今、日本のアウトドア業界を席巻しているといっても過言ではないのが、今シーズン MILLET から新たにリリースされた一着のレインジャケット「ティフォン ファントム」シリーズです(正確には2モデル)。
なんといっても並外れたプロテクション性能と快適さを、トップクラスの軽さの中に詰め込んだそのスペックには誰もが度肝を抜かされたはず。
その昔、このジャケットのベースモデルとして位置づけられる高透湿レインジャケット「TYPHON 50000 ST JKT」が登場した2017年、自分は『「雨具」終了の足音が聞こえる』なんてことをレビューで書いていました。そんな過去の青すぎる自分はとりあえず穴を掘って埋めてしまいたいくらいですが、そんな戯言をものともせずまだまだ雨具は雨具として、いや何なら「雨具以上の何か」として、今日も力強く進化し続けています。
発売間もない3月からこれまで、低山ハイキングやトレイルラン、バックカントリースキーで使ってみましたので、ずば抜けたスペックは実際のところどうだったのか?レビューしていきたいと思います。
目次
MILLET ティフォン ファントム ファスト ジャケットの主な特徴
MILLET ティフォン ファントム ファスト ジャケットは、これまでの保護性能を大きく上回る耐水性と、けた違いに優れた透湿性を兼ね備えた独自の3層生地「ティフォン ファントム®」を採用し、極力無駄を省いて驚きの軽さを実現した超軽量防水透湿ジャケット。132グラム(Mサイズ)という軽さにもかかわらず3レイヤーで十分な耐久性と肌触りの良さを備えた薄手軽量生地は、過酷なフィールドに耐え得るプロテクションと、着ていることを忘れるほど軽快な着心地を提供。頭の形にフィットするバラクラバスタイルのフードや密閉性を高める袖や裾、裏返して収納できるパッカブル仕様のチェストジップポケットなど、極限まで軽さとスピードを求めるランナーやスピードハイカーに求められる機能を抜かりなく備えています。姉妹モデルとしてよりトレッキングに適した特徴を備えた「ティフォン ファントム トレック ジャケット」もラインナップ。
お気に入りポイント
- ずば抜けて高い防水性と透湿性
- 驚くほど薄手軽量でコンパクト
- 無駄のないスリムさと洗練されたシルエットの良さ
- 巧みな立体裁断と微妙なストレッチ性によって動きを妨げない行動時の快適な着心地
- フィット感の高いフード
- パッカブル仕様
気になるポイント
- ツバのないフードや緩めの袖口から雨水が浸入しやすい(雨の時はキャップとの併用が望ましい)
- 軽さを最優先したコンセプトにより、各パーツは軽量・ハイテンポなアクティビティに適した必要最低限の機能のみしかない
主なスペックと評価
項目 | MILLET ティフォン ファントム ファスト ジャケット |
---|---|
重量 | 121g ※S (JPM) サイズ実測値 |
カラー | SMOKED PEARL / ICON BLUE |
サイズ | XXS / XS / S / M / L / XL |
レディースモデル | ユニセックス |
生地 | ティフォン ファントム®3L ナイロン100% (耐水圧50,000mm、透湿性60,000g/m2/24h) |
ポケット |
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その他機能 |
|
参考価格 (2025年4月現在) |
¥42,900 (税込) |
Outdoor Gearzine 評価 | |
対候性 (防水・防風性) | ★★★★★ |
透湿性・ムレにくさ | ★★★★★ |
快適性・動きやすさ | ★★★★★ |
重量 | ★★★★★ |
機能性 | ★★☆☆☆ |
耐久性 | ★★★☆☆ |
汎用性 | ★★★☆☆ |
詳細レビュー(登山やトレイルラン、バックカントリースキーで着用)
快適性・動きやすさ:「雨の日に仕方なく着る」だけではもったいないほどの、軽くて快適な着心地
ティフォン ファントム ファスト ジャケットでは、縦横 7 × 12 デニールの平織りの表地と7デニールの丸編みニットの裏地に、防水透湿メンブレンを挟んだナイロン100%の3層生地が採用されています。
レインウェアといえば薄くても数十デニールの生地厚が標準ですから、このジャケットの裏表いずれも極薄の生地であることが分かるかと思います。重量は公式発表でMサイズ 132g。また手元にあるSサイズ(JPMサイズ)を実際に測ったところなんと 121g でした。どちらにしても着ているのを忘れるレベルの軽さであることは確かです。
ただそれでも生地感は思ったよりもしっかりとしており、3層生地なだけあって耐久性も低すぎるほどではありません。しかも微妙にストレッチが効いているため、通常ならどうしても3層分の厚みが出たりゴワつきがちなのに、それらはまったくなし。しなやかでサラッとさわやかな着心地の良さを感じました。
袖を通してみると、全体的にタイトなシルエットにもかかわらず、締めつけ感もなく非常に自然で動きを妨げない快適な着心地。176cm、64kg、痩せ体型の自分はSサイズでぎりぎりちょうどよいフィット感でした。太め体型の人や、中にたくさん着こむ予定の人はMサイズの方がいい感じですが、自分は暑がりなので薄着を想定しSサイズがちょうどよかった気がします。
きめ細かいニットの裏地は肌触りがサラサラ、しなやかで伸縮もあってこの上ない着心地のよさです。肩周りのラグランスリーブをはじめとする立体裁断、そして先述したかすかなストレッチによって、腕の曲げ伸ばしや肩の回転はいたってスムーズ(下写真)。服が突っ張ったり裾が上がったりする不快感も非常に少ないことが分かりました。さらにお尻部分が長めの着丈になっているので、上半身の動きで裾がずり上がりすぎるということも防いでいます。
耐候性と透湿性:怪物級スペックに偽りなし。雨天でも安心の堅牢性&快適さ
山用のレインウェアで最も気になる点のひとつはやはり「防水透湿性能」になると思いますが、ご存じのようにこのジャケットは驚きの「耐水圧50,000mm・透湿性60,000g/㎡/24h」という、どちらも今まで見かけたことのないほど高い値を実現しているといいます。
生地周りの防水性は問題なしだがフード・袖・裾は最低限のプロテクション
まず耐水圧でいうと、標準的なレインウェアで大体 10,000~30,000mm あたりが従来の範囲だったかと。それだけにこの「50,000」という数値には一瞬目を疑わずにいられませんでした。これまでの自分が知りうる限り最も高い耐水圧でも、かつてのGORE-TEXで「40,000」というのを目にしたことはありましたが、今では20,000前後のモデルがほとんど。一体「耐水圧50,000mm」というのはどういう世界なのか、正直想像がつきません。実際に着て体感してみないことには分からないだろうということで、何はともあれ実際に強い雨の降る丹沢で数時間歩いてみることにしました。
本降りの雨が降り続くなか、1時間ほど着て歩いてみたところ、生地だけでなく縫い目のシームテーピング、フロントのフラップ付き止水ジッパーなど、生地だけでなく浸水しやすい部分も含めてしっかりとカバーされ、なるほど確かに優れた防水性を感じられました。また耐久撥水(DWR)加工による撥水性も数時間着た限りでは極端に低いという感じもなく、数時間の雨に打たれても表地には水玉がまだ保たれていました(下写真)。ラボに戻ってからのシャワーを当ててのテストでも生地や縫い目からの浸水は確認されず、過去の他モデルと比べて撥水力が物足りないということもまったくありませんでした。
ただ一方、ティフォン ファントム ファストは生地と縫い目周りには完璧に近いプロテクションがありますが、フードや袖の作りに関してはやや注意が必要です。
というのも、ティフォン ファントム ファストの袖口とフードはどちらもシンプルなゴムシャーリング仕様のため、手厚いレインウェアに比べるとどうしてもここからの浸水には弱い作りになっています。
またフードはツバ(バイザー)が突き出ておらず、あごの高さも最低限。決して前方からの雨に強いとはいえません。
ただ、この仕様はこのジャケットの欠点というよりも、軽さを最優先した結果あえてそういう仕様にしたと考えるべき。なぜなら同じシリーズで登山全般での使用を想定した ティフォン ファントム トレック の方は甲部分をプロテクトしたハーフストレッチ仕様の袖口や、バイザーがしっかりとあるフードを採用してより高い防水性を備えているからで、ユーザーは自分に合わせてどちらかを選ぶことができます。
自分の場合は行動中には常にキャップを着用する想定なので、フードのバイザーはキャップでカバーできるし、とにかく極限まで軽さを優先した「ファスト」の魅力に惹かれ、こちらをチョイスしてみました。このため用途や好みによってどちらが正しいかは人それぞれ異なるはずなので、選ぶか迷った際にはこうした違いを考慮に入れるといいでしょう。
雨でも晴れでも、暑くても寒くても快適に行動できる高い透湿性
汗などによる衣服内の蒸れを外に排出する機能である「透湿性能」についても、ティフォン ファントム トレックは実に「60,000g/㎡/24h(B-1法)」という抜群に高いスペックを備えています。レインウェア選びの一般的な感覚であれば、透湿性は20,000g もあれば及第点といえると思いますので、この数字はケタ違いの高さであることは言うまでもありません。
実際に着用してみても、正直ジャケットに通気性があるわけでもないにもかかわらず、激しい運動をして汗をかいている時のヌケの良さは確かに感じられました。これまでさまざまなレインウェアを試してきた経験からいうと、たいていの場合、日中で激しい運動をすると逃しきれない蒸れが、衣服の内側で結露して濡れるのを感じるものですが、それは今回のテストではほぼありませんでした。3層生地であることで、多少の湿り気ならば裏地が吸い上げてくれ、濡れている感覚を抑えてくれることも当然プラスの方向に影響しています。またもちろん暑い季節でテストをしていないのでその意味でも断言はできませんが、ベンチレーションによって換気せずとも同様レベルの抜けの良さが感じられるのはある意味新鮮でした。
着ていることを忘れさせる軽さと動きやすさ、風や冷気を受け止める防風性、そしてこの飛び抜けた透湿性の高さは3月の八甲田遠征でも大活躍。
ピーク手前の急登でベースレイヤー・中間着の上に着ていましたが、吹きつける強風の肌寒さと軽い降雪をカバーしながら、汗による蒸れは外に逃がし、快適な衣服内をキープする理想的なアウターとして活躍してくれました。細かいですが、通気性を備えた防風シェルなどと比べて風をよりシャットアウトしてくれるので、そのような防風シェルで感じやすいあのスースーとすき間風が入ってくるような寒さを感じにくかったのも逆に気に入った点です(下写真。もちろんピークについて止まっているとさすがに寒いので、この後上にハードシェルを羽織ります)。
機能性:軽量コンパクトさに振り切ったジャケットとして必要最低限が整ったミニマルな機能性
頭部にジャストフィットするバラクラバスタイルのフード
ティフォン ファントム ファストは軽さに振り切ったコンセプトであるがゆえに、フードの作りも必要最小限で効率的なフィットが得られるように工夫がなされています。標準的なフードにあるような調節機能は無し。代わりに後頭部とフードの縁にゴムシャーリングが配置され、被るだけである程度頭の形に合わせてフィットしてくれます。
フィットしたフードは首の動きに追従し、被り心地自体はとても良好でした。ただ先ほども触れたように、プロテクションという意味では最低限であることを心に留めておく必要があります。長時間の激しい雨に備えなければならないケースが予想される場合には別の選択肢を、また雨で着用する際にはキャップなどと併用することをおすすめします。
裏返して収納できるチェストジップポケット
このジャケットに搭載されている、右胸に配置された唯一のチェストジップポケットは、大型スマホも収納できる余裕のあるサイズで重宝します。
さらにこのポケットは全体を裏返してこの丸めていくと、収納袋いらずで本体をパッキングすることができるポケッタブル仕様となっています。収納後は手のひらに乗るくらいコンパクトにまとめられ(下写真)、これほどまで小さくなればどれだけ小さなバックパックに入れたとしても、痛くもかゆくもありません。
ゴムシャーリングによるシンプルな袖口、裾
このジャケットのミニマルなコンセプトは袖口や裾にもに貫徹されています。袖口は下部2/3程度、裾部分はサイド数センチほどにゴムシャーリングが配置されているのみで、ベルクロやドローコードなどの調節機構は搭載されていません。適度なフィット感は得られるもののフィットできる範囲は限られますのでより快適さや利便性を求める人にとっては物足りなさを感じるかもしれません。ただより軽く、よりシンプルさを追い求めるなら十分に理解でき、むしろ歓迎すべき選択です。
まとめ:雨具としてもウィンドシェルとしても怪物級の高パフォーマンス。軽さを優先するハイカーやランナーにとって最も「使える」超軽量アウター
ずば抜けた生地スペックの看板に偽りなし。ティフォン ファントム ファスト ジャケットは季節を問わず軽さを重視したいトレイルランやファストパッキング、寒い季節でのハイテンポな山岳スキー、もちろん通常のハイキングやトレッキングまで、(極端な堅牢性や保温性を求めないのであれば)1年を通じてあらゆる活動量の多いアクティビティで十分に役割を果たしてくれるでしょう。雨が降ったらレインジャケットに、晴れた日にはウィンドシェルとして、どんな状況でもしっかりと身を守れるだけのプロテクションを 100g 程度で備えることは何より魅力的で、どんな状況であれ迷うことなくこれ一着をバックパックに入れておくだけでいいという信頼感は、これまでのどんな超軽量レインジャケットにもありませんでした。また本文にも書きましたが、あくまでも最軽量にこだわるならばこのティフォン ファントム ファストがおすすめですが、たった数十グラムの軽量化よりも雨への強さや便利なポケットの方が愛おしいという人は、たとえトレイルランナーだとしても無理をせず、ティフォン ファントム トレック ジャケットの方がバランスが良くおすすめです。
もうひとつ、このモデルは軽さと防水透湿性の高さに眼がいきがちですが、長きにわたってアウトドア・ウェアを作り続けて培われた確かな着心地と動きやすさ、シルエットの良さを兼ね備えた秀逸なパターンによる衣服としての品質の高さも忘れてはいけません。このモデルはミレーのラインナップの中でも日本企画の製品。つまりフランスのブランドでありながら、このジャケットは生地選定からデザイン・パターン、生産まで実質日本の技術やオペレーションによってなされているれっきとした日本製のレインウェアと言ってもいいかと思います。その点から考えると、この世界でも類を見ないほどの高いパフォーマンスと品質を実現したこのジャケットは、まさに日本の優れた技術の結晶のひとつといっても過言ではありません。このグローバルな時代にあっても、日本において長く育まれてきたアパレル産業がまだまだトップレベルの実力を備えているという事実を垣間見ることができるという意味で、このジャケットが日本で生まれた意義は大きい。
かつて世界の山岳業界をリードしてきた国のひとつであった日本ですが、果たして今でも世界のトップを走っているといえる山道具がどれだけあるだろう。間違いなく現在世界のレインジャケットの世界最先端を走っているであろうこのティフォン ファントムシリーズで、また刺激的な冒険の旅に出てみよう。