比較レビュー:週末ハイカー御用達の軽量ハイキングブーツを履き比べてみた 2018
重い荷物に、荒れた路面——。過酷な状況下の歩行をしっかりとサポートしてくれる登山靴は、快適な山歩きにとっての最重要ギア。
なかでもスニーカーのように軽量で柔らかい履き心地のハイキングシューズは、キャンプなどのほのぼのアウトドアから日帰り・2~3泊までの登山、スピードハイクなど、幅広い用途に使えるとあって、ビギナーから健脚まで近年高い人気を誇っています。
そんなシューズ売り場で徐々に存在感を高めつつあるハイキングシューズは、軽さ、履き心地、耐久性など、用途やターゲットの地形によってコンセプトも多種多様です。足型に合うことはもちろんですが、のんびりと快適にハイキングを楽しみたいビギナー、悪路でもスピードを落とさず歩きたい健脚など、目的と足腰の強さによってふさわしいシューズは違ってきます。
そこで今回は、2018シーズン新たに登場のハイキングシューズの中でも、より安全で軽快にハイキングを楽しめるミッドカットタイプのハイキングブーツ6点を、実際のトレイルを重荷で歩いて履き比べてみました。
目次
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今回比較したハイキングブーツについて
登山靴といえば、かつては重さも片足500~1000g程度あり、靴底も硬くて曲がらない堅牢な靴というイメージが一般的でした。それは極端に重荷で長い距離を歩く場合には有効ですが、日帰りや軽装でのアドベンチャーには正直ゴツすぎて煩わしいのが実際。一方自分のような週末ハイカーにとっては、玄関から履いていけて、街中もオフロードも歩きやすい、軽量で滑りにくく、足の保護もしっかりとしたハイキングブーツがピッタリです。最近では作りもどんどんよくなっているので、慣れてくれば20kg以上背負うような場合でもこの種類で十分な場合が多かったりします。
ということで、今回のハイキングブーツの選考基準は、以下の4点。
- 用途はキャンプなどの軽いアウトドアから日帰り・数泊のハイキング、ファストパッキング
- 片足500g以下のハイキング向けシューズ
- 足首を保護するミッドカットモデル
- 防水仕様
このカテゴリは大雑把に、そのルーツによって「トレランシューズを登山に寄せた」モデルと「登山靴をトレランに寄せた」モデルの2つに大別されますが、モデルの選定にあたってはそれらがよりバラエティに富んだ比較とになるように心がけてみました。
- La Sportiva BLADE GTX®
- adidas TERREX FAST MID GTX-SURROUND
- MERRELL MQM FLEX MID GORE-TEX®
- Salomon X ULTRA 3 MID GTX®
- SCARPA ハイドロジェンハイクGTX
- THE NORTH FACE Ultra Fastpack III Mid GORE-TEX
テスト環境
ハイキングブーツのテスト期間は2018年5~7月初旬までの約3ヵ月。テストは筆者本人のみ。東京近郊や奥秩父・上信越の山(1,000~2,000m前後)で使用。各シューズを10kg程度の荷物で一通り歩くほか、左右別々にブーツを履いて比較したり、濡れた岩場などでグリップの限界を試したりと、それぞれの違いが明確に実感できるまで履き比べてみました。
- 快適性・・・履き心地の良さや通気性など、様々な要因を加味していかに長時間歩いて疲れにくいか。
- グリップ・・・登りでの踏ん張り、下りでのブレーキなど、厳しい地形で効率的・安全に歩くための最重要項目。
- 安定性・・・着地・蹴り出しでかかとのブレを抑え、歩行をサポートしてくれるか。
- 重量・・・軽快な足運びと疲労軽減に欠かせない要素。
- プロテクション・・・思わぬ打ち身や、摩擦・引裂きなどから足・靴を保護する。
テスト結果&スペック比較表
各モデルのインプレッション
La Sportiva BLADE GTX®
快適に歩ける!走れる!今どきハイカーのための頼れる1足
ココが◎
- 高いフィット感のアッパー
- 衝撃吸収力と安定性に優れたヒールカップ
- 走るときにも邪魔にならない足首まわり
- 高いグリップ力
ココが△
- 価格
- 通気性
トレッキング、クライミング、トレイルランといったマウンテンスポーツの全域で常に先頭集団を走り続けるスポルティバ。異なる領域で培ったノウハウが存分に注ぎ込まれた本モデルは、マウンテンランニングとトレッキングの技術が見事に融合したマルチスポーツシューズ。
アッパーは必ずしも通気性抜群というほどではないものの、耐久性の高いメッシュ生地。柔らかくて心地よいフィット感はかなりの好印象です。歩き出すとすぐに、分厚い衝撃吸収EVAによるクッション性の高さに驚かされます。さらに中足部辺りからかかとまで幅広く張り巡らされたTPUスタビライザーはかかとをしっかりとホールドし、着地時のブレも抑え、安定感は抜群。長距離のハイキングでも安全かつ疲れにくいというわけです。
おまけにこのシューズは走っても快適です。足首の後ろが少し落ち込んでいて、ネオプレーン系の生地が配置されているため、可動性が高い。つまり、走っている際に邪魔にならない。トレランシューズで磨かれた「FRIXION」と「IMPACT BRAKE SYSTEM」を搭載したアウトソールは期待以上に高いグリップ力を見せていました。
トレッキングに求められる快適性と・安定性・プロテクションを備えながら、ランニングに求められる推進力とクッション性・グリップ力を実現したBLADEは、ここ数年の「走れる登山靴」の中では出色の出来といえます。
adidas TERREX FAST MID GTX-SURROUND
ランニングシューズの良さ・感覚を限りなく残したハイキングシューズ
ココが◎
- 軽量性
- アッパーのフィット感
- ムレにくさ
- 可動性の高い足首回り
- グリップ力に優れたアウトソール
ココが△
- 地面からの影響をやや受けやすい薄めのミッドソール
- 下りでつま先がやや圧迫される
前のBLADEからよりランニング部分にフォーカスしたといえるのがこのTERREX FAST MID。
まず何といっても385g(27.0cm実測403g)はやっぱり軽い。つま先付近をしっかり締め上げられる配置のシューレースホールと、操作もスムーズなスピードレーシングとの組み合わせによって、フィット感もまずまず。またGORE-TEX SURROUND®テクノロジーによって足裏からも汗が抜けるため、密度の高いアッパー生地にもかかわらず、靴の中のムレはゼロ。ただ個人的にはウールソックスを履いている自分にとってはそこまでシューズ内のムレで悩まされたことはなく、その感動は薄かったかもしれません。
可動性の高い足首まわりは、かなり前から他社に先駆けて取り入れられていた覚えがあり、現在まで着実にブラッシュアップされてきており実績は十分。ランニングでの違和感を感じさせません。その他TPUヒールクリップによる高い安定性、グリップ力に優れたContinental™ラバーのアウトソールと、悪路をハイスピードで駆け抜けるために必要な機能が抜け目なく備わっています。ただあくまでもランに重きを置いたハイキングシューズなので、重荷でのプロテクションや安定性など、無理はききにくいというところは致し方ないところでしょう。
ヨーロッパのマウンテンランニング分野ではすでに確固たる知名度を気づきつつあるものの、日本での存在感はまだまだなアディダスですが、このモデルには世界的スポーツブランドによる高い技術力がいかんなく発揮されていると実感できました。
MERRELL MQM FLEX MID GORE-TEX®
防水ミッドカットブーツで400g以下!軽装でトレイルを楽しく走るならコレ
ココが◎
- 軽量性
- アッパーのフィット感
- 高い通気性
- 繊細な足裏の感覚と柔軟性
ココが△
- ソールのクッション性
- グリップ力
「防水ハイキングブーツ」で実測400gを切るモデルって、正直驚きです。もちろんこんな軽いのを履くのはこれがはじめて。この356g(US9実測385g)という圧倒的な軽さは、やはり他のどんな優れた機能よりもインパクトがあります。ここまで軽いと、登山靴にはつきものの足上げによる負担なんてどこへやら。これ以上なく軽快に歩け、文句なく疲れにくいシューズといえます。
一方で、軽さを追求すると、得てして快適さが損なわれてしまうものと思いがちです。ところがこのモデル、高く評価しいたのは、ここまで軽量化していながらその辺のちゃちなモデルを凌ぐくらいに快適で履きやすいから。特にかかと部分のハイパーロックプリントTPUヒールカウンターと、連動して甲部分が固定されるアッパーのシューレース構造によってフィット感と安定性は格別。また適材適所にマッピングされた耐久性と通気性の異なるメッシュ生地は、蒸し暑い時期でも想像以上に快適でした。
ソールのクッション性は今回の比較中ではかなり薄め。柔軟性重視のEVAミッドソールは地面からの突き上げを伝えやすく、足裏の感覚を楽しみながら履くタイプのシューズです。決してクッション豊富という性格のシューズではなく、グリップ力もウェットな地形には弱いため、重荷で長時間という行動には向いていません。他方この唯一無二の軽快さは、キャンプからフェスなどのライトなアウトドアから低山スピードハイキングにはピッタリ。
Salomon X ULTRA MID 3 GTX®
極上の履き心地は、誰もがずっと履いていたくなる
ココが◎
- 包み込むような快適なフィット感
- 適度なクッション性
- 十分なプロテクション
- 適度なグリップ力
- 価格
ココが△
- 重量
- 重厚なアッパーは走るにはやや煩わしい
サロモンの定番ハイキングブーツが今シーズン全面的にリニューアル。先日ローカットモデルを中心に当サイトでも個別にレビューしましたが、今回他モデルと比較してみて、あらためてその完成度の高さに驚かされました。
まず、このモデルはあくまでもトレッキングシューズの文脈から進化している点で、前述の3モデルと違ってあまり「走れる」ことに重点を置いていません。その意味で、今回の中では明らかに重厚感が頭一つ抜けています。ただ、それを補って余りあるのが、履いてみてすぐに分かる、オンリーワンの絶妙なフィット感。より洗練されたサロモン独自のアッパー構造「SensiFit™」によって得られる、足全体を包み込むような極上の履き心地は病みつきになります。
ただ、重点を置いていないといいながら、そこはトレイルランの分野でトップクラスの研究開発力を有するサロモン、トレイルランで培った技術をうまくハイキングブーツにも取り入れています。例えばアッパー・ミッドソール・シャシー・アウトソールが一体化して連動性を高めることで、着地時のねじれを制御し、下りでの安定性を特に高めているのが、このモデルから搭載されたソール一体化技術「ディセントコントロール」。また下りでより滑りにくくするためみ見直されたアウトソールのラグデザインなど、長時間をとことん快適に歩けるだけでなく、快適に走れるようにもなったといえます。
さらに今シーズンからワイドモデル「X ULTRA 3 GORE-TEX® W」もラインナップすることで、より幅広いユーザーにフィットするようになった、新しいX ULTRA 3は、価格的にも入門者におすすめ。長いトレイルを快適に歩き、必要な部分ではランも織り交ぜたアクティブなハイキングのために必要な機能をバランスよく詰め込んだ、定番ハイキングシューズとして不動の地位を築きつつあるようです。
SCARPA ハイドロジェンハイクGTX
ハードなトレッキングにも耐えられそうなタフな軽量ハイキングブーツ
ココが◎
- ソールのプロテクションと反発力の高さ
- 安定性
- ムレにくさ
- 柔らかくホールド感の高いアッパー
ココが△
- 重量
- グリップ力
- 弱いインソール
本格アルパインブーツやクライミング、バックカントリーなどの分野で長い実績を誇るイタリアの老舗がつくる軽量ハイキングブーツは、そのルーツや彼らのフィールドとする地域の特色が感じられる、ユニークな特徴をもったモデルです。
最も違いが感じられたのは、抜群の軽さにもかかわらず、高い反発力とプロテクションを備えたEVA&TPU製ミッドソール。ソールを折り曲げてみると分かるのですが、他と比べて極端に硬い。これによって反発力が高まり、さらに地面からの影響をほとんど受けません。これは重荷での行動では大きなアドバンテージ。
アッパーに目を向けてみます。通気性よりも耐久性、クッション性、肌当たりの柔らかさを重視したであろうナイロンメッシュ + 熱溶着TPU、そしてムレを最小限にするためのGORE-TEX SURROUND®は、山に登るためのランニングシューズというよりもスピードを増した登山靴という性格が強く感じられます。
ただ残念なのは、ビブラムにしてはグリップ力がいまいちなこと、そして通気性重視のインソールがあまりにヤワであるため、重荷やスピードによってつま先部分がよれてしまうこと(サードパーティ製のインソールを入れることで快適にはなりました)。
彼らのフィールドであるアルプス周辺の山々のような、岩場が多く高低差の大きいルートではかなり使える軽量ブーツであることは間違いありません。「登山靴がここまで軽くなったか」と考えると非常におもしろい一足。
THE NORTH FACE Ultra Fastpack III Mid GORE-TEX
高反発力と高クッション性を備えた長距離ファストパッキングブーツ
ココが◎
- 反発力
- クッション性
- 重量
ココが△
- アッパーのフィット感
- プロテクション
- つま先がやや動き過ぎて下りでもよく当たる
ノースフェイス不動の定番軽量ハイキングブーツ。このモデルに関しては、ちょうどこのサイトを始めた4年前からI、IIと履き続けていることもあって、個人的には非常に思い入れの深いモデルです。だからこそ、今回のモデルチェンジについてはちょっと驚きが大きかった……。
アウトソール以外、すべてが変わったといえるほどの全面リニューアル。正直いってまったく別のシューズだと思った方がいいでしょう。今回のモデルチェンジでは特にファストフォームテクノロジーを搭載した、反発力と安定性・クッション性を両立させたミッドソールが大きな目玉。こちらはトレイルランでの技術をベースに、長時間の長距離歩行で安定性を高め、ダメージを軽減してくれる仕組みで、確かに若干淡泊であった前モデルのソールと比べると「走行性」という部分での進化は見られました。そしてアウトソールに引き続き採用されているVibram® MEGAGRIPについては、今シーズンもやっぱり圧倒的なグリップ力を発揮し、乾いた地面から濡れた岩場まで、他を寄せつけない圧倒的な滑りにくさは見事というほかありません。
ところが、それ以外の部分、特にアッパーのフィット感に関しては残念な作りになってしまったといわざるを得ません。TPUコーティングメッシュアッパーは通気性こそ優れているのですが、ふにゃふにゃの生地はアッパー全体としてホールド感に乏しく、シューレースを締め付けた際の一体感がこれまでのように感じられないのです。しっかりと締めても甲の部分だけが固定されている感じで、その他の部分が浮いている感じ。そもそも新しいモデルが自分の足型と合わなくなってしまったという可能性もなくはないですが、試履きした限りでは特に違和感があったわけでもなく、サイズも間違えているわけではないと思うので、これはかなりショック。ソール技術については確かに進化しているのですが、靴本来の快適さについては改善が必要に感じられました。
まとめ
今シーズンの新モデルを総括すると、ハイク・ラン双方でバランスの良いモデルを選ぶならばLa Sportiva BLADE GTX®でしょう。アッパーの快適性とソールの安定感とクッション性、歩き・走り双方で高い次元を実現していました。ランを特に重視したいならadidas TERREX FAST MID GTX-SURROUNDも高機能・高バランスでおすすめ。同じくランを念頭に入れながら、ややマイルドな地形でマイルドなアクティビティの方が多いならばMERRELL MQM FLEX MID GORE-TEX®の方がより手軽でいいかもしれない。
一方歩くことがメインで、走るのは必要に迫られた時に限るのであれば、とにかく履き心地No.1のSalomon X ULTRA 3 MID GTX®を選びます。当初のレビューではちょっと苦手という印象だったウェットな岩場でのグリップ力も、実際に他と比べてみるとそこまで悪くなかったのも意外でした。前回比較レビューから個人的には大幅に評価アップです。最後にSCARPA ハイドロジェンハイクGTXは重荷での行動が多くてスリップしにくい、歩きなれた健脚におすすめ。その時は自分に合ったインソールに変更しておくべし。