山をはじめたばかりのころは日帰り登山ばかりであったとしても、経験を積むにしたがって自信がつき行動範囲が拡がってくれば、いずれは1泊以上の長い旅を志していくのが多くの山好きの性というもの。そんなとき、お供のバックパックの容量は約50L前後、もしくはそれ以上のサイズが必要になってきます。
このクラスなると中身を含めた荷物全体の重さは15kg近くになることがしばしば。それだけの荷重が身体の一部分にかかったとしてもそのストレスを軽減し、重荷によるブレに対しても重心を安定させるためには、バックパックの背面・ショルダー・ウェストにしっかりとした支柱や十分なクッションが必要になってきます。そうなってくると必然的にバックパック自体の重量はどうしても重くならざるを得ませんでした。
快適性と機能性をとれば軽さが犠牲になる。そんな常識を覆そうとしてみせたのがこのGREGORY PARAGONシリーズ(女性モデルはMAVEN)。38Lから10L刻みの68Lまでラインナップが揃っていますが、個人的には重量がシビアになりはじめる48Lから上がこのパックの本領だと思います。今回はこのブランドのもつ伝統をきちんと引き継ぎながら、時代に求められる軽快さにも対応した、モダンでオールラウンドなバックパックについてレビューしていきます。
目次
大まかな特徴
バックパックにおいて最も重要なことのひとつは背負い心地、いわゆる「フィッティング」にあるといわれていますが、フィット感と快適性に対する並外れたこだわりで知られるGREGORYはその点において、他のどのブランドにも負けないというパックづくりを続けてきたブランドです。ショルダーやウェストハーネス(ヒップベルト)の細かいカスタマイズや、専用の背面計測器、丁寧な適正背面長についての解説など、皆さんもご存じのことかと思います。
今回紹介するこのPARAGON 48は1泊程度の活動を目安に設計されたモデルですが、このモデルのために新開発されたAEROLON SUSPENSION(エアロロンサスペンション)とMATRIX VENTILATION SYSTEM(マトリックス通気システム)は、軽さと通気による快適性を生み出しながら中~大型パックに求められる高い安定性を確保するという新たなコンセプトの背面システム。ショルダーベルトやウェストハーネスはしっかり厚みがあり、身体を包み込むような優しいフィット感を実現しています。おまけに最近のグレゴリーではおなじみの機能的なポケットやストラップによる使い勝手のよい便利な収納の多さも魅力です。
おすすめポイント
- とにかく背負い心地が良い。体が包まれているような感覚。
- 48Lでこの快適さにもかかわらず1.5kgを下回る軽量性。
- ややすっきりした見た目ながら要所にこだわりの機能。
- 頭部の2層収納が便利。
- シトラスレッドのカラーリングがとてもイイ、ものすごく良い(編集部談)
気になったポイント
- ストラップとバックルが小さくてやや扱いにくい。
- 本体の生地自体は薄めでややデリケート。
アイテム外観
前面
側面
背面
主なスペックと評価
項目 | スペック・評価 |
---|---|
素材 |
|
カラー |
|
サイズ/背面長 |
|
容量 |
48リットル |
重量 |
1.45㎏ |
最大積載重量 |
18kg |
バリエーション(女性向けモデル) |
|
メインアクセス | トップ/ボトム |
背面システム | エアロロン・サスペンション+マトリックス通気システム |
背面長調整 | ◯ |
ハイドレーション対応 | ◯ |
レインカバー | 〇 |
機能 |
|
快適性 | ★★★★★ |
重量 | ★★★★☆ |
安定性 | ★★★★☆ |
使いやすさ | ★★★★☆ |
収納・機能性 | ★★★★☆ |
汎用性 | ★★★★☆ |
耐久性 | ★★★☆☆ |
総合点 |
★★★★★ |
詳細レビュー
背面システム
まず何といってもイチオシなのが、特徴的な背面システム(エアロロンサスペンション)による背負い心地の良さ。本体には特殊構造の軽量なアルミフレームが身体の形状に合わせて背中にフィット。また背中に当たるパット部分も厚みがあり柔らかく、荷重に対して身体にかかるストレスを軽減してくれます。特にウェストハーネスは軽量性・通気性・強度・クッション性のバランスが秀逸。快適な背負い心地に対する隙の無さがうかがえます。
背面の背中が密着する部分は、メッシュに覆われ三角形に中抜きされたフォームが。適度に厚み(クッション)がありながら通気と軽量性にも気を配るというつくりが一目瞭然です。
このフォームはショルダーにも採用されています。こうした全体的な配慮によって、背中に密着してフィットするパターンのバックパックの中では高いレベルの通気性を実現しているといえます。
背面調節はショルダーハーネスの根本のマジックテープを剥がしてレンジを合わせ、固定するというよく見られる方式です。
ちなみに最大積載重量はカタログ通り18㎏の範囲内であれば快適に背負うことができました。そのあたりの数字の正確性も流石のグレゴリーといったところでしょうか。
同じグレゴリーの別モデルと背面のつくりを比較してみる
各パットの厚みですが、せっかくなので編集部で過去にレビューしたものと比較してみましょう。容量に差はありますが、ほぼ同じ用途に使われるバックパックのこの3つ。写真を撮るために並べてみるとなんだか三兄弟のよう。比べてみると意外な発見がありました。
まずはショルダーハーネスから。スタウトおよびズールそれぞれと比較してみましたが、一見ほぼ変わらない厚みです。
ショルダーパットの厚みに関しては概ね同じです。ただパラゴンはパッドの材質が軽量性だけでなくクッション性をも重視した特殊なEVAフォームな分、重荷での快適性は確実に優れています。
次にウェストハーネスの方はどうでしょうか?まずスタウトと比べると、厚みからして明らかな差が見られます。
ズールと比較してもその重厚さは明らかです。
パラゴンのウェストハーネスはかなり厚みがあり、なおかつそれがショルダーハーネスのところでも言及した、軽量・通気かつクッション性の高い特殊なEVAフォームを採用していることから、これら3兄弟の中でも随一の安定性・快適性を実現していることがわかります。
使い勝手にこだわった快適・便利な収納の数々
雨ブタも2層構造で貴重品の振り分けが大変便利。
また個人的には天蓋上段ファスナーの先端部分にある黒いループ(写真下画像)に指を固定して間口の広いファスナーを動かせるので開閉のストレスが少なく、かなり気に入りました。
メイン収納へはトップ/ボトムの両方からアクセスが可能な2気室構造は、例えばテントやシュラフなど、下部にパッキングした荷物を取り出す際にすぐ出し入れできます。ちなみに特に内側に仕切りはありませんでした。
正面と側面にはメッシュポケットがついています。側面のポケットには500mlのペットボトルが楽々入る大きさです。
フロントポケットの内側にはレインカバーが。
メイン収納の入口は、特に冬にグローブをしていても搾り上げ・開放が容易なクイックロック仕様のドローコードシステム。ここ数年で多くの先進的なモデルで取り入れられてきていますが、昔に比べて取っ手のループも大きく操作が非常に楽になりました。余談ですがこのビニール樹脂で覆われたループ、濡れると内側が乾きずらいのかずっと曇ったままでした・・っとこれは機能には関係ない些細なことでした・・。
ウェストハーネスの長さ調整パーツもテンションを開放しやすいつくりになっています。細かいところですが、こうしたこだわりが快適性を生みだしています。
ショルダーパットには「サングラスクイックストウ」という名称のサングラスをラッキングするパーツがあります。こういった今までありそうでなかった独特のこだわりがいいですね。
軽量であるがゆえに気をつけたいところも
バックルとストラップは細いので使用法や扱いには注意が必要であるというところ。また本体生地が若干薄い点もダメージに対して不安が残る部分です。目がかなり詰まっているとはいえメッシュ部分もあるので、雪の付着にも気を付けたいところ。使用時期や環境はバックパックの性格と相談しながらになります。
まとめ:どんな活動におすすめ?
ベーシックでシンプルな構造をベースに、軽量さと扱いやすい機能が詰まった非常に完成度の高いパラゴン/メイブンは、昨今のコンパクトな装備であればテントを携えての1泊程度の活動ならどのようなアクティビティにも対応できるでしょう。特にファストパッキング的な活動や小屋泊まりの登山なら2泊以上でも十分いけるかと思います。
この手のバックパックはその特徴を見れば経験豊富なユーザーは使いどころの判断はできるかと思いますが、それを理解した上である程度のリスクをカバーしながら使えば、ハイキングやトレッキングに限らず、四季を通じて岩・沢・雪とかなり広範囲な用途を網羅するポテンシャルは十分にあります。
機能と収納がバランスよく融合して、外観もゴチャゴチャしすぎないシンプルさも魅力的です。またデザイン性も高く通常の旅行にも街の中でも浮くことなく使えるはずです。
背中をやさしく包んでくれるような感覚は中々やみつきになり、ついつい何時もより余計に出掛けしまいたくなります。例えば日帰りでも、ちょっとかさばる食材や調理道具を沢山持っていって、山でご馳走を作って食べるグルメ登山に出掛ける休日も悪くない。ぜひ多くの人に使ってみていただきたい、GREGORYの新しいスタンダードがまた一つ誕生しました。