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比較レビュー:夏、縦走、アルプス。岩場に強いライトアルパインブーツを履き比べてみた 2018

前ページでは比較したモデルのランキングと、評価・スペックの一覧、そしてそれに基づくおすすめを紹介しました。ここからはその評価について、どのような基準で評価したのか、なぜそのような評価になったのかについて解説していきます。

各項目詳細レビュー

ソールの硬さ・グリップ

バックパッキング、(ライト)アルパインモデルに搭載されるソールには重い荷物に耐え得る硬さ、ハードな地形に適応した硬さが求められます。柔らかいソールでは装備の重量で歩行するたび、地形変化のたびに足裏に負荷が掛かり疲労の蓄積が顕著に現れます。また、ソールの持つグリップ力も重要で、着地から蹴り出しまでの一連の動作をスムーズに実現させます。

まずソールの硬さですが単純明快に登山靴に体重を掛けた状態でソールがどれだけ曲がるかで判断します。ライトアルパインブーツとトレッキングシューズで大きく異なるのは靴底に入っているシャンク(芯材)の違いです。一般的にソールが硬い、柔らかいというのはシャンクが入っているかどうか、またはシャンクの材質の違いであり、ソール自体の優劣ではありません。

今回レビューした3足の中でソールが最も柔らかいと感じたのはTNFヴェルベラライトパッカーⅢですが、他2足とケタ違いに柔らかいというレベルではなく、それなりに硬いがある一定の力が加わると曲がりだすといった感覚です。また、アッパー素材も少なからず影響しているようにも感じます。ヴェルベラライトパッカーⅢにはバリスティックメッシュ、チェベダーレプロにはスエードレザー、トランゴタワーにハニカムガードファブリックとそれぞれ素材が異なりますが、実際のところアッパーが最も柔らかく感じるのはチェベダーレプロ、次いでヴェルベラライトパッカーⅢ、最も硬く感じるのがトランゴタワーでした。ここからは個人の勝手な推測ですが、ヴェルベラライトパッカーⅢには柔らかいシャンク、もしくは限られた部位にのみシャンクが入っておりアッパー素材の硬さでカバー。チェベダーレプロには硬めのシャンク、もしくは広い範囲にシャンクが入っておりアッパー素材の柔らかさをカバー。トランゴタワーには硬めのシャンク、もしくは広い範囲でシャンクが入っておりさらにアッパー素材の硬さでより強固に仕上げてあるといった感じでしょうか。ここまでくると3足すべて輪切りしてみたい衝動に駆られますが、いろいろと事情もあり自粛しておきます(笑)。

次にグリップについて。今回レビューした3足には共通してビブラムソールが採用されていますが、同じソールパターンのモノはなく、各メーカーが重量や耐久性、ミッドソールとのバランスを考え設計されたモノです。

ソールパターン比較。左からローバー、スポルティバ、ノースフェイス。

こちらも大きな差は感じませんが、トランゴタワーに搭載されている「インパクトブレーキシステム」には、つま先から踵までの足裏全体で岩場に貼り付くような感覚で飛び抜けて安心感があります。段違いに配置された一見歪んでいるように見えるブロックパターンですが、登りでは常にトラクションを感じ、下りでは足を置きたいポイントでピタッと止まるブレーキ力には目を見張るものがありました。

チェベダーレプロにも言えることですが足指が自由に動かせることから微妙な力加減が足裏に伝わることもグリップ力のわずかな差に繋がるように感じます。ヴェルベラライトパッカーⅢはトゥスプリング(つま先部分の反り)が深い分、ソールと地面(地形)の接地面が狭くグリップ力という点においてはいま一つといった感じでした。

安定性(サポート力)

登山靴・トレッキングシューズの多くはくるぶしの上から脛下あたりまでを覆うように作られています。防水性や耐久性を高め足首を痛めないためにそう作られているわけですが、それによってミドルカットやハイカットモデルといったタイプは少なからず歩きやすさ(歩行性)が損なわれます。バックパッキングブーツ、ライトアルパインブーツでは歩きやすさよりも難所における外的な衝撃や圧力から足全体を守り、着地や蹴り出しといった一連の動作を安定させるために足首をしっかりとサポート(保持)するよう作られているのが特徴です。最近ではアッパーやタンに柔軟性のある素材の採用やメーカー独自の工夫によりサポート性を保ちつつ歩行性や快適性を高めたモデルも多く販売されており今後の革新にも注目が高まるところです。

左からノースフェイス、スポルティバ、ローバー。かかとからくるぶし上までのフィット感、ホールド力によって安定性は変わってくる。

さて、結論から先にいいますが3足の内、最もサポート力が弱い(ない)のはヴェルベラライトパッカーⅢでした。唯一のミドルカットモデルということもあり、当然と言えば当然でバックパッキングモデルとライトアルパインモデルというカテゴリーの違いもある中でハイカットモデル2足と比較するのはさすがに酷だったかなとも思うところもあります。ではチェベダーレプロとトランゴタワーの2足で比較すると、全体を強くサポートするのはトランゴタワーで一度靴紐を締めたら足首から足裏、足先に至るまでズレることはなく岩場など難所に立ち込む場面でその効果を発揮してくれそうです。

一方、チェベダーレプロについては「X・レーシング」や「C4タング(タン)」、「フレックスフィットシンクロ」といった独自の機能によって足全体のフィット感を最大限に高めサポート力と快適性をバランスよく両立させており、靴紐をキツく絞り込んでも足を固めすぎているという感じは受けません。

快適性

登山靴に求められる快適性とは重さや歩きやすさはもちろんのこと、防水性、靴内部の蒸れやインソールのクッション性、アッパーやタンによるフィット感など多岐にわたります。ただライトアルパインやバックパッキングモデルともなると、岩稜帯を歩く、重たい荷物を背負うという前提がありそもそもが硬いソールが採用されていますし、カットも深く足首周りをサポートするように作られているため、一見快適性からは少し離れているものと思われているかもしれません。ただ最近の登山靴を見てみると各メーカーが快適性を高めるため様々な工夫を取り入れており、代表的なものとしてアッパーの一部に柔軟な素材を採用することで足首をホールドしながらも自由度を高める機能。チェべダーレプロの「フレックスフィットシンクロ」、トランゴタワーの「3Dフレックスシステム」がそれに該当します。若干、トランゴタワーの方が柔軟性に欠ける(硬い)印象を持ちましたが、この辺は個人の好みが分かれるところでもあります。

また、快適性という部分ではチェベダーレプロに搭載されている「I ロック」、「X-レーシング」にも注目です。靴紐をロックすることで靴紐の緩みを防ぐ「Iロック」、足の中心からタンのズレを防ぐ「X-レーシング」は普段から靴紐の緩み防止・フィット感の維持になることは当然ですが、岩場など難所における靴紐の締め直しという煩わしさから解放してくれます。

重さや歩きやすさという点ではヴェルベラライトパッカーⅢが群を抜いています。重さは数値が示すとおりですが3足の中で最もトゥスプリングが深く足運びがスムーズでミッドソールのクッション性も高いと感じました。

耐久性

ここでは剛性・堅牢性も含めて検証をしていきたいと思いますが、テスト期間が長期ではないため素材や作りで判断をしていこうと考えました。まずアッパー素材ですが3足それぞれスエードレザー、レザー+耐摩耗強力ファブリック、バリスティックナイロン+スエードレザーと異なる素材で構成されています。一見するとレザー(スエード含む)の方が強いように思いますが、バリスティックナイロン(デュポン社:ナイロンの5倍の強度)は軍事用に開発された防水性、耐磨耗性、耐熱性に優れた非常に強い生地で防弾ベストにも採用されているそうです。また、トランゴタワーに使われているハニカム構造の耐摩耗強力ファブリックもナイロンではありますがトランゴSエボのコーデュラナイロン(インビスタ社:ナイロンの7倍の強度)から変更されたことを考えると、より強度をもつ素材であることがうかがい知れます。もしかするとレザーより耐久性に優れているのではないかと思ってしまうほどしっかりとした生地ですが、その検証を行うには長い時間を必要としますので今回のレビューでは見送らせていただきます。作りの面から見ていくと、3足全てランドラバーが施されており大きな差はないように見えますが、ヴェルベラライトパッカーⅢだけは土踏まずからつま先にかけてのフロント部分だけにラバーが施されており、踵周辺はプラスティック素材が使われている点が気になるところです。また、評価結果でも触れていますがトランゴタワーについてはつま先部分のラバーが二重に施されており最もぶつけやすいつま先部分の耐久性向上に貢献しているようです。

アイゼンとの相性

最後はアイゼンとの相性を検証します。麓の平地は夏でも標高の高い山ではまだ雪渓が残っていることがあり、安全に進むためにはアイゼン装着が必須です。ちなみに私が所有しているアイゼンはグリベル社のエアーテック・オーマチックSPでつま先と踵にコバがある登山靴に対応したモデルですが、夏場はベイル(つま先部の金具)を交換することでセミワンタッチ仕様として使用しています。今回レビューする3足は全て踵にコバを持っており、セミワンタッチアイゼン対応モデルと謳われていますので装着自体は可能ですが問題となるのは相性です。ソールとアイゼンの形状が隙間なく合い、とくにつま先と踵がフィットしているかが重要です。念のためお伝えしますが、この検証では実際にブーツを履き体重をかけた状態でバンドも可能な限り強く締め上げています。また、私が現在所有しているアイゼンとの相性であり、レビューした3足間での評価となりますのでブーツ自体の良し悪しを判断するものではないことをお伝えしておきます。

さて、踵のフィットは3足とも問題ありませんでしたが、つま先のフィットについては若干の差が生じました。差が小さかった順に列挙するとトランゴタワー<チェベダーレプロ<ヴェルベラライトパッカーⅢという結果です。ヴェルベラライトパッカーⅢは評価結果でも触れていますがトゥスプリングが深いためどうやっても隙間が生じてしまいます。バンドで固定していますので簡単に外れることはありませんが、不安は残ります。

ヴェルベラライトパッカーⅢ × グリベル エアーテック・オーマチックSP

隙間が小さく最も相性が良いと言えるトランゴタワーは土踏まずのアーチ部分の隙間も小さく、私の所有するアイゼンに対してはベストマッチに近いブーツと言えるのではないでしょうか。いずれにしても絶対ということはありませんが、命を預ける道具に対して疑いはもちろん不安を感じる要素は少ないに越したことはありません。

スポルティバ トランゴタワー × グリベル エアーテック・オーマチックSP

ローバー チェベダーレプロGT × グリベル エアーテック・オーマチックSP

まとめ

今回レビューしたアイテムの中で最もバランスが良いと感じたのはスポルティバのトランゴタワー。ソールの硬さ・グリップ、足首のサポート、耐久性、アイゼンとの相性と4つの項目で高得点を獲得。唯一、快適性のみ低い得点となりましたが、3足という限られた中で私がそう判断しただけであって、違う人が履けば感じ方も異なると思います。とにかく岩場での安定感が素晴らしく、この夏に穂高連峰や劔岳登山を考えている人にはおすすめです。最もオールラウンダーだと感じたのはチェベダーレプロでしょうか。剛と柔が高水準で一体となり、登る山を問わない、そんな印象を受けました。カテゴリーが少し異なりましたがヴェルベラライトパッカーⅢは重量と歩行性で高い評価を獲得しました。レビューした靴それぞれに特徴や他より秀でている部分があり、自分自身がその靴に何を求めているのかで選び方も変わってくるのではないでしょうか。

齋藤 ヒロアキ

埼玉県在住。黒部峡谷下ノ廊下に魅せられ、30歳を過ぎてから登山にのめり込み未だ開発途上中。持ち前の好奇心・探求心を前面に、経験値の少なさをカバーするため時間があれば山に入るようにしています。物欲旺盛で後先考えない衝動買いで一喜一憂の日々。そんなトライアル&エラーを交えながらギアの魅力を伝えていきます。

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