より軽く、速く、かといってストイックにもなり過ぎず自分なりにアクティブに山を楽しむ「ファストパッキング」や「スピードハイク」と呼ばれる軽快なハイキング・スタイルは、ここ数年で注目を集めているアクティビティのひとつです。そこで必要になってくるのが、ランニングシューズと登山靴の長所をバランスよく備えた、歩いてよし・走ってよしの軽量ハイキングブーツたち。人気の高まりとともにここ最近は新製品が次々と登場して市場を賑わせ、新規参入も後を絶ちません。
ハイキング・ランニングシューズ双方での研究開発と実績を積み上げてきたサロモンは、この分野に対しては当然のごとくかなり前のめりで取り組んでおり、その強みを活かして細かいニーズに対応した多彩なラインナップを揃えこのカテゴリをリードしています。
なかでもCROSS HIKEシリーズは敏捷性と安心感が絶妙にミックスされたバランスの良いモデルで、個人的にも大のお気に入りシューズとして長く付き合ってきました。2020年に生まれたその初代モデルですが、今シーズン約2年の時を経てCROSS HIKE 2 MID GTXへとバージョンアップしました。早速その進化の中身について、じっくりと比べてみながらレビューしていきたいと思います。
目次
SALOMON CROSS HIKE 2 MID GTXの主な特徴
サロモンの定番トレイルランニングシューズ、SPEEDCROSSシリーズのソール構造をベースに、アッパーや足首回りにトレッキングシューズとして必要なサポートやプロテクションをプラスすることで、優れた敏捷性と快適性、耐久性を実現したミッドカットの軽量ハイキングシューズ。
片足413gと軽量ながら十分な堅牢性とGORE-TEXによる防水透湿性能を備えたアッパー素材と、足首回りのサポートとケガを防止するミッドカットデザインによって、優れた機動性と履き心地は損なわず高いプロテクション性能を発揮。前作に引き続きミッドソールにはトレイルランニングシューズ由来の優れた反発力と衝撃吸収力・耐久性を兼ね備えた「EnergyCell™+」を搭載し、歩く・走るどちらでも快適な移動を可能に。今作では全体的なソール厚が増加したことでより重荷や長時間での歩行にも強くなりました。ぬかるんだ滑りやすい路面でも抜群のグリップ力を発揮する「Mud Contagrip®」を採用したアウトソールも、ラグパターンが見直されたことでブレーキ性能が向上。悪路への対応力が強化されました。その他、改良されたラストや追加されたアイレット、アーチサポートに優れた新インソールなど細部にわたる見直しによってタフで長期間の山旅でも快適に歩ける工夫が施され、より過酷な幅広いアクティビティで「歩けて・走れる」1足となりました。
おすすめポイント
- さまざまな改良によって前作以上に密着感のアップした快適な履き心地
- 日帰りからテント泊のファストパッキングまでなら歩きも走りも快適なバランスの良さ
- 前作に比べてソール厚がアップしたことでさらに重荷・長距離にも強く
- さらに滑りにくく踏み込みがきくようになり、悪路でも安心のアウトソール
- アッパー素材とGORE-TEXの防水透湿性による、この軽さでは十分なプロテクション
気になったポイント
- アッパーの生地やソールの厚みが増したり足首後ろのパッドがしっかりしたことによって耐久性やサポート力が向上した反面、足裏の繊細さや敏捷性といった「走りやすさ」は前作に比べて控えめに
主なスペックと評価
項目 | CROSS HIKE 2 MID GTX | (前モデル) CROSS HIKE MID GTX |
---|---|---|
重量 | 413g | 396g |
スタックハイト | 34.7mm / 24.7mm | 27.7mm / 17.7mm |
ドロップ | 10mm | 10mm |
アッパー |
|
|
ミッドソール | EnergyCell™+ | EnergyCell™+ |
アウトソール | Mud Contagrip® | Contagrip® TA |
快適性 | ★★★★☆ ※前作よりUP | |
重量 | ★★★★☆ ※前作より微妙に重く | |
グリップ | ★★★★★ ※前作よりUP | |
プロテクション | ★★★★★ ※前作よりUP | |
クッション性 | ★★★★☆ ※前作よりUP | |
安定性 | ★★★★☆ ※前作に比べランよりも歩きやすさがUP |
詳細レビュー
今回は落ち葉やぬかるみ、土の急坂の多くある典型的な日本の低山トレイルを歩いてみました。その際、普通に歩くだけでなく前・新モデルの両方を実際に互い違いに履いて、前モデルとの違いも印象ではなく実際にチェックしています。
さまざまな改良によって適度なゆとりとフィット感の両立した快適な履き心地
まず足を入れてみて感じるのは、サロモンのシューズらしい足全体を包み込むようなしっくりとくる収まりの良さです。今回のバージョンアップでの大きな変更点のひとつがこのより良好なフィットへと改良されたラストで、つま先から甲~足首にかけて足全体で均一にフィットした密着感の高い履き心地へと進化しています。例えば前足部のフットボックスの形状自体は前作に比べて広がってゆとりが生まれつつも、素材感やシェルパターンの改良によって全体の印象としてはより引き締まり、結果として快適かつブレが少なくしっかりと踏み出せるようになっています。前作のやや柔軟な履き心地をイメージしている人ならばその違いははっきりと感じられるはずです。
またこの良好なフィット感を可能にしている要因は、改善されたラストだけでにとどまりません。
例えば前作で「気になる点」として改善を希望していた甲部分のアイレットの数。今回3つから4つへと足首部分に1つ追加されたことによって、シューレースを締め上げた際の足首の遊びが減り、足がシューズの定位置にしっかりと収まってくれます(下写真)。
さらには足首回りのパッドも、新モデルでは全体を潤沢なパッドで覆われ、くるぶしの周りをよりラグジュアリーなクッションで覆ってくれています。前モデルでは足首の可動性を高めるため後ろに伸縮素材が当てられていました(下写真)。激しい動きには好都合でしたが、通常歩行時の快適さ・ケガに対するサポート性能では新モデルの方に軍配が上がります。
さらに個人的にもお気に入りなのが、新しくなったインソールです(下写真左)。土踏まず部分のアーチサポートやかかと回りの立ち上がりもはっきりと形づくられた硬質なフォームは、低反発クッションのようなフィーリングで足に心地良くフィットしてくれます。
また軽量ながら耐摩耗性と撥水性に優れ、31%リサイクル素材を使用したシームレスメッシュ生地は、高密度でしっかりとコシがあってたるみが生まれにくく、安定したフィットに貢献しています(下写真右)。
ミッドカットでもすばやくセット可能なクイックレースは健在
前作でもあって気に入っていたQuicklace®システム(実はミッドカットのシューズでは珍しい)は継続で搭載されており、今回も素早く確実なセットが可能です。ちなみにミッドカットのようにアイレットが一直線に並んでいないブーツでは、末端を引くだけではすぐに全体を均一に締め上げにくかったりします(少し歩くとなじんでいくのですが)。そんな時は下の写真のように中間で一回テンションをかけてから末端を締めると一気に全体を締め上げやすくなるので、しっかりきつめに締めたいときにはこのやり方にしています。
歩きも走りも快適なバランスの良さは相変わらず。クッション性がアップしてさらに重荷・長さにも強く
トレイルランニングで培われた高いクッション性と反発性、そして粘り強さを兼ね備えたEnergyCell™+を搭載したミッドソールは今回も健在で、しっかりと反発性を感じられる心地よい踏み込みと、ダメージを最小限に抑えた安定感抜群の着地を可能にしています。若干せり上がるようにカーブしたかかとは、着地した際の衝撃を緩和させながら、スムーズに足を次の一歩へと誘導します。
さらに今回のバージョンアップでは外から見ても分かりにくいのですが、内部的にはソール全体の厚みが7mmほど増加しています。その結果、前作以上に着地の衝撃を吸収して地面からの突き上げをガードし、疲れやケガから足裏を守りやすくなっていました。今まで以上に重荷・長距離を前提としたロングトレイルや、ハードなハイキングでの活躍が期待できます。
実際に歩いてみて、平地はもちろんサクサク。下りでも相変わらず軽快に足を運ぶことができます。滑りやすい土や落ち葉の急登でもぐいぐい登れます。
マッドなぬかるみの上でもぐっと食らいついてくれます。
上り下りを含めトレイル全体を通して安定した着地と踏み出しを楽しむことができ、予測しにくいトレイルの路面でも不安なく足を置ける安心感は格別です。
さらに滑りにくく、踏み込みがきくようになったアウトソール
アウトソールは今回もラバー素材に悪路での粘り強さに定評のある「Mud Contagrip®」を採用し、大きさと間隔の計算された三角型の深いラグパターンによって泥抜けもよく、不安定で柔らかく滑りやすい地形でも多方向に安定したグリップを可能にしていますが、新バージョンではここに細かな改善を加えることでさらなるグリップ強化を実現しています。
特に注目すべきポイントのひとつがソールの形状のチューニング。ソール中央付近がフラットに近くなったことによって全体的に地面と接する面積が大きくなり、安定した着地とグリップの向上に貢献しています(下写真)。
さらにラグパターンの見直しによって、土踏まず左右両側あたりに加わった大きなポイントにも注目です(下写真)。
前モデルと違ってこの深くて鋭いラグが地面にしっかりと食い込んでくれることによって、不安定な地形での大きな荷重に対してもより力強いブレーキングを可能にしています。
GORE-TEXによる万全の防水透湿性
GORE-TEXによる高い防水透湿性、さらには生地表面に施された優れた撥水加工によって、高い防水性を確保。水たまりがあっても無理せず歩けます。
シュータンとアッパーとが一体化したガセットタン仕様(下写真)は高い防水透湿性だけでなく、砂利や小石の侵入も防いでくれます。
まとめ:より幅広いシーンでの安心感を手に入れた、ハイキングシューズの新定番
ここ最近の日帰り低山歩きで毎回のように履いていた前モデルも大好きでしたが、より「快適な歩行」にフォーカスした多くの細かなチューニングがなされたこの第2世代はさらに洗練され完成度を高め、幅広いハイカーに使いやすくなりました。より快適なフィット感が得られ、サポート性・耐久性・クッション性がアップしたことでより過酷なハイク、あるいはビギナーが履くといったケースでも安心しておすすめできます。
ただしこのアップデートによってランニング時の軽快さ的には前作よりも控えめになっていることは否めません。今シーズンのサロモンのファストパッキング向けシューズのラインナップを考えると、前モデルのような地面への繊細さや足さばきのスピードをより重視するハイカーには、同じサロモンから出ているこちらもファストパッキング向けの新しいシューズ OUTPULSE MID GORE-TEXの方が個人的にはおすすめです(こちらもレビューしていますので詳しくはこちらの記事を参考に)。
従来の山歩きだけでいい、あるいはアグレッシブに攻めるランニングを志向するならばそれぞれに重点を置いたモデルの方がふさわしいかもしれません。しかし軽い装備で無理せず歩きながら、走れるところでは風を感じながら自然を駆ける気持ちよさを感じたいという、道具の技術が進んだ現代だからこそ可能なハイブリッドなスタイルを好むなら、きっと後悔しない一足になってくれるでしょう。
SALOMON CROSS HIKE 2 MID GTXの詳細と購入について
製品の詳細についてはCROSS HIKE 2 MID GTX (メンズ)/CROSS HIKE 2 MID GTX W(ウィメンズ)それぞれの公式通販サイトもあわせてご確認ください。