
自分の足に合ったトレッキングシューズを選ぶための5つのポイント
どれだけ”いい靴”でも、目的と自分に合っていなければ意味がない
アウトドアで「何を履くか」という選択は、旅を安全に乗り切るために、日常の靴選びとは比べものにならないほど重要な意味をもっています。アウトドアでは舗装されていないラフな地形を、重荷で長時間過ごさなければならないことから、ちょっとした違和感が疲労を蓄積させたり、靴擦れやねんざといった怪我を誘発したりします。そうした非常にデリケートな部位である足を守り、安全で快適な山歩きを行なうためのアウトドア・シューズは、アウトドア装備のなかでも最も妥協してはいけないギアのひとつ。ところがアウトドア・シューズ選びで難しいのは、そこに客観的な「正解がない」ということで、「ローカットの軽くて動きやすい靴」をよしとする人もいれば、昔ながらの「堅く重たい革靴」がやっぱり一番よいという人もいるというのが現実です。
答えがこうも違ってくるのには当然理由があり、「誰が、どのような場所でどのようなアクティビティを想定して」いるかによって、理想とする靴が違うからです。例えばその昔、日本アルプスの岩場を何十kgもある荷物を背負って連泊縦走するのが登山だった頃には、革製のごつい登山靴がよいとされるのが一般的な意見だったとしても、装備がより軽くなり、靴自体の構造や材質も技術的に進歩した現在では、同じようには考えられません。さらに歩く人の体力や年齢、そして登山のスタイルも多様化し、人によって筋肉の付き方・歩き方も違えば、怪我のしやすさも違い、必要なサポートの度合いも違ってきます。バランス感覚も鋭く、鍛えられた人が軽装でトレイルを駆け抜けようとしたときに、果たして重くて分厚い足首のサポートが必要でしょうか。
人によって答えが違うのは、その人の状況・目的が異なっているからで、人によっては、より軽い靴の方が適している場合も十分考えられるし、その逆もまたあり得ます。その意味で、その人にとって最も適した靴はその人の足しか分からないのです。このためこのページでは、最適なトレッキングシューズを選ぶために、アクティビティのスタイル・重さ・長さ・自分の身体の状態等によってどんなシューズが適しているのかを知り、判断するための複雑な条件や基準を、ひとつひとつ整理してお伝えしたいと思います。
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目次
登山靴の種類とトレッキングシューズ
登山靴、と一口に言っても最近では地形や目的に合わせて数え切れないくらいの種類に細分化し、それは現在でも進化し続けています。さすがに今日日「登山靴といえば革製のゴツい例のあれ」だけだと思う人は少なくなってきてはいると思いますが、だからといって登る山と荷物の重さと歩く距離によってどのカテゴリの靴が良いかなんて分かる人まではほとんどいないでしょう。普通にっている分にはそれで問題ないのですが、いざ自分でシューズを買おうと思ったとき、お店にずらりと並んだ靴をみて、どれを比べれば良いのか分からず、結構お店の人任せにしてしまったりしていませんか?
せっかく長く使うからには、納得して選んで、最適なシーンで大切に使いたいですよね。そこでまず、下の表で一般的なアウトドアシューズの分類と特徴をまとめてみました。これでひとまずは自分が欲しい登山靴のジャンルに迷わないはず。
アウトドア用シューズのタイプ別特徴比較
選ぶときのポイント
- 硬くて重い靴を履いて不慣れな道を歩くのは、ある程度の経験が必要。舗装されていない道を歩くことがほぼ初めてで慣れていない人は、スニーカーの延長感覚で履けるハイキングシューズをはじめとした柔らかめの登山靴がおすすめ。
- トレッキングシューズはアウトドア・シューズのなかでも軽い山歩きから本格的な岩稜帯まで、最も幅広いアクティビティをカバーできる汎用性の高いシューズ。靴の柔らかさや足首の高さなどバリエーションも豊富で、本格的に登山を始めようという人が1足目に選ぶにも、ハイキングシューズから徐々にステップアップする1足としても適している。
- それぞれのシューズは厳密にカテゴリ分けできるものではなく、その境界線上は曖昧。このためあまりカテゴリの分類にこだわり過ぎるのではなく、自分の経験や状態と目的のスタイルとのバランスを考え、実際に試着してみて選ぶことが大切。
チェックポイント1:カット(足首まわりの高さ)
ハイキング~トレッキングシューズには、重視する特徴とスタイルによって、足首まわりの高さがローカット・ミッドカット・ハイカットの3パターン存在しています。以下にそれぞれの特徴をまとめましたが、一般的にはより重荷を背負う必要があったり、よりタフな地形であったり、足首に不安をもつ人の場合にはハイカットのような手厚いサポートが必要になってきます。
カット | ローカット | ミッドカット | ハイカット |
---|---|---|---|
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軽さ | ◎ | ◯ | △ |
足首の可動性 | ◎ | ◯ | △ |
足首のサポート力 | △ | ◯ | ◎ |
異物の侵入 | △ | ◯ | ◎ |
適したスタイル |
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選ぶときのポイント
- 軽い荷物で軽快な足運びを志向する(山歩きに多少なりとも経験がある)のであればローカット・ミッドカットを選ぶ。
- 山歩きは初めてで、何から試すか迷っている場合にはミッドカットあたりからはじめてみることがおすすめ。
- スピードよりも安定性重視で、重い荷物を背負ったり、足首を捻挫しやすい人は、高いサポート力が強みのハイカットモデルを選ぶ。
チェックポイント2:アッパー素材
足のつま先からかかと、足首を覆う部分全体をアッパーと呼び、適度な力で足全体を固定し、岩や木の枝などによる怪我から足を守り、冬には外の冷気を防ぎ温度を保つ役割を担っています。アウトドアシューズはその昔はほぼすべてが分厚い革(レザー)で覆われた、硬く、重たいものでしたが、ゴアテックスの登場により、近年では軽くて柔らかいナイロンなどの化学繊維や、プラスチックなどの合成樹脂による完全防水シューズが主流となりました。とはいえ、現在でもレザーのメリットが失われたというわけではまったくなく、化繊には出せない良さが確実に存在しています。それらを下の表にまとめてみましたので、新・古で考えるのではなく、それぞれの特徴を自分の目的・ニーズに照らし合わせて選んでみてください。
素材 | メッシュ 化学繊維 |
化学繊維・ 合成樹脂 |
革(レザー) | ハイブリッド | インサレーション (プラスチックブーツ) |
---|---|---|---|---|---|
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堅牢性 | × | ◯ | ◎ | ◯ | ◎ |
軽さ | ◎ | ◎ | △ | ◯ | × |
柔軟性 | ◎ | ◎ | ◯ | ◯ | ─ |
耐久性 | × | △ | ◎ | ◯ | ─ |
防水性 | × | ◎ | ◯(◎) | ◎ | ◎ |
保温性 | × | △ | ◯ | ◯ | ◎ |
通気性 | ◎ | ◯ | △ | ◯ | △ |
速乾性 | ◎ | ◎ | △ | ◯ | ─ |
手入れの手間 | ◯ | ◯ | △ | ◯ | ◯ |
「─」はモデル毎の加工法や作りによって異なる。
選ぶときのポイント
- 軽量性・通気性を最重視するトレイルランニングにはメッシュ素材をはじめとしたナイロン生地が鉄板。
- 初めての場合、購入後すぐに足になじむオール化学繊維の柔らかいシューズか、トレッキングシューズの主流である堅牢性や耐久性、軽さ、柔軟性などバランスのとれたハイブリッドタイプが無難。
- 革製のブーツは、ナイロンには出せない唯一無二の履き心地が魅力。足にフィットするには時間がかかるが、使えば使うほど足になじんで履きやすくなってくる。ただし日頃の手入れは必須。
- インサレーション入りのブーツは夏には蒸れてとても使えるようなものではないので、冬専用と考える。
チェックポイント3:アウターソール
アウターソール全体の硬さ
アウターソール(ソール)は靴底の外側部分を差し、グリップや歩き易さに直結する非常に重要なパーツ。最近では各社スタイルやコンセプトに合わせてバラエティに富んだソールを展開していますが、選ぶ際にまず重要なのはソール全体の硬さです(厳密にはソールの内部に配置された「シャンク」と呼ばれる芯の部分の大きさ・硬さ)。硬いソールのトレッキングシューズをお店で試着して歩いて見ると、まるで板の間の上を歩いているようで、どこが快適なのか分からないと戸惑うかも知れません。靴を履いた状態でつま先をグイと曲げても容易には曲がらず、足の可動性も著しく低下します。それでもこうしたソールにするにはそれだけの理由があります。以下の表にまとめてみました。
タイプ | 柔らかいソール | 硬いソール |
---|---|---|
適したスタイル |
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特徴 |
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ソールのパターン
その他、ソールの溝の形状(パターン)や深さ、硬さ等についての違いが分かると、それぞれのシューズがどのようなフィールドに向いているのかが理解できます。ここではその簡単な見分け方についていくつか触れておきます。
- ソールの溝が深い靴は、柔らかい地質、ぬかるみ、凸凹に強く、重荷での行動でも高いグリップ力を発揮する。
- ソールの溝が浅いと、乾いた岩場などフラットな場所では設置面積が広い分滑りにくいが、濡れたりぬかるんだりするとたちまち滑りやすくなる。
- ソールの溝の間隔が広い靴は、溝の間にはまった泥や土のこびりつきが少なく、ぬかるみなど悪路でのグリップ力に優れる。
- ソールの先端がフラットで尖っている靴は、岩場を登るときに岩の細かな突起をつま先でホールドすることができるため、凸凹した岩稜帯などのテクニカルなコースに強い。
チェックポイント4:重さ
ここまでのこまごましたポイントよりも、もしかすると最も直感的で、重要かも知れないポイントが、この「シューズの重さ」です。誰の言葉か定かではありませんが「靴の1ポンド減は背中の5ポンド減に匹敵する」なんて言葉もあるくらい、確かに軽い靴で歩くことは他のどんな快適さよりも目に見えて効果があることです。
ただ、だからといって軽い靴を無条件に選ぶのがよいとも言えないことを覚えておくといいでしょう。軽い代わりに足首まわりが不安定になっていたり、重荷では滑りやすくソールが貧弱になっていたり、耐久性が落ちていたりと、何かしらがその軽さの代償として削られている可能性があります。大切なのはバランスです。軽さと安全性、耐久性とのバランスが、自分の求める基準に適うかどうか、一度検討してみてください。
チェックポイント5:その他
防水透湿性
濡れは体温を著しく奪い、さらにふやけた皮膚は擦れたときに簡単に皮がむけてしまうなど、アウトドアでシューズが濡れることによるリスクは計り知れません。足は思った以上に汗っかきですので、外側から水に浸からなくても、常に足は濡れの危険にさらされています。日本のように高温多湿で雨の多い地域では、靴の防水透湿加工は必須の機能と考えるべきです。メジャーなメーカーのトレッキングシューズならば、ほとんどのメーカーがシューズの生地に GORE-TEX などの防水透湿性素材を取り入れているとは思いますが、数千円で売られているような安価な製品には防水機能がついていない場合が多いので要注意。
「防水透湿メンブレン」といえば化学繊維のアッパーが前提なのかと思いがちですが、昔ながらのレザーには本来、天然の防水性と通気性が備わっているうえに、最近ではさらに防水透湿素材を合わせることで化学繊維に引けをとらない防水透湿性を実現しているものが登場しています。ただしその場合、レザーという天然素材であるが故のこまめな手入れは欠かせません。
インソール・フットベッド
取り外し可能なインソール(フットベッド)はほとんどのトレッキングシューズで予め配置されており、足を靴にフィットさせ、汗による湿気を効率的に外へ排出し、衝撃を和らげるクッションとして機能しています。シューズのフィット・クッションに大満足であれば特にそのままでもよいと思いますが、万が一フィット感に若干問題があったり、クッションが弱くて足裏が疲れやすければ是非サードパーティ製のインソール・フットベッドを検討してみるのがよいでしょう。フットベッドについては、次回のフィッティングの回で詳しく説明したいと思います。
締め具(シューレース・フック・アイレット)
トレッキングシューズではいわゆる締め具まわりも多様な進化を遂げています。シューレース(靴ひも)は細く、軽く丈夫になり、シューレースを通す穴(アイレット)や最上部のフックはアルミや布地、プラスチックなどで耐久性を保ちながらもより軽量なつくりになってきています。もちろん、軽量だから無条件でよいというわけではなく、その分緩みにくさや耐久性が犠牲になっていることも考慮する必要があります。いずれにしても、試着の際には実際に自分で締めてみて、以下の3点をチェックしておくことをおすすめします。
- 締めるときに締めやすいか
- 締めたときに足をしっかりとフィットさせられているか
- できる限り激しく歩いてみて緩みにくいか
まとめ: 靴選びの最適解を教えてくれるのは、自分の足だけ
かなりのボリュームになってしまいましたが、実のところこれでもまだトレッキングシューズについて語り尽くせたとは言えません。さらに冒頭でも述べましたが、どれだけ知識を蓄えてもスペックを眺めるだけではその靴が自分に合うかどうかは絶対に分からないのがトレッキングシューズ選びの現実です。それくらいにアウトドアの靴選びは複雑で繊細で、正直厄介なものです。ぼくも1足のトレッキングシューズを買うために何日かけたことか。候補の当たりをつけてはその度に何店舗もまわり、そこで店員さんには悪いと思いながら、買いもしないシューズを何種類も出してもらったり。とはいえぴったりのトレッキングシューズを選ぶためにはそうするしか無いので、ここは割り切るしかないのですが。ともあれ、この記事が少しでもそうした苦労を軽減してくれるものとなってくれると幸いです。