Teton Bros. Hoback Suit レビュー：今までにない快適さで一度着たらもう戻れない。バックカントリースキーや雪山登山が捗りまくるスーツ型ミッドレイヤー
written by Yasushi Hisatomi
雪山での最適ミッドレイヤー探し。トップスもボトムスも、Hoback Suitがまとめて一気に解決してくれた
これまで長く雪山に足を運んできて感じるのですが、雪山でのアクティビティはどうしても重ね着が多くなりがち。冬山は天候変化の振れ幅も激しいため、行動中は脱ぎ着なども頻繁にならざるを得なかったりと、雪山では「何をどう着るか」問題が無雪期よりも複雑です。そうした事情から、山岳スキーや雪山登山でのレイヤリングで自分なりの「正解」に辿り着くことは簡単なことではなく、これまでも多くの愛好家の頭を悩ませてきました。
そんな冬のレイヤリングの中でも特に難しいのが、肌に接するベースレイヤーとアウターであるハードシェルとの間に着る「ミッドレイヤー」ではないでしょうか。環境変化の激しい冬期に衣服内を一定の快適な状態に保つために重要な役割を果たすこの層は、特に行動中に着ることを前提とした場合はただ際限なく暖めればいいわけでもなく、かといって蒸れないようにと風通しが良過ぎてもいけない。当然衣服としての着心地や動きやすさも、軽量コンパクトさも妥協できません。生地の性能、厚み、パターン、袖のあるなし、フードのあるなしなど検討すべきところは山ほどあり、それに即して各メーカーから多様な選択肢が用意され、選ぶのも一苦労です。
しかしついにその迷宮から僕を救い出してくれる一着に出会うことができたような気がします。それが今回ご紹介するベスト＆ニーパンツが一体化したスーツ型ミッドレイヤー「Teton Bros. Hoback Suit」です。
この冬のハイシーズンに北海道、白馬、谷川・上越とさまざまなエリアでバックカントリー、雪山登山に着用してみましたので、早速レビューしていきます。
Teton Bros. Hoback Suitの主な特徴
Teton Bros. Hoback Suitはバックカントリースキーをはじめとした冬のアクティブな活動で、ベースレイヤーの上から一日中ずっと着たままでいられる、ベストとニーパンツ一体型のミッドレイヤースーツ。裏地の主要部分には通気性と保温性を高い次元でバランスよく備えた「Octa」をマッピングし、表地には防風性とストレッチ性、通気性に優れた薄手のソフトシェル素材「Primeflex」を直接ボンディングした「Stretch Octa Bonding」テクノロジーによってさらに通気効率を向上。極寒環境における激しい行動のなかでの寒さと蒸れをどちらも防いで衣服内を常に一定のドライな状態に保ちます。
オールインワンの上下一体型のため重ね着によるウエストのもたつきや窮屈感はなし。また動きを想定して立体裁断が施された膝や股下や、ストレッチフリースが配置された脇・ウエスト周り・背面などによって余分なダボつきやツッパリ感もなく、ワンピースでも動きやすさは抜群。他にも1日着たままでいるためにあると便利な機能が細部まで気を配られ、冬の厳しいコンディションでのアクティブなシーンに最適なミッドレイヤー。
お気に入りポイント
- 「Octa」によるミッドレイヤーとして（暑すぎず寒すぎずの）ちょうどよい保温性
- 適度な通気性でオーバーヒート知らずの「Primeflex × Stretch Octa Bonding」
- ウエストに隙間が生まれないから熱が逃げにくい
- 重ね着によるウエストのもたつきや窮屈感なくウエストがすっきり
- 立体裁断とストレッチフリースによる抜群の動きやすさ
- ブーツに干渉しない膝下丈
- 着たままトイレがしやすいウエストジッパー構造
気になったポイント
- 個人的には首周りの保温性がもう少しあってもよかった（メーカーとしては首回りのフード有無に関しては様々な好みやスタイルがある中で、フード重なり問題が発生しないよう最もシンプルなラウンドネックを選択）
- あくまでもバックカントリーでの着用が前提とされていることから、洋式トイレはやりにくい（フロントジッパーを下げれば無難に行うことは可能）
主なスペックと評価
| 項目 | Teton Bros. Hoback Suit (Unisex) |
|---|---|
| 重量 | 335g（Size M） |
| カラー（メンズ） | Deep Blue, Khaki |
| サイズ | XS / S / M / L / XL |
| レディースモデル | ユニセックス |
| 表地 |
|
| 裏地（インサレーション） | Octa |
| ポケット | チェストジップポケット |
| その他 |
|
| Outdoor Gearzine 評価 | |
| 快適性 | ★★★★★ |
| 保温性 | ★★★☆☆ |
| ムレにくさ | ★★★★★ |
| 動きやすさ | ★★★★★ |
| 速乾性 | ★★★★★ |
| 耐久性 | ★★★★☆ |
| 重量 | ★★★★☆ |
| 雪山フィールドでの実用性 | ★★★★★ |
詳細レビュー
見た目と脱ぎ着さえ気にしなければ、ミッドレイヤーは「つなぎ」が最強だった。その唯一無二のメリットとは？
このアイテムをレビューするにあたっては、何よりもまずこの「上下一体のスーツ型スタイルがどうなのよ？」という点に触れないわけにはいきません。自分はこれまで雪山登山やバックカントリー用に数々のミッドレイヤーを試してきて、普通に上下セパレートでもたくさんの優れたお気に入りがありましたから、正直にいうと「そう簡単には受け入れてたまるものか」と身構えている自分がいました。
ところが、そんな警戒心は袖を通してから1日が終わるころにはあっさりと解きほぐされていました。ナニコレ最高。上下セパレートで感じていた「雪山でのレイヤリングはしょうがない」とあきらめていたわずらわしさがことごとく解消されている、まさにこれまで体験したことがなかった新しい快適さの扉を開いた感覚。その新たな快適さは、個人的には大まかに以下の3点に集約されます。
重ね着が減るからウエスト周りがすっきり
スーツ型になったことによってまず恩恵を受けるのは「ズボンの重ね着が減る」という点。アンダー・ベース・ミッド・アウターと、下手をすれば四重となるウエストは、締めつけも相当のものになります（だからこそ自分はシェルはビブパンツかサスペンダー型が大好きなのです）。引き締めるゴムやベルトや紐はなければないほどいい。そうすれば体への締め付け感がなくなり、リラックスした快適な着用感を得ることができます。
また雪山登山やスキー登山では足を高く上げたり腰を曲げたりすることも多いため、そのたびにウエストの厚みや可動部の余りやツッパリが気になったりすることも多いのではないでしょうか。その点、スーツ型ならウェスト周りはややゆったりとした作りになっているため、そうした窮屈さからも解放されてより動きやすさが感じられます。
パンツがずり落ちていつの間にか足上げがしにくくなる、なんてこともない
上と関連しますが、たくさんレイヤリングしていると、そのうちのどれかでもウエストが緩ければそれにつられて全体がずり落ちていってしまう経験はありませんか？僕は決して少なくない回数でこの経験があり、そうなるといつの間にか足上げがしにくくなっていたりして非常に不快な（危険な）思いをしてきました。
それが Hoback Suit ならばそんな不快感ともおさらばです。上下一体型になっていることで、立ったりしゃがんだりといった大きな動きをしてもボトムスがずり下がったり、もちろん上着がめくれてきたりする心配もありません。
ウエストに隙間が空かないから熱が逃げない
一般的なセパレート型のミッドレイヤーの場合、上着とボトムスに隙間があることで、さすがに風が直接入ってくることはないとはいえ、どうしても熱は逃げやすくなってしまいます。その隙間はツナギ型には存在しないため、セパレート型に比べて外からの風や冷気を防いで保温性を高めることができます。もちろん雪や汚れなども入り込みません。
抜群の動きやすさを実現する立体裁断とストレッチ
上下一体型のつなぎスタイルであるばかりでなく、このスーツはパターンも丁寧かつ巧みにデザインされていることで、動きやすさについてもセパレート型にはないスムーズさが感じられます。
それを端的に感じられるのが股下のガセットクロッチと膝の立体裁断。股や膝の関節部はスキー登山のように下半身を大きく動かすことの多いアクティビティでは特に動きやすさに影響してきますが、関節の立体的な動きを想定して巧みに裁断されたパターンは、実際のフィールドでもまったくもって快適なムーブを提供してくれました。
また上半身についても、大きく屈曲するウエスト周りやサイドパネル、背面にはストレッチ性と吸汗性のあるリサイクルポリエステルフリースをマッピングし、上下一体型による動きでのツッパリ感が出にくいように配慮されています。また縫い目はバックパックの重みを避けるよう肩の頂点を外した位置に、またゴロつきを抑えたフラットな縫製にするなど、行動時の不快感を最小限になるように細部まで配慮されていました。
動的中綿「Octa」と4WAYストレッチ・ソフトシェル「Primeflex」とのハイブリッドによる絶妙な調温・調湿・伸縮性
次に温・湿度調節性能（暖かさ・快適さ）という面からも、このミッドレイヤーは秀逸といわずにいられません。Hoback Suit が素晴らしいのは、現在数多あるミッドレイヤー向けの素材がある中で、保温性、通気性、速乾性、機動性など、冬の行動保温着に必要な要素をできる限り高い次元でバランスよく備えられるよう、生地の組み合わせから生地の合わせ方まで、細部まで突き詰められていることです。
例えばそれは、軽さと保温性、通気性を兼ね備えたアクティブインサレーションとして今や多くのブランドに採用されている帝人Octa（中でも高い汗処理機能を持つThermo Flyタイプ）中綿を裏地として採用しつつ、さらにそれを4Wayストレッチのソフトシェル素材「Primeflex」と組み合わせたこと。さらにそれをただ重ねるのではなく、帝人と東レの開発協力によって生地同士を直接貼り付ける「Stretch Octa Bonding」を実現したこと。
「ボンディング」されていることで、生地と生地の間に余計な空間が生まれず、今よりもさらに効率良く通気・透湿することができるようになるとか。それはスーツ型ミッドレイヤーでどうしても課題になりがちな、熱が逃げにくいという（オーバーヒート）問題の改善に大きく貢献しているはずです。これらによって Hoback Suit は、行動保温着に求められる「保温性・通気性・速乾性・伸縮性・適度なプロテクション」といった多様な機能を適切なバランスで実現することができています。
実はこの「裏面Octa × 表面Primeflex」という生地の組み合わせは同ブランドの別アイテム「Sub Jacket」で採用しているものと基本的には同じで、自分は昨シーズンから大のSub Jacketファンでもあった。
細部まで作りこまれた保温性と通気・速乾性のバランスのとれたパフォーマンスは実際のフィールドでもはっきりと実感できました。剥き出しのアクティブインサレーションと違って適度に風や冷気の通りをブロックしてくれる一方で、単純なインサレーションとも違って蒸れに繋がる余分な熱や湿気をしっかりと外に排出してくれる。
ミッドレイヤーとしてはかなり薄手の作りにもかかわらず、行動中に身体が冷えない程度に十分な保温性を常に保ってくれ、また汗をかいてもいつの間にか乾いていてくれる速乾性にも大いに助けられました。
寒すぎず、暑すぎずのベスト＆ニーパンツは、ビブやウィンドシェルと合わせてハイクアップのベストレイヤリング
さらにこのスーツの上下がそれぞれ「ベスト」と「ニーパンツ」であるところも自分にとっては絶妙なチョイス。
まずボトムスに関して。雪山ではベースレイヤーにフルレングスのタイツ（窮屈過ぎず、緩すぎない）、その上にやや緩めのフィットでスキーブーツと干渉しないハーフ丈のミッドレイヤーという組み合わせが現在の個人的に最適解でした。
Hoback Suitは、全体としては極力身体を締め付けないゆるやかなフィットで、裾部分のみずり下がりのないように伸縮性のあるパイピング仕様、そして丈は長すぎないニーパンツ丈と、自分の好みにピッタリとハマります。スキーと登山を融合したバックカントリースキーのためにあるような丁寧で間違いのない作りに、スキー登山を知り尽くしたブランドの実力を垣間見た気がします。
次にトップスに関して。もしこれが袖ありのジャケットタイプだったら、当然より保温性は高いでしょうが、今よりももっと暑すぎて脱ぎたくなる、という場面が多くあったかもしれないと想像します。結果的にはベスト型で問題ないどころか、これがベストでした。何よりスーツ型は簡単には脱げませんので、寒くて上に着たくなるよりも暑くて脱ぎたくなるということの方が避けたいケースですから。
テストでは2月の厳冬期に上越（‐10℃前後）や旭川・白馬（‐10 ~ ‐20℃）でフルハイクのバックカントリースキーで着用していましたが、いずれもハイクアップ中は秋冬向けのウールのベースレイヤーに Hoback Suit、TB Pant（ビブ）、その上に寒ければTB Jacket（ハードシェル）というレイヤリングで基本的に不自由はありませんでした。より断熱効率の高いスーツ型であるからこそ、この最低限のベストタイプでもさほど問題に感じることが少なかったのかもしれません。
そのうえで、メーカーのスタッフの滑り手たちのさらなるおすすめレイヤリングを教えて目から鱗だったのが、Hoback Suit の上にWind River Hoody（薄手のウィンドシェル）を羽織って登るというもの。確かに旭川で-10℃を大きく下回るような寒さと風の中では、いくら身体がヒートアップしたといっても冷気が気になり、ベースレイヤーに Hoback Suit だけではやや肌寒く感じられます。かといってハードシェルを着ると登りではやや暑い。当然もう一着防寒着を足すというのも同じように暑すぎてしまいます。
そこで Hoback Suit の上にこの薄手ウィンドシェルを羽織るという方法を試したところ、確かに調子がいいのです。
一着だけならそこまで断熱しすぎずに全体的に薄い空気の層を一枚加えることになるため、思った以上にちょうどよく冷えを防いでくれます。何より軽量コンパクトなので持ち歩いても羽織ってもまったく邪魔にならないのがポイント高し。メカニカルストレッチなので動きにくくもなりません。標高が低く風もない樹林帯での急登から、少し風が出てきたりして肌寒さを感じる時まで、これ一枚羽織っておくことで幅広く対応でき、シェルを脱ぎ着したりする必要がめっきりと減りました。
一方唯一気になったのが襟の仕様で、現状はラウンドネックで襟がないため首元の冷気はどうにかして防がなければなりません。例えばベースレイヤーでフードつきを着るか、ネックウォーマーなどで首周りを覆うなど。どちらにしても首元を覆ってしまうので暑すぎるため、風や冷気を防ぐ程度なら高めの襟のジップネック仕様であった方が個人的にはありがたかった気がします。
ただその点に関してはメーカー側も当然考慮した中でのラウンドネックだったようで、BCのレイヤリングで「どこにフードを持ってくるか」は気象条件やそれぞれの考え方によっても異なってくることが大いにあり得るため、レイヤリングのベースとなる立ち位置の Hoback Suit では「フード重なり問題」が最も起こりにくいシンプルな形を選択したようです。
1日中着っぱなしでいられる、フィールドでの実用性たっぷりの工夫
チェストジップポケット
左胸にはチェストジップポケットが配置され、スマホなどをここにしまっておくことができます。これでアウターを着ていない時でもスマホの置き場所に困ることはありません。
サイドベンチレーション
両腿の外側には換気を促すベンチレーションジッパーを搭載。TB Pantなどのハードシェルパンツのベンチレーションとシンクロしているため、両方を開けて歩けばかなり活発に空気を行き来させることができました。
普通だったらデメリットになり得る「トイレしにくい問題」にもしっかりと対策
一般的なツナギのデメリットでよく言われているのは「トイレの度に上半身も脱がなければならない」ことですが、その点Hoback Suitはよくできていて、フロントジッパー上からも下からも開閉できるダブルジッパーとなっていたり、ウエストには背面をほぼ一周するジッパーが付いているため、着たままそのジッパーを開ければ簡単に用を足すことができます。
しかもこのジッパーもTB Pantのジッパーとシンクロしているため、ハードシェルパンツにTB Pantを穿いている場合はビブもミッドレイヤーもまとめて着たままする用足しできてしまいます。行動中にやむを得ず山中でいたす場合、過酷な環境の雪山ではスムーズさが何よりも重要。その点、TB Pantのウエストジッパーはさまざまなつなぎ系パンツを穿いてきた自分の中でもトップクラスにお気に入りでしたので、この使い勝手の良さはありがたいことこの上ないわけです。
ただ、そもそもこのつなぎはフィールドでの着用を前提として作られているため（この指摘自体がやや欲しがり過ぎなのは分かっているものの）、洋式トイレなど通常のトイレで用を足そうとするとジッパー前面が繋がっているため（TB Pantと違って完全に分離できず）やや煩わしいことだけは一応留意が必要。ちなみにその分フロントジッパーは長くとられているので、トイレの際にはここを全開すればそれなりに快適に行うことはできます。
まとめ：「攻める」プレーヤーなら、この唯一無二の快適さと実用性の高さは一度着たらきっともう元には戻れないはず
上下ともに優れたバックカントリー向けミッドレイヤーがワンピースになった Hoback Suit は、従来の一般的なセパレート型では不可能であった快適さと良バランスを提供しているという意味で、他のどんなミッドレイヤーとも比べられない魅力を備えた一着であるといえます。見た目と脱ぎ着さえ気にならなければ、個人的には山スキーをする人間でこれを選ばない理由は無いとすら思いました。
もちろん、一体型である以上着脱には慣れるまで手間がかかる、一度着ると簡単に脱げないということは事実ですが、それを補って余りあるメリットがもっと多くあるというのが率直な感想です。さらなる完成に向けて細かな要望もあるにはあれど、現バージョンでもほぼ不満はなく、幅広いスノーシーズンで、ゲレンデスキーからバックカントリー、またスキーに限らず動きの激しい雪山アクティビティ全般で間違いなく活躍してくれるでしょう。
ハードな雪山を志向し、さらに無駄のない、もう1レベル上の快適さを目指すなら、Teton Bros.でしか体験できないこの新たなレイヤリング・スタイルをぜひ試してみてください。
