ハイキング、クライミング、ファストパッキング、トレイルランニング――。アウトドア・アクティビティが多様化した昨今では、バックパックの種類も年々多様化、複雑化しています。逆に言えば、同じサイズでも季節や目的・考え方によってさまざまなバックパックのなかからより快適な、自分にとって最適な1点が選べるありがたい時代です。その辺の話題についてはこのサイトでも「登山用バックパックの選び方」として説明していますので、興味のある方はご覧ください。
今回はそうしたさまざまな種類のバックパックのなかから、今シーズンさまざまなメーカーからおもしろいモデルが登場しつつある「軽量バックパック」というジャンルに焦点を当てました。最新モデルから既存の人気モデルまで10アイテムをピックアップし、それらを同じ条件で背負い比べ、さまざまな視点から比較評価。軽快なハイキングに最適な「ベスト・軽量バックパック」と、その他こだわり別のおすすめを紹介します。
目次
今回比較したバックパックについて
登山用のバックパックといえば、20キロ程度の大きな荷重にも耐えられるようにしっかりとしたフレームが内蔵され、丈夫な生地で作られたもの(縦走用バックパック)が一般的。ただ、なじみのある山域を軽量な道具で週末サクッと出かけるという想定であれば、軽さと使いやすさをバランス良く追求した軽量バックパックの方がより使い勝手がよろしいのが最近のバックパック事情です。もちろん、しっかりとした準備に基づいたより長い距離を軽量な装備で駆け抜けるファストパッキングにもいい。このカテゴリの選定にあたってはそれらの用途を想定し、まず大まかに下記の基準でバックパックを絞り込みました。
- 容量は30~40L
- 日本で購入可能なモデル
- パック重量は約1kg以下
- 最低限背面パッドありのモデル(まったく無しのモデルは除く)
- 基本的にハイキング・トレッキングが目的のモデル(トレイルランやクライミング・スキー専用モデルは除く)
そこからデザインや価格、個人的な好みなども含め、最終的に10アイテムをピックアップ。ノースフェイスやモンベルなど全国の登山量販店で入手しやすいモデルからインターネットでのセミオーダーによる完全個別注文しかできないガレージメーカー品まで、最新モデルから既存の人気モデルまでぶっちゃけかなりバラエティに富んでいます。別の言い方をすると「ウルトラライトハイキング」と呼ばれるアクティビティで有名なモデルと、一般的な登山に親しむ人が好むであろうブランドのモデルが境界線上で共存しています。
これに関してこのサイトのスタンスは、実際に試してもいない段階で変なラベル付けや先入観にとらわれるのではなく、できる限り客観的な条件を揃え、その情報をオープンにした上でシンプルに「良いもの」を発見し、情報を共有したい、ただそれだけです。結果として比較が上手くいかないこともあるかもしれませんが、その時は素直に失敗を認めて今後への糧として次に進むだけで、今回は自分なりに有意義な発見があったと思いますので、この比較を公開しています。まぁ何事もやってみて見ないと分からないもので、どうか広い心をもってお付き合いいただきたいと思います。
話が若干逸れました。なお「手に入りやすさ」と「価格」という点に関しては製品によってかなり差が生まれてしまっていますが、今回の比較においては純粋な品質の比較という観点から無視しています。なおピックアップした10点のうち(HMGと山と道を除いた)8点の概要については「おすすめ軽量バックパック10選」にて紹介しています。
テスト環境
軽量バックパックのテスト期間は2016年4~9月の約6ヵ月。テストは筆者本人のみ。すべてのアイテムは独自に購入しています。東京近郊や奥秩父・上信越の山(1,000~2,000m前後)で試着しました。1つのパックを普通に終日山歩きに持ち出すほか、同日に同ルート・同重量ですべてのパックを背負い比べるなど条件を揃えた場合でのテストを実施しています(さすがに時間帯や天候・疲れ具合など厳密に条件を揃えることまではしていません)。テストにおけるパック全体の重さは、日帰り装備想定の約3kgと、小屋泊まりやウルトラライト(UL)でのテント泊を想定した約7kgの2パターンで試しており、加えて参考値として14kgだった場合に関しても背負い心地程度で試しています。その他詳細なテスト条件については各項目の詳細レビューで補足しています。
評価項目について
まず実質的な軽さを「単位容量あたりの重量」で比較し、単位重量として評価。背負い心地については重荷で歩いたときの荷重具合を含めた快適さを快適性として、軽い荷物で早足や走ったりする際の快適度合いを機動性として評価しています。また各種ポケット・アタッチメント類によるパッキングのしやすさや拡張性については収納性、その他ハイドレーションの設置しやすさや荷物の出し入れ、背面マットやレインカバーの有無など使い勝手や独自機能全般については機能性のなかでまとめて評価しています。
なお、テスト結果の評価数値はあくまでもテストを行った評価者の判断による、テスト内における相対的な指標であり何らかの客観性をもつものではありません。
テスト結果&スペック比較表
※1 ピンポン球(直径40mm)をパック全体に詰めた個数をリットルに換算した独自の計測結果によるものですので、あくまでも本比較での目安です。
※2 取り外し可能なパーツや付属品(レインカバー等)をすべて含めた実測数値です。
※3 本体生地:70D Silicone Coated Ripstop Nylon、外部ポケット生地:X-Pac VX07、背面長51cmの場合
評価結果まとめ ~タイプ別おすすめバックパック~
本格的なULハイキングはもちろん、身軽な山旅全般におすすめ
山と道 U.L.FramePack ONE
山と道といえば日本のUL界隈では評判の知る人ぞ知るガレージメーカー。そのフラッグシップともいえるU.L.FramePack ONEが世界中の名だたるブランドを差し置いて総合1位です。今回さまざまなケースで比較してみて、決して「ウルトラライト」の枠だけに収まらない、総合的な質の高さは良い意味で予想を大きく裏切ってくれました。
まず本体重量は600g前後※と今回の中では最軽量、それでいて40リットル後半まて詰め込めるほどの大容量。これだけでも驚いていいと思うのですが、そもそも500g前後が主戦場のULバックパックを視野に入れて作られているこのモデルにとってはある意味当然の軽さなのかもしれません。そしてこのパックのスゴイのはここから。決してウリは単なる軽さではなかった。
何より驚いたのは、これだけ軽量なバックパックにしてはあり得ないほど快適な背面構造です。X型に配置されたカーボンフレームは肩と腰にあるスタビライザーをグッと引き寄せることで適度にしなり、背中のラインに確実にフィット。しっかりと荷重が背中から腰に乗ってくれ、これが「ULにしては」とかそういうレベルじゃなく快適。限界まで重荷を背負ってもほとんど肩に負担がかからず、長時間の快適行動を可能にします。しかもこの肩・背中・腰の荷重バランスは、スタビライザーの引き具合で自在に調節できるので、荷物が軽いときには肩加重メインに、荷物が重いときには腰加重メインにと好みに応じたフィッティングが可能です。
外側には止水ジッパー付のポケット、大きなものが入るフロントポケット、斜めにカットされて背負いながらボトルが取り出しやすいサイドポケット、汎用性の高いドローコードと、ひとつひとつユーザーの使い勝手を考えて細かく丁寧に作られているところにも非常に好感がもてます。
ネックなのは(今回の評価には含まれていませんが)基本的にオンラインでのカスタムオーダーのみでしか受け付けておらず、決して安くはない価格、さらに数ヵ月待ちの納期でしか入手できないというハードルの高さ。しかし一方でサイズや生地・カラーリングを自分である程度選べるというカスタマイズ性・プレミアム感は代えがたい魅力でもあり、これだけの対価を払っても決して後悔しない品質であることは今回十分に感じることができました。発売から数年経った今でもなお衰え知らずの人気もある意味うなずけます。
※筆者が選択した生地・サイズ(本体生地:70D Silicone Coated Ripstop Nylon、外部ポケット生地:X-Pac VX07、背面長51cm)での話です。重量などはオーダー内容によって変わってきますのでご注意ください。
快適な背負い心地と抜け目ない使い勝手のよさでおすすめ
THE NORTH FACE カイルス35
背負った際の快適性や、パッキング・行動時での使い勝手など、もしもあなたが今現在使っている縦走用バックパックと寸分違わず同じ使い心地を軽量バックパックに望むのであれば、これ以上の選択肢は他にありません。
トランポリン構造の背面フレームは最近のベーシックな登山用バックパックにおいて大流行している機能。それが1kg前後の軽量バックパックで採用されていることはこのパック最大のウリで、ピタッとはり付くようにフィットする柔軟な背面パネルと、その裏を抜けるエアフローが真夏でも快適な背負い心地を実現しています。さらに比較的しっかりしたアルミフレームと大きなヒップベルトは10kgを超えるような重荷でもほぼ腰に加重されている感じなので、その安定性の高さも他のモデルにない大きなメリットです。ただその分、トレランにも最適というにはちょっと無理があるかなという感じではあるのですが。
フロント・サイドの取り出しやすいポケット・アタッチメント群や、天蓋を開けなくてもメインコンパートメントにアクセス可能なジッパー開閉口、付属のレインカバーなど、収納性・機能性の高さも見逃せません。軽量であるという以外では見事なまでに”普通の使いやすいバックパック”であり、つまり逆に恐ろしいほど完成度の高いモデルであるといえます。
なお、THE NORTH FACE カイルス35については以前こちらのページでも詳しく紹介しました。
MILLET ベノム30
TNFが通常の縦走バックパックに近い形での使いやすいモデルだとすると、こちらはよりスピードハイキングに使いやすくなおかつ通常のバックパックに近い使い勝手が可能なモデル。
30Lの容量で約900gという重量は決して軽い方ではありませんが、背負って特に重いと感じることはもちろんありません。スリムでコンパクトなボディと通気性・フィット感抜群の背面・ショルダー・ヒップベルトが、8kgを超えない範囲では快適な背負い心地と動きやすさを提供してくれました。フロント・サイドにはボトルなども立ったまま取り出せるポケット、加えて背面側から素早く天蓋を開閉できるオポジットオープニング機構や、行動中にパックを下ろさずポールを取付けられるスピードポールループなど、スピーディに行動できる機能の数々もハズレなしといえる気の利き方です。最後に特筆すべきはボディに使われている生地が他のパックと比べてもしっかりしている点など、さすがアルパイン系のバックパックを数多く手がけているミレーだけに耐久性に関してもポリシーを感じます。
なお、MILLET ベノム30については以前こちらのページでも詳しく紹介しました。
コストパフォーマンスNo.1
mont-bell バーサライト パック 30
価格や入手のしやすさを考えるとmont-bell バーサライト パックの右に出るものはいません。一万円を切る価格のバックパックに多くを求めることなんておこがましいとさえ言える時代にあって、このパックの圧倒的なコストパフォーマンスの高さは目を見張るものがありました。
今回の比較では、容量あたりの重量という実質的な軽さ(単位重量)で3位、軽量な装備で行動する際の快適さである機動性評価でも3位、細かい使い勝手を評価する機能性評価でも2位。要するにライト&ファスト(総重量5kg以下程度)で使用する想定であればそのパフォーマンスはトップクラスなんじゃないかと感じました。それがとびきりお得な価格で手に入るのですからその意味では十分に検討の価値ありです。
ただし、上記以外の使用ではまかり間違うとかなり残念なことになってしまうので注意が必要。生地はペラペラで耐久性に関してはどうしても心許ないことをはじめ、肩で背負うタイプの構造とパッドのみの背面パネルにより7kgを超えるような荷重では肩に負担がかかりすぎること、ポケット類も使いやすさは望めないなど、正直他の優れたモデルに比べるとそれなりであることは否めません。決して主力のパックとしては期待できませんが、用途を決めて、消耗品と割り切ったときに存在感が浮き立ってくるモデルです。
トレイルランニングメインの長距離コースにおすすめ
ULTIMATE DIRECTION ファストパック30
軽量バックパックの用途として一方の極が身軽に気持ちよく歩くことであるとすると、もう一方の極はとにかく最小限の負荷でスピーディに移動すること、つまりトレイルランニングです。もちろんトレラン専門のパックは山ほど発売されていますが、それらの多くはレースをはじめとした短時間のコースに合わせた10リットル程度の小さな容量がほとんど。その意味でテント泊も可能な収納性の高さとランニングに最適化した構造を両立させたULTIMATE DIRECTION ファストパック30はなかなか貴重な存在であり、テストでも軽い荷物でコースを走るケースでは最高の感覚を得ることができました。
その大きな特徴は言うまでもなくベスト型のショルダーハーネスにあります。一般的なバックパックと違い、2本の調整可能なスターナム(胸骨)ストラップと脇下のサイドストラップによって挟み込むスタイルは、ヒップベルトがなくても高いフィット感を実現。面積の広いショルダーストラップはしっかり締めてたとしても圧力が分散され快適性が保たれるだけでなく、ウォーターボトルやジェル、モバイル機器などを収納することができます。こうして得られた下半身の自由と前面の利便性がスピーディな行動にとっては非常に都合がよく、他のどのモデルにもない快適なランニング環境を提供してくれます。フロント・サイドに配置された伸縮性抜群のポケットもかなり便利。
一方で5kgを超えるような重荷や、容量いっぱいでの行動では予想以上に酷いパフォーマンスであったことはちょっと残念。肩に掛かる荷重は不快さを増し、走行時のパックのブレも大きく、とてもではないですが走りやすいとは言い難い状況に陥ります。しかも生地やストラップ類の耐久性も使ってすぐに破損が見られ、耐久性に関しても不安が残りました。このため複数日にまたがるトレイルランニングを実施する場合の選択肢として、パッキングサイズを小さくする自信のない方や、好みとしてベスト型にこだわらないのであれば他のウルトラライト系バックパックの方が有効である場合もあることは憶えておいた方がよいかもしれません。
各項目詳細レビュー
単位重量
今回ピックアップした候補は必ずしもただ軽いだけのモデルを選んだわけではありませんが、軽量バックパックというからにはできる限り重量の軽いモデルの方がありがたいことは当然でしょう。そうはいっても単純に重量を比較するのでは、モデルごとに異なる大きさ(容量)を反映していないことになるので、きちんと公平に評価してあげる必要があります。そこでこの比較ではより正確さを期すため、まず各モデルの実容量と実重量を測定し直しました。
通常容量の量り方はメーカーがそれぞれ独自の方法に従っているため、それぞれの公式情報からでは厳密に相対比較できたことにはなりません。そこで今回はすべてのモデルを「ピンポン球が何個入るか」という指標によって量り直します。ピンポン球の直径は約40mm(0.4cm)なので、1個あたり0.064リットルを占有しているという想定でリットルに換算しています。なお、パックの形は当然柔軟でしかもピンポン球は個々の大きさも若干ぶれているため、この値は厳密な容積を示すものではありません。あくまでも今回の相対比較のための目安容量となりますのでご注意ください。
こうしてメイン収納部とそれ以外(天蓋やその他外部ポケット)でそれぞれ合算した総容量と、さらに付属品をすべて取り付けた状態で測り直した実重量から、そのバックパックの単位容量(1L)あたりの重量を算出します。その結果まとめたのが以下の表です。
アイテム | 山と道 U.L.FramePack ONE | Gossamer Gear Gorilla 40 Ultralight Backpack | MILLET ベノム30 | THE NORTH FACE カイルス35 | THULE Stir 35L | mont-bell バーサライト パック 30 | Montane ultra tour 40 | OMM Classic 32L | ULTIMATE DIRECTION ファストパック30 | HMG 2400 Windrider |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
公式容量 (L) |
35~47 | 40 | 30 | 35 | 35 | 30 | 40 | 32 | 30 | 40 |
参考実測容量※1(L) | 47 | 43 | 31 | 36 | 34 | 35 | 48 | 32 | 35 | 41 |
メイン収納:外部収納(L) | 36 : 11 | 32 : 11 | 24 : 7 | 30 : 6 | 32 : 2 | 30 : 5 | 39 : 9 | 26 : 6 | 27 : 8 | 34 : 7 |
公式重量(g) | 573 | 793 | 950 | 1105 | 1000 | 605 | 730 | 540 | 700 | 799 |
実測重量※2(g) | 600※3 | 810(M) | 900 | 1055(M) | 1015 | 610 | 755(M/L) | 750 | 695(S/M) | 825(M) |
1Lあたり重量(g) | 12.8 | 18.9 | 28.7 | 29.4 | 29.6 | 17.3 | 15.6 | 23.2 | 19.7 | 20.1 |
※1 ピンポン球(直径40mm)をパック全体に詰めた個数をリットルに換算した独自の計測結果によるものですので、あくまでも本比較での目安です。
※2 取り外し可能なパーツや付属品(レインカバー等)をすべて含めた実測数値です。
※3 本体生地:70D Silicone Coated Ripstop Nylon、外部ポケット生地:X-Pac VX07、背面長51cmの場合
ここから言えるのはまず山と道 U.L.FramePack ONEの圧倒的な軽さです。最軽量であるだけでなく、ギリギリまで詰められるメイン収納と大きな外部ポケットによって大容量の収納が可能。おまけに少ない容量はサイドのコンプレッションを締めてバランスを保てるし、大容量でもフレームがしっかり入っているためパックが型崩れすることもなしと、決してスペックだけのパフォーマンスではないことが素晴らしい。同じようにGossamer Gear Gorilla 40も(前モデルよりは重くなったとはいえ)軽さと容量のバランスが非常に優秀でした。
一方mont-bell バーサライト パック 30とMontane ultra tour 40も単位重量のスコアはトップクラス。ただし使用した限りこの2つで注意したいのは、背面パッドが貧弱なため詰められるだけ詰めるとパッドが歪んだり、重すぎて肩を痛めたりしてしまうこと。実質的に”使える”容量としてはあまり詰められないと考えた方が良いかもしれません。
なおMILLET ベノム30、THE NORTH FACE カイルス35、THULE Stir 35Lについては単位重量という意味では残念な成績でしたが、これらは後に説明する背負い心地の快適性とある程度トレードオフであったということは付け加えておきたいと思います。
快適性
軽量バックパックは15kgを超えるような大きな荷物の場合、強靱な支柱と分厚いクッションの入った縦走用バックパックの快適・安定性には当然適いません。ただ、だからといって背負い心地や長時間行動しての疲れにくさを諦めてよいわけはなく、この項目では、このカテゴリで想定される約3~10kg程度までの荷重でいかに快適な背負い心地を提供してくれるかを比較しています。その際比較のポイントとして評価したのは、背面・ショルダー・ヒップベルトなど身体に当たる部分の背負い心地と、フレーム・ヒップベルトの連携によるサスペンションの安定性の2点。
まず各モデルの背負い心地を比較してみると、Gossamer Gear Gorilla 40が他のモデルに比べて特に優秀でした。アルミフレームとパッドが背中にほどよくフィットし、ショルダー・ヒップベルトには厚みのしっかりした3D Air Meshが加重を和らげてくれます。その他、トランポリン構造の背面を実装したTHE NORTH FACE カイルス35も背中へのあたりが抜群に快適。
次に各モデルのサスペンション安定性ですが、荷重がしっかりと背中から腰に乗るかどうかで身体(特に肩)への負担感がまったく違い、ある程度重い荷物を背負ってみることでその差が如実に表われてきます。ここでは主にパックの限界荷重に近い容量で同じコースを一定時間行動し、それぞれの快適さ、疲れやすさなどを比べています。仮に9月の奥秩父1泊2日ソロテント泊という想定で下の写真のような荷物を詰め(約8kg)テストしました。本格ウルトラライト装備でテント泊でも5kg以下は当たり前という人ももちろんいると思いますが、今回はあくまでも「無理しない程度に軽量な装備」って感じを想定していますのでご理解ください。
ここで優れていたはTHE NORTH FACE カイルス35と山と道 U.L.FramePack ONE。TNFの方は(ある程度予想できましたが)軽量バックパックにあるまじきしっかりとしたアルミフレームとフレームにほぼ直結したヒップベルトによって、どんな重量であっても構造的に加重が腰に乗る仕組み。一方山と道の方は剛性と柔軟性をもったX型のカーボンフレームを肩と腰にあるスタビライザーによって身体に密着させ、重心を腰の上に乗せる仕組み。この構造の便利な点は軽い荷物のときに腰のスタビライザーを緩めればあえて肩で背負って走りやすくしてくれる点で、こうした汎用性の高さも考えられた作りは他のモデルには見られない高評価ポイントでした。
ちなみに、快適性の採点で16を下回るモデルになると、重荷の場合に肩への負担は無視できないものになってきます。このため8kgを超えるような荷物での行動が多い人は、この項目で低評価のモデルを選ぶのは気をつけた方がよいでしょう。
機動性
時には早足や走るときも多いファストパッキングやスピードハイキングでは、のんびりと歩いているときの背負い心地だけでなく、激しい運動時でもいかにバックパックが動きを邪魔せず快適に行動できるかという意味での機動性が求められると考えています。この機動性では主に3kg前後の重量を背負ってトレイルランニングしてみて、その際の動きやすさ(=フィット感、手足の振りやすさ、パックのブレなさ)と、パックの通気性の2点を評価しました。
最も評価が高かったのは想像通りULTIMATE DIRECTION ファストパック30。もともとアドベンチャーレース向けの本格ベストで知られるブランドのノウハウが存分に盛り込まれたハーネスは、2本のスターナムストラップと脇腹のストラップによって胸より上を挟み込むように装着するため、ヒップベルトがなくても十分に固定力がありました(軽い荷物に限る)。なによりこの仕組みがもたらす下半身の自由はどのモデルも適わない動きやすさを与えてくれます。パッドの通気性も当たり前のようにしっかりとあり、まさに走るためのパックです。
その他ではMILLET ベノム30とTHULE Stir 35Lが通常のバックパックと同じ構造ながら非常に機動力が高いです。どちらにも共通しているのは、パックの形状がスリムかつ肩まわりのホールド感が高いため、動きに対してブレにくいこと(ベノムは広いショルダーベルトが、Stirはショルダーストラップがよく機能しているため)。そして背面・肩・ヒップの高い通気性が保たれていることも高評価の要因のひとつです。
収納性
いかにコンパクトなボディに高い収納力を得るかということに工夫を凝らした軽量バックパックでは、通常のバックパックに比べて外側のポケット類が非常に融通のきくつくりになっていることが特徴ともいえます。この項目ではそうしたポケット類の「有無」や「使いやすさ」を収納性として比較・評価しています。
10モデルを比較してみて、具体的にポケットやアタッチメント類について評価したポイントは主に以下の点です。
- 天蓋
- フロントポケット
- サイドポケット(サイドストラップ)
- ヒップベルトポケット
- ショルダーベルトポケット
- ハイドレーションポケット
- ポール(アックス)ホルダー
- その他アタッチメント類
Montane ultra tour 40は天蓋以外、上記の収納をほとんどすべて網羅し、しかもそれらがなるべく軽く、でも耐久性と使いやすさを損なわず高いレベルで実装されており、収納性では文句なく優れたモデルです(このモデルの非常に残念な所はそれら収納を駆使して大荷物になったときの快適性・・・)。その他MILLET ベノム30とTHE NORTH FACE カイルス35も全体としてきめ細かく配慮の行き届いた作り。軽量系の使いやすいポケット類とスタンダードなバックパックと同等レベルの収納を合せもった安心感のある収納といえます。
機能性
軽量バックパック最後の評価項目は機能性。ただ、機能といっても定義は難しく、要するにここまでの要素以外でパックの使い勝手を左右する要素をひとまとめにした項目とお考えください。具体的には以下のポイントをそれぞれのモデルで評価しています。
- メインコンパートメントの開け閉めしやすさ
- メインコンパートメントへのダイレクトアクセス機能
- 背面調整機能
- 背面マット付属
- 軽量化のためにパーツを分離できるか
- レインカバーや防水生地など防水に対するケア
- 耐久性が極端に不安な箇所はないか
これらを総合して高い評価を獲得したのはTHULE Stir 35Lで、開け閉めの簡単なドローコードや、メインコンパートメントに直接アクセスできるジッパー、背面調整機能、パーツ分離、レインカバーなど便利な機能を万遍なく備えているところが他より一歩抜きん出ていました。
もうひとつ、耐久性に関してひとついっておくと、元々軽量バックパックには従来のバックパックと同様の堅牢性を求めるのは無理があり、またこちらの環境的な限界もあるため今回のテストでは特に集中して耐久テストということはしていません。実際テスト中もバックパックの中心的な部分で耐久性に難があると思われるモデルはありませんでした。ただ、普通に使っていてどうしても最低限の使用にも耐えられないと思われる箇所がいくつかあり、その点についてはこの項目で減点評価しています。具体的にはULTIMATE DIRECTION ファストパック30とGossamer Gear Gorilla 40のストラップに使用されている生地。ペラペラで使い難い(すぐ裏返る)し、すぐブチ切れすぎ。これだけはさすがに改善してほしいところです。
なお、これらの項目はすべてあれば良いというわけでもないため点数はあくまでも目安として、自分にとって必要な機能がついているかどうかを一覧表で確認するなどして判断してもらうのがよいと思います。
まとめ
今回普段はなかなか入手しにくいガレージメーカーのモデルと全国で手に入りやすいマスプロメーカーのモデルを横並びで比較してみて、ハイキングというマイルドなアクティビティであればガレージメーカーのウルトラライトバックパックも十分に使いやすいばかりか、マスプロメーカーのモデルを上回る性能や機能も確認することができました。
もちろんこれをもって端的にガレージメーカーの方がモノとして優れているといいたいわけではなく、今回試せていないシチュエーションや、価格・購入しやすさ(何よりも試着できるかどうか)等も重要な比較要素であり、製品の優劣はそれら多角的な視点からユーザーそれぞれの判断が必要なことはいうまでもありません。
軽量バックパックは目的と使い方さえマッチすれば非常に使いやすいバックパックです。ただ今回の比較で明らかになったとおり、ウルトラライトやトレイルランから一般縦走まで幅広く活用できる可能性をもった汎用性の高いモデルがある一方、特定のアクティビティにかなりの重心を置いているモデルもあります。「やっぱり軽いバックパックがいいな」と思ってこれらのモデルを検討する場合、そうした特徴の違いを知ったうえで、自分の志向に適したモデルを選ぶのが軽量バックパック選びにとっては重要となってきます。