これからファストパッキングをはじめる人におすすめの軽量バックパック10選
より速く進むことを望んだハイカーと、より長い距離を目指したランナー――。ハイクとランという本来別々の道を歩んでいたはずの2つの文化が、自然というフィールドで交差し、生まれたのが「ファストパッキング」。最新技術と創造的なアイデアによって軽量化したウェアや道具を用いてより長い距離を素早く踏破する、近年注目の登山スタイルです。
そんなファストパッキングの魅力を端的に示すキーワードは”自由”。軽さを得たハイカーはこれまで以上に速く歩くことができるため1日での行動範囲が広がり、一方泊まることを覚えたトレイルランナーは時間が許す限りどこまでも移動距離を延ばすことができるようになりました。もちろん軽さで得たアドバンテージを長めの休憩や写真の時間に費やすのもまた自由。つきつめるとファストパッキングとは、今この時代において自然とのより深い向き合い方を可能にし、個々人をより自由へと開放してくれるアクティビティなんじゃないかとすら思うわけです。
目次
各メーカーの新作軽量バックパックに本気が見えた
今回はそんなファストパッキングを実践する上で、シューズと並んで最重要ギアである軽量バックパックの注目モデルを紹介します。でもなぜ今、軽量バックパックなのか。それは細かな理由をさておき、何より今シーズンの大手から中堅どころのメーカーからリリースされた新作バックパックの本気加減がハンパないから。
これまで軽量バックパックの市場を牽引してきたのは間違いなく小さなウルトラライト系のギアメーカー。それらは概して軽さ最優先、少量生産、高価格。当然、敷居が高いと言わざるを得ませんでした。それが今年に入ると(こちらの記事でも触れましたが)軽さのみに走るのではなく、快適さや丈夫さ、使いやすさ、そして価格の手頃さを損なわない良バランスの軽量バックパックがマスプロメーカーから多数登場してくるという状況が生まれています。ウルトラライト系ギアの軽量さ(=自由)と、伝統的な登山系ギアの使いやすさ(=安心感)が両立したモデルが数多く出揃ってきた2016年シーズンは、その意味でファストパッキングをはじめるにはうってつけのタイミングといえるのではないでしょうか。
そこで以下に紹介する10点の軽量バックパックは、そうした今期注目の新作を中心に、極端な軽量化でクセのある使い方を強いるようなものでは無く、通常の縦走向けモデルとして使用してもほぼ問題ない、バランスの良さが際立つ完成度の高いモデルをピックアップしてみました。今よりもさらに軽快なハイキングを愉しみたいという人や、トレイルランから少し山登りに乗り出してみたいという人にこそぜひおすすめです。
なお、一般的な縦走用のバックパックのおすすめモデルはこちらで紹介しています。
これからファストパッキングをはじめる人におすすめの軽量バックパック10選
このカテゴリでは小さなガレージメーカーのウルトラライトバックパックまで含めると非常に多様なモデルが存在しているため、そのすべてをチェックすることは不可能です。このため、ここではあくまでも現時点の編集部が足で稼いで試着した結果「ファストパッキングにはじめてトライする」のに最適と思うモデルを独断と偏見で選んでいることはご理解ください。
なお、ファストパッキング向けの軽量バックパックは想定荷重も通常のバックパックよりも軽く作られているため、快適に楽しむためには中に詰める荷物全体も軽く、あるいは省略していく必要があります(今回の30~40Lというサイズはファストパッキングならば日帰りからテント・タープで1~2泊までいけるという想定)。その辺りの細かいノウハウもまた説明しはじめるとキリがないため別の機会に譲りたいと思いますが、もし今すぐ知りたい方はファストパッキングについての入門書などを参考にするのが手っ取り早いかと思います。
Montane ultra tour 40(写真は22L)
重量★★★ 快適性★★☆ 機能性★☆☆ 汎用性★★☆ スタイル★★☆
天蓋をカットしたロールトップ式の開閉口、ジッパーを極力廃してストレッチ性のメッシュポケットをメインにした収納。シンプルで汎用性の高いデイジーチェーンが中心のアタッチメント。少し前ならば小規模生産のガレージメーカーでしか見られなかった大胆なそぎ落とし方を、モンテインというマスプロメーカーの一角がやって見せたことは、それだけでもある意味事件です。
十分な耐久・撥水性と725gという軽さを両立させた素材(RAPTOR Zero)や、それをまとめ上げる確かな縫製技術は、さすがの安心感。シンプルになったパーツ類は決して不便ということはなく、適度な快適さと使いやすさとを最小限のパーツで実現しています。容量のバリエーションも豊富(22・40・55L)で、これから本格的なファストパッキングを始めてみたいすべての人が安心して選びやすいモデルといえます(こちらの記事でより詳細なファーストインプレッションを書きました)。
THE NORTH FACE カイルス35
重量★☆☆ 快適性★★★ 機能性★★☆ 汎用性★★★ スタイル★☆☆
今シーズンはファストパッキングにフォーカスしたさまざまなウェアとギアを展開するというノースフェイスが満を持して投入したのが多機能軽量バックパック、カイルス35。
あの「日本百名山一筆書き」で知られるアドベンチャーレーサーの田中陽希さんによるフィードバックが随所に反映されたという日本で唯一のバックパックは、決して軽さだけを追うのではなく、豊富な収納力や優れた通気性と快適な背負い心地(身体のサイズに合わせてS/M/Lと3サイズ選択可能)、丹念に考え抜かれたパーツ類など、高い次元で使い勝手のいいバックパックとして生まれ変わりました。細かい配慮まで行き届いているのではじめてファストパックにチャレンジする人はもちろん、山登り初心者が使うという場合でも十分におすすめできる万人向けの軽量バックパックといえます。なお詳細なインプレッションレビューが知りたい方はこちらのページを参考に。
MILLET ベノム30
重量★★☆ 快適性★★☆ 機能性★★★ 汎用性★★☆ スタイル★★★
伝統的な登山メーカーの中でも新しいスタイルを積極的に採り入れていくミレーが何年も前から育ててきたのがスピードハイキング向けラインナップは、細かくマイナーチェンジを重ねながらも着実に独自の進化を遂げてきました。詳細についてはこちらの記事で触れましたが、背負ったままで背面から開閉できる「オポジットオープニング」をはじめ、微に入り細にわたって研究された効率的で使いやすいパーツ類は独特かつ見事。さらにこの機能と軽さで一般的な縦走用バックパックと遜色ない丈夫な作りは、マスプロメーカーならではの安心感です。
mont-bell バーサライト パック 30
重量★★★ 快適性★★☆ 機能性★☆☆ 汎用性★★☆ スタイル★★☆
ドメスティックな総合アウトドアブランドというイメージが強いモンベルですが、北米では今「Light & Fast」というコンセプトで完全にファストパッキング・ブランドとして売り出していることはあまり知られていないかもしれません。そう、スピードハイキングに適した多くの軽量かつ高機能なアイテムをラインナップに揃えた日本発のアウトドア・ブランドがモンベルのもうひとつの顔なのです。
その代表的なギアとして位置づけられているバーサライトパックは、シンプルながらも悪くない背負い心地や機能性を確保しながら、本場アメリカの競合ブランドに勝るとも劣らない600gという軽さを実現しています。ここまでの軽量化により耐久性には目をつぶらざるを得ませんが、必要最低限の機能と非常に魅力的な価格が入門用として非常に優秀といえます。外側のポケットに伸縮性があればもっとよかったか。
OMM Classic 32L
重量★★★ 快適性★★☆ 機能性★★☆ 汎用性★★☆ スタイル★★☆
ブランド名自体がイギリスの伝統的なマウンテンマラソンの名でもある OMM の軽量バックパックは日本でも多くの UL(ウルトラライト)ハイカー達が愛用する名作。なるほど背負ってみて分かるのは約500gという軽さといい、天蓋・外側のポケット類を含めた豊富な収納力といい、簡易的なマットにもなる背面パッドの必要十分な快適さといい、シンプルな見た目からは想像できない絶妙な使いやすさ。行動時にもぶれにくいフィット感の良さなどまさに軽量バックパックのお手本のような存在です。筋金入りの ULハイカーは1サイズ小さいモデル(25L)でテント泊をこなしてしまうようですが、ファストパッキング入門としてはこの容量(32L)くらいからはじめることを強くおすすめします。
Gossamer Gear Gorilla 40
重量★★☆ 快適性★★☆ 機能性★★☆ 汎用性★★☆ スタイル★☆☆
1998年に誕生した Gossamer Gear(ゴッサマーギア)は、ボーイスカウトの息子のために作ってあげた軽量なアウトドア道具からスタートしたというウルトラライト・ギアメーカー。それが今なお北米大陸のスルーハイカー達に愛され続ける数々の名作バックパックを生み出すなど、間違いなく2000年代を代表するアウトドア・ガレージメーカーとして成長を続けています。その代表作である Gorilla 40 は2008年の発売以来幾度かのモデルチェンジを繰り返し、”軽さ”と”丈夫さ”を兼ね備えた、マスプロメーカーに勝るとも劣らないクオリティを実現しました。
詳細な解説はこちらの商品説明に譲りますが、 このパックで特に気に入っているのは背負い心地の快適さ・剛性を決して軽視しないというスタンス。この辺、ウルトラライト系パックの多くは軽さを優先するあまり犠牲にしてしまいがちなところですが、その広く使われることを意識した優しさが個人的にはグッときます。背面パッド、ショルダー・ウェストベルトのすべてに確保された十分なクッションが40Lという大きめの容量でも安定した背負い心地を可能にし、それによってベテランから入門者まで幅広い層にファストパッキングを楽しんでもらえるような作りになっていると思います。
ULTIMATE DIRECTION FASTPACK 30
重量★★☆ 快適性★★☆ 機能性★★☆ 汎用性★☆☆ スタイル★★☆
アドベンチャーレースやトレイルランのための、ベスト型バックパックを専門に手がけているメーカー、アルティメイト・ディレクションならではの発想で開発された、とてもユニークなファストパッキング向けバックパック。もちろんユニークなだけでく、世界的に有名なアドベンチャーレーサーの監修によるよく練られた使い勝手の良さも魅力です。
生地や素材の耐久性は登山に慣れ親しんだ人間からするとやや心許ないと思ってしまうのは事実ですが、それでもベスト型のハーネスを実際に装着してみたときの感触は、そんな不安を忘れさせてくれるほどに快適でしっくりフィットし、これはこれで十分アリ。騙されたと思ってぜひ試してみてもらいたいものです。さらにベスト型で幅広になった左右のショルダーベルトに配置された豊富なポケットは至極便利で、フロントのメッシュポケットと合わせていちいちパックから荷物を出し入れする必要がまったく無くなります。特にランニング方面から登山に興味を持っていく人にとってはピッタリなのではないでしょうか。インプレッションの詳細についてはこちらのページを参考に。
boreas MUIR WOODS 30
重量★☆☆ 快適性★★★ 機能性★★☆ 汎用性★☆☆ スタイル★★★
boreas(ボレアス)は日本であまり見かけないカリフォルニアの小さなバックパック専門ブランドですが、知名度の低さから想像もつかないくらい非常に完成度の高いパックを作るメーカーだと思ってます。特に秀逸なのは機能面だけで終わらず、背負う喜びまでもしっかり考えてくれるそのデザイン性の高さ。今回おすすめするなかで唯一街でも気兼ねなく持ち歩けてしまう抜群のデザインがこのパックの第一の魅力。もちろん見た目だけでなく、収納性は劣るものの快適で通気性の高い背負い心地や使い勝手も抜群です(こちらのページでより細かい機能についても触れいてます)。
THULE Stir 35L
重量★☆☆ 快適性★★☆ 機能性★★☆ 汎用性★★☆ スタイル★★★
北欧スウェーデン発のグローバルメーカーTHULE(スーリー)というブランドを説明するには、その歴史を紐解くよりも「アップルストアでMac用ケースの販売が許されている数少ないブランドの1つ」と言った方が早いかもしれません。そんなスーリーのハイキング向けモデルは今期の新作。いい意味でアウトドアらしくないスタイリッシュなフォルムと繊細な色遣いは、北欧のプロダクトらしい一筋縄ではいかないオーラをたたえています。
あらゆるジャンルにおけるバッグ・ケース・キャリーを提供するスーリーは、もちろんアウトドア向けのバックパックにおいてもしっかりした品質の(なおかつキラリと光るアイデアを添えた)モデルが揃っているようです。Stir 35L も、このクラスのパックには珍しく背面長の調節ができることや、(天蓋は省略されているものの)サイドからダイレクトに内部へアクセスできるジッパーなど使い勝手も上々。フロント・サイド共にスッキリしているようでいて実は深いポケットが配置されており、ミニマルなデザインと機能性を両立。この完成度の高さで、勝手に今期のダークホースとみています。
Mountain Hardwear コア 35 V.2
重量★☆☆ 快適性★★★ 機能性★★☆ 汎用性★★★ スタイル★★☆
最後の1つに何をチョイスするか、相当迷いどころでしたが、最終的には「軽さ・快適さ・機能・耐久性のバランスを優先する」という原則に立ち返り、決してべらぼうに軽いとはいえないものの個人的に総合的な使い心地においてはトップクラスという評価のコア 35 V.2 をピックアップしてみました。
何より特筆すべき点として、背中からウエストにかけてピッタリとフィットするフレーム。通気性とクッション性を併せもった背面パッドと合わさってすこぶる快適な背負い心地を提供してくれます。その他、軽さと耐久性を併せもった素材のクオリティや、外側のポケット類や豊富なアタッチメントなどの収納性・使い勝手などの機能においても、ハッキリいって一般的な縦走用バックパックとしてもまったく遜色ないレベルです。※防水機能(アウトドライ)付きと記載しておりましたが、実際には非実装でした。訂正してお詫びします。
どちらかというとガンガン走るようなパックではないかもしれませんが、一般的な山歩きからより軽快に歩を進めるファストパッキングに自然に入っていくパターンの人にとっては理想的なパックといえるのではないでしょうか。