GPSが内蔵されたスポーツ向けの腕時計が、ここ数年でいよいよ活況を呈しています。
発端はやはり2015年のApple Watchの登場。これによってスマートウォッチ(腕時計型ウェアラブルデバイス)市場は急拡大、はじめはランニングの距離や時間などを記録するだけのシンプルなものでしたが、最近では様々なアクティビティに合わせた詳細なデータを閲覧・記録・分析し、アドバイスが得られるモデルまで登場し、着実に進化の一途をたどっています。今やスポーツやアウトドアのフィールドで欠かせないギアとなりつつある人も多いのではないでしょうか。かくいう自分もまさにそのうちの一人です。
そんなスマートウォッチのなかでも、現在地を把握したり、天候を含めた外界の危険を察知したりすることが求められる登山で便利なのが、GPSを内蔵し、さらにABC(高度・気圧・方位)機能、さらにはオフラインでの地図表示機能を備えたGPS付きアウトドアウォッチです。
今回はGPSアウトドアウォッチの代表的な3モデルを、CASIOさんの協力で同時に試してみることができました。この分野、いかんせんモノが高価であるのにも関わらず、実際の機能や使い勝手が外からは計り知れないため、今回はこのサイトにとってもまさに渡りに船という企画。読者の中にも興味をもっていた人は少なくないのではないでしょうか。
実際に使い比べてみると、価格差だけでは測れない得意・不得意の部分がたくさんありました。今回は登山での使用を想定して、そんないいところもダメなところも含めて、前後編の2回にわたって徹底的に比較してみたいと思います。もちろんここでのレビューはあくまでも今回の試用で見えた範囲でしかありませんが、どれを買おうか迷っていた人は自分にとってどれがピッタリのか、少しでも参考になれば幸いです。
目次
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今回比較テストしたアイテムについて
今回用意したのは登山に最低限必要なABC機能が標準搭載、さらにGPSとオフライン地図によるルート表示が可能な3機種です。
同じ登山向けとして紹介される3モデルですが、それぞれのコンセプトの微妙な違いから、実際のところ使い勝手は大きく違ってきます。せっかくの高価な買い物、あとで後悔することのないように、それぞれの得意・不得意を知っておくといいでしょう。
テスト環境
GPS付きアウトドアウォッチのテストは2018年7月の約1ヵ月間、主に奥多摩や上信越のコースで、登山・ハイキングモード行いました(ランニングモードでの比較は見送り・・)。テストは筆者本人と、サポート数名。スタート100%の充電状態から、通常使用、アプリ使用、計画ルートのナビゲーション利用といった搭載されている機能を、同じルートで同時期に一斉に、一通り試してみました。
詳細比較レビュー(前編)
1. 外観 ~高級感のGARMIN、アウトドア感のCASIO、コンパクトさのEPSON~
まずはそれぞれの外観を比較してみましょう。
ぱっと見た感じ、MZ-500のコンパクトさが目立ちます。重さも他の2つと比べてかなり軽く、細腕の自分にもしっくりくるサイズ感。一方WSD-F20とfenix 5xは見た目も、つけた感じもやはりゴツい。特にWSD-F20はベゼルとベルト接続部分(ラグ)の大きさも加わって、装着時の存在感はかなりあります。
デザインに関しては好みもあると思いますが、WSD-F20は良くも悪くもPRO TREKらしいというか、武骨でメカニカルな印象を強く押し出したデザイン、MZ-500も同じ系譜といえるでしょう。アウトドア感を前面に押し出していくならば悪くないルックスです。一方でfenix 5x、さすがは桁違いの価格帯だけあって、マットなステンレスの質感が高級感を漂わせます。ゴツさはあるものの、これならばギリスーツ姿にも合わせられる気がします。心拍数計測のために常時装着する必要があるモデルにとってはここがけっこう重要だったりしますよね。
一方厚みに関してはどれもほぼ同じ。はっきりいって「ぶ厚い」です。バックパックを背負うたびに引っ掛かります。何とかならないものでしょうか。
アイテム名 | CASIO PRO TREK Smart WSD-F20 | GARMIN fenix 5x Sapphire | EPSON Wristable GPS for Trek MZ-500 |
---|---|---|---|
重量 | 約92g | 約98g | 約67g |
サイズ | 約 61.7 × 57.7 × 15.3 mm | 51.0 × 51.0 × 17.5 mm | Φ47mm t=17.6mm |
2. 画面全般、地図の見やすさ ~CASIOの液晶表示が頭一つ抜けている~
次に画面表示の比較です。基本的にはWSD-F20とfenix 5xがカラー表示、MZ-500はモノクロという大きな違いがあります。その意味でMZ-500の表現力はどうしても見劣りします。
ではカシオとガーミンではどう違うか。結論から言うと、WSD-F20がクリアで明るくて見やすい。1.32インチ、320×300ピクセル2層構造のカラーTFT液晶は解像度もきめ細かく文字も鮮明、日陰でも日向でも視認性バッチリ。スマホを見慣れている人にとってもまったく違和感のない表示です。
一方fenix 5xはというと、1.2インチ、240×240ピクセルの半透過型MIP液晶は、バッテリーの節約には大きく寄与しているとはいえ、色数・文字の粗さともに一世代前のイメージ。ただ特に不満が出るほどでは決してありません、あくまでも相対的な話です。
この画面の見やすさに関して、それが最もクリティカルに響いてくるのが、今回の比較の目玉のひとつである地図表示時でしょう。百聞は一見に如かず、並べて地図を表示してみたのが下写真です。いずれも輝度最高、バックライトも付けた状態で比較してみました。
WSD-F20では(画面こそ小さいですが)スマホで地図を見ているのとほぼ変わらない感覚で確認できるのが分かるかと思います。長年ガーミンの携帯GPSを使ってきた自分としてはfenix 5xの地図表示はある意味なじみ深いものですが、普段スマホの地図で生活している人からするとやや物足りなさを感じるのではないでしょうか。ちなみにエプソンに関しては、時計にあらかじめコースを設定していると写真のように現在地が表示されますが、地図に関してはそれ以上のこと、例えばコース以外も含めて現在地を確認したりなどはできません。
3. 防水・耐久性 ~どれもスマートウォッチとしては高い耐久性~
アウトドアで使用するのですから、ある程度の耐久性や耐候性がなくては使い物になりません。ここではそれらの耐久性を比較してみます。
アイテム名 | CASIO PRO TREK Smart WSD-F20 | GARMIN fenix 5x Sapphire | EPSON Wristable GPS for Trek MZ-500 |
---|---|---|---|
ディスプレイタイプ | 無機ガラス/静電容量式タッチパネル(防汚コーティング対応) | サファイアレンズ | ミネラルガラス(防曇処理) |
防水性 | 5気圧 | 100m | 10気圧(100m) |
耐久性 | MIL-STD-810G (米国防総省が制定した米軍の物資調達規格)準拠、耐低温仕様(-10℃) | 動作温度-20~50℃ | 動作温度-20~60℃ |
風防について。傷がつきにくく高級腕時計にも使用されることの多いサファイアガラスがfenix 5xのみに採用されているのがポイント。とはいえ登山では硬い岩の上に落としたりするなど、日常にはないレベルでの強い衝撃はつきもの。サファイアガラスとはいえ傷つくときにはあっさりと傷つきます(涙)。
防水性はエプソンとガーミンの10気圧(100m)防水に軍配。どれも水しぶき程度ならば問題なし、WSD-F20を長時間水につけるのはやめておきましょう。
その他、全体的な耐環境性能として、WSD-F20だけは米国国防総省が規定する耐久試験MIL-STD-810Gをパスしています。落下や振動など、ある程度タフな使い方をしても安心といえそうです。
4. 操作性・インターフェース ~タッチパネル操作に慣れると他のすべてが面倒に~
時計を見るだけでなく、さまざまな情報を確認したり、機能を設定したりするアウトドアウォッチでは、時計を操作することが頻繁に発生します。このため操作性の高さや設定のシンプルさは重要です。
この点でまず際立っていたのはWSD-F20ののシンプルな「3つのボタン+タッチパネル液晶」による操作です。右側にまとまった3つのボタンのうち、上と下ボタンはあらかじめセットされた主要な機能(デフォルトでは各種センサー確認と地図表示)を呼び出すだけですから、実質的にはすべての操作を真ん中の「メニュー呼び出しボタン」とタッチパネルしか使いません。もちろん、タッチパネルに慣れていない人にとっては違った印象なのかもしれませんが、スマホのインターフェースに慣れている人の方が多い昨今ではきっとこちらの操作の方が楽に思うに違いありません。
他方fenix 5x、MZ-500は左右に配置された5つのボタンを様々に駆使して、多くの複雑な機能を呼び出し、設定していかなければなりません。特にガーミンは一つ一つの操作を直感的に行うことは難しく、まずは時間をかけて機能の名前や、メニューの場所、それぞれの操作を「覚え」ていかなければなりません。個人的には「ボタン長押し」という癖のある操作がいろんなタイミングで必要になってくるあたりがしんどい。これもあくまで相対的な話ですが。
象徴的なのが地図画面での操作でした。それを比べてみます。
WSD-F20の方は見たまんま、画面にあるボタンをそのままタップしたり(写真には表示されていないが、画面上に「+」と「-」ボタンが出て、そこをタップすれば拡大縮小が可能)、スワイプ・ピンチイン・ピンチアウトなど、慣れた操作がそのまま使えますが、fenix 5xはまず地図を表示したはいいけど、そこから地図の縮尺を変更しようと思うと「メニューボタン長押し」→「縮尺変更」→「メニュー(UP)・DOWNボタンで縮尺変更」という操作が必要。そのうえ地図をスクロールしようと思たらさらに「右上ボタン」を押して左右か上下の移動モードに変更してから、またUP・DOWNボタンでちょっとずつ動かす・・・という具合。とにかく地図を見ようという意欲が削がれるインターフェースは改善してほしいところです。
5. バッテリー寿命 ~EPSON強し、GARMIN健闘、CASIOは及第点~
バッテリー寿命についてはスペック上で一通りの答えは出ていますが、大抵の場合それはあくまでも理論上の最大値です。それよりも多くの人にとって知りたいのは、特定のアクティビティで、実際の使い方をしたときにどうなのかです。
そこで今回は日帰りハイキングで、満充電の状態から同時にスタートし、ゴール地点でのバッテリー容量を繰り返すというテストを3回ほど比較してみました。3回とも傾向に大きな違いはなかったため、下表にその中の1回、「谷川岳での日帰り登山(約6時間の行程)、頻繁に地図などを表示させての行動」での結果を紹介します。
アイテム名 | CASIO PRO TREK Smart WSD-F20 | GARMIN fenix 5x Sapphire | EPSON Wristable GPS for Trek MZ-500 |
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公式スペック | 7~9時間(精度優先、毎秒測位、カラー表示オートOFF) | 最大20時間(トレーニングモード+GPSモード+光学心拍計) | 約46時間(高精度モード、GPS毎秒測位) |
ゴール時のバッテリー容量 | 36% | 63% | 24時間以上の余裕 |
備考 |
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結果に関して、どれも実用に耐えないということはないですが、やはり安心感でいうとMZ-500の消費量は驚異的、fenix 5xはよくやっている、一方WSD-F20の消耗度合いは気になります(ただ本来であれば、登山中は不要な通信を止めるため、機内モードをオンにしておけばもっと消費は抑えられたはずです)。
大雑把にいってしまうと、バッテリーの良さは、ほぼ画面の見やすさやUIの使い勝手と比例しているといいましょうか。バッテリーそのものの優劣というよりも、より表示の明瞭さや操作性の高さに重きを置いた結果、その分、電池の持ちは割を食ってしまうというようです。
ただひとつこれはフォローするわけではないですが、最もバッテリー消費が激しいWSD-F20については「充電しながら使える※」という他の2機種にはない裏技的な特徴があります。そこで本当に電池残量がヤバいという状況になった場合には、ポケットに入れたモバイルバッテリーから直接コードを手首まで伸ばし、充電してしまえばよいのです。※どのモデルも計測しながらの充電は可能ですので、正確には「充電しながら腕に装着できる」。
もちろん、メーカーも特に推奨しているわけではありません。個人的にも伸びたコードは不格好だし、引っ掛かりやすくもあるので、どんな状況下でもおすすめできるわけではありません。ただ数十分の充電でかなり回復しますし、最近のモバイルバッテリーは大容量でも非常にコンパクトなモデルがありますので、実際には十分に使える方法だと思います。何よりも本当に必要なときに緊急時の方法として工夫ができるということが重要です。
後編へ続く
ここまで比較レビューの前半、外観と全般的な使い勝手について書いてきました。次回はいよいよ実際にハイキングなどのアウトドアできることと、アプリやセンサーの使い勝手について深くみていきたいと思います。
【参考】WSD-F20・fenix 5x Sapphire・MZ-500Lスペック比較表
※各公式HPより抜粋