ここ数年、バックカントリースキー・スノーボードの人気が高まっているようです。
雑誌でパウダーの滑れるスキー場を特集したり、スキー場もパウダーゾーンを作ったりしている事からもその人気ぶりが伺えます!また日本は極上のパウダーが滑れる国として海外での人気はうなぎ登り。ハッシュタグ#japawがあるぐらい、日本のパウダースノーは外国人スキーヤーにとって絶大な人気なんです。これまで北海道ニセコ、長野白馬が人気でしたが、外国人スキー・スノーボーダーはSNSを駆使して既に野沢温泉、妙高、蔵王、湯沢、そして谷川岳あたりにまでその人気は広がって来ています。
筆者もゲレンデパウダーからバウダーを滑ることにハマってしまい、さらなる快楽を求めてバックカントリーへと足を伸ばした1人です。今回はそんなバックカントリーを楽しむための必須アイテム、バックカントリースキー・スノーボード用バックパックをレビューします!今シーズン、バックパックを買い換えようとしている、これからバックカントリーを本格的に楽しみたい、そんなあなたのお役に立てればと思います。
目次
今回比較したバックパックについて
筆者がこのテストをするまでバックカントリーで使用していたモデルはdeuter エスツェット。デザインやポケット内部の細かい収納などある程度満足していたし、少しほころびが見える程度でまだまだ使えなくはないのですが、かなりの年数も経過しており、容量もやや物足りなくなってきたため、この機会に新調しようというわけです。2代目ということで現状の満足はそのままに、さらに不満点を解消するような、完成度の高いモデルを望んでいます。そこで以下のような希望条件で、最新モデルをざっと調べてみました。
- 容量は30~40L程度
- 背面からメイン収納へアクセスできる
- スキーはA字型・斜めに固定可能
- ヘルメットホルダー付き
- バックカントリー向けのポケット類が豊富
- できればウエストベルトは前に引いて締めるタイプ
- デザインはシンプルで渋めが好き
そんなわがままな条件に見合うパックパックとして今回選んだのがこちらの5つ。
- deuter フリーライダープロ30
- Gregory ターギー35
- Osprey キャンバー42
- THE NORTH FACE チュガッチ45
- Thule Upslope 35L
あくまでテスト前の予想ですが、カタログやウェブサイトの情報、これまで自分が背負ってきたパックの経験から優勝候補はグレゴリー。デザインのよさと無線のポケットまで付いている気配りから対抗馬はノースフェイス。これまでと同ブランドのブラッシュアップとして、容量はやや物足りないものの使いやすいと評判のドイター、バックカントリーエリアや友人にも愛用者の多いオスプレーがそれに続くといった感じでしょうか。その他最近めきめき存在感を増しているスーリーは新たな期待を込めて選びました。実際のところはこの5つの他にも王道マムートやホグロフス、ORTOVOX、あるいはPLUS ONE WORKSなどの国産パックもおもしろそうだと思いましたが、入手の容易さ、お店での感触、予算などの理由で最終的には断念せざるを得ませんでした。
テスト環境
テスターは筆者(スキーヤー、身長165cm、体重58kg、ハイクはシールを使用)とここの編集長久冨の2名。ソロで入ることもあるので基本装備(アバランチ・ギアやヘルメット込)は少し多目、無線も使用しています。テストは、1~2月でスキー場アクセス、フルハイクバックカントリーエリアで、それぞれをハイク、滑走で使用してテスト。実際に背負い、使ってみた印象および細かい作り込みの観察から採点しました。
なお各モデルの評価は以下の5項目を重要度によって荷重配点し、それぞれの採点項目は以下のように設定しました。
- 快適性(30点)
背負った時のフィット感、クッション性の高さ、ハイクアップ・ダウンヒル時の安定性から採点 - 収納性(30点)
ハイクアップ時の滑走アイテムの収納、滑走時のハイクアイテムの収納、そして板の着脱のしやすさから採点 - 使いやすさ(20点)
使い方の分かりやすさ、ポケットやアタッチメント類の配置、ジッパー・バックルの開け閉め、その他独自機能の有無から採点 - 重量(20点)
単なる重量ではなく、容量あたりの重量で採点
テスト結果&スペック比較表
評価結果 ~タイプ別おすすめ~
まず大前提として、今回選んだアイテムはどれも、どこかが当たって痛いとか、滑走で振られてバランスを取りにくいといった極端な不満は感じられず、概ね満足のいくモデルばかりでした。これからお伝えする結果は、かなり細かい部分での比較・考察の結果です。その点を踏まえたうえで、以下の結果を参考いただけたらと思います!
THE NORTH FACE チュガッチ45
総合1位:スキーヤー目線で突き詰められた細部にわたる使い勝手のよさ
ココが◎
- 豊富な収納、出し入れのしやすさ
- 開け閉め容易なジッパー・バックル、背面アクセスのしやすさなど細部にわたる使いやすさ
- 高い耐久性にもかかわらず軽量
ココが△
- やや長すぎるヒップベルトや滑りやすい背面など、気持ち快適性に欠ける
- 価格
さまざまな角度から比較してみた結果、最終的に筆者がベストとしてチョイスしたのはこのチュガッチ最新モデルです。まず容量とデザインがマッチしていたことはあります。なかでも最も大きな理由は、細かな収納をはじめ細部にわたってバックカントリーをやり込んだ使いやすさが徹底的に考えられている点です。
例えば背面パネルからメイン収納へのアクセス。ショルダーバックルを外さずにアクセスできるのは非常に嬉しい。また開閉範囲がフルオープンではなく、あえて下方1/3ほどまでとすることで、ジッパーがヒップベルトの裏に隠れてしまうようなことが無くなるため結果的にはストレスフリーに。その他ショルダーハーネスの無線用ポケット、雪が入りにくくグローブでも開閉しやすいバックルなどニクい機能がさり気なく備わっています。逆に大きなマイナス点は見当たらず、今のところ使っていてストレスを感じることはありません。今シーズン4~5回スキー場を使ったりフルハイクするバックカントリーで使ってみましたが、背負うごとに感じる使いやすさに毎回惚れ直しています。
ただあえて気になる点としては、やや腰に当たる部分のクッションが滑りやすく左右に振れやすい点(あくまで比較論ですが)。またウェストベルトが長めなので、ウェストの細い人にとっては締め切れないかもしれません。そこはできることなら現物で確認するのがよいでしょう。日帰りでも短めのルートであれば45Lは少し容量も大きいと思います。その場合はもうひとつ小さいサイズ(35L)がおすすめです。とにかくこの徹底されたスキーヤー目線での使い勝手のよさを実感してみて欲しいです。
Osprey キャンバー42
手頃な価格にもかかわらず安定した背負い心地と使いやすさでコスパNo.1
ココが◎
- 背中にフィットする背面パネルや適度なクッション性による快適な背負い心地
- 豊富な収納性の高さと出し入れのしやすさ
- シンプルでクセのない使いやすさ
- コストパフォーマンス
ココが△
- 特にないが、あえていうなら背面パネルのジッパーの動きがやや渋い
今回コストパフォーマンスの面で、文句なしのNo.1評価だったのがOsprey キャンバー42。背負い心地は良いし、使い勝手も良いし、生地もしっかりしているし、バランスも良い上にさして重くない。ハッキリいってこれが最高という人がいてもおかしくない上にこのお手頃な価格。これほどコストパフォーマンスが良いバックパックはなかなか無いと思う。
なかでも特に気に入った所は、背負い心地。背面パネルの曲線が背中にフィットしてとてもおさまりがよく、4時間のハイクでいきなり使っても、どこかが当たって痛くなるといったことは皆無でした。収納に関しても、サイズが42Lと大きめなことを差し引いたとしてもシンプルで余裕があり、出し入れしやすい構造です。トップが天蓋なので、フロントにアバランチ系のギアを収納する以外では、使い勝手に関して普通の登山用バックパックとほぼ変わらず、安心して使えます。
あえて欠点を挙げるならば、荷物の取り出しに一番使う背面パネルサイドのジッパーが内側の生地と擦れて若干動きが渋いこと。ただこれは個体差もあるし、これだけ他のモデルと比較すると気になる程度で現地で使った際はそこまで気にはなりませんでした。
deuter Freerider Pro 30
背負い心地の良さと滑走時の安定感で全体的な快適さはNo.1
ココが◎
- フィット感・クッション性、安定感と、総合的な快適性の高さ
ココが△
- 重量
- 小容量ゆえの収納性、使い勝手の低さ
快適性No. 1は、deuter Freerider Pro 30。フィット感、クッション性、安定性(ハイクアップ・ダウンヒル)すべてにおいて上位でした。
特に気に入った点は、やはり独自のアイデアである背面パネルの快適性と、腰の動きに合わせて動くヒップベルト(バリフレックスシステム)のフィット感、安定感。これまで長くdeuterを使って来たので分かるのですが、通気性とクッション性を考慮した溝のある背面構造の気持ちよさは抜きん出ています。自分が暑がりなせいもあってか、春スキーのポカポカ陽気だけでなく、ハイシーズンのハイク中でもやはり涼しいと感じました。全体的に薄型の形状は重心が後ろになりすぎず、バリフレックスシステムのブレにくさと合わせて滑走時も安定しています。
弱点としては、他モデルに比べると重いことが挙げられます。また容量含めて収納性が若干低いこと。とは言え30Lという容量はこれからバックカントリーを始める人や日帰り限定、サイドカントリー、リフトアクセスでバックカントリーを楽しむ人にはちょうどよい大きさでしょう。ついついたくさん荷物を入れてしまい荷重バランスがとりづらい大きめ容量のバックパックは、よほどスキー技術に自信がある人でないと想像以上に厄介です。「大は小を兼ねない」という難しさがバックカントリー向けパックの悩ましくもあり楽しい部分でもあります。
Thule Upslope 35L
軽量かつ高機能、クリーンな見た目も魅力の軽快さNo.1モデル
ココが◎
- 耐久性と使い勝手を維持しつつパーツを省略した、驚くほどの軽さ
- 腰回りに荷物を配置することによる低重心
- 価格
ココが△
- ヒップベルトの締めにくさ
- アクセサリ収納が複数に分割されたことによってトップ収納がやや小さい
軽快さNo. 1はThule Upslope 35。容量が35Lあるのに1380gととても軽い。軽いのに、生地が薄いとかクッションが悪いとか、そういうマイナス要素がほぼ無いのがスゴイ。
特に気に入ったのは、軽さも含め、これまでのスキー向けバックパックの常識にとらわれない新しい仕様の数々が概ね上手くいっているところ。ヒップベルトの左右ポケットは他モデルよりも飛び抜けて大きく、腰回りに沿わせるように配置してあるのは、物が取り出しやすいだけでなく、パックの重心が下方にくるので安定感が向上します。さらにフロントベルトをフック式にしたり、ヘルメットホルダーの一片を縫い付けてしまうことで着脱を容易(しかもフロント・ボトムの2パターン取り付け可能)にしたりといった細かい工夫は、多少のとっつきにくさはあるものの、とにかく軽さと機能性の両立を追求して無駄を省き、さらに使い手の作業も減るように、楽になるようにといった作り手の細部への心意気が伝わって来ます。
ひとつどうしても気になったのはヒップベルトが両外側に引っ張って締めるタイプであるため、他と比べると締めにくいこと。とはいえThuleのバックパック作りは始まったばかりのようなので、今後注目のブランドです。投資の意味も込めて新しいものが好きならこれを選ぶべきでしょう!
Gregory ターギー35
安定の背負い心地と欠点のない使い勝手の良さで迷ったらコレ!
ココが◎
- ヒップベルト周りを中心とした安定性・クッション性の高さ
- 欠点の無さ
- ジッパーやバックルなど細かい部分での使いやすさ
ココが△
- 価格
期待が大きかったのは確かなので、その分割を食ってしまったのかもしれません。Gregoryのオールラウンドなスキー・パックは点数的な順位では中位でしたが、一言でいうと今回最も欠点のないバックパックでした。ここが一番という飛び抜けた部分があったわけではないものの、ここがダメという部分もほぼ無いといっていい、そこがスゴイといえばスゴイのが、あらためて考えてみたこのパックの印象です。
がっちりと腰骨全体をカバーし荷重を支えてくれるヒップベルトは、クッション性の高さも含めて今回随一。ハイクアップ時の快適性は相変わらずのグレゴリー品質です。収納周りについても、メイン・アバランチ・アクセサリが分かりやすく区分けされ、大きめのトップアクセサリーポケットは昨今の大ぶりなゴーグルも余裕をもって収納でき、ジッパーもスムーズで掴みやすいなど使い勝手は抜群。ショルダーバックルを外さず開く背面アクセスもさすがです。
一方ここは個人の体型の問題でもあるかもしれないのですが、ショルダーハーネスの肩から脇へのラインが気になりました。肩幅がやや広めに感じ、そこから急激に脇を閉じる感じで、ちょっと擦れました。気になる人は現場で注意してフィッティングしてみるとよいでしょう。
ハッキリ良いとか悪いがないということは、人によってはコレが一番ということが往々にして考えられます。もしバックパックにどんな個性を求めるべきか迷ったら、そんなとき後悔したくなければコレを買っておけ!といえるのがこのバックパックです。
まとめ
バックカントリースキー向きのバックパックは、単に荷物を背負って歩くだけの縦走用パックと違って、スキーやスキーシールの着け外し、登頂後のダウンヒルなど、さまざまなシーンに対応した利便性や快適さが求められます。そのため各モデルともフィット感、背負い心地、安定性だけでなく、使い勝手と軽量性、そしてデザインなど、多様な要素が複雑に絡み合って作られている高度な技術品だとあらためて感じました。今回の5モデルはその意味での全体的なバランスの良さはすべて感じられるものばかりでしたので、正直、比較は非常に難しかったです。それは嬉しい誤算でもありましたが。
一方どのモデルにも背面調整ができる機能がついていないのには若干不満です。スキー向けパックは背面アクセスができるため、構造上難しいのかもしれませんが、より高いフィット感とブレにくさを得るためには今後必要な機能なのではないでしょうか。
有名ブランドを選んでおけば大きく外れを引くことはないとはいえ、使い方によっては末永く使う相棒なのがバックパック。せっかくならば後悔しないお気に入りを手に入れたいものです。この記事を参考に、心ゆくまで相棒選びを悩んでみてください!
濱口 誠
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