェアを選ぶときに気をけたい最後のポイントとしては、ここ数年で一気に切り替わりつつある「PFCフリー(C0撥水剤)のDWR(耐久撥水)」によって、いわゆる「撥水性能の低下」が顕著です。これも現在のレインウェア選びにおいて最もストレスフルで、避けては通れない悩ましい問題でしょう。

C0撥水剤が以前のフッ素系に比べて頼りなく感じてしまうのには、明確な理由が3つあります。

そんな昨今の「弾かなくなった時代」に、それでも高い撥水パフォーマンスを必要とする僕のような人間のために、できる限り撥水性の高いモデルを選ぶためのポイントを挙げてみます。

C0撥水時代にそれでも高撥水をあきらめない人のための3つのアプローチ

1.「メンブレンが表地に剥き出し」の構造を選ぶ

かつての「GORE-TEX SHAKEDRY」のような表地を持たず、メンブレンを一番外側に配する構造のレインウェアが唯一、コロンビアの「OutDry Extreme(コロンビア)です(ただし撥水性の高さ以外での登山・アウトドア用途でのパフォーマンスに関しては微妙なのが悩ましい)。

2.分子結合型撥水「GTT Empel」採用モデルを選ぶ

従来の「塗る」撥水ではなく、繊維に分子レベルで結合させるEMPEL社の先端撥水技術です。PFCフリーでありながら、従来のC6撥水をも凌ぐ圧倒的な耐久性と「弾き」の強さを持つといわれています。現在のところ、この技術を用いているのは自分の知る限りBlack Diamondの一部のレインウェアだけです。

3.「C6撥水剤」をDWRにまだ使用しているブランドを選ぶ

欧州や北米では規制によりC0撥水剤しか認められていませんので、現在では基本的に欧米に向けても販売しているブランドはすべてC0撥水のモデルしかありませんが、Teton Bros.のように一部の国内ブランドではまだより撥水力のあったかつての「C6撥水」を使用しています。環境負荷を少しでも考えれば使わないに越したことはありませんが、アクティビティによっては命にかかわるリスクと向き合わなければなりません。それを考慮したうえで、自己判断でC6撥水を選ぶという選択肢は、個人的には全然理解できます。

またこれは裏技ですが、アウトドア・洋服用のケア用品としてC6撥水剤を単品で販売しているところもあります。そこで購入したC6撥水剤を(C0撥水を使用した)既存のレインウェアに上から掛けなおすということでも(製造段階でのDWR処理に比べれば弱くはなりますが)、高い撥水力を実現することはできます。ちなみに自分が使っているのは「洗匠屋」のメンテナンスキット撥水剤。いつまで取り扱っているのか分からないので、気になる人は買いだめしてみてもイイかも。

まとめ:「生地・素材のブランド」で選ぶから「構造と作りの中身」で選ぶ時代へ

「GORE-TEX」だから、「eVent」だから、「Polartec」だから安心という思考停止の時代は完全に終わりました。これからはブランドやラベルや、インパクトのある数字に惑わされてはいけません。

これからのレインウェア選びは、表地の裏にあるメンブレンの性質を理解し、自分のアクティビティやスタイルに合った種類を見極め、またそれ以外の撥水性やパーツの作りなどの総合的な性能を判断するための知識がより求められてきます。スペック表の数字に惑わされず、中身をしっかり見ていくことで、自分が本当に必要としている一着が見えてくるはずです。

2026年の注目レインウェア

ここからは、レインウェア戦国時代の真っただ中にある今シーズンの新作の中から「これは」と思うレインジャケットをピックアップして紹介します。なお、新作・既存モデルを含めた全体でのおすすめモデル紹介はメンバーシップページにて紹介しています。よろしかったらこちらからメンバーシップに加入してみてください。

Black Diamond メンズ ストラタラインストレッチシェル

注目はGTT社の「EMPEL」撥水加工。従来の「塗る」撥水ではなく、分子レベルで繊維に結合させることで、C0(フッ素フリー)でありながら驚異的な耐久撥水性を実現しています。ピットジップ完備で機動力も高く、現時点で僕が求めるすべてが詰まった一着。

TETON BROS. Feather Rain Jacket/Yari Jacket

欧米ブランドが規制でC0撥水へ移行する中、国内ブランドの強みを活かし、あえて撥水力の高い「C6撥水」を継続採用(※一部モデル)。環境負荷を理解した上で、リスクのある山行において安全性を優先するユーザーにとっては、今最も信頼できる選択肢といえるでしょう。

MILLET ティフォン ノヴァ ジャケット

従来のポリウレタンではなく、経年劣化に強い「ポリプロピレン製微多孔質メンブレン」を採用。着た瞬間から空気を感じる通気性と、しっかりした生地の耐摩耗性が両立されています。C0撥水の弱点も、サイドのベンチレーションで補える設計で納得。今シーズン最注目のひとつ。

モンベル トレントフライヤー ジャケット Men’s

圧倒的な軽さと高い透湿性、動きやすさ抜群のパターンとストレッチ性は申し分ありません。ただし、独自のPFCフリー撥水の性能にはまだ課題を感じます。なので現時点での自分はこのせっかくのクオリティを活かして、あらためてC6系の再撥水加工を施して運用するでしょう。

【GORE-TEXを諦めたくない人向け】Arcteryx ベータ SL ジャケット メンズ

ePEメンブレンへの移行による変化はありますが、やはり「アークテリクス×GORE-TEX」の製品クオリティは別格です。C-KNITによる極上の着心地と、撥水の低下をカバーするピットジップの配置。その他フロントジップや耐久性と軽量化を高い次元で両立させるなど細部の作り込みが、素材の過渡期を「ブランドの地肩の強さ」で補っています。

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