比較レビュー:夏、縦走、アルプス。岩場に強いライトアルパインブーツを履き比べてみた 2018
夏山シーズンも開幕し、今年はどこの山に登ろうかと検討している方も多いと思います。
都市近郊の低山から国内外への遠征など計画は人それぞれです。雪山シーズンにはちょっと近寄りがたい北アルプス・南アルプスの雪解けも進み、今夏でアルプスデビューを計画している方も多いのではないでしょうか。
アルプスともなれば計画はもちろん、ウェアや装備についてもしっかりとした準備が必要です。夏といっても標高の高い山にはまだ雪渓が残り、安全に歩くためにはアイゼンが必要ですし、森林限界を超える山が多いことから岩場を登る場面も多くなります。
ソールの柔らかいトレッキングシューズで登れないことはありませんが、ケガなどの危険がつきまとうことを考えるとやはり用途に適したしっかりとした登山靴が必要です。そんなわけで今回は北アルプス・南アルプスをはじめとする岩稜帯の多い山にオススメの登山靴をレビューします。
目次
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今回比較したハイキングブーツについて
岩稜帯を安全に歩くためにはソールが硬くプロテクションもしっかりした登山靴が適しています。もちろん、ソールの柔らかいトレッキングシューズでも登れないことはありません。実際、私が登山を始めた時はスニーカーに毛の生えたような到底登山靴とは呼べない靴で登っていました。ただ、軽くて歩きやすかった一方で、登るたびに膝から下(とくに足裏)に疲労が溜まり、捻挫や外傷も絶えませんでした。靴自体の消耗も激しく、時には一山で一足履き潰すなんてことも。
そう考えるとやはりソールは硬く、防水性・耐久性に優れた登山靴がベストであると考えます。足の痛みや疲労があってはせっかくの登山も楽しめず修行あるいは苦行になってしまいます。
ソールが硬く堅牢性・耐久性のある登山靴というと、バックパッキング(縦走)モデルやライトアルパインモデル、マウンテニアリングといったカテゴリーにいきつくことになるだろうと思います。しかし、姿・形は似通っていても素材や技術、機能はメーカーごとに特色があり、岩稜帯に特化したモデルからある程度の汎用性を持たせたモデルまで様々です。とくに日本の高山ではほとんどが登山口から樹林帯を歩き森林限界を超え岩場に到達するといった山が多いため、一様に岩稜帯に特化した剛性・堅牢性に優れたモデルが最良とはいえません。歩行性や快適性といったことも重要な要素であると言えます。そこで今回のレビューを始めるにあたり、選定基準を下記の通りまとめてみました。
- バックパッキング、ライトアルパインを対象としたモデルであること
- ソールにクライミングゾーンが設けてあること
- 踵にコバがありセミワンタッチアイゼンが着用可能であること
選定基準がハッキリとしたことで次は具体的なメーカー・モデル選定に移りますが、スカルパやスポルティバ、ザンバラン、ガルモントなど主要な登山靴メーカーのほとんどがヨーロッパ、しかもイタリアということもありイタリアメーカーだけで比較するのは少し面白みに欠けます。そこで新たに各国1足という謎の縛りを設け、スポルティバ(イタリア)、ローバー(ドイツ)、さらにノースフェイス(アメリカ)の3足に落ち着かせました。本来であればマムート(スイス)やシリオ(日本)といったメーカーも加えたかったのですが数が増えることでそれぞれのレビューの中身が薄くなることを懸念し今回は3足に限定しました。
テスト環境
テスト期間は2018年5月~6月末までの約2ヶ月間。テストは奥秩父、中央アルプス、南アルプスの山を中心に実施しました。テスト1回における歩行距離は8~15㎞程度とし、登りと下りで違うモデルを履き替えたり、左右で異なるモデルを履いて比較を行っています。岩稜帯におけるテストは3足すべて同一条件下で実施するため奥秩父の山(乾徳山・金峰山)で実施しました。そのほか詳細なテスト条件については各項目の詳細レビューにて補足しています。
評価項目については、下記の通り5つの指標を設定。テスト結果の評価数値はテストを行った私自身の判断によるもので何ら客観性を持つものではありません。
- ソールの硬さ・グリップ・・・重い荷物や岩稜帯歩行などハードな山行には欠かせない
- サポート力・・・足首のねじれや靴内部でのズレを防ぐ
- 快適性、重量・・・履き心地の良さや、長く歩き続けられるかどうか
- 耐久性・・・摩擦や引き裂き等、外的な圧力から足を保護する
- アイゼンとの相性・・・雪渓通過時における必携装備の装着しやすさ、外れにくさ
テスト結果&スペック比較表
各モデルのインプレッション
LA SPORTIVA TRANGO TOWER GTX®
総合力高し。特に岩場では圧倒的なパフォーマンス
ココが◎
- 岩場で効果を発揮するトラクション性能とブレーキ性能
- 岩場をガシガシ歩ける堅牢性
- 足首のサポートと可動性のバランス
- ワンタッチアイゼンも難なくフィット
ココが△
- ソール・インソールと合わせてクッション性がもっとあってよかった
- 価格
キューブ、アルプエボ、Sエボ、ガイドエボと豊富なトランゴシリーズの中で最新モデルであるトランゴタワーGTX。トランゴSエボの進化型ということでデザインはSエボを踏襲したスリムシェイプでレーシングカーのようなフォルム。アッパーにあしらわれたハニカム状ファブリックも本来は耐摩耗性を高める素材ですが見た目のカッコよさにも大いに貢献しています。近年、レザーとナイロンが適所に配置されたハイブリッドなマウンテニアリングブーツが数多くラインナップされていますが、個人的には断トツのカッコよさだと思います。
無論、見た目だけではなく堅牢性と機能性もしっかり兼ね備えており、一番傷つきやすいトゥ(つま先)部分にはラバーが二重に施され岩場を登れと言わんばかりです(?)。今回比較したチェベダーレプロGTと比べるとソールの感触は若干薄めで、そのせいか足裏の感覚がよりダイレクトに伝わってきます。ただソールが薄いとはいってもシャンク(芯材)の入ったソールは硬くねじれを抑制し、ちょっとやそっとの力では曲がりません。実際に岩場の多い山でテストを行いましたが、岩の凹凸をしっかりと捉え、登りでは岩に吸いつくようなトラクションを感じられると思います。
さらに下りでも岩に粘りつくようにグリップし、多少雑な歩き方をしても滑ることはありませんでした。この靴に採用されているソールはトランゴキューブと同じモデルのようでトラクション性能とブレーキ性能、衝撃吸収性能を兼ね備えた代物のようですが、トラクション性能とブレーキ性能については文句なしだと思います。
一方、残る衝撃吸収性能については飛び抜けたものは実感できず、長く歩くとそれなりに足裏全体で疲労やしんどさを感じてきます。ただこれはテストのために調子に乗って積極的に不安定な足場を選び、きわどい足場を長時間歩き続けたせいかもしれません(笑)。
総じてどこかしらウィークポイントがないかと探してみましたがハッキリいって見つかりません。強いて挙げるとするならばインソールでしょうか。靴本来のクッション性はインソール単体ではなく、ミッドソール、アウトソールと合わせ総合的に判断すべきだと思いますが、ちょっと作りがチープに感じます。もう少し厚いものが入っていると衝撃吸収性もより高くなるのではないかと感じました。まぁ、強いて挙げれば・・・なので、まったく気にしない方もいるかもしれません。
LOWA CEVEDALE PRO GT
堅牢な作りだけではなく快適性と歩行性も高水準!
ココが◎
- 靴紐をしっかり締め上げても足首の動きが妨げられない
- 絶妙な足先空間により足指を圧迫せず自由に動かせる
- 歩行性と快適性と堅牢性のバランスの良さ、対応力の高さ
ココが△
- とにかく重い
- 価格
個人的に総合2位はドイツの老舗ブランドであるローバーのチェベダーレプロGT。100%メイド・イン・ヨーロッパという強いこだわりを持ち、同社のTAHOE(タホー)はコアなファンに強い支持を得ています。今回レビューしたチェベダーレプロGTは同社の中でライトアルパインモデルとして位置づけられています。
足を通してまず感じたのは足先部分の空間が広いこと。左右から足が固定されていますがキツすぎずユルすぎずという絶妙なフィット感。登山用ソックスを履けばクッション性も増し、この靴を履いて足を痛める人はそういないんじゃないかと思うほどです。靴紐を固く締め上げても足首の動きが妨げられない歩行性と快適性には、厚みのある足首周りのカフとタンが貢献しているようです。
登りでは足首の可動域を拡げたほうが歩きやすくなるため一番上の金具に靴紐を掛けず履く方も多いと思いますが、この靴に関しては一番上の金具まで靴紐を掛けてもまったくストレスを感じません。むしろ一番上まで掛けないと足首が自由になりすぎて下りでは捻挫してしまうのではないかと恐怖さえ感じました。これまで私が履いてきたライトアルパインブーツはソールが硬いことから、フラットもしくは緩やかな斜面で歩きづらさを感じることがありましたが、この靴については甲から脛にあたる部分が柔軟に作られており、どんな場面においても歩きづらさを感じることはありません。それでいて岩場での安定感、足の指が動かせるのでトゥ(つま先)だけで岩場に立ち込む際にも踏ん張りが効き不安定な足場でも安心感が増します。歩行性と快適性と堅牢性、この3つをバランスよく結集させ、どんな場面にも対応できる信頼のおける靴だとテストを通じて感じました。
唯一、ネックと感じたのがやはりその重量。革靴なので重いのは当然なんですが、片足で約841g(UK8.5サイズ)という厳冬期登山靴に匹敵するかのような重さにはイマドキの感覚からすると若干引いています(笑)。ついでにもうひとつだけ付け加えると、展示販売している登山用品店がそれほど多くないということでしょうか。良い靴なのでそこが残念でもあります。
THE NORTHFACE Verbera Lightpacker III GORE-TEX
ライトアルパインの中でも特に歩きやすい、日帰りからアルプスまで汎用性に富んだ入門モデル
ココが◎
- 軽量で歩きやすい
- コストパフォーマンス
- 足慣れていれば日帰りからアルプスまで対応できる汎用性の広さ
ココが△
- 靴紐が締め込みづらく足にフィットさせづらい
- 岩場でのトラクションはそこまで高くない
- ワンタッチアイゼンのフィットはあまり信用できない
一見、ライトトレッキング用の靴かと思ってしまうようなノースフェイスのヴェルベラライトパッカーⅢ。踵にはコバがありセミワンタッチアイゼンに対応しているので、残雪期から夏山縦走までを視野に入れた登山靴のはず。お店で確認しても位置づけとしてはライトアルパインとも、トレッキングブーツどちらともいえる微妙なポジションのモデルのようです。他メーカーのライトアルパインモデル(セミワンタッチアイゼン対応)の靴と比較すると大変リーズナブルな価格から、これで機能的に十分であれば掘り出し物でしょう。それにしても安すぎやしないかと変な勘ぐりを入れたくなってしまうのですが、テスト山行前に自宅周辺を少し歩いてみた感想は非常に軽く足運びがスムーズ。トゥスプリングが深く(つま先部分に反りがある)クッション性の良さでスニーカーのような歩きやすさ。
今回レビューした他2足と比較するとソールが柔らかく、やはり岩稜帯よりは一般的な縦走が得意なモデルです。「ノースの靴は足幅が狭い」という声を耳にすることがありますが、この靴は日本人に合わせた独自のラスト(木型)を採用しており靴内部は広く、足を通した感触も良好。ただ下山時など靴全体とくに足先のフィット感を高めたいと思ってもシューレースホールの形状・素材のせいか締め込むには結構な力を必要とします。カフ(足首)・タンにも柔らかい素材が採用されていますが、靴紐を締め込みづらいこと、カットが浅いことで足首のホールドは弱く物足りなく感じます。テストで向かった実際の山でもその軽さと歩行性は歩きだしの時点で実感。荒れた登山道でもクッション性の高いソールが衝撃を吸収し長距離であっても疲れにくいと感じました。ソールにはクライミングゾーンがありますが、正直足先のフィット感と足首のホールドが弱いのに加えソールが柔らかいため岩場では相対的にいってあまり適さないのではないかと思います。アイゼン装着についてはこの後の詳細レビューで検証します。個人的にセミワンタッチアイゼン対応と聞くとつい高山での使用をイメージしてしまうのですが、この靴についてはトレッキングシューズの延長でアイゼンはワンタッチではなく紐締め式を使うのが良さそうです。軽さと歩きやすさを追求した夏山縦走用の靴としては優れていますので、一足の登山靴で日帰りから縦走までカバーしたいと思う方にはおすすめです。