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Review:OSPREY VARIANT 37 知られざる”パック界のジョブズ”のこだわり抜かれた名作

ビギナーに優しく、玄人も納得。うわさ通りの凄いヤツ。

ザック、またはバックパックというものは1年やそこらでは壊れない丈夫な代物ゆえに、たった1度の選択によって大きな代償を払わなければならない場合があります。ぼくが前回購入した某バックパックは、安心できるメーカーでしたがいわゆるセール品。賭けは空しく失敗に終わりました。それでも以外と愛着は湧いてくるもので、何だかんだと3年間のお付き合いの後、そろそろ成仏しそうなくらいにへたってきたので満を持して、いざ山道具屋へ。何十ものザックを背負ってくると、直感で「これじゃない」というものは分るようになってくる。でも未だに「これだ」というザックの感触には自信がありません。ただ今回の OSPREY(オスプレー)VARIANT(バリアント) 37は、これほど迷うことなく決められたものは無いというくらいに一目惚れでした。というわけで今回はフィット感、スペック、細部の機能、そして価格、どれをとってもちょうどイイ線いっている、うわさ通りの凄いヤツをレビューしていきます。

はじめに:Mike Pfotenhauer とかいうパック界のスティーブ・ジョブズ

OSPREY(オスプレー)は1974年にカリフォルニアで生まれたパックメーカー。「誰のためにも働きたくなかった」創業者のマイク・プフォーテンハウアーは、美大出身のセンスと幼い頃に母親から教わった裁縫技術を基に、カスタムメイドのバックパック製作を始めます。すぐに評判が評判を呼び、そこからおよそ40年、今では世界各国で人気を博するまでに成長していきました。

コロラド州ドロレスにて本格的なパック生産に乗り出す若き日のマイクさん

画像出典:Eastern Mountain Sports

徹底した「製品」へのこだわり

このメーカーについて知れば知るほど見えてくることは、現在もバリバリ現役の創業者、マイクさんの異常なほど強烈なクラフトマンシップとも言うべき「物づくりへの情熱」です。例えば事業を拡大し、カスタムメイドから既製品の生産・販売を始めるにあたってコロラドに会社を移した際、そこで彼が雇い入れた100人の作り手は、民芸品作りで手先の器用さに定評のあったナバホ族の人々であったこと。マイクは彼らとともに試行錯誤しながら、大量の高品質なパック生産を可能にしていったといいます。そしてさらにグローバル競争のなかベトナム工場生産に切り替えた際にも、彼は家族でホーチミンに移り住み、キャンプを知らないベトナム人だろうがお構いなく、現地の技術者と一緒になって妥協なき物づくりを諦めませんでした。まさに、パック界のスティーブ・ジョブズであり、本田宗一郎的な何かを感じずにはいられません。物づくりが日本だけのお家芸なんてことはないんですね。彼はあるWEBマガジンのインタビューで、自身の哲学について、ためらいながらもこう語っています。

Be involved in the making of the product.

(アイデアとか理想とか、思い浮かべるだけでなく)物づくりに関与していることこそが私の哲学。

出典:Core77.com

製品のプロトタイプから製造過程まで、アイデアを「どうやって形にするのか」にまでこだわり続ける彼のプロフェッショナルとしての精神は、現在でも40年前にカスタムメイドで一人ひとりにパックを手渡していた頃と変わっていないのかもしれません。いずれにせよこの執拗なまでのアウトプットにこだわり続ける姿勢こそが、独自の進化によって業界をリードするオスプレーの原動力であることがよく分ります。これについて掘っていくとまだまだ面白いことがたくさんあったのですが、それはまた別の話で。

ホーチミンの工場でのマイクさん(手前中央)

画像出典:Eastern Mountain Sports

詳細レビュー

アイテム名(価格)

OSPREY(オスプレー)VARIANT(バリアント)37(参考価格:19,440円)

主なスペックと評価

項目 スペック・評価
Fabric 210Dハイテナシティーナイロン、210Dナイロン シャドウボックス
Color ディアブロレッド(RD)
ギャラクティックブラック(BK)
size/背面長 S=40.5~48cm、M=47.5~53cm、L=51~58cm
容量 S=34L、M=37L、L=40L
重量(ミニマム) S=1.46(0.84)kg、M=1.53(0.91)kg、L=1.60(0.98)kg
推奨パッキング重量 13~18kg
バリエーション 最大容量52Lの VARIANT 52
重量
(20点)
15
快適性
(20点)
18
機能性
(20点)
18
耐久性
(10点)
12
使い易さ
(10点)
7
調整力
(10点)
7
フォルム・デザイン
(5点)
4
価格
(5点)
4
総合点 85

ここがスゴイ!

バリアントは、基本的にはオールシーズン利用したいクライマーに向けて作られたザックですが、普通の山歩きはもちろん、沢登りにも使えて、バックカントリーやアルパインクライミングにも十分行けます。バリアントはどんなシーンにおいても高いパフォーマンスを見せてくれる絶妙にバランスのとれた便利なザック、それがこのザックの第一印象です。仮にそれぞれのカテゴリに特化したザックには及ばなかったとしても、様々なシーンに十分対応できる基本的な品質の高さが多くのクライマーや山岳ガイドに愛され続けている理由でしょう。

その基本的な品質の高さのひとつは、他社のザックと比較しても優れた点として挙げられる、背負い心地の快適さ。お店の人と相談しながら選んだ対抗馬の THE NORTH FACE プロフィット40や?GREGORY アルピニスト35などと背負い比べてみたところ、縦走向けのように極厚ではないものの、クライミング志向にしては贅沢なくらいにクッション性の高いショルダー・ヒップベルトはこのザックだけ(ここが OSPREY Mutant にしなかった大きな理由)でした。MAMMUT Trion Pro 35+7L の背負い心地も良かったのですが、こちらは相対的にかなり高価なので、よくよく考えてしまいます。

そして次に挙げたいのは、シンプルと多機能のバランスと、使い勝手の良さ。クライミング向けのザックはどうしても極限まで機能をそぎ落とし、外側にギアを着けることができなかったりと、基本的に使い勝手は我慢するしかないのですが、バリアントの場合はいろいろと十分に満足できるような機能がバランス良く備わっています。そんなバランスの良さも含めて、細かい機能で気に入っているのは以下のような点です。

収納性の高いアイスツールホルスターとアイゼンやスコップ等を収納し易い丈夫なフロントパネルポケット

テントポールやストックはもちろんスキーやスノーシューなども想定したサイドベルトとポケット

最軽量では無いものの、縦走用には不可能なほどの軽量(1.5kg)。着脱式のトップポケット・ヒップベルト・バックパネルを外せばウルトラライトモデルに簡単に調節可能。

容量が大きくて使いやすいヘッド(トップポケット)をはじめとして公式には37Lという割には絶対50Lは入ってるだろうというくらいに高い収納性

ザックの引き上げに便利な3点ループ(思い切り沢登りを意識)

このほかにも細かいところまで行き届いたニクい機能がたくさんありますが、詳細は製品ページなどを参考ください。

ここがイマイチ

しょうがない点も含めてですが、マイナス面を挙げてみます。

これは最終結論が出たわけではありませんが、クライミングや沢登りで岩との摩擦が多いアクティビティにも万全なのかどうか、不安が無いとは言えないかも。

個々人の利用目的の違いによるところが大きいのですが、このようなオールマイティなアイテムの性として、純粋なクライマーにとって余計な機能が付きすぎていると言えば言えなくもなく、全くの初心者で縦走にしか使わないのであれば、クッションやサポートなど長期縦走には物足りないと言えなくもないとも。

ここまでバランス良く作ってもらっていうのも何ですが、サイドにジッパーなどで中身の出し入れができれば、言うことなしでした。それくらいの重量増は我慢したのに…!

まとめ:どんな活動におすすめ?

このザックが最適なユーザーは、ぼくのような節操のない幅広い志向を持つアウトドア愛好家、つまり縦走も、沢も、バックカントリーも、そしてちょっと背伸びしてバリエーションルートにも使いたいというユーザーです。サイズに関しては収納力が高いので、山小屋泊まりであれば37Lで十分、テント泊でもギリギリ行けますが、冬も考えると52Lが良い感じです。一方アルパインクライミングの為にしか必要のない人、冬はまったく必要のない人、あるいは完全に初心者で、シンプルさよりもパッキングし易さ含めた使い易さを最も重視したい人にはもしかしたら向かないかもしれません。とはいえ、非常にクセのない人を選ばないバックパックであることは間違いありませんので、メリケン頑固職人のこだわりの結晶を是非試してみてはいかがでしょうか。

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