
パックラフトを始めたくて中国四川省へ行ってきた話【前編:8年ぶりの中国はいろいろな意味で刺激的過ぎた】
ずっと気になっていたパックラフトを、ついに始めることにしました。
もはや説明するまでもないかもしれませんが、パックラフトとは、空気を入れて膨らませて水の上を移動することができる、持ち運びが容易なインフレータブル式ボートのこと。
まったくの初めてでもすぐに漕げるほど簡単で、そのうえモデルによってはテクニカルなホワイトウォーター(激しい水の流れ)でも使えるほど安定性の高い構造、それにも関わらず軽量・コンパクトで長距離の旅にもバックパックに詰めて携行できる手軽さも備えています。
自分は山にのめり込んだきっかけがそもそも沢登りと山岳スキーであったこともあり、どうやら山の醍醐味を「地図上に記されていない自分だけの線(足跡)を描くことと」考えているらしい。そんな自分にとっては、行動範囲が広がり、これまで不可能だった自分だけの新しい旅のルートを描くことができるに違いないパックラフトという遊びが響かないはずがありません。こんなのめっちゃ楽しいに決まってる。
ただそうやって妄想しながらも、現実はなかなか始めることができなかったのですが、そんな自分の背中を押してくれたのが、とあるパックラフト・ブランドとの出会いでした。
さまざまな縁とタイミングが重なった結果とんとん拍子に話が進み、中国は四川省を拠点に急速に頭角を現しつつある新進気鋭のパックラフト・メーカーである「MRS」が、記事を書くことを条件にパックラフトを長期間使わせてくれるというのだ。それだけでなく「実際に成都のオフィスに招待するからぜひ取材しに来ないか?」とまで言ってくれて、ありがたいにもほどがある。いろいろと言い訳つくってやらない時期は終わった。いよいよパックラフトという新しい扉が眼の前で開く音がしてきました。
8年ぶりの中国、変わりすぎ
ということで、4月の某日、まだパックラフトに乗ったこともないど素人がいきなり本格パックラフトブランドのMRSの創業者兼デザイナーに会いに、四川省・成都へと旅立ったのでした。同行してくれたのは、今回の出会いを繋いでくれ、中国のアウトドア事情について日本でおそらく最も精通しているであろう”盟友”arataの杉目さん。
中国は実に8年ぶり。前回は2017年に南京のアウトドアショーに一人で取材に行ったっけ。その頃に比べると、今の中国は想像のはるか上をいく劇的な変貌を遂げていました。
巨大なモダン建築の空港、ハイテク電気自動車、スマホ決済が当たり前(8年前はクレジットカードがまだ使えてた)の経済、外国人までスマホ予約とID認証でOKな新幹線(8年前はアナログな券売機がまだ現役だった)など、なかなか変われない日本を横目に、一歩も二歩も、いや100歩くらい先に行ってしまった感がある。
もちろん、徹底した監視社会とトップダウンの有無を言わせぬ改革という負の面もあるし、取り残された発展途上の部分もまだまだたくさんある。急速な発展の揺り戻しでこの先たくさんの問題が待ち受けていると予想されているのも確かです。ただそんなカオス的状況はお構いなしにとにかく前に進めるのだという(いい意味でも悪い意味でも)強引さが今の中国の発展を支えてきたのも確かであり、その結果多くの部分でもう日本はまったく歯が立たないくらい取り残されてしまったということも実感してしまいました。むむむ。
黄砂の影響もあってか、晴れなのにどことなく霞んだ、それでも果てしなく続く青空をぼんやりと眺めていると、ほどなくMRSの工場兼オフィスに到着。MRSは成都の中心部から少し離れた郊外の工場団地の一角に拠点を構えています。
ここは自動車メーカーを中心にたくさんの部品メーカーなどが集中しているエリアらしく、多くの中国メーカーはこのような工業団地に工場とオフィスや倉庫を1カ所にセットで確保してスピーディに開発と生産を進められるらしい。かつてモノづくりが活き活きしていた日本がそうであったように。
午後からはオフィスのショールーム・応接スペースでMRSの創業者であり現CEO兼デザイナーである羅さんにたっぷりとお話を聞きました。
ブランドの成り立ちはもちろん、パックラフトの楽しさ、楽しみ方、果ては中国のアウトドア・パックラフト事情や中国の一般的な余暇の過ごし方から経済的文化的慣習まで。
いろいろ話題が広がるなかでもやはり興味深かったのは、とにかくゼロから世界に通用するクオリティにまでブランドを築き上げてきた羅さんのバイタリティと、羅さんの人としての気持ちのよさ。さらには中国のブランドでありながら、ともすれば日本のメーカー以上に技術面・精神性での先進的な姿勢でした。
そんな偏見でいた自分がちょっと恥ずかしかったし、もはや世界中で情報の格差は完全になくなったということを実感したとともにもはや中国という大きな主語で語ることは無意味だとあらためて感じられたのでした。
本当はこれから近くのフィールドでパックラフト体験、といきたかったのですが、なんでも次の日にMRS主催で200名以上の参加者を集めたパックラフトイベントが開催されるのだとかで残念ながら都合がつかず。羅さんらと別れてからは、せっかく四川省に来たということで、街から3時間ほど新幹線で移動した場所にある世界遺産を2つ(九塞溝・黄龍)弾丸旅を敢行。
そこは大都会の北京、上海、深センなどと違い、ほとんどが国内旅行者だらけ、英語はほぼ通じない、そんな中でのスケジュールも予算もツメツメの旅は、それはそれでハラハラドキドキの連続で、決して望んだわけではないのですが久々に海外バックパッキングのスリルを味わってしまいました(もちろん世界遺産はどちらも圧巻でしたが)。
次回はいよいよMRSの羅さんへのインタビューをお届けします。お楽しみに。