文化系ハイカーでもすんなりと理解できるソーラー充電器の選び方
目次
これからのアウトドアに欠かせない新しい”山道具”
スマートフォン、デジタルカメラ、GPS、アウトドアウォッチ、タブレット……ここ数年でいつの間にか装備リストの常連となった電子ガジェットたち。
これらは安全性や利便性を高めるだけでなく、写真や文章の記録・シェアなどの新しいアウトドアの愉しみ方にとって欠かせない”山道具”となっています。一方で北アルプスでもWi-Fi設備の設置実験の検討が始まったりと、山の安全面でもデジタル機器の活用が当たり前となっていくことは間違いありません。
ただ、こうして多くの電子機器を持ち歩くようになって同時に困ったのがやはりバッテリーを消耗した機器の充電問題。日帰りや1泊程度の登山なら、家電量販店で販売されている一般的なリチウムイオンバッテリーを家で充電していけば十分に耐えられます。ところが数泊の縦走ともなると話は別。必ずどこかで充電する必要が出てくるし、気温の低い積雪期はパフォーマンスが著しく低下してしまうという欠点があります。
どこに着目すればいい?
そこで今回注目したのが、現在のところアウトドアで最も手軽な発電方法といえるソーラー充電器(ソーラーチャージャー)での充電です。この新しい分野についての情報はデジタルガジェット系のメディアでは散見するものの、アウトドアという視点から参考になるガイド・検証記事はなかなか存在していないのが現状。加えてこれは調べながら痛感したのですが、ぼくのような文化系人間にとってはなかなか理解するのがキツい話題が盛りだくさん。
というわけで今回はそれらの複雑で難解な仕組みを文化系ハイカーのぼくたちでも理解できるように解きほぐしつつ、あまりにマニアックな部分は思い切ってバッサリとそぎ落としながら、最適なソーラーチャージャーを選ぶために押さえるべきポイントを整理しましたので、これからソーラーチャージャーを使ってみようという際の参考にしてみてください。なお、所詮は文化系人間、ましてや太陽光発電というガチの理工系分野に精通しているわけでもありません。専門的な方からの突っ込みは甘んじて受け入れます。万が一誤りがありましたら修正しますのでご指摘ください。
念のため、内容の正確性、安全性、お使いの機器の故障等についてはいかなる責任も負いかねますので、最終的には自己責任でのご判断をお願いいたします。
ステップ0:購入前に ~本当にソーラーチャージャーが必要?~
ソーラーチャージャーの話を進める前に、そもそもコンセントが無い屋外でのさまざまな充電方法について整理することで、目的とシーンに合わせて最適な充電方法が分かるとともに、最適なソーラーチャージャーを選ぶための大枠を押さえることができます。
アウトドアでの一般的な充電方法まとめ
上の一覧で示したとおり、普段日帰りハイキングしかしないような人にとっては、あえてソーラーチャージャーをもつメリットは薄く、日帰り~1泊で充電の必要な機器がスマホ程度ならば、満充電したモバイルバッテリーで事足りる場合が多いです。
また、ソーラーパネルが付属したタイプのモバイルバッテリーは、モバイルバッテリーとしてはしっかりしていますが、ソーラーパネルの充電効率は往々にして貧弱で、現状ではおまけ程度と考えられます。万が一の防災用としては最適ですが、アウトドア用としてソーラー部分をあてにすることは難しい。
ソーラーチャージャーが最も活躍するシーンは、多くの電子機器の充電を必要とし、2泊以上の長旅でモバイルバッテリーでは到底電力が足りないというシチュエーション。ベースキャンプなどに定住し、日光の良く当たる場所にずっと放置しておける場合や、稜線などの日光が当たる場所がながかったりする場合はさらにベターです。
そして後述しますが、ソーラーチャージャーには基本的には発電した電気を貯める(蓄電)機能が無いため、実際にはモバイルバッテリーと併用したり、バッテリーと一体型のソーラーチャージャーを選ぶことで無駄なく発電・蓄電ができ、最強の組み合わせとなります(下写真)。
ステップ1:出力を選ぶ ~「高出力だから充電が早い」は間違い!?~
充電器だけが高出力でも充電スピードは早くならない
ソーラーチャージャー選びでみなさんが何よりまず気になるのが、どれだけパワフルに効率良く、つまりスピーディに充電できるかということではないでしょうか。
充電器のパワーは一般的には充電器から電子機器に供給できる出力の大きさで表され、「ワット(W)」という単位の電力を指しています。電力は下の計算式で表されている通り、電流と電圧をかけ算した値で、電圧・電流が大きければ出力も大きいという関係にあります。これがソーラーチャージャーのスペックを知るうえでの大前提ですので面倒ですが覚えておいてください。
電力(W) = 電圧(V) × 電流(A)
ソーラーチャージャー製品にはよく「15Wの高出力」や「最大3Aのスピード充電」などのうたい文句が溢れていますが、それはこれらの式のことを念頭に語られていると考えて間違いありません。
ここで普通に考えれば、充電器は「ハイパワー(高出力)であればあるほど充電が早い」と思いがちです(ちょっと前のぼくのように)。間違いではないのですが、身の回りの電子機器に関していえば実際にはそんな単純な話ではありません。
なぜならいくら充電器の最大出力(=機器に供給できる電力のMAX)が大きくても、受け側の機器が規定した以上の電力を供給することはできないから。さらにいうと、それらを繋ぐケーブルもその強さの電流を流すだけの性能が必要。というわけでもうひとつの大前提として、以下のような原則があります。
高い出力で充電するための3条件
1.高出力の充電器
2.高出力対応の機器
3.高出力対応のケーブル
充電したいデバイスに合った出力を選ぼう
ではその受ける側の電子機器は一体どの程度の出力を規定しているのか。ここで参考までに一般的な電子機器の充電出力を純正アダプタに表記されている数値を基にまとめてみました。
機種 | 電圧(V)/電流(A) | 出力(W) |
---|---|---|
iPhone 5S、SE | 5.0V/1A | 5W |
iPhone 6、6 Plus | 5.0V/最大2.0A(非公式) | 10W |
iPad mini 4 | 5.2V/2.4A | 12W |
Androidスマホ | 5.0V/1A 5.0V/1.8A 5.0V/1.8ADC、DC9.0V/1.8A、DC12.0V/1.35A(急速充電モード時) | 5W 9W 9W、16W |
Nexus 7 (2013) | 5V/1.8A | 9W |
一般的にスマートフォンなどの小さな電子機器は出力も5W程度しか求めておらず、それ以上の出力に対応しているのはタブレットのような大きな電力を必要とする機器です。ちなみにスマートウォッチなどさらに小さな電力しか対応していない機器もあります。
上の表から分かることは、いくら大きな出力に対応したソーラーチャージャーを用意しても、充電する機器側がその高出力に対応していなければ、それは無駄になってしまうということ(基本的には機器同士で自動的に最大出力を調整して充電されます※)。スマホしか充電する必要がないのなら、5W以上の出力はあまり必要はありません。
ここでひとつ注意したいのは、今までの話はソーラーチャージャーの充電ポート(USB差し込み口)が1つであった場合の話であるということ。上の写真のように充電ポートが2つある場合、その充電器の最大出力はそれぞれのポートの出力の合計値を表しているため、その場合は最適な出力での充電を同時に複数利用できるという意味で非常に有効です。重要なのは最大出力の値が意味している内容です。その点は騙されないようにしっかり確認するようにしましょう。
※充電の際、充電器側の出力と異なる出力を要求する機器を繋ぐと基本的には異常を検知してシャットダウンするなどの安全機構が備わっているはずですが、機器によっては最悪の場合、破損、爆発、発火などをする可能性がないともいえません。当然ですが使用に際しては各製品の説明書や指示に従って使用すること、充電器や電子機器が異常に熱を持っていないか確認をしながら、つなげた状態で放置したり、目の届かないところに置かないなど細心の注意を怠らないようにしましょう。
選ぶときのポイント
- ソーラーチャージャーの出力が大きいほど早く充電できる可能性があるが、受け側のバッテリーと接続ケーブルも出力に対応している必要がある。
- 従来のスマホ1つだけならば5.0/1A(=5W)の出力で十分(急速充電に対応したスマホならばそれ以上も有効)。
- タブレット等の大きな電力を要求するデバイスの充電には2A(=10W)の出力が必要。
- 複数のポートをもった高出力充電器は同時に多くの機器をスピーディに充電できる。
- 最終的には自分が充電したい機器の必要出力と機器の数に合わせた最大出力と出力ポート数を選ぶ。
ステップ2:蓄電方法を選ぶ ~せっかくの発電をムダにしない~
ソーラーチャージャーの弱点
アウトドアで、ましてや登山の最中にリアルタイムでむだなく充電するというのは、やってみると意外と難しいものです。
日本の登山という面からいうと、まず1日中太陽光に晒されるコースは森林限界を超えたアルプスの稜線でも無い限り、そこまでノーマルとはいえません。また真夏でも夕立などを含めて天気が変わりやすく、長時間日光が出続けていることもそんなに多くはありません。タブレットなどの高い電流を要求する機器の場合は弱い日差しの場合充電がまったく進まないといったケースがあり得ます。
また首尾良く充電が進められたとしても、複数の機器がある場合、完全に充電が完了したちょうどそのタイミングで次の機器に差し替えて……なんて不可能に近いし、非効率。
バッテリーとの併用でソーラーチャージャーの弱点を克服
そうした「不安定」と「非効率」という2つの弱点をカバーするために、ソーラーチャージャーは蓄電用バッテリーと併用して使うのが非常に有効です。その方法は2つあります。
1.ソーラーチャージャーとモバイルバッテリーを両方持っていく
一番シンプルなのは、現在ぼくも実践しているこの方法。ソーラーチャージャーで発電し、USBケーブルで接続したモバイルバッテリーに日中貯めておき、後でモバイルバッテリーに必要な機器を接続して充電します。ソーラーチャージャーもモバイルバッテリーも両方自分の納得のいくスペックをチョイスすることができるため、最も確実にムダの無い装備を揃えられる可能性が高いのが何よりの利点。もちろんその際には自分の充電する機器に合ったバッテリー容量をチョイスすることもポイントのひとつです。この方法の欠点は、大抵の場合パネルもバッテリーも大きくなりがちなので、荷物がかさばり、重くなるということでしょうか。
ちなみにこのタイプはパネルとバッテリーのセット販売をしているモデル(上・左写真)があるので、それらを選ぶと相性などの面も安心です。
2.バッテリー一体型ソーラーチャージャーを選択する
一方ハマれば理想的なのは、ソーラーパネルとバッテリーが一体化したソーラーチャージャー。バラで揃えるより優れている点は2つあります。1つは一体型になっていることで軽量・コンパクトを実現している点。もう1つはソーラーパネルとバッテリー間のケーブルが不要なため、電力のロスや断線の恐れが少ないこと。つまり理屈の上ではよりコンパクトで効率的、さらに耐久性も高いと良いことずくめな気がします。
ただし実際には上の表にも書きましたが、まだこの手の製品でソーラーパネル・バッテリーの両方で満足のいく性能を備えたモデルを見たことがなく、大抵の場合はバッテリーの容量が少なかったり、出力ポートが1つしか付いていないので同時にたくさん充電できなかったりします。現状では充電する機器が少なく、特に軽量コンパクトに発電し、持ち運びたい人のみにおすすめの選択肢です。
選ぶときのポイント
- 長期の旅でより効率的に発電し、充電するためにはソーラーチャージャーとモバイルバッテリーとの併用がおすすめ。ただしその分重量は大きくなるので、機器の数や日数などを考慮して判断する。
- コンパクトさを重視するならばバッテリー付きソーラーチャージャーがおすすめ。ただし充電容量は少なめなので、長期間・複数デバイスなどボリュームを重視する場合には物足りない可能性もある。
ステップ3:使い勝手で選ぶ ~アウトドアでの使いやすさをCHECK~
出力ポートの端子の種類と数
最近のソーラーチャージャーの出力ポートはほぼすべてUSB出力です。基本的にはそれで問題ないのですが、アウトドアでは単3・単4電池を用いるGPSや携帯ラジオ等の機器があり、せっかくならばUSB出力+単3/単4系電池すべてが充電できるモデルを選ぶとより効率的になる場合があります。
ただ、そうやってできる限りムダなく揃えたとしても、デジタルカメラだけはAC電源のみによる専用充電池である場合が多く、個人的には今のところすべての予備電池を省略することはできずにいます(直接カメラに充電用のUSB端子が付いていればそこから充電できますが)。
また少し話はそれますが、USB充電ができる機器にもかかわらず、端子が他と違って特殊な形状のものがたまにあるので注意が必要です。例えば写真のように、スマートウォッチの多くは片方USB端子ですがもう片方は特殊な端子の形状をしているため、一般的なUSB(A) – USB(Micro-B)タイプでは充電できません。山に入る際には機器に合った充電ケーブルを忘れないようにしましょう。
防水性
晴れの日前提で使用するソーラーチャージャーは必ずしも完全防水である必要は無いかもしれません。ただカヌーの上や水辺で使用したり、雪の上に置いたりすることも考えると、少しの濡れでも故障してしまうようであればアウトドアでの使用に耐えられないといえます。購入の際には最低限、濡れても早く拭けば大丈夫程度の耐候性を備えていることが確認できれば安心です。
自動再充電機能
ソーラーチャージャーのなかには、影ができたり太陽光の変化によって一度充電が中断されてしまった場合改めて充電を再開するためにケーブルを挿し直さなければならないモデルがいくつかあります。ハイキングでは歩きながらいちいち充電状況を確認しませんし、天候が変わりやすいことを考えると、これではちょっと不安すぎます。
そこでアウトドア向けのソーラーチャージャーを選ぶ際には「自動再充電機能」が備わっているモデルを選ぶことをおすすめします。
このシステムは各ブランドによって名前が違いますが、例えばGoal Zero社ならば自動再充電機能、RAVPOWER社ではiSmartテクノロジー、Anker社ではpowerIQテクノロジーなどと呼ばれています。この機能が付いているモデルであれば、一度接続してしまえばいったん充電が停止しても新たに太陽光が当たったときにケーブルの挿し直しすることなく自動的に充電すべき機器と再接続することができ、面倒な手間がいりません。
サイズ・重量
軽量・コンパクトなほど好ましいのは当然ですが、ソーラーチャージャーの場合パネルの面積と発電効率は密接に関わってくるため、軽量・コンパクトだからよいとは一概には言えません。
今回実際に調べたモデルを前提に話しますが、面積・重量の大きいモデルはその分出力も平均して高く、また多少の日光の陰りや時間帯による日差しの角度によってパフォーマンスが低下することが少ないといった好ましい傾向が多く見られました。
もちろん理想は「軽量・コンパクトでありながら安定して高出力の」充電器ですが、現状ではそんな完璧なモデルは望めません。大きいといってもB4用紙2枚分より少し小さく、400~600g程度。それで高い出力と安定した蓄電が可能であれば、多少の大きさ重さは妥協するのもアリではないでしょうか。現状どうしても軽量・コンパクトでいきたい場合には、多少の出費とパワー不足を受け入れなければならなりません。
パネル取付用グロメット・デバイス収納ポケット
歩きながら充電する場合、ソーラーチャージャーは通常、背中で太陽光を受け止めるようにバックパックの前面に設置します。その際、パネルの角にグロメット(ハトメ)が空いている必要があります。最低でも上部左右に2つですが、よりしっかり固定するためには他の部分にも付いていると、使い勝手が向上します。念のため購入前にチェックしておきましょう。
発電しながら機器を接続して充電する場合、デバイスをバックパックに収納するだけの十分な長さのケーブルがないと、機器をどこに収納しておくか困るという地味だけど重要な問題があります。そんなときソーラーチャージャーに電子機器を入れておく小さなポーチが付いていると、安全かつ手軽にデバイスを保管しておくことができ便利です。
ちなみに充電池として使用されているリチウムイオン電池は充電中に強い熱をもつことが多く、直射日光に放置しておくと熱をもちすぎて機器の機能が停止してしまう(充電が止まってしまう)ことがあります。充電中は機器をなるべく気温の低い場所に保管しておくのがベストですので、そのためにも充電の際にはどこかしらの日差しが隠れる場所に収納するようにしましょう。
端子やケーブル類の耐久性
ソーラーパネルと機器を接続する端子部分は非常にデリケートにもかかわらず、案外とぞんざいに作られているモデルが結構あります。断線の恐れを考えると、付属のケーブルはないに越したことはありませんが、付いているモデルがほとんどなので、その場合は曲がりやすい場所に付いていたり、細くて断線しやすそうでないかどうか、最後に念のため確認しましょう。
まとめ
安全性や利便性を高めてくれるこうした電子機器やソフトウェアは、好むと好まざるとに関わらず近年益々増え続けています。「今のところはまだいいや」という人も、使う機会は昔に比べて確実に増えていくでしょう。
もちろん、どれも山を歩くうえで必須の道具というわけではないということは確かです。またこうした科学技術に頼ることを良しとしない姿勢も否定しません。ただ、それらを積極的に活用してより快適な登山、新しい愉しみを見つけていくのもまたその人のスタイル。使うからには正しい知識と情報によって、適切なギアを選んでいくのが安全への近道です。そのための助けとなれれば幸いです。もちろん、こうした電子機器を使用するうえでは、決してそれらに頼り切らず、万が一使えなくなったとしても安全に下山できる技術をもっていることは大前提です。
一方、ソーラーチャージャー市場はまだ未成熟で粗悪な製品も多いのが現状。信用のおける製品情報が少なく、この記事のために問い合わせたメーカー(代理店)でさえ誤った情報を教えてくれるという始末(実話)。価格も驚くほど安いものから高いものまで幅広く、価格の納得性も薄いため信頼のおける製品が見つけにくいと思います。そのため今後は近いうちに主要メーカーの各モデルを比較・検証してみた結果を共有したいと思いますので、どうぞご期待ください。