比較レビュー:距離に負けない。悪路に怯まない。ロングディスタンス向けトレイルランニングシューズ履き比べ
日本のトレイルランニングシーンでも、UTMFをはじめとした100kmを超える長距離レースが増えてきています。トレイルランニングを始めた理由が、フランスで開催されるUTMBのような長距離レースに出たい!という人も少なくないでしょう。今でも100km、100mileレース完走を目標に練習している!という方も多いと思います。
とはいえ、100mileレースともなるとアマチュアレーサーは20-30時間かかるのはは当たり前。そんな長い時間自分の足元を支えてくれるシューズは、走破に向けて非常に重要な要因になります。
今回は、トレイルランニングシューズの中でも、特に100kmを超えるウルトラトレイルを走り抜くために作られた長距離用シューズの比較レビューをお送りします。今は無数にあるメーカーから、100マイルランナーである僕が選んだオススメのシューズを紹介していきます。初めの一足から勝負用シューズまで、購入の手助けになればと思います。
目次
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今回比較したロングディスタンス向けトレランシューズについて
以下は今回比較した5モデル。ロングディスタンス向けのトレイルランニングシューズをチョイスしてみました。
inov-8 Terraultra G 260
マンチェスター大学と共同開発したグラフェンをアウトソールに採用し、強さ・耐久性・反発性を大幅に向上させたモデル。ミッドソールは9mmと薄めにも関わらず、反発性・衝撃吸収性に優れるEXTEROFLOWを採用することで、長距離レースに対応しています。
Hoka one one SPEED GOAT 3
Hoka one one の人気モデルスピードゴート2の後継モデル。マックスクッション・メガグリップのグリップ力・ローリングで前へ進ませてくれるなど、前作からの設計はそのままに耐久性を向上させ、より完成度の高いロング向けシューズとして仕上がっています。
La Sportiva ウルトララプター
イタリアの山岳スポーツシューズメーカー。今回の5モデルの中では重量は重めだが、剛性・安定性・フィット感は高く、岩場や瓦礫などが多い、山岳マラソンなどで特に活躍してくれます。
Columbia Montrail CALDORADO 3
最古のトレイルランニングレースと呼ばれる、Western States 100を攻略するために開発されたモデル。今モデルではアッパーの変更により軽量化、耐久性・ホールド感の向上を果たし、ショートからロング、どんなトレイルでもオールマイティーに使える。
MERRELL MOMENTOUS
登山靴メーカーとして名を馳せるメレルが出すトレランシューズ。メガグリップの高いグリップ力はもちろんのこと、独特なヒールカップにより着地時の安定性が非常に高く、悪路での突き上げにも強いなど、安心して長距離を走り続けられます。デザイン性が高いのも特徴。
テスト環境
評価項目については、以下の5点を指標に設定しレビューしました。
- 快適性・・・アッパーのフィット感や通気性、全体的なしなやかさなど、履き心地に圧迫感やストレスがなく、20~30時間履きっぱなしであったとしても気持ちよくケガがしにくいかどうか。
- 重量・・・実際の重さだけでなく、走った時の感覚も大事にしました。
- グリップ・・・様々なトレイルで着地時の滑りにくさ、蹴り出し時の食い込みなど。特にレース後半、疲れてきた時のグリップ力はケガや事故を防ぐ意味でも大切な要因です。
- クッション・・・着地での衝撃の受けにくさ。長距離トレイルが相手となると、クッション性の高さは足裏の疲れをためないようにする大きな要因の一つです。
- 安定性・・・かかとやソールのホールド力、そして外部からの刺激や衝撃から足を守るプロテクションなど。さまざまな地形を相手にし、荷物を背負って行動するトレイルランでは欠かせない項目です。
以上の5点を意識して、いつものロードやアップダウンの多いトレイルでテストしました。
テスト結果&スペック比較表
スマホ向けの軽量表示で表が見づらいという方はこちら
各モデルのインプレッション
Inov-8 Terraultra G 260
ここが◎
- グリップと耐久性の両立
- しなやかなミッドソール
ここが△
- プロテクションが低い
Terraultra G 260は、inov-8のフラッグシップG-シリーズの3種中でも、長距離に対応したモデル。Gシリーズとは、アウターソールには大学と共同開発した最強素材グラフェン、アッパーには防弾チョッキに用いられるケブラーを使用し、高グリップ・高耐久性の両立を実現したモデル。
その名に恥じる事なく、グリップ力はロング用シューズとしては非常に高く、濡れた岩でも思い切って踏み込んでいけます。グリップ力の高いアウターソールは、耐久性とのトレードオフになることが多い中、耐久性も非常に高く、岩場・ガレ場・ロードとソールの削れやすい場面でも多く試しましたが、大幅な削れは見られませんでした。
ミッドソールには「EXTEROFLOW」を採用することにより、反発性・クッション性を向上させています。クッション性に関しては他のモデルと比較すると控えめですが、踏み込んだ時の反発性は非常に高く、足を前へ前へと進ませてくれます。加えてゼロドロップなのと、ソールが非常にしなやかなのも相まって、知らない間にスピードが上がり、とても気持ち良く走れます。
アッパーは通気性のよいメッシュで、フィット感も高いですが、他のモデルと比較すると、プロテクション性や安定感は低め。岩やガレ場・突出物が多いトレイルではストレスを感じそうです。長距離用とはいえ、過剰なプロテクションはなく、ある程度走り込んだランナー向けです。直感的に路面を捉えられ、靴に邪魔されず、ランナー本来の力を発揮させてくれるシューズです。
Hoka one one スピードゴート 3
ここが◎
- クッションマックス!
- 転がる様に前へ進む推進力
ここが△
- シューズのボリューム大
今やトレイルランニングでもウルトラマラソンでも高いシェア率を誇るHoka one one。6月に行われたアメリカ最古のトレイルランニングレース Western States 100で圧倒的なコースレコードを叩き出し優勝したのも、Hoka one one のSpeed Goat でした。
やはりその人気の源は、高いクッション性。Speed Goat3のソールハイトはフォア28mm・ヒール32mmと圧倒的厚さ。クッションは、ただ柔らかいだけだと沈み込んで力が逃げたり、着地で不安定になってしまいますが、Speed Goat3のクッションは適度な反発性もあり、無駄がありません。クッション性もさることながら、アウターソールにはビブラムのメガグリップを使用し、グリップも抜群です。Hoka one one のアウターソールは耐久性の低さが懸念点ですが、Speed Goat3ではそこまでのヤワな印象はありませんでした。
ソールハイトは高いですが、接地面が台形状に広がっているため、着地での安定感は高く、余分な力のロスを防いでくれます。ただその分ボリュームがあるため、細かい足捌きが必要なテクニカルなトレイルは苦手でした。特に後半疲れが溜まって足が上がらなくなってくると、つまずくことが多くなりそうな気配は感じました。
重量は300g弱と特別軽くはないのですが、メタロッカージオメトリーというつま先が反り上がったソール形状が自然と前へ足を運んでくれるため、同重量のシューズよりも非常に軽く感じます。ただクッション性が高いだけのシューズではなく、速く走るための様々な工夫が詰め込まれています。
La Sportiva ウルトララプター
ここが◎
- 高い防御力
- 抜群の安定感
ここが△
- 重量
靴を履いて立った瞬間、重量も合間って他のシューズにはない安心感を与えてくれます。ボリュームのあるソール、アッパーにエアーメッシュを用いた高いフィット感、そしてプラスチックを使用したヒールカップのホールド感。これらがこの安心感を与えてくれている要因です。つま先には厚めのロックガード、アッパーのサイドは、ポリウレタンで強化した生地で補強し、全体的にとても無骨な作り。岩が多いトレイルで履いても安心感は高く、耐久性も高いのがこのシューズの魅力。この靴を履いて安定感を感じられないのであれば、もうお手上げです。
他のシューズと比較すると重量は重めですが、走り出すと重量のバランスがいいのか、ミッドソールの反発性のおかげか、そこまで重く感じません。クッションは厚めで十分。スピードゴート3のようにフワフワするクッショニングではないですが、かっちりとした硬派な印象です。下りでは安定してスピードを出していけます。
グリップに関しては他と比べてやや不安を感じました。乾いていれば全く問題ないのですが、濡れた路面だとやや滑りがちでちょっと心配。粘着性のあるグリップゆえの耐久性はやや低め。アッパー周りの耐久性が高めなだけに、そこは惜しい点です。防御力が高めのシューズなので、綺麗な走りやすいトレイルよりも、岩・ガレ場の多い不安定なトレイルで本領を発揮してくれるシューズです。
Columbia Montrail カルドラド III
ここが◎
- 全体的に好バランス
- 汎用性が高い
ここが△
- ミッドソールの耐久性
今でこそ様々なシューズを履くようになりましたが、初めてトレイルランニングのレースに出場する時に購入したシューズはColumbia Montrail。ソールが剥がれるほどボロボロになるまで履いた記憶があります。このカルドラドIIIもオールラウンドに使用できる、初心者にもおすすめのモデルです。
まずアッパーには通気性の高いメッシュ生地を使用し、フィット感は高め。過剰なプロテクションはありませんが、ヒール部分は外側にプレート・内側にはヒールカップと2重にサポート。加えて厚めのクッションを使っているので、踵部分のホールド感は抜群で、接地時の安定感は高めです。逆にフォア側のサポートはほとんどないので自由度は高く、しなやかに蹴り出せます。
ミッドソールには適度なクッション性・反発性を持ったフリューイッドフォームを採用。薄いながらしっかりとしたクッション性、軽快に前へ進ませてくれる反発性を持ち合わせ、長距離でも疲労が出にくいです。しかしテストで100kmほど走ると、他のモデルのミッドソールにはないヘタレによるシワが出てきました。ミッドソールがヘタレるのは少し早そうです。
アウターソールは硬め。そのおかげで耐久性は非常に高めですが、その分グリップは良い!とは断言できません。泥抜けはよいので、岩や木の根の露出が少ないトレイルは適応してくれそうです。トレイルシールドという硬質EVA製パーツが入っているため、ある程度の突き上げには対応できますが、尖った岩がゴロゴロしているようなトレイルはグリップ力も含め苦手な印象です。
Merrel モーメンタス
ここが◎
- アッパーのホールド感
- デザイン
ここが△
- 走りの快適性(シューズの柔軟性・クッション性)
- ソールが硬めでしなりにくい
特徴的なのはボリュームのあるヒールカップ、そしてブリトータンと呼ばれる包み込むようなアッパーシステム。踵にはHyperlock TPUヒールカウンターという大きめのヒールカップと、アキレス腱くらいまであるクッションのおかげで踵のブレはほとんどなく、設置時の安定感は高いです。アッパーも全体的にシームレスな厚めのメッシュ素材を使用し、その上からTPUフィルムを圧着し、ホールド感・サポート力を向上させています。
ただミッドソールは厚い割に、クッション性はそれほど高くもなく、内部のプレートがトレッキングシューズ並みに硬めでしなりにくくいです。さらに前足部には突き上げから足裏を保護するトレイルプロテクトパッドが入っているため、岩の突き上げは防げますが、走りの快適性となると、ちょっと不安です。ドロップは意外と低く4mmとなっています。
グリップはビブラム・メガグリップを採用しているためしっかりグリップしてくれますが、ラグの形状のせいでしょうか、若干横滑りするような感覚がありました。
気になる点として、細かいですがシューレースはすぐダメになりそう。交換前提と考えておいて下さい。逆にしっかりとしたものを選べば、もっとフィット感が上がるかもしれません。サイズ感も大きめなので、0.5cm通常より小さいサイズを選んだ方が良さそうです。