何を着て登るか。前日のパッキング、あるいは朝の登山口で毎回発生するこの悩みは、春から夏にかけてのこの時期ピークに達します。
天気予報を見ると比較的暖かいけど、いざ現地にいってみると思ったより肌寒かったり。かと思えば、用心のために持っていった防寒着は終始ザックのなかでお休みしていたなんてことも多々あります。それくらいに山のレイヤリングは悩ましいもの。なかでも肌着とアウターの間で、保温とドライのバランスをとる役割を担うミドルレイヤー(中間着)選びとなると、さまざまなタイプがあって選ぶのが厄介と感じている人は多いのではないでしょうか。
フリースジャケットは70年代後半に生まれ、アウトドアからカジュアルシーンにいたるまで瞬く間に爆発的な人気を博した、ミドルレイヤーの代名詞ともいえる存在。近年では技術革新が著しい化繊中綿素材の高機能インサレーションジャケットに主役の座を奪われてしまったかもしれませんが、まだまだ「使える」アイテムであることは間違いありません。かくいう自分にとって、フリースジャケットはフィールドから日常使いまで、その着回しの良さで一年中手放せない一着です。
そんな筆者が思うフリースが活きるシーンとは、穏やかな気温での稜線歩き(のあるコース)です。化繊に比べ一般的にガンガンと風を通すフリースは、肌寒さを感じたときの保温着としてだけでなく、多少暑いけど風がそよいでいる場所で、最高に気持ちのよい山歩きを可能にしてくれます。風で身体を冷やすのは危険という向きもありますが、その冷却機能を積極的に利用したい春や秋、または夏の高山では発汗量と拡散スピードのバランスがちょうどいい塩梅なのです。化繊に比べてかさばる弱点は着続けることで気になりません。これでも寒すぎると感じたら、シェルを羽織ればいいというわけ。
そんなフリースジャケットですが、ご存知の通り現在では厚さはもちろん毛足の長さや密度、表面加工のテクスチャー、伸縮性など多彩な特徴を備えたモデルが、本格アウトドア向けからカジュアル路線までさまざま存在しています。
今回は暖かくなるこの時期に最適、そして1年を通しても使える万能アイテムとして使い勝手抜群の薄手軽量フリースジャケットを、今シーズン登場の5モデルをピックアップし、着比べてみました。
目次
目次
今回比較したフリースジャケットについて
今回比較したフリースジャケットは当然のことながらファッション向けモデルではなく、機能面で特徴をもった登山・ハイキング向けモデルを前提としています。またフリースジャケットはその厚さ重量などによっては冬の寒さに対応した秋冬向けモデルも多数ありますが、今回は春~秋の3シーズン向けの軽量なフリース、重量にして500g以下を目安に、いずれも今シーズンの最新モデルからピックアップしました。なお、使い勝手・汎用性の良さからなるべくフード付き、フルジップモデルを選んでいます。
- 2019 S/Sモデル
- 登山時にミドルレイヤーとして着用することを想定
- 重量500g以下
- なるべくフード付き・フルジップモデル
- なるべくなら普段使いにも使用可能なスタイリッシュさ
こうして選ばれた5モデルがこちら。
- Patagonia R1フルジップ・フーディ
- HOUDINI Outright Houdi
- NORRONA falketind warm1 Jacket
- MILLET ロッカ フーディー
- mont-bell トレールアクションパーカ
テスト環境
4~5月の北海道。ベースレイヤーの上に羽織る、あるいはシェルの下に中間着として着て、登山・ランニング・キャンプや日常使いといったシーンで着用。評価項目については以下の5点を指標に設定しレビューしました。
- 快適・機動性・・・比較的タイトなシルエットのフリースは心地よい肌触りやフィット感、激しい動きに対してもストレスの少ない着心地の良さがなにより重要。素材感や伸縮性、裁断・縫製による総合的な快適性が求められます。
- 保温性・・・外の冷気を遮断し、体温を逃がさないことはミドルレイヤーの基本的な役割として必要。暑すぎてもいけませんが、春夏の登山向けといっても最低限の断熱性は必要です。
- 吸湿・速乾性・・・ベースレイヤーによって吸い上げられた水分を、いかに効率よく外に排出し、身体をドライに保ってくれるか。ハイクアップした際のムレにくさなどもここです。
- 重量・・・同じ性能であれば軽いに越したことはありません。
- 使い勝手・・・ポケットの数や位置、あしらい、フードや袖、ジッパーなど、使う上で気持ちよい作りになっているか。
テスト結果&スペック比較表
スマホ向けの軽量表示で表が見づらいという方はこちら
各モデルのインプレッション
総合力でNo.1:
Patagonia R1フルジップ・フーディ
ここが◎
- 肌触り
- 通気性
- 耐久性
- フィット感
ここが△
- 重量
- 左右ポケットの収納性、引っ掛かり
- 毛玉ができやすい
- 収納時に嵩張る
着用してみれば納得。内側の凸凹したパイル生地の起毛素材、肌触りに何とも言えない気持ち良さがあります。身体との隙間も最小限に抑えられ、抜群のフィット感があるため保温性に優れ、かつ汗の吸湿速乾能力が5モデルの中でもトップクラス。
生地にはPolartec Power Grid™が採用されており、汗冷えの防止に非常に長けています。なんならベースレイヤーにして着用しても全く問題がないくらいです。伸縮性に富んだ袖口のおかげで袖を捲り上げる動作はノンストレスです。左胸のポケット裏にはメッシュ素材が使用されており、ファスナーを解放することでベンチレーションの役割を果たしてくれます。
マイナスポイントとしては、両サイドのハンドウォーマーポケットにジッパーがついていないため、何かと動作中、ポケットに手が引っかかることが多く非常にストレスを感じてしまいました。次回のアップデートに期待することとします。あとは重量。実寸値ではまさかの400gオーバー。生地自体にも厚みがあり保温性にも優れているため、犠牲にしなくてはいけないポイントかもしれませんが、とにかく軽いフリースを着用したい人には、おすすめできません。また、毛玉が思ったより付着しますので、定期的にメンテナンスをする必要もあります。
マイナスポイントをいくつか上げましたが、筆者が5モデル中最も気に入ったのはこの「R1」でした。快適性・機動性、保温性、吸湿速乾性、機能性の評価ポイントが高く最もバランスの良いアイテムで、どの季節においても活躍してくれること間違いないでしょう。
一度袖を通したら忘れられない極上の着心地:
HOUDINI Outright Houdi
ここが◎
- 肌触り
- 伸縮性
- 保温性
- ドローコードによるフードのフィッティング
- 豊富なカラー展開
ここが△
- 吸湿・速乾性
- 価格
今回のなかで唯一、フードと裾にドローコードがありフィッティングすることができます。さらに手の甲側に長めに設計されている袖口のカッティングや十分な保温性も兼ね揃えているため急な天候変化にも十分に対応できることでしょう。これだけ生地が柔らかいと着用と洗濯により生じる型崩れを懸念していましたが、耐久性にも優れており意外にも型崩れはしません。カラー展開も6色と豊富で、北欧ならではの鮮やかなカラーで周囲とかぶることも少ないと思います。
マイナスポイントとしては、保温性に優れている分、吸湿・速乾性能は相対的に劣るため、運動している際にすぐにジッパーを解放し換気したくなります。5モデル中、最も高価ですが着用してみれば納得すると思います。
抜群の汗処理能力でドライを実現:
MILLET ロッカ フーディー
ここが◎
- 軽量
- 非常にコンパクト
- 通気性能
- 吸湿速乾性
ここが△
- 保温性
- 耐久性
裏面には3Dハニカム構造の生地が使用され、通気性能と吸湿速乾性能は非常に秀逸。フィット感抜群の素材やフラットな縫い目、ラグランスリーブで動きやすい裁断など、動きと発汗の多いランニングテストでは他を寄せつけない快適さを発揮してくれました。左胸と両サイドのファスナー付きポケットは他と同様ベンチレーションとしての効果を発揮してくれます。また、ドローコードがついていませんが、袖と裾には適度な力で締め付けてくれているゴムが配備されているため、捲り上げた袖がずり落ちてくる心配もありません。左右のハンドポケットの他スマホも入る胸ポケットなど、使い勝手も上々。
その代わりといってはなんですが、保温性能は5モデル中最も低いタイプになります。夏のアクティビティ、特にトレイルランニングを本格的にやる方にはおすすめです。
年間通して活躍する軽くて暖かい1着:
NORRONA falketind warm1 Jacket
ここが◎
- 保温性
- ハンドゲイター
- 軽量
- コンパクト
ここが△
- 吸湿速乾性
脇下から上腕にかけてはPolartec® Power Stretch®が使用されており伸縮性に優れ、動きにストレスはありませんでした。両サイドのファスナー付きハンドウォーマーポケットは開口部が大きく、出し入れをスムーズに行うことができますし、十分にベンチレーションとしての役割も果たしてくれます。またポケットの位置が上部に配置されているため、ハーネスなどと干渉し難くなっているところも高評価ポイントです。さらにはサムホール付きハンドゲイターが備わっており、冬季のミドルレイヤーとして使用する際には非常にありがたい仕様となっております。今回の5モデルでは唯一フードがないモデルになります。何かと便利なフードがないことがデメリットにもなりますが、ハードシェルやレインウェアを着用した時に、背部のゴワつきがないというメリットも感じられました。
使用してみて、確かに謳い文句通り1年を通して幅広く使用できると実感しました。特に秋から冬季にかけてのミドルレイヤーとしては、かなり本領を発揮してくれるアイテムだと思います。
抜け目のない高性能が安心のお値打ちモデル:
mont-bell トレールアクションパーカ
ここが◎
- 価格
- 耐久性
- 保温性
- レイヤリングしやすい
ここが△
- ファスナーの滑りが固い
- 収納サイズが大きい
日本が誇るモンベルから発売されている複数のフリースジャケットラインナップの中から、今回選んだのはアクティブなシーンに適しているとされるトレールアクションパーカ。正直、今回の検証をするまではあまり目に留めていないアイテムでした。一通りの使い方をしてみて、さすがはモンベル。我が日本のブランドをよりいっそう誇りたくなりました。
生地にはストレッチクリマプラスが使用されており、伸縮性と保温性に長けています。使ってみても突っ張ることがなく、終始ノンストレス。また、全体的にがっしりとした作りとなっており耐久性も十分に備わっております。表面はツルツルとしたジャージ素材で滑りが良いため、アウターを着用する際のストレスがありませんでした。 また、両脇下のポケットは高めに配置されているため、ザックのウェストベルトを閉めた状態でもアクセスしやすく、かなりの高評価ポイント。
ただ単体で見ると魅力的なポイントは数多くあれど、今回の比較で他モデルと比べて特に際立って優れたポイントというと難しいか。しかしながら、何といってもこれだけのクオリティがあるにも関わらず7,200円という破格値はまさにコスパに優れていると言わざるを得ないでしょう。
前ページでは比較したモデルのランキングと、評価・スペックの一覧、そしてそれに基づくおすすめを紹介しました。ここからはその評価について、どのような基準で評価したのか、なぜそのような評価になったのかについて補足していきます。
各項目詳細レビュー
快適性・機動性
快適性の評価方法は肌触り、袖口のフィット感、口元のあたりといった簡単にいうと着心地といった視点から評価しております。機動性については、主に裁断の確かさや伸縮による動きやすさといった観点から評価しています。
基本的には各モデルとも機動性を向上させようと作られているモデルになっており、伸縮性についてはどれも兼ね揃えていますし、行動中につっぱりがあってストレスに感じたモデルはありませんでした。
その結果、快適性と機動性ともに最も兼ね揃えていたモデルはHOUDINI Outright Houdiでした。前記した通り、魔法のような着心地の良さは一度体験すると忘れらなれない気持ち良さで、加えて伸縮性に富んでいるため、ストレスとは全くといっていいほど無縁でした。
さらにフロントファスナーを締め付けてもファスナーが顎に当たらないどころか首から顎にかけて柔らかい生地で包まれることは非常に快感でした。いつまでも着用したいと思わせてくれるアイテムになります。また肌触りについては、Patagonia R1もパイル状の生地がかなり快適でおすすめです。
保温性
生地を薄くすれば軽くはなりますが、反面、保温性能はどうしても低下していくものです。アウトドアギア全般に言えることですが、このバランスが非常に難しいところです。
今回はどれも500g以下なのに一定以上の保温力があることにはすでに驚きでしたが、なかでも頭一つ飛び抜けていたのがNORRONA falketind warm1 Jacketになります。フリース素材で保温性能の向上を図りながらも随所にはストレッチ素材の生地を使用し、保温性と機動性のバランスが絶妙。薄くて軽めながらも元祖フリースの起毛素材の温かさはまだまだ健在です。また、重量はそれなりにありますが、mont-bell トレールアクションパーカもこの中ではトップクラスの保温性能に長けたモデルです。春先や秋冬には活躍する気がします。
速乾性能
筆者はかなりの汗っかきなのには関わらず、アイテム選定を疎かにし何度か汗冷えから風邪を拗らせた経験があります。行動中の汗冷えは体力を低下させ、時には危険へのリスクを高めます。ベースレイヤーはもちろんのこと、なるべくならミドルレイヤー、アウターとも吸湿・速乾性能に優れたアイテムを選定することは非常に大切なことですし、快適性も向上させます。
今回最も吸湿・速乾性に優れていると感じられたのは、MILLET ロッカ フーディーでした。内側の3Dハニカム構造の生地がどんどん汗を吸収。同時に通気性も確保してくれて、乾くまでのスピードが最も速く、汗っかきな筆者も快適に行動することができました。生地自体が非常に薄いため、乾くまでのスピードが早いのも納得します。ただし、これは保温性能とは反比例しがちなので、どちらを優先するかはユーザー次第だと思います。
一方Patagonia R1はある程度保温性がありながら、吸湿・速乾性能についてもかなり優秀でした。生地に使用されているPolartec® Power Grid™のスペックが非常に高いことが伺えます。
重量
今回のモデルはスペックの高さから見て、どれも500g以下という時点ですでに驚きですが、さらに驚かされたのがMILLET ロッカ フーディーの軽さです。カタログ数値は390gですが実寸値では298gとまさかの300g以下。当然、収納サイズも最も小さくパッキング時のストレスもありません。
NORRONA falketind warm1 Jacketも保温性能の割に319gとかなり軽量化されているのは魅力的です。フードがない分軽量なのは確かにそうですが、それでも保温性能、耐久性、重量のバランスにピックアップするとかなり高スペックであることがわかります。
使い勝手
NORRONA falketind warm1 Jacket以外は4モデルともフードが備わっており、ファスナーを閉めると口元まで締め付けることができるのでバラクラバ代わりにも十分使えます。急な天候変化にも対応できるのでやはりフードはあった方は良いと思います。なかでもドローコードでフードと裾の調節が可能なHOUDINI Outright Houdiは使い勝手としてはかなりの高評価。
ポケットについては「左右ハンドポケットのみ < 左右ハンドポケット+胸ポケット」さらにジッパーがついていた方がいいということでは、MILLET ロッカ フーディーとmont-bell トレールアクションパーカは最も便利。ジッパーのないPatagonia R1の左右ポケットは、モノを入れるというよりも、手を温める用です。
ファスナーの開け閉めではNORRONA falketind warm1 Jacketで若干滑りが固いように感じましたが、あくまでも他モデルと比較した中でのことなので、気にならない人はまったく気にならないと思います。
ということで各モデルとも細かい点で一長一短がありますが、トータル的に見てPatagonia R1が最も使いやすく感じました。収納性を除けばハンドウォーマーポケットとベンチレーションにもなる胸ポケットの組み合わせは個人的には十分。それ以外になめらかな動きのファスナーとバラクラバ代わりになるフード。冒頭にもありましたが、今回筆者を虜にしたのは着心地の面をそうですが、使い勝手が良いことも大きな理由の1つです。
まとめ
ということで、この時期に使える軽量フリースを検証してみました。各モデルとも評価ポイントである快適・機動性、保温性、吸湿・速乾性、重量性、使い勝手は少なからず兼ね揃えています。その中で、特化している項目がそれぞれ違いますので、自分の使用目的に合ったアイテムを選ぶことで、フィールドで大いに力を発揮してくれると思います。この記事が皆さんのアイテム選びに役立ってくれると幸いです。
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