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世界のアウトドアシーンを影で支える日本メーカーに会いに行ってきた ~株式会社ニフコ ショールーム取材レポート~

最近、アウトドア界隈でにわかに耳にするようになった「日本のアウトドア・メーカーが熱い」という声。その大きな流れは、2000年代に入って一気に多様化し花開いていったアウトドアの楽しみ方・スタイルと呼応するように誕生したティートンブロス山と道パーゴワークスローカスギアなどの大小さまざまな個性派メーカーによって象徴されることが多く、こうした新しい感性には当然このサイトでも引き続き注目していきたいわけです。

でも今日の話はちょっと違う。そんなメインストリームでの盛り上がりをよそに、40年近くものあいだ、世界のアウトドア産業の最先端を影で支え続けているとある日本メーカーの話です。

その会社とは、主にバックパックなどには欠かせない留め具である「バックル」などを開発・製造している nifco(ニフコ)さん

正直、はじめてニフコと聞いたときには何の会社か、アウトドアにどんな関係があるのか、まったくピンとこず、「バックルを作っている会社だよ」と教えてもらっても「バックル?メーカーが普通に考えて作ってるんじゃない?」と、今まで何も意識せずに当たり前のようにあると考えていた自分に気がつきます(スイマセン)。

でも、そういえばいろいろなバックパックを細かく見るようになってから「このバックル、上手いなぁ」とか「このバックルの使い心地がイイ」などと妙に感心したり、愛着を感じたりしていたことも事実。そのバックルを「作る人」がいるという事実に今更ながらぶち当たり、バックルという部品にはじめて本当の意味で向き合うようになったとき、俄然、興味が湧いてきました。これは会ってみたい!

そんなニフコさんを縁あって取材させていただくことができましたので、今回は日本が誇る”アウトドア”メーカーの貴重なレポートをお送りしていきたいと思います。

ニフコのショールームにお邪魔してみた ~ニフコとバックルづくり~

1月某日、横須賀のニフコ技術開発センター内にあるショールームにお邪魔してきました。まず敷地内に着くなり、いきなり眼の前にドデカい建物がお出迎え。実はニフコは来年で50周年、世界に50を超えるグループ会社を束ねる巨大なグローバル企業。敷地のスケール感からして違います。

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ニフコ技術開発センター(参考写真)。緑に囲まれ広々とした敷地内に突如、近未来なそれは現れたのでした。

一見地味な部品メーカーの正体は、ベンチャー精神溢れるチャレンジャー

はじめに、ニフコはバックルを作る会社といいました。しかしこれだけの規模の会社ですから当然、バックルを作っているだけの会社ではないんです。

ニフコって、そもそもどんな会社?なぜアウトドア?なぜバックル・・・?バックルをめぐる熱い物語の核心に入る前に、まずはショールームを眺めながら、ニフコという会社のことをご紹介しましょう。

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押し込むだけで留められるファスナーは、まさに後のバックルへと繋がっていく技術の源流。

ニフコという会社の源は、事業家であり創業者でもある小笠原敏晶さんが60年代後半に立ち上げたファスナー事業に端を発します。当時の技術力で最先端をいくアメリカITW社が開発した「樹脂(プラスチック)製工業用ファスナー」は、これまで両側からネジ止めしなければならなかったものが、片側からポチッと押し込むだけで留めることが可能になるという、画期的な製品。特に自動車や家電製品の生産ライン等においては未来の留め具として採用されていくはずの部品でした。

この製品の日本での製造・販売権をいち早く獲得したニフコは、早速日本中のメーカーに営業活動を開始。しかし、当初は期待に反してまったく売れ無かったとか(※)。何度も門前払いを食らいながらも、信念を持って地道に改良・提案を続けていくと、やがて事業は飛躍的に成長。ニフコの製品は自動車のさまざまなパーツを担うようになり、さらにニフコの技術を活かした製品は自動車以外の事業領域にもどんどん拡大していきました。

※NIKKEI VENTURE 2001年1月号 より

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入口では隅々まで組み込まれたニフコ製品で形作られたクルマのオブジェがお出迎え

例えば家電産業。AV機器からパソコン、プリンタなどの精密機器に使われている多くのプラスチック部品にニフコの製品が採用されています。

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プリンタが紙を1枚ずつ送れるのも、ノートPCの開閉角度が自由に調整できるのもニフコのシゴト。

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今では懐かしいカセットデッキのドアが「ゆっくり開く」あの仕組みも、ニフコの開発した新しい油圧ダンパー技術による発明。

そしてもちろん今回のテーマである、アウトドア産業へも拡大が進んでいきました。ここまで来ればもうお分かりかと思いますが、アウトドアをはじめとしたライフスタイル産業への進出も、ニフコがもつ「繋ぐ」「留める」技術の発展の結果だったというわけです。今ではバックパックには欠かせないサイドリリースバックル、ファッション・アパレルで大活躍のコードロックやアジャスターなど、今となってはありとあらゆるアウトドアやスポーツ、旅行用品で広く採用されています。

小さなバックルひとつひとつに込められた、モノづくりの物語

ショールームのアウトドア製品コーナーにはこれまでに開発されてきたバックルやコードアジャスターなどのパーツがズラリと並びます。もちろんここに展示されているのは製造されたうちのごく一部でしかありません。毎年常に新しい型が生まれており、昨年も何と年間で40近くもの新作が誕生しているとか。

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この新製品の数を見て分かるとおり、さまざまなアウトドア・ギアに使われているバックルやコードアジャスターの多くは、ニフコが各アウトドア・メーカー、各モデルのもつコンセプトに従い、メーカーの思いや要望に対して真摯に、丁寧に向き合った末に、オーダーメイドで新しい金型を開発していきます(もちろん既製のバックルを採用することもありますが、それらとてきめ細かいニーズに応えられるよう、恐ろしく多様な種類のデザインが存在しています)。

例えば、同じ軽量バックパックのためのバックルを開発するとしても、あるメーカーではとにかくバックルの内部をとことん肉抜きし、軽量化を突き詰める。一方別のメーカーでは、軽量化しながらも、外からの衝撃に耐えうるだけの強度は譲らず、肉抜き具合を微妙に抑えたバックルが生まれる(写真)。一見するとほとんど変わらない形をしていながら、決して相容れない差異がそこにはある。どちらも「この形」でなければ製品として成立しないといいます。

極限まで肉抜きした右のバックルと、肉抜きを微妙に抑えた左。たとえ見た目はほとんど変わらないとしても、同じものでは、ダメなのだ(写真が分かりにくくて申し訳ない)。

確かに、ニフコのつくるパーツは決して表に立つモノではありません。しかし、ぼくたちが製品のクオリティとして実感している確かな感動の裏には、実はこうした小さなパーツパーツでの妥協なき品質の追求がありました。モノの品質を測るとき、ぼくたちはどうしても目立つ要素ばかりに眼がいってしまいがちですが、「本当の意味での製品のクオリティとはこうしたことの積み重ねによってつくられるのだ」という、当たり前の事実をあらためて思い知らされる展示の数々に、ただただ胸熱です。

もしこれまで一度も注目したことがないという人はぜひ今一度、この小さいパーツに目を凝らしてみてください。たった数センチ四方の小さな部品のなかには、メーカーとニフコとが1ミリ、1グラムにこだわってきた本気のモノづくりが詰まっています。

そんなひとつひとつの製品に込められたリアルなエピソードやこれまでの苦労が詰まったバックル事業部の歩みとは?

これからも引き続き、実際に製品の企画・開発を担当されている方に突っ込んだお話しをレポートしてきたいと思います。時期などすべては未定ですが、ぜひ続編をお楽しみに!