Outdoor Gearzine "アウトドアギアジン"

【2022年版】実際に照らし比較して初めて分かった、本当に使えるアウトドア向けヘッドランプと後悔しない選び方のポイント

もっと明るく、もっと長く、もっと便利に。地味だけど必須の登山装備「ヘッドランプ」のベストチョイスを大研究

アウトドアでの快適な夜を過ごすためには何といっても明かりがなければ始まりません。山では両手が使えなければ何かと不自由のため、手持ちの懐中電灯ではなく頭や胸などの身体に装着して使う「ヘッドランプ」が主流になっており、ハイキングや登山では必携装備として重要なアイテムのひとつです。

このヘッドランプ、かつては単三電池と豆電球の単純な小物でしたが、ここ数年でのLEDライトの登場とバッテリーの小型大容量化、そして電子制御技術の進歩よって驚くほど高いパフォーマンスを備えたライトが手に入るようになりました。

その結果今では登山用だけでなくクライミング・ランニング・釣り・キャンプ・日常・災害用などの多様な用途や明るさ、値段などに分かれたさまざまなモデルが選べるようになりましたが、その一方で実際に確かめたりすることがほぼできないため、違いが分かりにくいという悩ましいことにもなっています。ずらりと並んだ多彩なライトの中からその場で自分に最適なモデルを見極めることはほぼ不可能といってよいでしょう。

とはいえヘッドランプは万が一のときに命運を分ける可能性すらあるギアですから、間違いのないモデルを選ぶことはアウトドアを安全に楽しむためにも非常に大切です。

そこでこのサイトではほぼ毎年、市場に出回っているアウトドア用ヘッドランプを自腹で購入してさまざまな角度から実際に使用してテスト・比較を行なってきましたが、今年もその季節がやってきました。今回は2022年秋冬までに日本の一般的な流通ルートから購入することができるヘッドランプの最新モデルのなかから「これは」という注目モデルを合計22モデルをピックアップしています(人気ブランドのひとつであるPETZLやBioLiteでは2022年に主要製品のアップデートがあったのですが、残念ながら現在のところ日本で展開されていないため今回は日本で購入可能な旧モデルで行っています)。

後半ではこれまでの経験を踏まえて、初めてヘッドランプを選ぶ人でも失敗せず自分に最適なモデルを選ぶためのチェックポイントについてもまとめています。この情報さえ押さえておけば、実際に点けてみなくてもある程度失敗せずに最適モデルと出会えると思っています。

なお、テストは当サイトが独自の方法で可能な限り厳密に行っていますが、結果について客観性や再現性を保証するものではありません。ただ、どのメーカーにも依存せず自腹で購入してほぼ同条件で使い比べたテストとレビューという意味では、世の中のいくらかの役には立つものだと考えています。みなさんのヘッドランプ選びの一助になってもらえれば幸いです。

【部門別】今シーズンのベスト・ヘッドランプ

パワー・機能・軽さのバランスがよく欠点の少ない、ベスト・オールラウンド(総合)部門

Black Diamond ストーム500-R

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BlackDiamond(ブラックダイヤモンド)
¥8,900 (2024/04/28 17:52:17時点 Amazon調べ-詳細)
重量:101g
電池:リチウムイオン充電池(2400mAh)
MAX照射力:500ルーメン
MAX照射距離:高照度100m
照射時間:高照度7時間
お気に入りポイント
惜しいポイント

PETZL スイフトRL

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ペツル(PETZL)
¥15,345 (2024/04/28 09:37:59時点 Amazon調べ-詳細)
重量:100g
電池:リチウムイオン充電池(2350mAh)
MAX照射力:900ルーメン
MAX照射距離:150m
照射時間:2~30時間(リアクティブライティング強)
お気に入りポイント
惜しいポイント

BioLite ヘッドランプ750

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¥7,590 (2024/04/28 17:52:17時点 楽天市場調べ-詳細)
重量:150g
電池:リチウムイオン充電池(3000mAh)
MAX照射力:500(ブースト時750)ルーメン
MAX照射距離:130m(ブースト時)
照射時間:2~7時間(HIGHモード)
お気に入りポイント
惜しいポイント

暗いトレイルの奥の奥まで照らしたい、ベスト・明るさ部門

Black Diamond アイコン700

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BlackDiamond(ブラックダイヤモンド)
¥15,730 (2024/04/28 18:03:31時点 Amazon調べ-詳細)
重量:236g(電池含む)
電池:単3アルカリ電池×4本
MAX照射力:700ルーメン
MAX照射距離:140m(最大照度)
照射時間:高照度7時間
お気に入りポイント
惜しいポイント

PETZL NAO+

PETZL(ペツル) NAO+ E36AHR 2B
ペツル(PETZL)
お気に入りポイント
惜しいポイント

mont-bell EXパワーヘッドランプ

created by Rinker
重量:176g(263g) ※( )内は電池を含む重量
電池:単3形アルカリ乾電池4本(モバイルバッテリー給電対応)
MAX照射力:700ルーメン(最大)
MAX照射距離:125m(最大)
照射時間:3.5時間(MAXモード)
お気に入りポイント
惜しいポイント

明るい光がいつまでも続く、ベスト・長時間部門

milestone MS-i1 “Endurance Model”

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¥12,980 (2024/04/28 22:38:33時点 楽天市場調べ-詳細)
重量:175g (電池込)
電池:専用リチウム充電池(MS-LB3)付属
MAX照射力:1000ルーメン
MAX照射距離:150m
照射時間:7.5時間(ULTRA HIGHモード)
お気に入りポイント
惜しいポイント

LEDLENSER NEO9R

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Ledlenser(レッドレンザー)
¥13,600 (2024/04/28 11:05:29時点 Amazon調べ-詳細)
重量:約199g(電池含)
電池:リチウムイオン充電池(3000mAh)
MAX照射力:600(ブースト時1200)ルーメン
MAX照射距離:120m(ブースト時200m)
照射時間:5時間(パワーモード)
お気に入りポイント
惜しいポイント

驚くほど軽いのに性能十分、ベスト・ウルトラライト部門

軽量・快適:PETZL IKO CORE

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¥14,850 (2024/04/28 17:52:18時点 楽天市場調べ-詳細)
重量:79 g
電池:1250 mAh リチャージャブルバッテリー『コア』 (付属)
MAX照射力:500ルーメン
MAX照射距離:100m
照射時間:2.5時間(強モード)
お気に入りポイント
惜しいポイント

モバイルバッテリー利用可能:BioLite ヘッドランプ330

★BioLite バイオライト ヘッドランプ330 1824251 【軽量/充電/登山/アウトドア】
お気に入りポイント
惜しいポイント

みんな大好きコスパ最強、ベスト・コストパフォーマンス部門

Black Diamond アストロ300

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¥2,640 (2024/04/28 09:38:00時点 楽天市場調べ-詳細)
重量:83g(電池込)
電池:単4アルカリ電池×3本(付属)もしくはBD1500バッテリー(別売)
MAX照射力:300ルーメン
MAX照射距離:高照度52m
照射時間:高照度4時間
お気に入りポイント
惜しいポイント

mont-bell リチャージャブル パワーヘッドランプ

created by Rinker
重量:80g
電池:3.7Vリチウムイオン電池/1800mAh
MAX照射力:200ルーメン
MAX照射距離:90m
照射時間:15時間(コンスタントモード5時間/リザーブモード10時間)
お気に入りポイント
惜しいポイント

ランニングに最適な機能がしっかりの、ベスト・トレイルラン部門

LEDLENSER H8R SE

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重量:約158g(電池含)
電池:専用充電池(Li-ion)/3000mAh
MAX照射力:400(ブースト時700)ルーメン
MAX照射距離:130m(ブースト時170m)
照射時間:6時間(パワーモード)
お気に入りポイント
惜しいポイント

PETZL NAO+(再掲)

PETZL(ペツル) NAO+ E36AHR 2B
ペツル(PETZL)
お気に入りポイント
惜しいポイント

キャンプに、サブライトに、日常・防災用に、ベスト・キャンプ部門

milestone MS-G2

【あす楽対応 平日13:00まで】 マイルストーン milestone ヘッドランプUSB充電モデル [MS-G2]
お気に入りポイント
惜しいポイント

PETZL ビンディ

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ペツル(PETZL)
¥7,381 (2024/04/28 19:56:20時点 Amazon調べ-詳細)
重量:35g
電池:680 mAh リチャージャブルバッテリー (内蔵)
MAX照射力:200ルーメン
MAX照射距離:36m
照射時間:2時間(強モード)
お気に入りポイント
惜しいポイント

(参考)今回ピックアップしたおすすめヘッドランプ性能比較表

評価 総合 総合 総合 明るさ 明るさ 明るさ 長時間 長時間 ウルトラライト ウルトラライト コスパ コスパ トレイルラン キャンプ キャンプ 次点 次点 次点 次点 次点 次点 次点
アイテム Black Diamond ストーム500-R PETZL スイフトRL BioLite ヘッドランプ750 Black Diamond アイコン700 PETZL NAO+ mont-bell EXパワーヘッドランプ milestone MS-i1 “Endurance Model” LEDLENSER NEO9R PETZL IKO CORE BioLite ヘッドランプ330 Black Diamond アストロ300 mont-bell リチャージャブル パワーヘッドランプ LEDLENSER H8R SE milestone MS-G2 PETZL ビンディ Black Diamond スポット400 GENTOS WS-300H LEDLENSER MH5 milestone MS-F1 Trailmaster PETZL アクティック コア SILVA Explore 4 SILVA Trail Runner Free
最大光量(ルーメン)※()はブースト時 500 900 500(750) 700 750 700 1000 600(1200) 500 330 300 200 400(700) 400 200 400 700 400 300(850) 450 400 400
最大照射距離(m)※()はブースト時 100 150 (130) 140 140 125 150 120(200) 100 75 52 90 130(170) 33 36 86 198 180 80 90 85 80
照射イメージ
照射時間(h) 7(HIGH) 2~30(リアクティブ強) 2~7(HIGH) 7(HIGH) 6.5(リアクティブ強) 3.5(HIGH) 7.5(ULTRA HIGH) 5(パワー) 2.5(強) 3.5(HIGH) 4(HIGH) 15(HIGH) 6(パワー) 14(10%時) 2(強) 2.5(HIGH) 2(HIGH) 4(パワー) 5.5(HIGH) 2(強) 40(MAX) 25(MAX)
照射時間テスト
照射モード 近接・遠距離・ミックス ワイド・ミックス ワイド・ミックス 近接・遠距離・ミックス ワイド・ミックス・スポット ノーマル 白色電球色ミックス ミックス ワイド・ミックス スポット・拡散・ミックス ノーマル ワイド・ミックス スポット・ワイド ワイド ワイド 近接・遠距離・ミックス スポット・ワイド スポット・ワイド ミックス ワイド・ミックス ミックス ミックス
重量(本体+バッテリー) 101 100 150 236 185 263 175 199 79 69 83 80 158 28 35 78 235 94 180 75 88 119
充電 - ※モバイルバッテリー給電可能 ◯※別売り ◯※別売り
乾電池利用 × × ×(モバイルバッテリー給電可能) 単3アルカリ電池×4 × 単3アルカリ電池×4 × × 単4アルカリ電池×3 ×(モバイルバッテリー給電可能) 単4アルカリ電池×3 × × × × 単4アルカリ電池×3 単4アルカリ電池×3 × × 単4アルカリ電池×3 単4アルカリ電池×3 単4アルカリ電池×3
防水性能 IP67 IPX4 IPX4 IP67 IPX4 IPX6 IPX4 IP54 IPX4 IPX4 IPX4 IPX6 IP54 IPX4 IPX4 IPX8 IP64 IP54 IPX5 IPX4 IPX7 IPX5
リアライト × × × × × × × × × × × × × × × × × ×

照射時間の測定(グラフ)について

照射時間の測定にあたっては、遠距離モード(ブーストモードやリアクティブモードなどの瞬間的・自動制御的なモードを除いたMAX出力)で、1.5m離れた壁の照度計に向かって照射したときの照度(ルクス)を5時間(実際には消えるまで)継続的に計測していきました。ただ、光をセンサーに照射する位置が少しでもずれると明るさ測定値であるlx が大きく変わるため、この数値自体はまったく参考にならないということはないものの、アイテム同士での厳密な比較には役に立ちません。ただ計測中は基本的に位置が動いていないため、変化の様子についてはある程度再現性があります。このためあくまでもそのライトの明るさ変化のタイプを知るための検討材料として参考にしてください。

選び方:アウトドア向けヘッドランプを賢く選ぶ6つのポイント

はじめに:ヘッドランプの性能をチェックするときはまず「ANSI FL1 STANDARD」指標をチェック

その昔、ヘッドランプメーカーは製品の「明るさ」や「照射可能時間」といった性能に関する情報を、各々の独自基準で測定・表示していていました。

ただこの場合、例えば「どれくらいの明るさであればライトが点いているといえるのか?」といった判断は一律に定義できるものではないため、これらの基準はメーカーによってバラつきがあったのが実際のところで、このためユーザーは異なるメーカー間での製品の良し悪しに関しては頭を悩ませざるを得ませんでした。現在でもこの問題は根本的に解決したわけではないのですが、少なくともここ数年の間に決して小さくない前進がみられました。それが2019年から順次導入されてきているポータブル照明製品に関する新統一基準「ANSI FL1 STANDARD」です。

ANSI(=American National Standards Institute)とはアメリカ合衆国における工業規格の標準化を行う機関のことで、FL1 Standardとはその中のフラッシュライトの性能評価規格にあたります。ペツル、ブラック ダイヤモンド、プリンストン テックといった照明メーカーの加盟する業界団体であるPLATO が中心となって開発されたこの規格では、ヘッドランプの明るさ(ルーメン)、照射距離、落下耐久性、防水性などの測定基準を定めています。この規格を採用したメーカーは、各モデルを共通化された基準に従って測定し、その値を共通化されたアイコンによって表示します。そうすることでメーカーの異なるヘッドランプ同士も同じ基準で比較検討できるようになりました。

ANSI FL1 STANDARDの典型的なアイコンデザイン例。左から光出力・照射到達距離・持続時間・最大光度・耐衝撃性・耐水保護等級

現在では日本の一部のメーカーを除いて世界中の主要なヘッドランプメーカーがこの基準に即したスペック表示を行っており、一昔前に比べるとずいぶん性能比較はしやすくなりました。とはいえそれぞれの指標の意味について理解する必要がありますし、またこの指標でもまだ不十分なチェックポイントが存在していることも確か。それらを含めて、ここからいよいよヘッドランプ選びのポイントについて詳しく説明していきます。

各メーカーごとに多少アレンジしたデザインのアイコンが使われているが、そのモデルがANSI規格に即したスペック表示をしているどうかは「ANSI FL1 STANDARD」という記載の有無が目印だ。

ポイント1:照射できる光のタイプと種類

照らしたい場所によって適切なビーム(照射)タイプを選択しよう

手元の文字を読みたいのに1点を強烈に照らされると明るすぎて見づらいし、夜道に遠くの方まで照らしたいのに自分の周囲しか照らせなければ道が分かりにくいまま。このように暗い時でもシーンによって求められる光の種類は違います。

このためアウトドア用ヘッドランプは一部のエントリーモデルを除き、さまざまなシーンに合った明かりを提供できるように複数の光線モードを用意しているのが一般的です。まず以下にそれぞれ(呼び名はメーカーによってさまざま)の特徴と適した用途についてまとめます。

タイプ ワイド(近距離)ビームタイプ スポット(遠距離)ビームタイプ ノーマルビームタイプ ミックスビームタイプ
イメージ
長所
  • 広い範囲を均一に柔らかく照らすのに優れたタイプ。
  • 調理や読書、手作業など、近いものを照らす時に便利。
  • 電力消費量が少ない。
  • 強い光で遠くを照らすのに優れたタイプ。
  • 中心付近を非常に明るく照らすことができる。
  • 前方の奥まで照らすことができる。
  • ワイドビームとスポットビームの中間的な特徴を備えているタイプ。
  • クセがなくオールラウンドな用途に使える。
  • ワイドビームとスポットビームをどちらも照射されたビームタイプ。
  • 手元・足元から遠くまであらゆる場所を最大限明るくする。
短所
  • 遠くを照らすのには不向き。
  • 光の範囲は広くない。
  • 近場を見たり、直接光源を見ると眼をつぶすほどまぶしい。
  • 電力消費量が大きい。
  • どっちつかずの特徴になりがち。
  • ナシ
  • 電力消費量が最も大きい。
適したシーン
  • トラベル・キャンプ
  • テント内での使用
  • ナイトハイク・夜間登山
  • サイクリング
  • キャンプ、真夜中で長く使う可能性の少ない日帰りハイキング
  • 手元と遠方どちらも頻繁に見ることが多いランニング
  • 足元と遠方どちらも明るいことが望ましい夜間のトレイルランニング
  • ナイトハイク・夜間登山
  • その他あらゆる状況で適している

できる限り多くのビームパターンに対応しているに越したことはありませんが、自分のアクティビティにとって不要な機能があってもそれはオーバースペックになってしまい、重量やコストなどの無駄を持ち歩かなければなりません。自分のアクティビティにとって必要のあるタイプを、バランスを見極めながら選ぶことが重要です。

暗いところでリュックの中を探す場合は近距離照射が見やすい。

ポイント2:ライトの明るさ

ヘッドランプの明るさを示す指標「ルーメン」とは?

現在ヘッドランプの明るさを示す値には、光の出力を表わすルーメン(lm)という単位が使用されています。最近のモデルであれば、大体パッケージの目立つ部分にその値が表示されているので、真っ先に気になる数字でしょう(写真)。

ルーメンという単位が意味するのは光源が放つ光(光束)の総量、つまり光源から放出されるすべての光(エネルギー)を束ねた全体の光量を示しています。一般的にルーメンが大きければ大きいほど、それだけ電力を多く消費します。

いったいどれくらいの明るさ(光出力)が必要?

現在発売されているヘッドランプの明るさは、20ルーメン程度の緊急用から 1,000ルーメン超えの大光量モデルまでさまざま。

自分にはどれくらいの明るさが必要なのかというと、あくまでも大まかな目安ですが、キャンプや日帰り登山、泊りでも夜間行動を前提としない登山には100ルーメンもあればひとまず安心、それ以下でもなんとかなるのが実際のところです。

一方冬山や夜間行動で快適に使いたい場合には、最低でも 200ルーメン以上で、明るければ明るいほど行動は快適になります。出力が大きくなれば消費電力も、重量も、価格も上がりますので、選ぶ際にはその辺りのバランスが大事です。

光出力だけでは明るさを単純に比較できない問題

この「ルーメンの値をみれば、そのランプの明るさが分かる」ということは大筋では間違っていないのですが、実際には不十分です。なぜならルーメンとは「光源から全方向に放出されている光の総量」であるがゆえに、「どれくらい明るく見えているか」には関係ない数値だからです。

下の写真を例に説明します。左右の写真では同じ出力400ルーメンのライトが照射されているのですが、右のライトは広い範囲に照射されているため広く暗く見えています。一方左のライトは光が中心に集中的に当たっているため中心部分は右よりもずいぶんと遠くまで伸び、照らされた壁面も明るく見えています。つまり光出力の大きさは、単純な見た目の明るさを意味している訳ではないのです。同じルーメン数のライトでもこれくらい見え方に違いが出てきます。

同じ400ルーメンの光でも遠くを照らそうとするか、近場を広い範囲で照らそうとするかで光の形は全然違う。

このため、ライトの明るさを検討するには、ルーメンによる光出力だけでなく、光がどれだけ遠くまで届くかという「照射距離」と合わせて検討することが重要です。

明るさを検討するときに不可欠なもうひとつの要素「照射距離」とは?

ルーメンが光源自体の光の総量を示すのに対し、照射距離とは文字通りその光がどれだけ遠まで届くのかという距離を示しています。ここで当然何をもって「光が届いている」のか、という疑問が湧いてくることでしょう。

これに関して先ほど触れた「ANSI FL1 STANDARD」では、「満月時の月光の明るさ(0.25ルクス※)以上で照らすことができている状態のこと」と定められています。この照射距離は光出力(ルーメン)などと同じように多くの場合パッケージや説明書に記載されています。※ルクス(lux)は光に照らされた面の明るさを表す単位。

先ほどの上の写真のように、この照射距離はルーメンの大きさに必ずしも比例しません。同じルーメンでもレンズやリフレクター(反射板)の性能、ワイドビームやスポットビームなどの照射特性等によっては照射距離は長くも短くもなり得ます。

もちろん光を小さく狭く集中できるからといってより優れているという訳ではありません。例えばLEDLENSERには「フォーカス機能」を備えたモデルがいくつかあり、それらは狭い1点に光を集中させる性能に長けているため、その1点の明るさだけで言えば非常に優れた明るさを備えているといえますが、実際のトレイルではそこまで狭くしても見にくいだけなので、その明るさで比較しても意味がないという問題があります。

いずれにしても照射距離は、長ければ長いほど前方の道を奥まで確認することができるため、夜のトレイルでのルートファインディングに重宝します。どうしても帰らなければならない日の下山時、万が一日没が迫ってきたときのことを想像してみてください。前方を広く遠くまで煌々と照らしてくれるライトがどれほどの心の安らぎを与えてくれることか。

同じトレイルを様々なライトで照らしてみると、ただ遠くまで届けばいいというものではないことが分かる。足元や近場も含めてバランスよく照らしてくれるのが理想だ。

「照射距離(メートル)」と「光出力(ルーメン)」を合わせてようやくヘッドランプの全体的な明るさが分かる

実際には同じ光量でも照射距離では倍近くの差があったりしますから、ヘッドランプの明るさを比べるのに光出力の値だけを比較するのではなく、ルーメンと照射距離両面から明るさを総合的に比較検討することが大切です。

光が遠くに届くか、近場に広がるかはレンズとリフレクター(反射板)によって決まってくる。効率よく、フラットで見やすい光かどうかはこの部分の性能次第。

ポイント3:電池の種類とバッテリー持続時間

「照射時間」とはどんな時間を表わしているのか

明るさと並んで多くの人が関心があるであろう重要なチェックポイントが照射時間(バッテリー持続時間)です。

光源がLED になって寿命が延びたとはいえ、ある程度使用すれば充電や電池交換は避けられません。まずはパッケージに書いてある「◯◯時間(h)」という数字を確認してみましょう。その数字はもちろん適当な値ではありませんが、例によってこの数字にも誤解しやすい落とし穴があります。

2022年の状況では、この「照射時間」の測定方法はおおよそ2パターンの基準が存在しており、メーカーによってまちまちです。パッケージに表示されるスペックは、その点を押さえた上で判断する必要があります。

まずひとつはモンベルなどが採用している(2022年現在)、昔から登山の状況を想定して慣例的に作られていた満月の月あかりの夜の明るさ、つまり「ランプから2メートルの距離で 0.25 ルクス以上の照度を保つことができる時間」です(便宜的にこちらを満月方式と呼びます)。

もうひとつは先ほども触れた「ANSI FL1 STANDARD」による新基準です。この基準での照射時間は「点灯開始30秒後の値を初期値として、明るさが初期値の 10%以下 になるまでの時間」です。例えばライトが満充電時に 300ルーメンの明かりで照射開始した場合、ANSI FL1 規格では、それが「10% = 30ルーメン」以下になるまでの時間です。

ANSI方式の場合、明るさの下限が満月方式のように具体的な値ではなく「割合」なので、元の明るさの強弱に関わらず各モデルのバッテリー消費効率の優劣を判断できる一方、ヘッドランプがかなりの大光量だった場合、10%でも全然使える明かるさを保持していたりする場合があります。例えば100ルーメンのライトの照射時間はそのライトが10ルーメンになるまでの時間ですが、 700ルーメンのライトはまだ70ルーメンもある状態でも照射時間は終了となってしまいます。実際にはこの状態でもある程度の明るさを保っていますから、スペック上の照射時間よりも十分長く使える可能性があります。

一部のメーカーもこの事実に対応しており、ブラックダイヤモンドやペツルは照射時間の隣に、初期出力の10%以下になったとしても低強度の活動ならば現実的に使用可能な明るさを発する時間を「予備(またはリザーブモード)」として併記しています(下写真)。ちなみにブラックダイヤモンドの説明書ではこの予備期間の明るさは4m先で0.25ルクスとなっています。

照射時間内だからといって、照らしはじめからずっと同じ明るさではない ~明るさの「減り方」にも注意!~

例えば「照射時間:10時間」というヘッドランプを電池満タンから使い続けたとして、時間とともに明るさはどのように減っていくのか。以下の2つのうちどちらだと思いますか?

  1. 初めの明るさが10時間続き、最後一気に消える。
  2. 時間経過とともに常に同じペースで暗くなっていき、10時間後に消える。

ご存じの方も多いかもしれませんが、正解は「1・2どちらでもない」です。実はライトの明るさの減り方はそんなに単純なものではなかったのです。

実際のところ、ほとんどのヘッドランプは満充電時の明るさMAX状態はつけた瞬間だけで、そこから数分もすれば5~7割程度の明るさまで急降下していきます。その先の減り方はモデルによってさまざま。この減り方は明るさを継続的に測定し、グラフ化しないと判断はできませんが、残念ながらこれは FL1 標準でも必須のデータではないため、公開しているメーカーとそうでないメーカーがあります。ここで当サイトが実際にテストしたアイテムの中から、分かりやすくMAXが同じくらいの明るさの3アイテムをピックアップし、明るさが時間と共にどのように減っていくかを比較してみましょう。

上のグラフが示していることは、以下のような事実です。

表面上の数字だけをみれば、照射時間4時間の「アイテム1」を選びたくなりますが、なるべく高いパフォーマンスで数時間頑張ってくれる方がいいという人には「アイテム2」の方が適していますし、そのどちらも捨てがたいという人には3の方がおすすめです(もちろん理想はアイテム1のようにずっとMAX近い明るさで、しかもできる限り長い照射時間を持っていることですが)。

つまりより自分にとって理想の照射時間を選ぶためには、数字そのものだけでなくその数字の「中身」を読むことが重要になってくるわけです。

とはいえ、残念ながら現在のところこうした経過時間による明るさ曲線グラフは一部のメーカーやモデルでしか公開されていませんので、すべてのモデルでこの情報をチェックすることは不可能です。今のところ私たちにできることは、できる限り商品情報にそうした特徴が書いていないかチェックするなどして類推することくらいしかありません。ただこのサイトでもできる限りこの照射時間グラフを調べて公開していますので、ぜひ参考にしていただきたいと思います。

バッテリーの主流はアルカリから充電式へ

昨今技術進化によるバッテリーの大容量化・小型化の進展によって、ヘッドランプもどんどん汎用のアルカリ電池から専用リチウムイオンバッテリーによる充電式が多くなってきました。ヘッドランプを専用リチウムイオンバッテリーにすることで、高出力のライトでもかなり長時間電池がもつようになっただけでなく、最近ではスマホやその他電子機器の充電のためにモバイルバッテリーを携行することが多くなってきているため、予備電池を省くことができ、軽量化という意味でも確実なプラスです。

ただ、充電するまでにはかなりの時間がかかる、それを回避するために予備バッテリーを買おうものなら、普通の乾電池よりもかなり高いコストを払わなければならないことなどを考えると、いざというときのためにアルカリ乾電池が使えれば、非常にありがたいことは確かです。

そこでPETZLのハイブリッド CORE テクノロジーのように、専用バッテリーの他にアルカリ乾電池も共用できるハイブリッド仕様の製品は、利便性という意味では現在非常にスマートな選択といえます。どれを選ぶべきかは自分のもっていく予備電池と相談して、最も効率良い構成を見越して考えるのがよいでしょう。

徐々にアルカリ乾電池も専用バッテリーもどちらも使える便利な「ハイブリッド型」ライトが増えてきた。最近ではさらにバッテリー自体がモバイルバッテリーとなっているモデルなども登場。

外部バッテリーを繋ぎながら使えるモデルは長時間行動に便利

高出力ヘッドランプの中には、通常の専用バッテリーの他にモバイルバッテリーから直接給電しながら使えるというユニークなモデルも出てきました。実際にヘッドランプの電池容量はモバイルバッテリーの全体容量に比べればそこまで大した容量ではないため、モバイルバッテリーに繋げらていれば、長い時間高出力で使い続けることができます。充電時間の短縮にもなり、これは想像以上に便利かつ実用的でした。

BioLiteのヘッドランプ330なら、モバイルバッテリーをバックパックのヘッドに忍ばせて、常に給電しながら使用できる。

ポイント4:耐水・防水性能

ヘッドランプの使用シーンというのは、たいていの場合夜間や緊急事態などのいわゆる緊迫した状況であることが多く、いざというときに使い物にならないなどということがないよう、他のギア以上に耐久性は重視すべきでしょう。特に電子機器であるヘッドランプは水に弱いため、最低限の濡れに対する防水性能があるかどうかはチェックしたいところです。

現在、ヘッドランプのカタログなどに記載されているのは、IPコード(エンクロージャによる保護等級)という防水性能の国際規格による指標です。カタログやマニュアルに「IP ◯◯」と記載されており、右側の◯の部分にあたる数字が大きいほど防水性能に優れているということを示しています。なお左の〇部分は防塵性能を示す部分で、ここまでしっかりと保護されている(X以外の数字が明記されている)モデルであればさらに安心です。以下、それぞれのクラスでどの程度防水性能があるのかをまとめます。

基準 防水性能の目安
IPX4 あらゆる方向からの散水に対する保護
IPX5 水の噴流に対する保護
IPX6 水の強い噴流に対する保護
IPX7 一時的な水没に対する保護(水深1 m で30 分間)
IPX8 長時間の水没に対する保護(水深1 m よりも深い位置で、製造者により定められた時間)

ポイント5:重量

一般的にヘッドランプの重量は、電池を装着した状態で 100グラム前後。各メーカーの主力モデルはそこから10グラム前後の差異しかないため、通常はほとんど気にならない程度だと思いますが、一部の高出力モデルになると特に電池重量が跳ね上がるため、200グラムを超えてきます。ここまでくると、安定して装着できるように電池パックを分離するなどの工夫がなされていると、重さも気になりにくくおすすめです。

一方で軽量モデルとなれば、50グラム以下ほどの軽さもざらです。ただし当然、照射能力には期待できませんので、そういう意味ではあくまでもテント内での最低限の明かりやエマージェンシー用として割り切って位置づけると価値のあるモデルです。

ポイント6:その他あると便利な機能

より使いやすく多彩な照射モード

より高機能モデルになってくると、設定できる光の強さやタイプのバリエーションが増え、この結果これらのモデルにはより多様化したさまざまなシチュエーションに最適な光を選択できるというメリットが出てきます。ただ、こうしたモードのバリエーションが増えることで操作方法が複雑化して使いにくくなるという負の側面もあり、たくさんモードがあればいいというものでもありませんが。

モード 説明
HIGH(Power) 最も明るく照らすことができる、暗闇での使用に最適なモード。電池の消費量も最大。さらに数十秒間だけ非常に明るいビームを発することができる「ブーストモード」を備えたモデルも。
MID 高出力よりも暗いが省電力な明かりを提供するモード。
LOW 最も省電力で最低限のビームを提供するモードで、夕暮れ時のトレイルやキャンプ場での雑事にはこの程度で十分な場合が多い。
ブースト 一時的にHIGHよりも強く明るい光を短時間照射する機能(バッテリーを著しく消費する)。
明るさの無段階調節 光の強さを上記3段階よりさらに細かく調節できる機能(ディミングモードとも)。
リアクティブモード センサーによって最適な光の形と強さを自動調節してくれる。常に見やすく快適、さらにバッテリーの無駄もなくしてくれるハイテク機能。
ストロボ 一定間隔で点滅するモード。普段使用することはないが、緊急時、周囲にこちらの存在を知らせる時に非常に役に立つ。当然消費電力も低い。
カラーライト レッドライトは夜間に瞳孔を刺激しない種類の光で手元を照らす時に便利なモード。テントや小屋のなかで、寝ている他人を起こすことなく行動するときなどに便利。その他イエロー、グリーン、ブルーなど特定のシーンで見やすい色の明かりを備えたモードも。

照射角度の調整しやすさ

一般的なヘッドランプは頭にセットしてからランプの向きを上下に微調整できるようになっています。大体手元を見るときは下向きに、遠くの道を探る時には上向きに調整することが多いので、照射角度の調整し易さはヘッドランプの使い勝手を左右するポイントの1つです。

ストラップのフィット・サポート性

ヘッドランプを頭部に装着するストラップは、幅、厚さ、弾力性、調節しやすさ、耐久性など、思った以上に気を遣われるべきデリケートな部分です。下の写真のように肌に当たる部分が固いプラスチックやざらついたゴムバンドではなく、フラットでクッションの利いた肌触りの良いパッドであることが望ましいでしょう。

肌に当たる部分が快適なパッドがついていれば、長時間の装着でもダメージが少ない。

また、重たいヘッドランプや、トレイルランニングなどの激しい運動を行なう想定であれば、フィット感の微調整やが可能かどうかやずれにくさなどを重視して、ライトの性能だけでなく装着するものとしての品質も考慮することが大切です。

ボタンロック機能

バックパックにしまっている間にヘッドランプのスイッチがONになってしまい、いざ使おうとしたときにバッテリーが0%だったなんて悲惨な話、実際には結構な登山あるあるです。それを防ぐための「ボタンロック」機構は大抵の登山用モデルに搭載されていますが、まれにない場合もあるので要注意。できる限りロック機構がついているモデルをぜひとも選びたいものです。

まとめ

ヘッドランプは一見単純な道具のように見えるかもしれませんが、実際にはまったくもって複雑でデリケートなギアでした。特に購入するまでブラックボックスになっていて分からない情報があることは一ユーザーとしては何だかなぁという気がしますが、ぼくたちはできることをやるしかありません。少しでも後悔しないために、このガイドにある情報を参考に、皆さんが自分にとってのどんぴしゃモデルを引き当てられるように祈っています。

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