First Look:日本で一番名の知れたスルーハイカーが求めたカタチ。THE NORTH FACEの新作軽量バックパック
常人の2倍はくだらない、すさまじいスピード。50km歩いた次の日に100km歩く、底知れぬスタミナ。プロアドベンチャーレーサーの田中陽希さんは、2年連続で日本全国に散らばる日本百名山(2014年)・二百名山(2015年)を、己の足とカヌーのみを駆使して一筆書きで完歩するという、おそらく日本最長のスルーハイクによって一躍アウトドア界で話題の人となりました。寡黙だけど気さくでお茶目。富良野で育ち、普段は谷川岳の麓に住み、温泉とカツ丼とアイスとポテチを愛する男が挑んだ、7ヵ月間、約8,000km(×2)に及ぶチャレンジの模様はNHK(BS)で定期的に放送され、ぼくや周囲のアウトドア好きをはじめ、アウトドアに限らず多くの人々の心を釘付けにしました。
今回取り上げるのは、彼がそのチャレンジのなかで使用していたモデルも含め、ノースフェイスがこの春アップデートしたライトウェイト・バックパックの新作2点。それは従来までのモデルにあった”手堅さ”に加え、国内一線級のアスリートである彼の貴重な経験による繊細かつ大胆なチューンナップが施された意欲作です。きっと”あの旅”を知る人間にとってはそれが妙な共感とともに実感できる、味わい深いモデルとなることでしょう。
※念のため、今回紹介のうち、田中陽希さん使用モデルはCaelus(カイルス)35の方です。
各アイテムの主な特徴
快適さを損なわず思い切った軽量化を実現:Caelus(カイルス)35
こちらが田中陽希さんのフィードバックによってチューンナップされたモデル。今年のアップデートで感じられた大きな変化、それは何といっても昨年までのモデルにあったようなクライミング的な特徴が大幅にそぎ落とされ、代わりにはっきりとファストパッキング的なコンセプトが押し出された点です。
それを象徴するのが背面パネルの大幅な変化。快適な背負い心地が特徴の柔らかいトランポリン構造、いわゆる背面メッシュの採用です。既に多くのメーカーによって有効性は実証されているこの仕組みですが、この種の仕組みで弱点としてよくいわれる「フレームに荷室が圧迫されて狭くなる」現象はこのモデルではあまり目立たちません。さらに肩・腰部にクッションをさりげなく配置し、快適性も同時に追求されているところも細かいですが心憎い気配りです。
スピードハイクに欠かせない使い勝手の部分である外部に配置されたポケットやアタッチメントを見てみると、そこにも実用性十分なこだわりがちりばめられています。トップリッド(天蓋)にはポケットの他にレインカバーポケット、フロントには大きなドロップポケットに加えて地図などの収容に便利なジッパー付きのポケットを配置するなど芸が細かい。両サイドのポケットは伸縮性があり大きなボトルも収容可能。ポールやアックス用のアタッチメントも当たり前のように2つ付いており、このあたりの「軽量化のために使い勝手を犠牲にする」といったそぶりが微塵も感じられないところには好感がもてます。ただしヒップベルトポケットはもう少し大きくても良かった(画面サイズ5インチのスマホが入る程度に・・・)。
さらにメインコンパートメントに直接アクセスできるジッパーも大きく(下写真)、余計なパッキングの手間を少しでも省きたいスピードハイカーの気持ちにとことん応えてくれます。
最後にこれだけの快適性と使い勝手、収容力を備えながら約1kgの重量に仕上げられた大きなポイントは、他ならぬ生地の思い切った軽量化です。本体には70デニールのジオリップストップナイロンを、擦れやすいボトムには210デニールのリップストップナイロンを使用しています。その英断によってこのパックの輝きは確かに増してはいるのですが、耐久性はどうしても心配です。もちろん、ただ薄くしているだけではないようですが、他の製品と比べて明らかに生地は薄く、正直手触りはやや頼りないです。あくまでもファストパッキング用としての十分な耐久性と考えるのが良いのかも。
スタンダードな構造とベスト型ハーネスの融合:FP(エフピー)25
トレイルランニングから山小屋泊縦走まで、幅広く対応するマルチユースパックというキャッチフレーズで紹介されるこのモデルは、一見すると普通の軽量バックパックですが実体はベスト型のランニングパック。何とも奇妙な言い回しですが、このパックを見れば見るほど、ハイキング向けの使い勝手と、トレイルラン向けの運動性・機能性との良い部分を合わせてしまおうという、密かな野心を感じずにはいられません。
基本的な背負い心地は、背中の上部で背負うベスト型ショルダーハーネスのものと変わらず、広めのショルダーと背面パッド、2つのスターナム(胸骨)ストラップによって歩行やランニングでのより高い安定性を実現しています(とはいえさすがに純粋なベスト型ハイドレーションパックほどではありませんが)。ショルダーハーネスの両サイドにはボトルが収納できる伸縮性メッシュポケットが配置され、チューブで水を飲むのは嫌いという人でもごく簡単に水分補給が可能です。
なお、気のせいかどこかのファストパッキング向けバックパックに非常に似ていますが、大きく違う部分が2点あります。ひとつはウエストベルト(上写真、取り外して簡易ベルトにチェンジ可能)が付いていること、もうひとつはトップリッド式の開閉口(下写真)になっていること。これらの点により重荷での安定感、ビギナーにとっての使い勝手はやや向上しているといえます。この結果、従来通りのバックパックに極めて近いイメージで使えて、なおかつ快適なスピードハイクが可能、というのがこのパックの描いたコンセプトだといえるでしょう。下の写真のように、パック全体での外部アタッチメントの豊富さは、このクラスの超軽量バックパックにはないレベルです。
背面パネルはメッシュ状で通気性と肌触りには優れています。ただフレームや硬度のあるパネルは入っていませんので、背中への当たりは柔らかめ。上手く荷物を詰めないと背面が凸凹になり、それほどの心地よさは望めませんので注意(下写真)。
まとめ:どんな人におすすめ?
カイルス35は、一流のアスリートが百名山というある意味「普通の」登山を繰り返しこなすことによって完成度を高め、より一層ファストパッキングをはじめとした一般的なハイキングに使いやすい仕様となりました。容量は35Lと日帰りにしてはやや大きめですが、これひとつで日帰りから小屋泊まり数泊もいけるという意味では汎用的で使いやすいサイズです(より入門用に限定するのであれば、28Lのバリエーションモデルもおすすめ)。重量といい、使い勝手といい、デザイン(豊富なカラーバリエーション)といい、これから登山やハイキングを始めるビギナーから、より軽くてバランスの良いバックパックを求めるすべてのハイカーにおすすめできます。
一方、これひとつでランにもハイクにも対応できるというエフピー25は、例えば小さなガレージメーカーの超軽量バックパックにはどうしても手が出なかったけど、とにかく軽量なウルトラライト・バックパックが試してみたいという、スピードハイクのビギナーにはおすすめです。ただ、このような汎用的な特徴をもったモデルにはどうしても器用貧乏になりかねないという可能性も見え隠れし、その意味では使う人を選ぶモデルでもあります。特に背面パッドやショルダーハーネスを含めたクセのある背負い心地に関しては実際に試着して判断することをおすすめします。
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項目 | Caelus 35 | FP 25 |
---|---|---|
ここが◎ | 快適性、軽量性、汎用性 | 軽量性、運動性、外部アタッチメントの充実 |
ここが△ | 耐久性 | 快適性 |
おすすめアクティビティ | ハイキング、トレッキング | スピードハイク、ファストパッキング、トレイルラン |
Fabric |
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size | S、M、L | ワンサイズ |
容量 | 35L(Sサイズのみ30L) | 25L |
重量 | S/990g、M/1,105g、L/1,160g | 700g+30g(ヒップベルトテープ) |
重量/容量 | 32g/L(Mサイズ) | 28g/L |
アタッチメント |
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ポケット |
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ハイドレーション対応 | ◯ | ◯ |
付属レインカバー | ◯ | × |
バリエーション |
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