バックカントリースキーに最適なバックパックって?
危険だけど最高の気分になれる白い粉が大好きな人たちにとって、どれだけ安全で快適なギアを装備するかはいつだって切実な話です。ましてや登山において最も重要な道具といっても過言ではない、バックパックについてのこととなればなおさら。
確かに普通の登山向けザックでもバックカントリースキー(スキーツアー)ができるとはいえ、やはり万全の態勢で挑むにはそのために作られた専用のバックパックで臨みたいものですよね。
もちろんそれは単なる気分の問題などではありません。同じ登山用のバックパックとはいえ、登山とスキーツアーでは身体の使い方も、収納・携行する道具も、危険の種類も大きく違うことから、バックカントリースキーのために作られたザックは背負い心地や使い勝手など、総合的な快適さが大きく違います。
そこで今回は、バックカントリースキー・スノーボードを存分に楽しみたい人々のために、バックカントリースキー・スノーボード向けのバックパックのおすすめモデル、そして選び方について書きます。一通り調べてみて分かったのですが、このスキーツアー向けバックパック、メーカーや人によってこだわりが実に多彩です。なのでここで書く選び方も、どうしてもぼく個人のこだわり・クセが反映されているので、玄人の皆さんと意見が違ってくる部分が多いかもしれません。今回はそんな気分で読み進めていただければ幸いです。
目次
バックカントリースキー向けバックパックとは?普通のザックと何が違う?
一般的にバックカントリースキーやスノーボード向けに開発されたバックパックは、構造的な面や収納・アタッチメントの面で、無雪期用のバックパックと比べて異なる特徴を多く備えています。
すぐ分かる点からいうと収納面。例えば雪崩救助対策用の道具であるショベルとプローブの出し入れが容易な専用のコンパートメントが設けられています(もう一つの雪崩必需品であるビーコンはパックの中ではなく、身体に身につけて使用します)。あるいは雪山でも荷物の出し入れがしやすいように背面が大きく開くようになっていたり。
また、これらのパックには、スキーやスプリットボード、スノーボードをバックパックに固定しやすくするためのキャリー用パーツが付いていることも大きな特徴です。もちろん一般的なバックパックでもサイドコンプレッションストラップなどを使えば取り付け可能ですが、専用パックの方はさまざまな取り付け方で、しっかりと固定できるようになっています。
さらにゴーグル用の裏地付きポケット、ハイドレーションやトランシーバー(無線機)用のスリーブやカバー、ヘルメットホルダーなど、バックカントリーでよく使う道具を効率的に収納するポケットやアタッチメントを数多く備えています。こうした細かい収納は各メーカーのモデル毎に有り無しがあり、またこうした余計な収納は不要という人のためのシンプルなモデルもあったりとさまざまなので、ここは自分の好みによって選ぶところです。
一方で素材やパーツの作りでも、丈夫な生地を採用していたり、バックルなども操作がしやすい仕様になっていたり、パーツは凍結に強い素材を使用していたり……などなど「低温下でグローブをはめて使う」ということを前提とした作りになっています。
バックカントリー向けバックパックを選ぶときにチェックしたい10のポイント
最終的に自分にピッタリのバックパックを選ぶには、自分がどんなタイプのスキーツアーに使いたいかという目的を決めることが必要です。スキー場の裏手でちょっとした上り坂を登るだけなのか、登山口から丸1日かけて山頂を目指すのか、頂上付近はアイゼン・ピッケルの世界なのか、ベースキャンプでテント泊するのかなど、今の質問はほんの一例ですが、バックカントリーにも細かな用途によって最適なモデルは変わってきます。
ただいずれにせよ、そうした最適モデルを選ぶために必要な「どの視点で選べばよいか」というポイントについてはある程度のセオリーがあります。それらを実際の経験のなかから、以下の10個にまとめてみました。
ポイント1:サイズ(容量)
1~2月のハイシーズンにパウダーを滑るようなバックカントリーの場合、多くの人は半日~日帰りでのアクティビティが中心になるでしょう。
そうした半日程度のバックカントリーツアーがほとんど、という場合、ザックに詰める主な荷物は必需品(ショベル、プローブ、水分、防寒着、予備ゴーグルやグローブ、シール・クトー、行動食)と、ルートによってはピッケルアイゼンなどです。このためザックのサイズはそれらが収まる程度の容量がちょうどよく、経験上、大体25L~35Lのサイズがちょうどよいです。20L以下は軽めのコースやスキーモレース用、あるいはよほどパッキング自信がある人以外、できれば避けた方がいい。
一方、慣れてきて少し困難なルートや1日目いっぱいのコースなど、多様なルートを目指すようになると、ロープやハーネスをはじめたくさんのギア、水筒も大き目になるなど装備も多くなります。これらもカバーするサイズと考えると、より余裕のある40L以上のサイズが欲しくなります。また大きなカメラやドローンなど普通とは違う荷物を持っていく人もこれだけの容量があれば安心です。かくいう自分の場合、一眼レフのカメラも持ち歩く都合上なんだかんだと最終的には40L前後がベストになっています。そうした余計な荷物を抜きにすれば、いろいろな可能性を考慮して平均的なサイズは35L前後でしょうか。
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なお、40L以上の容量からはバックカントリーでの泊まりの旅(小屋泊まりなど)も視野に入ってきますが、本格的な雪山テント泊でのスキーツアーを考えるのであれば、バックカントリー専用のモデルよりは70Lクラスの、雪山もいけるオールラウンドモデルを検討するのが賢明です。
ポイント2:アバランチエアバッグ搭載か、非搭載か?
アバランチエアバッグとは、雪崩発生時にスキーヤーが埋没するのを防ぐために瞬時に膨らむ大きなエアバッグです。雪崩事故の死因で最も多いのは窒息なので、エアバッグによって身体が雪の上に浮いていてくれることで、生存率を大幅に高めることができます(100%安全というわけではありません)。
近年各メーカーから雪崩用エアバッグが搭載されたバックパックが数多く登場しており、なるべくならばそのモデルを使いたいところですが、なにせまだ高価です。またBCエリアも地形や天候次第では、これがなければ絶対に行ってはいけないという場所ばかりではありませんので、(個人的には推奨しますが)各自での必要性と予算に応じて決めればよいと思います。
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ポイント3:背負ったときの快適性・安定性
日帰り程度の荷物が中心とはいえ、ある程度の重量を背負って登り滑降する以上、バックパックの背負い心地が悪かったり、安定感が悪くて左右にブレるようでは危険だし、なにより楽しくありません。
30L以上の比較的大き目クラスのバックパックで10kg程度の荷物を背負っていれば、長時間行動しているとかなりの疲労がたまってくるはずです。このためなるべく疲れにくく、肩や腰などが痛みにくい快適な背負い心地のモデルを選ぶのがおすすめですが、そのときに必要なのは、しっかりとした背面構造を備えていることです。
背面構造とは、背面フレーム(パネル)とショルダーストラップ・ヒップベルト全体の作りを指しています。快適な背面構造には荷重や圧力で歪んでしまわない硬質の背面パネルやフレームが入っていることが重要で、そこがしっかりと備わっているモデルをおすすめします。そうでないと、パックが背中にピッタリと沿わず、重さが分散されなかったり、荷重に偏りが生じてしまいます。
ショルダーストラップやヒップベルトも荷重に耐えるためにはなるべく堅牢でクッション性の高いものがベストですが、あまりボリューミーになりすぎると今度は激しい動きが生まれる滑降時などに邪魔になります。その点を念頭に、軽さ・動きやすさを損なわない範囲でなるべく幅広でクッション性の高いモデルを選ぶべし。
ポイント4:スキー・スノーボードの取り付け方式
スキーツアー向けバックパックが他と違う大きな特徴のひとつが、スキー(スノーボード)を運ぶための仕組み・パーツが搭載されていることです。
一般的にスキー(またはスプリットボード)は、Aフレーム方式(下写真)か、
またはダイアゴナル(斜め掛け)方式でスキーパックに取り付けることができます(下写真)。
一方スノーボーダーの場合は、スノーボードやスノーシューをバックパックのフロント部分に垂直または水平に取り付ける仕組みがあるかどうかが重要です(下写真)。
バックパックによってはこれらすべてのスタイルを用意しているものもあれば、Aフレームのみでしかスキーを固定できないモデル、あるいはスノーボードの取り付けが想定されていないモデルなどさまざまなりますので、選ぶ際にはどのスタイルで取り付けが可能なのかをチェックしましょう。
ちなみにほとんどの場合ではスキーをどのように取り付けるかは個人の好みですが、強いて言えばAフレームはザックの側面にしっかり固定されるので安定感があるが取り付けには相対的に時間がかかる、ダイアゴナルの場合、ザックへの固定は楽でスピーディにできますが風に振られやすく安定感は相対的に低い、などの違いがあります。
いずれにせよバックカントリーに出かける前に、スキーやスプリットボード、スノーボードをバッグに装着する練習をして、ストラップの配置がどのように機能するかを確認しておくことが大切。いざという時にもたもたすると大きな危険に繋がりかねないのが雪山です。
ポイント5:アバランチツール専用収納
BCスキー・スノーボードパックが持つ大きな特徴のもうひとつは、雪崩対策用の道具(ショベルとプローブ)を入れるコンパートメントがあることです。
ひとたび雪崩事故が発生するとまじめな話1分1秒を争うことになるため、これらの道具が「安全に収納できるかどうか」「万が一の際に素早くアクセスできるかどうか」はバックパックにとって必要不可欠な要素です。細かいギミックがどうかというよりも、上記2点がしっかりと意識されているかどうかだけはしっかりと確認しましょう。
ポイント6:メイン収納へのアクセス
多くのBC用バックパックでは、パックの背中側(またはサイド)から内部にアクセスできるようなジッパーが配置されています。
主な理由は足がスキーに固定された状態でバックパックを完全に下ろさないでも中身を出し入れできる、あるいはパックの奥底にある荷物も(細かい荷物を外にぶちまけないで)取り出しやすくするなど、いくつかありますが、確実に便利なのでBC用パックにとってこの機能は必須と考えていいでしょう。
問題はその構造です。バックパネルをU字型に開けることができるジッパーがショルダーストラップの下側を通っている構造であれば、何も考えず容易に背面パネルを開くことができるのですが、ジッパーがストラップの上側を通っている場合、ショルダーバックルを外してからでないとパネルを開くことができません(下写真)。ひと手間ですが、これがちょっとだけイラつくんです(笑。
まとめると、メイン収納へのアクセスで最もおすすめなのは、トップと背面からアクセスが可能であること。そして背面アクセスではジッパーがワンアクションで全開できること、の2点がベスト。もちろんこれ以外の仕様だったとしても妥協できないわけではありませんが。
ポイント7:ヘルメットホルダー
スキーでヘルメットを装着することがほぼ当たり前になってきた近年では、BC向けバックパックでもヘルメットをパックに取り付けるためのパーツが付くモデルが増えてきました。これらのキャリーシステムは通常収納・取り外しが可能なカバー生地が付いており、そこにヘルメットを挟んで指定の位置に取り付けることができます。選ぶ際にはあるかどうかチェックしてみましょう。もちろんなくても何らかの方法で固定することはできますので、自分でホルダーを購入するなり作るなりすれば問題ありません。
ポイント8:その他こだわり道具の収納
他にも必ず必要なわけではないけど、あると非常に便利な収納・機能がいくつか存在していますので、ここで上記の他に個人的にこだわりたい収納・アタッチメント類についてまとめて列挙してみます。
ゴーグル収納
BCスキー・スノーボードで必須のギアであるゴーグルの収納方法も、細かいですがチェックすべきポイントです。確かに無いからといって使い勝手が激変するものではありません。中には軽量化、あるいはポリシーとしてこのポケットがないモデルも当然あります。ただ、繊細なアイテムであるゴーグルを安全に収納できる場所があると、何かとパッキングは捗りやすいことも確かです。手厚いモデルの場合は生地が起毛フリースになっていたりして、ダイレクトに放り込めるものもあります。そんなパックには細やかな優しさを感じてしまいます。
ハイドレーション収納とホース孔
ザックを下ろしたりするのがいちいち億劫なバックカントリーでは、水分補給にハイドレーションを使うことがひょっとすると夏より便利なのかもしれません。このためハイドレーションに対応しているバックパックがあれば、行動中何かと便利になる可能性があります。
ただハイドレーションの容器やホースは冬の寒さで凍ってしまうこともありますので、保温性をいかに保つかが重要です。チューブや容器を保温ケースに入れる、あるいはショルダーストラップ部分にホースカバーが搭載されているバックパックを選びましょう。
トランシーバー(無線機)とスピーカーマイク収納
夏山ではさほど利用シーンはありませんが、冬山では仲間同士の通信用にトランシーバーや、緊急時に救助を要請することまでできる無線機等を携行することが多々あります。シンプルにジャケットのポケットに入れてもいいですがかなり嵩張るので、できればスマートに収納したい。そこで現時点で最もスマートなのは送受信機本体をバックパックに収納し、そこからマイクスピーカーを(ハイドレーションホース孔などを通じて)肩口にセットする方法です。これならば身の回りが嵩張らず、必要な時に素早く会話ができます。ここまでがきちんと想定されているモデルとなると限られてきますが、逆にここまでしっかり考えられているバックパックはトップクラスの使いやすさだといえます。
ピッケル・ストック・クランポン・ロープ収納
多くのバックパックは、ピッケルやストックをザックに固定するアタッチメントが備わっているはずです。今ビギナーだから不要だとしても、季節やルート次第で今後必ず使う可能性が出てくると思いますので、必ずこれらアイスツールが収納できる何らかの機構が備わっていることを確認しましょう。逆にそれが万が一ないモデルは本格的なBC用でない可能性が高いので注意です。
また氷河が多いヨーロッパ系のメーカーの中には、さらにクランポンやロープなどがスマートに収納できる仕組みを備えていたりします。
ポイント9:ショルダーストラップとウェストベルトの使い心地
これも好き好きな面が大きいかもしれませんが、自分にとってはショルダーストラップのフィット感や使い勝手は重要なポイントです。普段は荷物もそこまで重くないとしても、ひとたびスキーやボードをパックに取り付けようものならいつもよりもかなり重い荷物を持ち運ぶことになり、肩への食い込みも気になってくるはず。太くめで快適なショルダーストラップがあれば、そんな時少しでも楽に運ぶことができます。
またこだわりすぎかもしれませんが、ウエストストラップの締め方も意外と気になります。何よりも前にひいて締めるタイプ(下写真の上)の方が圧倒的に締めやすく、使いやすいので、後ろ(外側)に引くタイプ(下写真の下)だった場合はちょっと残念に思ってしまいます。
ポイント10:ジッパーやバックルの使いやすさ
BC向け、というよりも雪山用のバックパックに関して個人的にこだわっているのは、ジッパーのサイズや耐久性・操作性についてです。厚手の手袋やミトンを着用することが多いことを念頭に、大き目のタブが付いたジッパーであると、行動中のストレスは少なく、より快適に過ごすことができます。何度か開閉してみて、ジッパーが持ちやすいかどうか、スムーズに動くかどうか、妙に小さく弱そうでないかどうかなどを確認してください。
またバックルについても、グローブ装着時でも指の腹で操作できるスムーズな形状か、雪が詰まりにくいかどうか、ストラップがより緩みにくいパーツが付いているかなど、よく考えられているモデルにはその辺りまできめ細かく考慮されていたりしますので、できればその辺もチェックしてみましょう。
最後にここもチェック
最後にこれはBC向けに限ったことではありませんが、バックパックを選ぶうえで必ずチェックすべき点について補足しておきます。
背面長が合っていること
背面長とは首の後ろの一番とび出している骨(第7頸骨)から腰骨上端までの長さをいい、30L以上のザックではこのサイズが合っていないと背負い心地に大きく影響が出てきてしまいますので、購入前には必ず自分の背面長に合っているかどうかを確認することが重要です。同じモデルの中でS/M/Lなど背面長のバリエーションがある場合もありますので、忘れずにチェックして、自分に合ったサイズを選ぶようにしましょう。
→背面長についてはバックパックの選び方も参照
耐久性と重量
冬期用のバックパックは全般的に丈夫な生地であることが多く、一般的には生地の耐久性が高いほど、その分重量も増える傾向にあります。ただ、いくら軽い方が快適だといっても、冬山では軽さのメリットよりも物が壊れたり、機能不足によることのデメリット(危険性)の方がより深刻であることが多いので、初心者の方や明確に軽量化を目的としている人以外はあまり重量を気にする必要はなく、快適さや使い勝手をチェックすることに注力するのがよいかと思います。
今すぐ欲しいバックカントリースキー・スノーボード向けバックパック(非エアバッグモデル) 2021-2022
ここからは、今年の新作を中心に、実際にお店でチェックしてびびっときた個人的おすすめバックカントリー向けバックパックをピックアップして紹介します。例によって大まかな特徴を示す★★★はあくまでも目安程度ですので、参考に自分のこだわりと見比べてみて、みなさんにピッタリのモデルを探してみてください。
bca STASH 30
快適性★★☆ 収納性★★★ 使いやすさ★★★ 重量★★☆
90年代半ばにコロラドで立ち上がったバックカントリー用のセーフティギア・ブランドであるbcaは、世界で初めてデジタルビーコンを開発するなど、雪山での安全を企業の使命として、ブレずにモノ作りを続けている良心的なメーカーとして知られています。このSTASH 30は、そのずんぐりした見た目とは裏腹に、実に細かいところまで行き届いたスマートな機能性の高さ、使い勝手の良さが秀逸な、まさにバックカントリーに特化したバックパック。初めてBC用パックを購入する人からこだわりが強い玄人まで応えられる完成度の高さが魅力です。
スキーのAフレーム・ダイアゴナル、そしてスノーボード取り付けも可能なことはもちろん、トップ・背面から容易にアクセス可能なメイン収納、圧巻はアバランチギア・ヘルメット・ゴーグル・アイスツール・ハイドレーション・トランシーバー・電子デバイスなど、BCで考えられるほとんどのギアの効率的な収納が用意されていることです。特にヘルメット収納はフロントにもトップにも取り付け可能であったり、ハイドレーションも凍結防止のカバーがあったり(どうやらこれはBCAが世界初搭載)、無線機もメイン収納内に専用のポイントからマイクをショルダーストラップに通して取り付け可能だったりと、ただ収納できるだけでなく細かな使い勝手までしっかりと作り込まれています。
惜しい部分を強いて挙げるならば、ウェストベルトを締める方向が外側後方であること、ショルダー・ウェストのクッション性が普通なことですが、取り立てて致命的な問題ではありません。言い忘れていましたが背負い心地に関して、アルミフレームでの優れた安定性に加えなんと背面長の調整までもできます。その意味で背負ったときの快適さ・安定感も安心です。
とにかく、現場での使いやすさがとことん考えられていることが素晴らしい。バックカントリーをしない人にとってはほぼ無名のブランドですが、そんな人にもぜひ体感してみて欲しいバックパックのひとつです。
THE NORTH FACE チュガッチガイド45
快適性★★☆ 収納性★★★ 使いやすさ★★☆ 重量★☆☆
日本ではBC系のバックパックのなかで、おそらく最もよく見かけるこのチュガッチシリーズ。使ってみると分かりますが、その人気の理由は決して見た目だけではありません。当サイトで3シーズン前に実施した比較テストでも(前モデルですが)見事1位を獲得しています。サイズ的には35リットルモデルが最もフィットするユーザーが多いと思いますが、45リットルでも使い勝手はほぼ変わらず、雨蓋が取り外してサイズを小さくできるなど汎用性は高いので個人的にはこちらが気に入っています。
このパックの魅力を一言でいうと、背負い心地と収納性・使い勝手のバランスの良さ、欠点のなさではないでしょうか。アルミフレームとフォームパッドでによる堅牢な背面構造に加え、雪が付きにくくクッション性の高い高密度フォームによって背負い心地は快適の一言。また収納・機能面においても、細部にわたってバックカントリーをやり込んだ使いやすさが徹底的に考えられています。
2気室の使い方が可能なディバイダーを内蔵したメインコンパートメント、開け閉めのしやすい背面ジッパー、素早くアクセス可能なアバランチギア専用ポケット、無線のマイクも入れられるショルダーハーネスのポケット、雪が入りにくくグローブでも開閉しやすいバックル、ゴーグル収納用のライニング付きポケット、ヘルメットホルダーなど見事に抜かりがありません。これでもう少し軽く、ダイアゴナルでのスキー取り付けまでできるようにしてくれたら完璧!
ORTOVOX HAUTE ROUTE 32
快適性★★★ 収納性★★☆ 使いやすさ★★☆ 重量★★☆
ORTOVOX(オルトボックス)は日本ではややなじみの薄いブランドかもしれませんが、ヨーロッパのアウトドアシーンでは決して見逃せない存在感を誇る、スイス発祥のブランド。ヨーロッパアルプスを舞台とするマウンテンアクティビティに最適化されたモノづくりながら、今や世界中の登山家・スキーヤーに愛されています。
その豊富なラインナップの中でも、バックカントリースキーヤー憧れの由緒正しきツアールート「オートルート」を名前に関したこのモデルは、名前の通り壮大な景色のハイクと豪快な滑降を繰り返しながら快適な山小屋を繋いでいく長旅のために作られているだけあって、手頃なサイズ感の中に「歩く・滑る・運ぶ」という総合力が魅力の、絵にかいたような優等生バックパックです。
軽くて耐久性のある素材を使い、スッキリとシンプルなフォルム、快適な背面のサスペンションと適度なクッションによって背負い心地はさすが。さらにスキー・スノーボードの取り付け方も多彩で、標準で追加のストラップやベルクロなどがついており、自分のスタイルに応じて細かなアタッチメントのカスタマイズができるなど丁寧な心遣いもうれしい。
北米系ブランドに知名度・人気面で押されがちなBCギアですが、ヨーロッパの「デキる」やつも忘れずに!
Osprey ソールデン32
快適性★★★ 収納性★★★ 使いやすさ★★★ 重量★★★
バックパック専門ブランドとして世界トップクラスの人気を誇るオスプレーは、当然のようにバックカントリー向けバックパックでもその実用第一の哲学が貫かれた優秀なモデルを作り続けています。自分は昨年、このソールデンシリーズのアバランチエアバッグ搭載モデルをずっと使用していました。
何よりも、さすがバックパック専門メーカー!といわんばかりの群を抜く背負い心地の快適さ、安定感が素晴らしい。細かい収納は慣れれば何とかなるけど、背負ったときのフィット感だけはどうしようもありません。その意味で、オスプレーを選ぶ理由としてこれ以上のものはないでしょう。
もちろんポケットやアタッチメント類も文句なしに使いやすい収納がこれでもかと配置されています。ヘルメット収納はフロント・トップと位置を調整できるきめ細かさや、スムーズで手荒く使っても壊れにくいジッパーやバックルなどの細かなパーツの品質の高さには、相変わらず惚れ惚れします。
あえて難点を挙げるとすれば、メイン収納へのアクセスがバックパネルからのみであること、ショルダーハーネスにハイドレーションホースや無線のマイク収納があると個人的にはうれしいかと(同じオスプレーのキャンバーシリーズには付いているのに…)。32リットルの他、42リットル、22リットルとバリエーションも豊富なので、スタイルに合わせて選んでやってください。
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Arc’teryx ラッシュ SK 32 バックパック
快適性★★☆ 収納性★☆☆ 使いやすさ★☆☆ 重量★★★★★
ここまでのはすべてオールラウンドな優等生モデルばかりでしたが、このアークテリクス ラッシュ SKはそれらとは明らかに別物です。一見落ち着いたデザインに隠されたクセがスゴすぎる収納・アタッチメントの数々。ただしひとたび慣れてしまえば、その異次元の軽快さによって唯一無二の相棒になる可能性を秘めたモデルといえます。
アークテリクスお得意の「軽量・高耐久」素材を全面的に採用したことで1kgを切る軽さを実現していることには素直にびっくりです。しかも32リットルといいつつ、メイン収納の入口はロールトップで余白があるため、無理をすればかなりの容量詰め込むことも可能。
ただ収納面はややユニーク過ぎて、ぼくの脳内ではかなり物議を醸していました。基本的には軽量化のコンセプトによって、必要最低限の収納に切り詰められています。専用の収納としてはメイン収納とアバランチツール収納があるのみ(ヘルメットホルダーはかろうじて標準でついています)。それらへのアクセスも、トップを除くと背面ではなくサイドのジッパーのみで、ジッパーは長めとはいえ慣れが必要です。スキー・スノーボードの取り付けはどんなスタイルにも対応していますが、いずれのスタイルもいつでも簡単に取り付けられているというよりは、着脱可能なストラップを自分で選んでセットすることから始まります。ストラップも、自分流にアレンジするためには自分で買い足すことも必要になってきます。
つまり、慣れればといったのはこの部分で、到底初心者であれば何をどうつけていいか分かりませんし、自分にとって必要なアタッチメントが何かを判断できない人にとっては使いこなすのは難しいでしょう。ただ一方でそうやってパーツ類を削りに削ることで得られた軽さは間違いなく無敵。その恩恵を受けたい人、「ないものは自分で作る」という姿勢を受け入れられる人にとっては最高にいじり甲斐のある逸品になるでしょう!
MYSTERY RANCH ギャラティンピーク40
快適性★★★ 収納性★★☆ 使いやすさ★★☆ 重量★☆☆
快適な背負い心地と確かな耐久性の高さ、そしてユニークで便利なギミックで定評のあるミステリーランチ。そのユニークなブランドが作るスノーパックは、やはり”ミステリーランチ”でした。
垢ぬけたデザインの表生地は、丈夫なだけでなくワックスコーティングされ耐水性を向上させたファントムリップストップナイロンを採用。独自の構造で快適さとフィッティング性能を兼ね備えた背面パネルは相変わらず調子よく、BC用のバックパックには珍しくさまざまな背面長に簡単にアジャストできます(ただちょっとだけいつもより肩幅が広い気がした)。独自のバックルは軽量かつ高い操作性で、グローブを付けていても快適な使い心地。メイン収納にもバックパネルをがばっと開いて後ろからアクセスできます(ショルダーバックルを外す必要はありますが)。
容量は大きいのでパッキングに困ることはないものの、細かなポケットはやや少なめ。そんななかでも気に入ったのは雨蓋のインナーに取り付けられたゴーグル専用のジッパーポケットで、こうした細かい点でここでしか見ないような仕組みを付けてくるあたり、実にミステリーランチらしい振る舞いで好き。
GREGORY ターギー32
快適性★★★ 収納性★★★ 使いやすさ★★★ 重量★★☆
オスプレーと北米での人気を二分する世界的バックパックメーカー、さすがこのスノーパックにおいてもまったく妥協無しで上質な素材・部品と技術を投入しています。
グレゴリーといえば快適さ抜群の極上の背負い心地ですが、このパックでもそれは健在。特にスノーパックでは省略しがちなウェストベルトのパッドもたっぷりと配置され、ハイクでの快適性はピカ一といえます。滑降などでの機動性を考えるとここまでいるかなという気もしますが、無雪期でもグレゴリーを愛用しているファンであれば歓迎すべき特徴かもしれません。
収納面でも、スタイルや経験を問わず誰もが使いやすく、そして壊れにくい作りになっています。強いて言えばもう少し軽くて価格も落ち着いていたら最高。
Patagonia ディセンジョニスト・パック 40L
快適性★★☆ 収納性★☆☆ 使いやすさ★★☆ 重量★★★
現在パタゴニアが展開するバックカントリー向けバックパックは2種類ありますが、一方のオールラウンドな性格を備えたスノードリフター・パックと違って、他方シンプル&軽快さをコンセプトとしたモデルがこちらのディセンジョニスト・パック。万人向けならばスノードリフターですが、より身軽さと、必要な部分だけ自分でカスタマイズしたいという玄人にはこちらのモデルの方が使いやすいはずです。
今シーズン、アークテリクスのラッシュSKが出るまではこのモデルの軽さ・シンプルさは他のモデルにはない魅力でした。ラッシュSKと比べた場合、実際このモデルはどう違うのかというと、どちらも同じシンプル&軽量設計ながら、そのなかでも最低限の万人向けな使いやすさを保っている「パタゴニアらしい」ところ。それだけに、シンプル軽量だからといって極端に使いにくいと感じるほどではありません。アルミフレームは入っていないものの、硬質のプラスチックが背面をしっかり背中に沿わせて荷重を分散させてくれます。メイン収納やアバランチギアへのアクセスも素早く可能で、パッキングも不便しません。このモデルは32Lサイズもありますが、上下に取り付けられたコンプレッションストラップが優秀なため、少ない容量の場合は40Lモデルをつぶして使っても全然イケます。
MAMMUT Nirvana 35
快適性★★☆ 収納性★★☆ 使いやすさ★★☆ 重量★☆☆
アバランチビーコンやエアバッグシステムなど、スノーギアの分野でも優秀なアイテムを多数取り揃えるマムートでは、バックパックも使いやすいモデルが多いイメージですが、なかでもこのNirvana 35はスキーツーリングからフリーライディングまで幅広いBCアクティビティに対応する同ブランドのスタンダードモデルです。
背面の安定性とパッドの快適さ・クッション性については、いつものマムートらしくしっかりと作り込まれていて安心できます。ショルダーハーネスやヒップベルトが一見細くて、重量が大きい場合にちょっと気になります(ウェストベルトは取り外し可能)。フロントにバラクラバなどの小物を入れるジッパーポケットが付いていることや、トップのゴーグルポケットが固いシェル状になって潰れにくい構造になっているところなど、ここにしかないニクイ仕掛けがおもしろい。スキー・スノーボードの取り付けも多彩、なければ困る収納はすべて用意されているので、初心者からベテランまで期待に応えてくれるに違いありません。少しだけ重め。
ARVA RESCUER 32 PRO
快適性★★☆ 収納性★★★ 使いやすさ★★☆ 重量★★★
フレンチ・アルプスと多くのスキーリゾートを抱えるフランスには、優秀なスキー系のギアブランドが多数存在しています。そのひとつであるARVA(アルバ)はバックカントリースキーという言葉が存在していない80年代から雪崩ビーコンを開発するなど、常に雪山での安全を考えてきたブランド。そのアルバが作るバックパックは、使いやすさと快適さを損なうことなく安全性を最優先に考えられた、信頼性の高いおすすめのバックパックです。
すっきりと洗練されたデザインの表面は、薄いながらも耐久性と耐水性の高いコーデュラリップストップHRナイロンを使用。重量も非常に軽くなっています。フロント・バックパネルどちらからでもアクセス可能なメイン収納(しかも細かい小物用ポケット多数)によって、パッキングのわずらわしさはまったく感じられません。特にユニークなのは、アバランチギア収納がパックの外側の取り出しやすい場所に配置されているところで、緊急時のギアの取り出しがスピーディになるだけでなく、パックが薄くなった分より重心が身体に近づいて安定感も向上しています。
ゴーグル収納やハイドレーション・トランシーバー収納もショルダーハーネスにカバーがついて使いやすくなっています。唯一ヘルメットホルダーが別売りなので、そこだけは自分でやりくりする必要がありますが、非常によく考えられたユニークかつ優れたバックパックです。
まとめ
冒頭にも書きましたが、バックカントリー向けのバックパックはメーカーのコンセプトによってかなりクセの幅が広い傾向にあり、ユーザーの我がままをあれもこれも受け入れてくれる面倒見のいいお兄さんタイプから、自分のスタイル・主張に強い自信をもち、それ以外の使い方は認めない(させてくれない)こだわり職人タイプまで実に多彩です。それを踏まえてユーザーはどの姿勢が自分と合うかという視点で選んでみると、より気持ちよく道具を使い、愛せるようになるのではないかと思います。バックパックという何よりも身近な相棒探しはなかなか悩ましい問題ですが、本格的なスノーシーズンに向けていっしょに大いに悩んでいきましょう。