登山用品店の壁一面に展示されているバックパック。サイズもさることながら、メーカーごとに様々な特徴や工夫が見られ、購入するつもりが無くとも毎回のように足を運んでしまうエリアです。
多少の経験を積んできた現在でこそ、自分の山行スタイルや目的に合わせてバックパックを選ぶことができるようになりましたが、登山を始めようとしていた頃は何を基準に選べば良いのか、各メーカーによる違いなどがその場ではわからず、バックパックの壁を目の前にただただ困惑していたのを思い出します。
特にデイパックとも呼ばれる、日帰り登山やハイキングに最適な20~30リットルサイズは各メーカーから数多く販売されており、ただでさえ選択肢が多いうえに購入予算をはじめ、デザインを重視するか機能を重視するか、そもそもどんな機能が自分に必要なのかといったことで迷ってしまう方も多いのではないでしょうか。お店の方に相談するにしても、いくつものバックパックを実際に背負わせてもらったりするのは正直なところ気が引けてしまう方もいるかもしれません。
そういうわけで、今回は未だ初心者の域から抜け出せない私の目線で軽登山・ハイキングに最適な20~30リットルのデイパック6種類をレビューさせてもらいましたので、バックパック選びの参考にしていただければ幸いです。
目次
目次
今回比較したデイパックについて
まず比較候補の選定にあたっては、大まかに以下のような基準を考慮しました。
- 容量は20~30L前後であること
- トレッキング向けモデルであること
- アルパイン(登攀・雪山)、ウルトラライトなど特定のアクティビティに特化したモデルではなく、軽登山・トレッキングをはじめとした汎用性のある向けモデルであること
- 日本の正規代理店、通販サイト等から購入可能であること
これらの条件に見合い、なおかつ個性にバリエーションをもたせた以下のモデルをピックアップしました。
- Gregory サルボ24/スーラ24(今シーズンより若干モデルチェンジされた模様)
- mont-bell ディナリ パック 25
- MYSTERY RANCH クーリー25
- Osprey タロン 22/テンペスト 20
- THE NORTH FACE カイルス28
- THULE Capstone 22L
テスト環境
テスト期間は2017年12月~2018年1月までの2ヶ月間。テストした地域は八ヶ岳周辺、赤城、飯能など関東周辺の山々。季節柄、積雪のある山でも使用しています。天候は晴れ、曇天、降雪と様々で登山道の状況もドライ、凍結、積雪となっています。
全モデル同じ山でテストしたわけではありませんが、バックパックに収納する荷物については保温ボトル・クッカー・バーナー・水1L・防寒着・ツェルト・食料・行動食を基本とし、テストで登る山に応じてアイゼンまたはチェーンスパイク・ピッケルを加えいずれも5~7kg程度でした。
テスト結果&スペック比較表
評価結果 ~タイプ別おすすめ~
Gregory サルボ24/スーラ24(女性モデル)
総合1位:重量以外のすべての面で優れた優等生
ココが◎
- 堅牢なフレームとクッション、背面通気による快適な背負い心地
- 豊富な収納
- 開け閉め容易なジッパーなど細部の使いやすさ
- 型崩れしないしっかりした生地での高い耐久性
ココが△
- 重量
- フレームによってコンパクトに折り畳めない
- 価格
定番とも言えるグレゴリーのバックパック。30リットル未満のバックパックとはいえ最大積載重量が25kgオーバー(公式HP)というスペックは、いったいそんなに何を詰めるんだというツッコミはさておき堅牢さと妥協せずに作り込んでいるという同社の自信を感じさせます。重量が1kgオーバーと同クラスのバックパックの中では重い部類に入りますが、肉厚でしっかりとしたショルダーベルトとヒップベルトがしっかりとサポートしてくれるため重さを感じさせません。実際に7kg程度(製品重量含む)にして半日ほど背負ってみましたが背面サスペンションが背中にフィットし、背負っている感覚を忘れるほどの快適さを感じました。ヒップベルトの左右に配置されたポケットは容量・サイズが十分で左右のどちらにもスマートフォンやiPhone(画像はiPhone7)が収納可能で、そこからさらに行動食を入れることもできます。
ただ荷室へのアクセスは正直なところあまり良いとは言えません。ジップ部分が長く開口部は大きいものの、サイドに配置されたコンプレッションベルトが干渉するため、ベルトのバックルを外す手間が生じることになります。単に私が面倒臭がりなのかもしれませんが、このひと手間に大きなストレスを感じました。そんな短所を感じながらもバックパックに求められる機能が凝縮されたこのモデルは完成度が高いバックパックと言えるのではないでしょうか。
※このレビューを書いた2018年1月の時点でこのサルボ24Lモデルは廃盤となり容量28リットルに変わって販売されているようですが、機能面の変更はないようです。
Osprey タロン22/テンペスト 20(女性モデル)
総合2位:軽快・多機能・高コスパでどんなアクティビティにも対応できる巧打者
ココが◎
- 軽量
- 通気性の高い背面
- 背面長の調節が可能なショルダーベルト
- コンパクトに折り畳める柔軟性
- 多彩な収納とアタッチメントによる使いやすさ、汎用性の高さ
- 価格
ココが△
- クッションの薄さ
- 荷物を詰め込んだ際の背面の凸凹
スタンダードな外見とは裏腹に様々な工夫が施されているバックパック。大きな特徴としてはベルクロによってショルダーベルト位置を変えることができる背面調整機能がある点。山行当日の荷物の量によってしっくりとくるポジションを探すこともでき、微調整が利くことから極端な体格差がなければ1つのザックを家族や仲間同士で共有することも可能にしてくれます。
ショルダーベルトとヒップベルトの裏面はメッシュ構造が採用されているため通気性が良く、左のショルダーベルトに配置されたアタッチメントは写真を撮る時など一時的にトレッキングポールをホールドしてくれ重宝しました。ただベルトのクッションに関してはもう少し厚みがあった方が個人的には好みです。
ヘルメットを取り付けられるリッドロックアタッチメント、左手側下部にはギアループといった機能も備わっていますが、個人的にはこのクラスのバックパックにおいてそこまでの機能は必要ないのではないかと思います。しかし、リッドロックアタッチメントはトレッキングポールの収納にも使え、なお且つカラビナを通せる形状をしているため様々な活用方法が見出せそうです。背面のフレーム部は柔らかい素材が使われており製品自体の軽さに貢献している半面、容量ギリギリの荷物をパッキングしてしまうと背面が凸凹し背負い心地が損なわれてしまうことが難点でしょうか。今回一緒にレビューしたmont-bellのDENALI PACK25と同様コストパフォーマンスに優れ、最初に選ぶバックパックとしては十分ではないかと感じました。
THE NORTH FACE カイルス28
快適な背面通気と高い収納性を持ちながら軽量性を保ったスピードハイク御用達
ココが◎
- 軽量ながらも背面フレーム・トランポリン構造によって良好な背負い心地
- 豊富な外部ポケット、アタッチメント
ココが△
- 軽量化による耐久性
- 硬いフレームが邪魔して収納性・コンパクトさは低い
ノースフェイスの特徴であるスリムなデザインのバックパック。大きなフロントポケットは容量も十分で行動中に脱いだジャケット、行動食などを入れておくことができる便利な機能です。弾力を持った背面メッシュパネルには肩甲骨と腰骨の当たる位置に厚みのあるパッドが付き、通気性を確保しながらも背負い心地も追及するといった姿勢に好感が持てます。
レビューは積雪のある低山で行いましたが、気温がそれほど低くなく体温調節のためアウタージャケットを脱いだり着たりの繰り返しという状況でした。そんな中で大変便利に感じたのが先述のフロントポケット。アウターを軽くたたんで突っ込み、また寒くなったらパッと取り出すことが可能で私の嫌いな煩わしさがありません。また、水分補給で保温ボトルを使用されている方にもおすすめです。私が使用している山専ボトル(0.9L)もしっかりと収まりました。サイドポケットでも入るには入るのですがボトルの露出部分が多く、何かのはずみで落下→損傷の心配があります。ボトル全体がすっぽりと収まり、尚且つ休憩時にはスッと取り出すことができますので便利に感じてもらえるのではないでしょうか。個人的にはノースフェイスのバックパックにはヒップベルトのポケットをあと少し大きくしてもらえるとスマートフォンも収納でき、大変使いやすいバックパックになると思うのですが・・・。
THULE Capstone 22L
ルックスと機能を両立させた、街にも山にも映える本格デイパック
ココが◎
- デザイン性と機能性を両立させたクリーンなボディ
- 軽量かつ快適なアルミフレーム・メッシュ地による背面
- 機能性とカスタマイズ性抜群のVersaClickアクセサリー
ココが△
- 機能を絞ったことによってポールやアックスの収納には一工夫必要
- フレームによってコンパクトに折り畳めない
カーキャリア・ルーフボックスの印象が強いTHULE(スーリー)のバックパック。北欧を彷彿とさせる(笑)シンプルかつスタイリッシュな外見は登山・アウトドアだけではなく、落ち着いたカラーリングであれば普段使いでも周囲に違和感を与えません。メイン荷室へのアクセスとなるジップ部分が長く作られており、パッキングのしやすさは当然ながら行動中であってもストレスなく荷物の出し入れをすることが可能です。他社のモデルと大きく異なる点はシンプルな外見だけではなくVersaClickと呼ばれる独自のシステムは自分の登山スタイル・装備に合わせてアタッチメントを選択し装着することが可能です。購入時はトレッキングポールホルダーが付属していますが、縦向き(上下)に固定する現在の主流とは異なり、武士の刀のように横向き(前後)に固定する仕様には疑問を感じました。ポールの収納サイズにもよりますが、前後に人がいる場合は接触させないよう配慮が必要となってきますし、縦向き収納ではあまり気にならなかった登山道脇の岩や枝に干渉することが多かったため、私は使用を中断してしまいました。あくまでも岩場や鎖場などで少しトレッキングポールから手を放したい時の一時的なホルダーとして利用するほうが良いと思います。さて、このVersaClickアクセサリーには別売りで行動食などを携行するのに便利な開口ポーチ、スマホやGPSに最適な耐衝撃防水ポケットなどがラインナップされており驚いたのはカメラホルスターもあるという点。バックパックとの同メーカーのカメラホルスターであれば取り付けなどのストレスから解放されますので登山で一眼レフカメラを携行する方にはおすすめです。
私は今回のレビューを行うまでTHULE社の製品にバックパックが存在することを知りませんでしたが、他社にはない独自の機能・工夫が見られ今後のラインナップにも注目したいと思います。
MYSTERY RANCH クーリー25
小型バックパックとはいえ快適性と堅牢性のブランド哲学は健在
ココが◎
- 抜群の耐久性
- 重い荷物でも快適な背面
- 調整可能な背面長調節システム
- パッキングや荷物の出し入れを容易にする、三方向に大きく開くメイン収納
- 豊富な収納
ココが△
- 価格
- 重量
- メイン収納は閉める時に毎回複数のジッパーを操作しなければならず手間
独特の3ジップデザインが目を引き420デニールという他社にはない非常に強い繊維が使用されたヘビーデューティーなバックパック。わざわざ水を掛けるような検証はしていませんが、生地の強さとジップ部分に施されている止水テープから多少の雨であれば中の荷物を濡らさずに済みそうです。その堅牢さ故の1.2kgという重さが気になるところですがワンランク上のモデルに採用されるような厚みのあるショルダーベルトがサポートしてくれるため重さはさほど気にはなりません。他社のバックパックとは一線を画するデザインは街中でも違和感を与えず、私個人としては登山中よりも街中や駅、それもオシャレで登山とは無縁のような若者が背負っている姿をよく見かけます。
当然ながら私は登山目的で使用しましたが、荷室が大きく開く3ジップは登山準備の際のパッキングのしやすさ、行動中の荷物の出し入れのしやすさが秀逸です。通勤など日常的な用途で使用する場合はノートPCなども3ジップのおかげでストレスなく収納することも可能です。ただ私がこの本製品を使用してみた感想ですが、開け閉めをする際に3つのジップをそれぞれ動かさなくてはならずその手間がどうにも煩わしい!どうにかして1つの動作で済まないものかと考えると3ジップそのものを否定してしまう結果になりますが、ここは使用される方の感覚にお任せするしかありません。
他のバックパック同様、ハイドレーションシステムにも対応していますが、ミリタリーテイストを感じさせるハンガーになっており細部へのこだわりを感じさせます。
mont-bell ディナリ パック 25
軽くてシンプル、誰にでも使いやすい、そして高コスパなモンベルらしい入門モデル
ココが◎
- 軽量
- 価格
- コンパクト
- シンプルなデザインながらも高い収納性
ココが△
- ヒップベルトが薄いため重荷は苦手
- 荷物を詰め込んだ際の背面の凸凹
シンプル且つ圧倒的な軽さを実現したバックパック。他社製品と比べ目立った機能や特徴はありませんが、コストパフォーマンスに優れ使い手や世代を選ばない万人向けのモデルと言えるでしょう。荷重の分散や小物の収納といった目的を持つヒップベルトではなく、腰のあたりで固定するだけといった心許ないベルトは他社製品と比べ見劣りしますが、嵩張らずヒップベルトを煩わしいと感じている方にはおすすめできるバックパックだと思います。今回レビューするにあたり正直なところ本製品に高い期待はしていませんでした。しかし、フレームのない柔らかい背面からは想像ができないほど背中に当たる感触がソフトで、背面が歪むほど目一杯の荷物さえ詰め込まなければ背負い心地も悪くありません。良い意味で期待を裏切られた感があります。
半円に近いラインで施されたジップは気持ちよく且つ軽快に滑り、開口部は大きくないものの他社のバックパックにはない開閉のし易さを感じます。
「DENALI」の名を冠するモデルということもあり、必要最低限の機能でまとめたシンプルな外装は冬山でも扱いやすく、日帰りの冬山登山であれば十分に使用できるでしょう。カラビナが取り付けられるベルトもフロントに2本配置されワカンやアイゼンバッグなどの外付けも可能にしてくれています。
コストパフォーマンスの面でも優れ、これから登山を始めてみようと考えている方は一旦本製品を使用し、それから自身の好みに合わせて次に購入するバックパックを検討してみるのも良いかもしれません。
まとめ
冒頭でも記述しましたが、メーカーごとに様々な特徴や工夫が施されているバックパック。特段、気にしていなかった機能や仕様が実際のフィールドでは便利に感じたり、魅力的に思えた機能が実際のフィールドではイマイチに思えたりと、今回のテストを通じて私自身、ますますバックパック選びは難しいものだと感じました。テスト前とテスト後で印象が大きく変わったバックパックもありますので、やはり実際に背負ってみないことには自分にとって最適な(納得のいく)バックパックというモノには辿り着かないものだと思います。私の拙いレビューが参考になるかどうかはわかりませんが、ぜひご自身で納得されるまで背負いまくって選んでみてください。それも登山の楽しさのひとつでもありますから。
齋藤 ヒロアキ
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