
100足以上履きつぶしてきた登山ライターが選ぶ、ジャンル別・買ってよかった神登山靴(トレッキングシューズ)
山でどんな靴を履くかということは、日常とは比べものにならないほど重要な選択であるということは、前回の「登山靴の賢い選び方」で詳しく書きました。
これまでこのサイトでは、山道具のなかでも最も妥協してはいけないギアのひとつであり、非常にデリケートなアイテムである登山靴(トレッキングシューズ・ハイキングシューズ)についても毎年目的やタイプ別に人気・最新モデルを片っ端から調査したうえで「これは」と見込んだものを自腹購入し、実際に歩いてきました。今回はその厳選アイテムの中から、本当に買って(履いて)よかったシューズ・ブーツを一気にご紹介していきたいと思います。
ジャンル別おすすめ登山靴・トレッキングシューズ
ベスト・軽量ハイキング部門:日帰りハイキングからファストパッキングまで対応。スピードと適度なプロテクションが魅力の軽量モデル
1)La Sportiva Ultra Raptor II Mid GTX
お気に入りポイント
- 軽量
- クッション性と安定感十分のミッドソール
- サポート感がありながらフレキシブルな足首
- トレイルランシューズ由来の歩きやすさ
- 優れたプロテクション
気になるポイント
- アウトソールのラグはやや浅めのため、濡れた路面や深いぬかるみではややグリップに不安がある
- トレランシューズ的な特徴(軽い・クッション性が高い・反発性が高い)を期待しすぎると物足りない
元々はスポルティバの定番トレイルランニングシリーズとしてあったウルトララプターシリーズを、ファスト&ライトなハイキングブーツとして全面的に見直して生まれたのがこのブーツ。トレランシューズとしてのウルトララプターにあった軽快さとクッション性や安定性、タフさという魅力を引き継ぎながら、マウンテンシューズとしての高いサポート力とプロテクション(防水透湿性)を付加した結果、日帰りコースではハイクもランも快適にこなしたい自分にとって最高の軽量ハイキングブーツに仕上がってくれました。
ソールは手で曲げられるほどの柔軟さにもかかわらず、かかとを支えるTPU製のヒールカップによって長距離の歩行でも安定感を保ち、さらに足首を包み込む快適なパッド入りパネルによってハイキングブーツとしてのサポート力・快適さもしっかり備えています。それでいてかかと(アキレス腱)上部を伸縮素材にすることで足首の可動性も確保しているところがニクい(下写真)。

かかとのしっかりとしたホールド感にも関わらず足首後ろが凹んでいて動かしやすいため、スピーディな行動でも快適。
ただあえて言うならば、グリップに関してはやや惜しいと感じずにはいられませんでした。ラグの深さが登山靴としては浅めで、乾いた地形であれば非常に良好なグリップも、濡れた路面や深いぬかるみではややスリップすることもありそこはちょっと心配です。また粘着性のあるグリップゆえの耐久性もやや低いでしょう。
ただそれでも全体的な完成度としてみればそれも気になるほどではありません。オフロードで多少の荷物を背負いできる限りスピーディに移動するスタイルを好むハイカーにとって、多くの面でトップクラスのパフォーマンスを見せてくれるLa Sportiva Ultra Raptor II Mid GTXは必ず満足のいく一足になるはずです。
2)Salomon CROSS HIKE 2 MID GORE-TEX
お気に入りポイント
- 包み込むようなフィット感の快適なアッパー
- 軽い荷物でのハイキングなら歩きも走りも快適な、軽快さと安定性とのバランスの良さ
- ある程度重荷・長距離でも十分対応できる衝撃吸収性に優れたミッドソール
- 悪路でも安心のアウトソール
- 十分なプロテクション
気になるポイント
- トレランシューズ的な軽快さ、走りやすさはやや控えめ
こちらもサロモンの定番トレイルランニングシューズ、SPEEDCROSSシリーズのソール構造をベースにしながら、アッパーや足首回りにトレッキングシューズとして必要なサポートやプロテクションをプラスすることで、優れた敏捷性と快適性、耐久性を実現したミッドカットの軽量ハイキングシューズ。選んでみて分かったのですが、どうやら自分はこのトレランシューズをベースにハイキングに必要な「強さ」を付加したシューズというのに眼がないようです。どんどん進む荷物の軽量化との好相性を考えれば、この傾向は決して自分だけではないはず。
先代も素晴らしかったのですが、2代目となるこのモデルは前作からやや登山よりにチューニングされ進化した結果「走ることもできる軽快なハイキングブーツ」としてより高いレベルのバランスの良さを実現しています。片足413gと軽量ながら、堅牢性と快適性を備えたアッパー素材によって優れた機動性と履き心地の良さ、高いプロテクション性能を両立。ミッドソールはトレイルランニングシューズ由来の優れた反発力と衝撃吸収力・耐久性を兼ね備えた「EnergyCell™+」を搭載し、歩く・走るどちらでも快適な移動を可能にしています。ぬかるんだ滑りやすい路面でも抜群のグリップ力を発揮する「Mud Contagrip®」を採用したアウトソールも、ラグパターンが見直されたことでブレーキ性能が向上。細部にわたって前作からバージョンアップしたことによって、よりタフで長期間の山旅でも快適に歩ける1足となりました。
詳細について知りたい方はぜひ以前書いた以下のレビューを読んでみてください。
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ベスト・ローカット部門:ショートでライトなアクティビティをはじめ日常履きにも大活躍
Salomon X ULTRA 4 GORE-TEX4
お気に入りポイント
- ローカットとは思えないほどブレにくく、怪我しにくい安定性の高さ
- 急傾斜やウェットな地形でも安定して着地・踏み込みが可能なグリップ力
- 安定性を重視した構造にも関わらず軽量
- 素早く簡単に脱ぎ履きできるクイックレースシステム
- つま先をはじめ周囲を鋭角な障害物から守るしっかりした保護
- GORE-TEXによる安定の防水透湿性
気になるポイント
- シュータンが固定されておらずやや履きづらい
サロモンの人気ハイキングシューズシリーズであるエックスウルトラシリーズの最新モデルは、ローカットにあるまじき高い安定性とサポート性を実現した画期的なハイキングシューズ。ミッドカットのサポート性を持ちながら、ローカットの軽快さを備え、複雑な地形でもより歩きやすく怪我しにくいユニークかつ完成度の高い一足は、数ある秀逸なハイキングシューズの中でも唯一無二です。
ミッドソールの新しい「ADV-C Chassis」と「Active Support」のコンビネーションによって、足首の動きの自由を損なうことなく関節をサポート。怪我のリスクを軽減するすると共に起伏や凹凸の激しいテクニカルなトレイルでの安定した足運びを可能にします。さらに深いラグの「Contagrip® MA」アウトソールによってぬかるみや濡れた岩場などの滑りやすい地形でもしっかりとグリップしてくれます。
軽量・俊敏なローカットシューズにも関わらず驚くほどの安定性と快適さを備えたSALOMON X ULTRA 4 GORE-TEXは、足に不安を抱えているハイカーだけでなく、日帰り程度のハイキングを楽しむ幅広いハイカーにとってもきっとピッタリとくる一足といえます。
こちらも詳細について書いたレビューがありますので、以下参考までに。
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外側の樹脂パーツが足首のひねりをガードしてくれるため、ローカットなのに安定感抜群。
惜しくも受賞を逃したけどこちらもおすすめ【ベスト・ローカット部門】
- MAMMUT Sertig II Low GTX
- ASOLO グリッド GV
- hoka one one KAHA 2 LOW GTX
- MERRELL MOAB SPEED GORE-TEX
ベスト・アプローチシューズ部門:岩場などテクニカルな地形が中心だけど、実はハイキングに最適なモデルも多数
1)La Sportiva TX5 GTX
お気に入りポイント
- 不整地で「歩く・登る・走る」どれをとっても優秀なバランス・多機能性
- 快適な履き心地
- 優れたグリップ・トラクション
- サポートと可動性の両立した足首
- 優れたプロテクションと防水性
気になるポイント
- 優れた汎用性の反面、各カテゴリの専門モデルと比較するとそれぞれに見劣りする部分がある
TX5 GTXは、名前こそ同社のアプローチシューズラインナップである「トラバース」シリーズではありますが、その実態は純粋なアプローチシューズというよりも、ハイク・クライム・ランといった垣根を取り払って多目的に活躍できる「究極のマルチパーパスシューズ(ブーツ)」というべき極めてユニークな登山靴でした。
端的に表現するならば「ハイキング ブーツよりも岩を登れて、アプローチシューズよりも快適に歩ける」という絶妙なバランスの良さ。このシューズとしての完成度の高さにたちまち胸をギュンと撃ち抜かれました。風合いが良く耐久性に優れたヌバックレザーのアッパーは柔らかく足なじみも抜群。足首周りはスポルティバのおなじみ「3Dフレックスシステム」によってしっかり足首を保護しつつ動きやすく、 信頼性抜群のVibram メガグリップアウトソールと相まって不整地はもちろん岩場や濡れた路面、うっすら雪に覆われた地面まで、テクニカルな地形でのアプローチや夏のロングハイクで常に安全快適に歩みをめることができるでしょう。
ラフな地形でしっかりと安定性を発揮しながら、本格的な登山靴ほどソールが硬くなく、重量もそれほど重くないので、余計にこの歩きやすさに驚かされます。公式ブログにもありましたが、実は登山入門者に”一足目の登山靴”としておすすめできる隠れた逸品といっても言い過ぎではないでしょう。ちなみにこのブーツはローカットモデルも存在していますので、一般的なアプローチシューズが好みという人はそちらか、もしくはTX 4などの兄弟モデルを試してみるのもアリです。

快適なパッドの足首周りは適度な可動性を備えており、足首の屈曲を妨げず歩きやすい。
2)Zamberlan サラテ 5.13 GT RR
お気に入りポイント
- 足首周りのマイクロファイバー素材やつま先から足首まであるシューレース等により、ソックスのような高いフィット感
- 高いプロテクション性能
- 衝撃吸収とねじれ剛性の高いミッドソール
- Vibram メガグリップによる優れたブレーキ・トラクション
気になるポイント
- ローカットシューズと比較するとやや重い
- ミッドカットブーツと比較するとやや足首のサポート性に欠ける
2022年はイタリア登山靴職人の職人魂と現代的なアイデアの融合したザンバランの最新アプローチシューズが熱かった。一見するとミッドカットブーツのようなサラテ 5.13 GTは足首周りが伸縮性マイクロファイバーによるゲイター構造になっており、まずもってまるでソックスのように優れたフィット感が味わえるアプローチシューズです。しかもこのゲイターは、フィット感だけでなく足首の軽い保護と砂利の侵入も防いでくれ、一石何鳥にもなるスマートな構造になっています。ローカットシューズとしての軽快さを備えながら、ミッドカットブーツの安定性を兼ね備えるというこの抜かりなさという点で、今このシューズを越えるものはなかなか見当たりません。
軽量ながらも耐久性のあるスエードレザーを使用し、靴の周囲のプロテクションもしっかり。Vibram社のメガグリップコンパウンドとデュアルデンシティEVAミッドソールを備えたVibram® Pepeソールは、クッション性とねじれ剛性を確保しつつブレーキ性能も問題なし。ソールは適度な硬さによって岩場での安定した歩行と細かいホールドへの立ちこみを可能にし、短い岩稜ルートのアプローチをはじめ、トレッキングやハイキングなど、幅広いアクティビティに使える汎用性を備えます。
「From The Car To The Top」というコンセプトは伊達じゃない、革新的なファストトレッキングシューズ。もちろんクセの強さは認めますが、フツウのアプローチシューズには決して真似できない快適さがこのシューズにあることは確かです。自分はこれを見た瞬間、泊りの沢登りでの下山靴にピッタリだと思いました。

足首のストレッチ素材が心地よいフィット感を提供。ゲイターとしても機能してくれる。
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- SCARPA メスカリートGTX
- MONTURA YARU TEKNO GTX
- GARMONT ドラゴンテールテック GTX
- Arc’teryx コンシール FL 2 ゴアテックス
ベスト・縦走トレッキング部門:小屋泊まり程度の荷物を担いでの登山道歩きに最適な汎用性の高いモデル
LOWA バルド GT
お気に入りポイント
- 丈夫で耐久性のあるスプリットグレインレザーと軽量で通気性・可動性に優れたナイロン生地とのハイブリッド
- シュータンを定位置に固定するX-LACINGテクノロジー
- シューレースの流れをスムーズにするローラーアイレット、締め具合を微調整できる2ゾーンレーシングによるフィット感を高める工夫
- 優れたトラクションと多様な地形に対応するVibram TRAC LITE Ⅱアウトソール
- 防水・透湿性に優れたGORE-TEX
- 日本人に多いWXLサイズのラストの展開
気になるポイント
- 通気性に(透湿性)は低い
険しい岩場は心配ないものの、アップダウンのある登山道をそれなりの荷物(小屋泊まり程度)で長い距離歩く場合には、いわゆるスニーカー的な履き心地のハイキングブーツとは違い、障害物から足を守る堅牢なアッパーや、衝撃や凹凸に耐えられる硬さとクッション性を備えたソールを備えたトレッキングブーツの出番となってきます。
そんなしっかりと登山靴的な「強さ」を最低限備えながらも、歩きやすさと快適性を備えた軽量トレッキングブーツでは、創業から100周年を迎えたドイツの名門ブーツメーカーLOWAのバルドが自分にとってのベストチョイスでした。
重厚感のあるレザーで覆いつつ、柔軟性・軽量性・通気性を備えたファブリックを甲と足首にブレンドした巧みなアッパーの素材使いは、高い耐摩耗性と足首のサポート、そして可動性を両立させています。シュータンやシューレース周りには独自のフィッティング技術がちりばめられており、高いフィット感での快適な歩行が可能です。このカテゴリ以上の本格登山靴は通常ある程度の履き慣らし期間が必要ですが、バルドに関してはそれがほとんど必要のないくらいにすぐにしっくりと馴染んでくれたのはそうした細かな工夫の賜物に違いありません。
ミッドソールはハイキングシューズに使用されるようなEVAよりも耐久性と硬度のあるポリウレタンを使用し、安定した足裏のクッションとともに重い荷重をしっかりと受け止めてくれます。アウトソールのつま先にはクライミングゾーンが設定されているところも個人的には気に入っている部分です。
確かな耐久性とプロテクションを備えつつ一日中快適な履き心地とどんな路面にも対応するオールラウンドな実力は、本格登山靴の入り口としてのトレッキングブーツとしてはもちろん、この汎用性の高さは(個人差はありますが)これ一足で日本のほとんどすべてのエリアを歩ける人がいてもおかしくないと思えます。

耐久性のあるスウェードレザーと軽量な化繊ファブリックのハイブリッドアッパーは歩きやすくてプロテクションもばっちり。
惜しくも受賞を逃したけどこちらもおすすめ【ベスト・縦走トレッキング部門】
- MAMMUT Ducan High GTX
- SCARPA ZG トレック GTX
- Zamberlan バルトロ ライト GT
- La Sportiva トランゴ テック レザー GTX
- ASOLO ファルコ GV
ベスト・アルパイントレッキング部門:小屋泊まり程度~ある程度の重荷まで対応、テクニカルなルートで最大限の実力を発揮
La Sportiva エクイリビウム ST GTX
お気に入りポイント
- 足全体を包み込むフィット感
- ゴツいのに、軽い
- 柔軟性とサポートが絶妙なバランスの足首周り
- 岩場などでも安心、アイゼンも取付けられる強固なソール
- 着地から蹴り出しまで計算され安定したグリップを発揮するアウトソール
気になるポイント
- シューレースの緩みやすさ
- ウェットな岩場や木の根などでは(ハイキングブーツなどに比べれば)グリップが弱くなる
- 高価な価格
従来の固定概念を覆す画期的なシューズを次々と生み出し、常に登山靴の革新に挑み続けるイタリアのマウンテンシューズメーカー、スポルティバ。その新作テクニカル・マウンテンブーツ「エクイリビウム」シリーズほど、ここ数年のモダンな登山スタイルが求めるすべてが詰まった一足はないでしょう。
信じられないほどの軽さと快適さ、耐久性を兼ね備えたこのブーツは、強固で岩場・雪上での安定感が求められるアルパインブーツの良さと、軽快で歩きやすいトレッキングブーツの良さが見事に融合しています。さらにはトレイルランニングシューズやアプローチシューズなど、同社が手掛けるバラエティに富んだ分野の知見もミックスされ、まさにアウトドアシューズの「良いところ取り」をしたような登山靴であり、あらゆるマウンテン・アクティビティで一流のシューズを作ってきたスポルティバだからこそできたブーツといっても過言ではありません。
この一足があれば、たとえ樹林帯が多い2000m前後の山岳でもゴツすぎるということはありません。かといって、岩場から残雪までバラエティに富んだ地形が続く2,000~3,000m級の高山でも貧弱さは感じないでしょう。ことほどさように、日本中どこにでも履いていきたくなるような安全性と快適さが高次元でバランスのとれたブーツがこのエクイリビリウムなのです。ただそうはいってもソールの剛性は本格縦走モデルと比較すれば柔軟なので、クランポンを常時履く必要のなるルートや、かなりの重荷を背負って岩稜帯を長期間縦走するとなれば、これからいかに挙げていくようなモデルの方がより理想的になってくるかと思います。
なおこちらについても以下のレビューで徹底解剖しておりますので、興味のある方は参考にしてみてください。
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惜しくも受賞を逃したけどこちらもおすすめ【ベスト・アルパイントレッキング部門】
- Arc’teryx アクルックス TR ゴアテックス
- ASOLO エルド MID レザー GV
- GARMONT ヴェッタ テック ゴアテックス
- SCARPA マルモラーダプロHD
ベスト・長期縦走トレッキング部門:テント泊など重い荷物を担いだ長期縦走に最適
LOWA ティカム II GT
お気に入りポイント
- 重荷に耐える剛性の高いソール
- 耐久性がありフィット感が高く快適で疲れにくいアッパー
- 優れたフィット感を提供するレーシングシステム
- 優れた安定性とサポート(特に足首周り)
- グリップ力に優れたアウトソール
- 高い防水性
気になるポイント
- クランポンのコバやつま先のクライミングゾーンはついていないことから、あまり急峻なルートは想定されていない
- 重量
数日以上にわたる長い縦走をテント泊でやろうとなると、必然的にザックの重量は20キロ近くになります。その重荷に連日耐えてくれるブーツとなると、アッパーの耐久性はもちろんのこと、さらなるソールの剛性と足首周りの万全のサポートが理想的です。このあたりから、ブーツは自分の手ではまったく曲げることができなくなってくるくらいに硬いソールになってくるはずです。このクラスでの、マイ神登山靴は(やはりLOWAの)本格トレッキングブーツ、ティカム II GTでした。
とにかく重荷での歩行時に足が安定する。どれだけ重い荷物を背負っていても怪我や疲れの余計な心配がないのが何よりも気に入っています。全面スウェードレザーによる堅牢ながら柔軟性の高いアッパー構造は、幅も広すぎず狭すぎずつま先のスペースは適度に確保され、心地よいフィット感が得られます。しっかりと正しい位置・適度な締め具合で固定できるシューレース・シュータンシステムと合わせてこの絶妙なフィット感はさすが。また足首のかなり高い位置までコシのあるレザーとパッドで覆われるため、足首周りのサポート性が高く、長い登山道を重荷でひたすら進むロングトレイルではこれ以上なくマッチします。
一方で(セミ)ワンタッチクランポンの装着は想定されておらず、またアウトソールのラグパターンも岩場よりも泥はけを意識しているところなどから、急峻な岩場を含むテクニカルなルートは想定されている分けではないという面もあります(この辺にイタリアブランドのブーツとの違いが表れていておもしろい)。
北米で最も有名なアウトドアショップといえばREIですが、そこではヨーロッパのアウトドアブランドはほとんど見かけないにもかかわらず、LOWAの靴だけはよく見かけた記憶があります。当時は理由など知る由もありませんでしたが、今思えばなるほど、アメリカのロングトレイルにはこの「急峻ではないかもしれないけどとにかく長いルートを安全快適に歩く」のに適したLOWAがよく似合う気がします。

堅牢なレザーで覆われた足首周りは足首をがっちりと固定してくれるため、歩行時の安心感は抜群。
惜しくも受賞を逃したけどこちらもおすすめ【ベスト・長期縦走トレッキング部門】
- La Sportiva トランゴ・タワーGTX
- MAMMUT Kento Advanced High GTX
- SALEWA MTN Trainer Mid GTX
ベスト・長期アルパイントレッキング部門:テント泊など重い荷物を担いで、厳しい岩場を含めたテクニカルなルートの長期縦走に最適
SCARPA リベレHD
お気に入りポイント
- 高耐久で堅固なボディながら、驚くほど軽量かつフレキシブル
- フィット感に優れた快適なアッパー
- 適度な足首サポート性
- 剛性の高いソールと登攀を意識したラグパターンによる岩稜ルートでの安心感
- 岩場でのグリップとトラクション、不整地での滑りにくさに優れたVibramアウトソール
- ちょっとした雪の季節も対応する暖かいの37.5ファブリックライナー
気になるポイント
- HDry防水透湿メンブレンはGORE-TEXに比べると防水性は劣る
- 靴ひもがなぜか短め
- 価格
無雪期シーズンでの登山用ブーツとしては最もタフでテクニカルなルートを重荷で歩くのに適しており、日本アルプスの大規模で厳しい岩稜帯が続くコースや、一般登山道よりもハイレベルなバリエーションルートなどを長期にわたって縦走するような登山を想定したカテゴリです。岩、ガレ、泥、氷(ちょっとの雪も)、トレイルのすべてで上手く機能する縦走用の登山靴を探すなら、今のぼくにとってはこのリベレHDをおいて他にありません。
何よりもトップクラスに頑丈でありながら驚くほど軽く、歩きやすい。重い荷物を背負っての安全な登山ではどうしても堅牢なブーツが必要になってきますが、そのために相応の重さは避けられないのが常識。そのなかで片足700グラムを切る重さは驚くべきことです(しかもスカルパはこれよりも軽い兄弟分まで用意している)。
軽さだけならばまだしも、このブーツには甲からヒールカップまでかけての優れたアッパー構造「Sock-Fit XT 構造」によって、足を包み込むようにフィットする心地よさも備えています。パッド入りの足首周りもサポート力がありながらも比較的自由に動かせて快適です。裏地には37.5ファブリックが適度な断熱性と透湿性を提供してくれますので、初冬や残雪期など雪が少しあるルートでの対応力もあります。そしてトレイル ランニング シューズから取り入れたというロッカー形状のカーブしたソールは、堅固な登山靴にありがちな歩きにくさを軽減するのに役立ちました。
ミッドソールは衝撃吸収と軽さを実現するエリアと、サポート力と安定性を与えるエリアで密度の異なる2種類のTPU素材を巧みにマッピングしたハイブリッド構造。アウトソールは特に硬度が高く、岩場での立ち込みでの安心感はピカイチです。ラグパターンも、踏み込む・止まる・グリップするという特徴に振り分けられた3つエリアに分かれており、つま先のクライミングゾーンでは最大限のグリップ力、外側は踏み込み、中央・内側とかかと部はブレーキ性能を最大化したエリアとなっています。
ただ1点だけもう少し欲しがるところがあるとすれば、独自のHDry メンブレンはそこまで信頼はできないという点。いつも以上にこまめに撥水スプレーをかけておくことをおすすめします。いずれにせよ自分にとってSCARPA リベレHDは、本格マウンテンブーツの安心感と軽量トレッキングシューズの動きやすさ、履き心地の良さを兼ね備えた、まさに3シーズンのハードな登山で妥協のない性能を求める登山家・ハイカーのためにあるブーツといえます。

全体的に堅固な作りながら、柔軟でしなやかなシュータン部分によって足全体のフィット感は抜群。
惜しくも受賞を逃したけどこちらもおすすめ【ベスト・長期アルパイントレッキング部門】
- Arc’teryx アクルックス LT ゴアテックス
- ASOLO エルブルース GV
- La Sportiva トランゴ アルプ エボ GTX
- LOWA チェベダーレ EVO GT
ベスト・ウィンター部門:厳冬期まで含めた冬山登山に最適
La Sportiva G5 EVO
お気に入りポイント
- 冬山用ウィンターブーツとしてトップクラスの軽さ
- 厳冬期でも安心の保温性の高さ
- Boaシステムによる優れたフィット感と素早い着脱
- 足首回りの可動性の高さ
- ゆとりがあって寒くなりにくいつま先
- スノーゲイターになるアッパーとのダブルブーツ仕様による断熱性の高さと防雪・防水透湿性、耐久性・耐摩耗性
- 雪のトレイルでの歩きやすさとアイスクライミングにも最適な登攀性能の両立
気になるポイント
- 非常に高価
- ボアの破損がまったくないとは言えない
- 前面のベルクロやジッパーの防水性
冬山用のマウンテンブーツがこんなにも軽くなるとは。
La Sportiva G5 Evoは、冬のマウンテンブーツに求められるすべての機能を備えた(価格を考慮しなければ)最強の一足です。これまで自分は厳冬期の冬山ブーツでは通常のレザーのマウンテンブーツや、二重構造のプラスチックブーツを履いてきましたが、それらのメリットをすべて備えたスノーゲイター付きかつBoaシステム搭載ウィンターブーツのすさまじい使いやすさを思い知るとともに、スポルティバの高い技術力による極限まで切り詰められた軽量化の神髄を堪能しました。冬山ブーツでこれ以上を求めることはできないと思えるほどの高いクオリティです。
とにかく、急峻な斜面での登りも、通常の歩行でも、スムーズで、快適。このブーツの目玉の一つである靴紐レスのBoaシステムは手袋を外さずとも素早い脱ぎ履きを可能にし、しかも靴紐に比べて常に同じように高いフィット感をセットすることができるのです。これを知ると他のブーツには戻れない。。

インナーブーツとアウターの二重構造。外側のBoaによって足全体を締め付けてくれるため靴ひも要らずでフィット感も良好。
スポルティバにしては比較的つま先部分に余裕があり圧迫感が少なく、さらにGORE-TEX INFINIUM™ THERMIUM™ テクノロジーがつま先を暖かく包み込んでいるので、非常に暖か。クランポンを着けるとどうしても圧迫で血流が妨げられ冷えてしまいがちなつま先ですが、それへの対策はかなり手厚くなっています。さらに前モデルからの改善点として、ゲイターの外側にBoaを配置することで登っているときにはブーツをきつく締め、登っていないときなどにはノブを引いて緩めたりが即座に操作できるため、その意味でも足の冷えに対する心配はどんなウィンターブーツより少なくなっています。
もちろん、積雪期の登山向けとしてソールやアッパー周りの十分な剛性も、クランポンとの相性も抜群です。
スノーハイクや森林限界前後の高さまでの雪山登山が主体である場合であれば、同社のネパールキューブ GTXのようなレザーブーツでも十分にその役割を果たしてくれるかもしれませんが、もし将来的にテクニカルな岩と氷のミックス地形の通過やアイスクライミングまで見据えるならば、G5 Evoは軽さと断熱性・機動性・利便性においてより優れたパフォーマンスを提供してくれるでしょう。国内の厳冬期3,000m級の登山や、アイゼンを装着し長時間活動を行うための冬山用ブーツとして、またアイスクライミング用としてならば間違いなく理想的な選択ですが、普通の雪山登山であってもオーバースペックということはありません。冬山デビューの登山家であっても、もし予算に余裕があるならばぜひ最先端テクノロジーの粋を集めたこの一足をチョイスしてみることをおすすめします。
惜しくも受賞を逃したけどこちらもおすすめ【ベスト・ウィンター部門】
- La Sportiva ネパール エボ GTX
- SCARPA マンタテックGTX
- Zamberlan マウンテンプロ EVO GT RR
- ASOLO 6B+ GV
- LOWA アルパインエクスパート II GT
ベスト・コスパ部門:
KEEN サーカディア ウォータープルーフ(ロー/ミッド)
お気に入りポイント
- 確かな技術力と実績、デザイン力を備えたブランドからの低価格モデル
- 防水透湿性も含め、しっかりとハイキングブーツとして必要な性能を備えながら、価格は抑えめ
- 日常用のウォーキングシューズとしても便利
気になるポイント
- 価格もあって長く履けるかといった耐久性には疑問
- 最先端のハイキングシューズと比べるとやや重い
- アウトソールのグリップ力もトップレベルと比較すればそこそこ
まとめ
ここで紹介したアイテムはどれも自腹で購入し、実際にトレイルを歩いてみてその実力を実感したもので、当然自信をもっておすすめできるものばかりです。ただどうしても登山靴というものはその構造上、他の人にとってもそれらが最高にフィットしてくれるという保証はありません。その意味でこのランキングはあくまでも皆さんにとっての神登山靴選びの参考として役立ててもらえれば。また登山靴の選び方や見方については、以下の記事でもたっぷりと書いていますので、よろしければそれらも参考にしてもらえると幸いです。