
【忖度なしの自腹レビュー】STATIC ADRIFT Ti SLEEPING BAG レビュー:「これさえあればもう他にいらない」夏山テント泊で完璧にフィットする軽量・快適・高断熱スリーピングバッグ
夏山のテント泊では、夜中の寒さだけでなく、暑さによる寝苦しさへの対策も必要になるのが悩ましいところ。
山岳地帯では寝しなではまだ暑さが残っている場合もありますが、未明になると一気に冷え込んだりして途中から1枚上着を追加したりと、忙しい夜を過ごすこともよくあります。このためできることなら幅広い温度域で暑すぎず、寒すぎずとちょうどいい塩梅の寝袋があれば、快適なテント生活に繋がります。
そういった意味で今回紹介する「STATIC ADRIFT Ti SLEEPING BAG」は、春夏のハイキングや渓流旅で、心地よすぎて手放せなくなってしまった寝袋です。製品の特性上、万人受けするようなアイテムではないものの、この尖ったアイテムに筆者は惚れ込んでしまいました。そこで今回はこの夏のテント泊や渓流タープ泊で快適な夜を提供してくれたSTATIC ADRIFT Ti SLEEPING BAGをたっぷりレビューしていきます。
目次
STATIC ADRIFT Ti SLEEPING BAGの主な特徴
インナーシュラフとして人気の高いADRIFT LINERを単体でも使用できるように表地にシェル素材が採用されたモデルがADRIFT Ti SLEEPING BAG。帝人フロンティアが開発した特殊なポリエステル繊維「Octa®」生地にメッシュ状のニットと一体化させた特殊な生地構造にした「Octa®CPCP®」をインナーに採用することで軽量ながら保温性と通気性、速乾性のバランスに優れています。
表地のシェル生地は超軽量10Dリサイクルナイロン生地を使い、シェル生地の裏面にはチタンスパッタリングという金属コーティング加工を施すことにより体温の熱を輻射し、保温効果を高められており、防寒着との組み合わせることによりフードレスのシュラフとして単体使用や冬季にダウンシュラフと組み合わせることで保温力を高めることができる汎用性の高いスリーピングバッグです。
おすすめポイント
- 素肌に触れたくなるほど心地いいOcta®CPCP®
- 耐久性と断熱性を向上させる10Dリサイクルナイロン生地
- 暑い時期にこそドンピシャな薄さと保温力
- 軽量・コンパクト
- 洗濯機で洗える手軽さ
気になったポイント
- 単体でカバーできる季節は限定的
- フードレス、ジッパーレスは使う人を選ぶ
- 表地にシェル素材が採用されているためインナーとしてはやや使いにくい
主なスペックと評価
項目 | STATIC ADRIFT Ti SLEEPING BAG |
---|---|
重量 | 300 g(スタッフバック6g含む) |
サイズ | 75cm x 180cm |
収納サイズ | Φ12cm x 23cm |
素材 |
|
参考価格(税込) | 30,800円 |
Outdoor Gearzine評価 | |
快適性 | ★★★★★ |
断熱性 | ★★☆☆☆ |
重量 | ★★★★★ |
収納性 | ★★★★☆ |
使い勝手 | ★★★☆☆ |
耐久性 | ★★★★☆ |
多用途性 | ★★★★★ |
詳細レビュー
心地良い肌触りのOcta®CPCP®
中に入って感じたのは異次元の心地よさでした。これまでに複数のインナーシュラフを使用してきましたが、その中でも肌触りが抜群にいいのがADRIFT Ti SLEEPING BAG。タオルブランケットのような、毛布のような、とにかくその肌触りの良さは思わず裸で入ってしまいたいと思ってしまうほど。さすがにテント泊で裸で寝るのはまずいため未遂ですが、それほどにインナーがしなやかで柔らかく気持ちいいです。

インナーのOcta®CPCP®肌触りがよく、異次元の心地よさ
使われているのはOcta®CPCP®という帝人フロンティアが開発をした素材。Octa®CPCP®とは穴の空いた中空糸に、8本の突起を放射線状に配列したタコ足型断面のポリエステル繊維「Octa®」にメッシュ状のニットと一体化させた特殊な生地構造にした「Octa®CPCP®」をインナーに採用することで異次元の心地よさを提供してくれています。
このOcta®CPCP®はただ肌触りがいいだけではなく、非常に優れた機能をもっており、軽量で保温性、吸水速乾性に優れた素材で、多くのアウトドアブランドがミッドレイヤーウェアの保温材に採用している注目の素材。Octa®CPCP®は生地表面が起毛しているため、パイル地のような感覚で、化繊とは思えない質感です。この感覚を一度味わってしまうともう他のインナーシュラフや化繊シュラフには戻れないかもしれません。筆者はそれほどのインパクトを受けてしまいました。
通気性を損なわずに保温力をブーストする「チタンスパッタリング加工」の表生地
ADRIFT Ti SLEEPING BAGの面白いところはインナーシュラフを思わせるような生地の薄さでありながら、外側がシェル素材で覆われていることによりカバーなどを使用せず単体使用が可能なこと。インナーシュラフのADRIFT LINERを単体で使えるように開発されたのがADRIFT Ti SLEEPING BAGです。
極薄で軽量な10Dリサイクルナイロン生地が使用されていますが、このシェル素材には保温性を向上させるためのチタンスパッタリング加工が施されています。チタンスパッタリングとは、分子レベルに細かくしたチタンをナイロン生地に吹き付け、生地本来の軽さや透湿性を損なうことなく超薄膜のチタンコーティングをし、コーティングされたチタンは体の熱を反射させる輻射熱を利用することでより効果的な保温力を発揮します。寝袋としては薄手ながらも最先端のテクノロジーを駆使し、保温効果を高められるよう設計されています。
パッと見た目はインナーシュラフのようにも見えるADRIFT Ti SLEEPING BAGですが、足元のフットボックスはしっかりと立体縫製になっており、突っ張ることなく使うことができ、このあたりも単体での使用が想定されているということが感じられます。

突っ張らないよう立体っ縫製されている
フードレス、ジッパーレスで軽量化重視
カバーするのは肩まで、ジッパーも付いていないため出入りには少し苦戦します。シェル素材に覆われ伸縮性がなく、シュラフに入る際には靴下を履くように入り込む必要があるため通常の寝袋に比べれば手間がかかり、使いにくさを感じるかもしれません。またフードがないため寝袋に入っても頭部、顔は丸裸。寒さによってはフート付きのウェアと併用するか、ニット帽など被るか対策が必要になります。ADRIFT Ti SLEEPING BAGは、環境や気温に合わせて最適解を見つけながら必要に応じて対策を講じることのできる人や、それを楽しめる人向け。
裸で入ってしまいたくなるような心地よい質感を持っている一方で、総合的に不自由なく快適に使うためのスリーピングバッグを求めている人にとってADRIFT Ti SLEEPING BAGは、やや使いにくさを感じてしまうでしょう。
重さにしては高い保温性、ただ単体でカバーできる季節は限定的
フィールドテストで訪れた南アルプスでは夜の気温が10℃ほどまで冷え込みましたが、ADRIFT Ti SLEEPING BAGに入り、上半身に薄手の防寒着(行動着)を重ねただけで寒さを感じることなく眠ることができたため、一定の効果は見込めるでしょう。ただ、最先端のチタンスパッタリング加工による反射効果があるとはいえ、これで3シーズンカバーできるというほどではありませんでした(ちょっと期待したけど)。

フィールとテストの地に選んだのは南アルプス。谷間の川沿いに広がるテント場
ADRIFT Ti SLEEPING BAGはダウンシュラフなどしっかりと中綿の入った寝袋に比べれば単体で使用できる季節は限定されます。何度かテストをした中では約10℃くらいまでが限界と判断します。(寒さの感じ方は人それぞれのため、参考程度にお考えください)防寒着と組み合わせることで使用範囲は広がりますが、そもそもこのアイテムははじめから寒さが予想される環境で使うのものではなく、暑い時期での低山ハイクや沢登りなど、夜でも気温があまり下がらないような環境で、万が一雨などによって気温が下がったとしても安心に過ごしたいシチュエーションなど、軽量化のなかでできる限りの快適性を優先させたい人が手にとるような尖ったアイテム。万人にフィットすることはないかも知れませんが、特定の状況で最善を目指す人にとってはたまらないアイテムであることは間違いありません。
ADRIFT LINERほどではないものの、インナーシュラフとしても十分機能する
肌触り抜群のOcta®CPCP®が使用された薄手スリーピングバッグは、インナーシュラフとしても使ってみたいと思う人もいるかもしれません。ただこのモデルはベースとなっているインナーシュラフ「ADRIFT LINER」の表面にシェル生地を付加したモデルという性質上、ADRIFT LINERほどには最適というわけではありません(表面が滑りやすかったり、通気性が少なかったり)。
ただ、決して使えないということはなく、むしろ蒸れによるVBL効果を利用し、保温力の向上を見込むのであればインナーとしての使い方も十分に見出せるでしょう。
ちなみにVBLとはVaipor Barrier Liner(ベイパー バリア ライナー)のことで、アラスカなどの極地では昔から活用されている防寒システムです。筆者は専門家ではないため詳しい解説はできませんが、蒸れにより温室のような状態を作り、保温効果を高めることです。
例えば医療用に用いられるニトリルグローブなどを装着し、VBL効果により指先の冷えを防ぐなどの方法があります。汗によるグローブが濡れるのを防ぐことにより、グローブの本来の保温力を継続させる効果も期待できますが、ニトリルグローブを装着した上では手は蒸れた状態になるため、快適とは言えず、上級者向けの防寒方法でしょう。快適さよりも保温、断熱を優先させるためにADRIFT Ti SLEEPING BAGをダウンシュラフのインナーとして利用することでVBL効果を狙えば通常よりも保温力の向上を見込めるかもしれません。
単体スリーピングバッグとしては最軽量クラスの軽量・コンパクトさ

500mlのペットボトルとの比較
ADRIFT Ti SLEEPING BAGは専用の収納袋と合わせて300gと単体使用できる寝袋としては最軽量クラス。しかも500mlのペットボトルと比較してみると分かる通り非常にコンパクトになるため、ハマれば装備の軽量化に大きく貢献してくれます。
寝具系の軽量化を図る際は、シュラフを厚手にし、防寒着を減らす方法や、シュラフを薄手にする分、行動着を寝る時も着用したり、防寒着を厚手にするアプローチもあり、どちらも間違いではなくむしろ考え方や行動により最適な軽量化の方法はかわります。
例えば、夜の星空観察や、朝夕の冷え込む時に景色を楽しむことを山行の目的とするのであれば防寒着は必須になります。どうせ防寒着を持っていくのであればシュラフは薄手のタイプをチョイスし、寝る時に防寒着を着用すれば装備を軽量化できます。反対に日が暮れてから出発まで基本的にテントからでないという人は防寒着は最低限でよくなり、その分シュラフを厚手のタイプにすれば装備点数を減らすことができ、結果的に軽量化させることもできます。
ADRIFT Ti SLEEPING BAGは間違いなく前者向けのアイテム。寝る時に防寒着や行動着を併用することを前提とし、スリーピングシステムを構築することで快適な睡眠を得ることができる寝袋です。
まとめ:「それ以上でもそれ以下でもない」特徴が揃った、夏山低山・UL・沢登りと多用途に活躍できる夏用スリーピングバッグの終着駅
ADRIFT Ti SLEEPING BAGの紹介をしました。裸で入ってしまいたくなるほど肌触りがよいのにシュラフとしての保温力はほどほど。フードレス、ジッパーレスで必要な機能まで廃している尖り方。決して万人受けするアイテムではありませんが、ハマる人にはハマる。そんなクセの強いあるシュラフでした。
時に過酷な自然界では快適なアイテムが安心を与えてくれますが、筆者はADRIFT Ti SLEEPING BAGのような、使い手を試してくるようなアイテムに魅力を感じてしまいます。想像力を膨らませ、さまざまなアイデアと共に実践し、自身にとっての快適を見つける。そういった楽しみ方も道具選びの魅力の一つではないでしょうか。
限定企画やコンテンツを楽しみながらサイトを応援できる、有料メンバーシップをぜひご検討ください!
Yosuke.C(ヨウスケ)
不便にならない程度に「できるだけ軽く」をモットーにバックパックひとつで行動する人。
春から秋にかけては山奥のイワナを追いかけて渓流へ釣りに。 地上からは見ることのできない絶景を求めて山を歩き。 焚火に癒されたくてキャンプ。 白銀の山で浮遊感を味わいにスノーボード。
20年以上アウトドアを嗜み、一年中アウトドアを自分流に楽しむフリーランスのライター。数十以上のアウトドア系WEB媒体での記事執筆経験をもとに、自身の経験や使ってみて良かった道具を発信していきます。