
Rab Veil XP 30 レビュー:軽さ・快適さ・耐久性・収納性の四拍子揃った完成度の高さは、ファストパッキング向けバックパックの水準をまた一段上のレベルに引き上げた
タフな山岳アクティビティに対応する高い機能性と洗練されたデザイン性をとことん追求する妥協のないモノづくりが世界中の山岳愛好家たちを魅了し続けている、今最もアツい英国の山ブランド、Rab(ラブ)から、今シーズンついにファストパッキング向けバックパック「Veil XP」シリーズが登場しました。
長距離のトレイルランニングと超軽量バックパッキングを融合し、ひとつの壮大なアドベンチャーとして楽しむファストパッキングでは、バックパックにもランと登山の両方の要素が求められ、軽さだけでなく走りやすさ、長時間に耐える快適さ、収納性など、より多様な要素が高いレベルでバランスよく求められてきます。
ただ、Rabの「軽さ」と「快適性」「機能性」の絶妙なバランスの良さと完成度の高さは、昨シーズンリリースされた軽量大型バックパック Muon でもすでに実証済み。今回もそんな抜群のセンスを期待せずにはいられません。
さっそく発売と同時に何度か関東の山で使用してきましたので、さっそくレビューをお届けします。
目次
Rab Veil XP 30 / 20 バックパックの主な特徴
Rab Veil XP 30 は過酷な山岳エリアでの素早い行動をサポートする多様な機能性と堅牢性を備えた、軽量装備での数日テント泊にも対応する超軽量30リットルバックパック。通気速乾性に優れたモノメッシュハーネスと立体構造の背面メッシュパッドを組み合わせた背面システム、ブレを抑えるトップテンショナー(30Lモデルのみ)やサイドコンプレッションなどにより、荷物を詰め込んだ長時間の激しい行動でも高いフィット感と快適性をキープします。行動中でもパックを下ろさずに必要なギアにアクセスできる豊富な外部収納がわずらわしさを軽減し、よりスピーディな行動を可能に。さらにIPX4の防水テストに合格した防水仕様によって装備の軽量化が可能となり、日帰りから数日のテント泊までのファストパッキングをはじめ、スピードと軽さにこだわる多様なアクティビティに対応します。
お気に入りポイント
- フィット感に優れた快適な背負い心地
- 激しいアクティビティに最適な高い通気速乾性
- 超軽量にも関わらず優れた耐久性と防水性
- パックを下ろさずに大小さまざまな道具を出し入れできる多数の機能的な外部収納
気になるポイント
- 限界近い重荷での激しい動きに対してはパック全体が揺れやすくなる
- 一体型のウエストハーネスが長い(小柄な人にはやや長すぎる)
- 密閉性が高く空気が抜けないので、パックを閉めて圧縮する際に慣れが必要
主なスペックと評価
※試用はRab Veil XP 30で実施しています
アイテム名 | Rab Veil XP 30 / 20 バックパック |
---|---|
容量 | 約30 / 20 リットル |
実測重量 | 553 g (30L) / 476 g (20L) |
素材 | Robic (40D nylon ripstop, silicon coating), HydroShield coating |
女性モデル | ユニセックス |
サイズ/背面長 | 43 cm (S) / 48 cm (M) |
背面パネル | 3D メッシュ バック システム |
サイズ | Sサイズ / Mサイズ |
推奨最大耐荷重 | ― |
ハイドレーションスリーブ | ◯ |
メインアクセス | ロールトップ式 |
レインカバー | 防水仕様のため不要 |
ポケット・アタッチメント・パーツ類 |
|
Outdoor Gearzine評価 | |
快適性 | ★★★★★ |
安定性 | ★★★★☆ |
収納性 | ★★★★★ |
機能性(使いやすさ) | ★★★★☆ |
耐久性・耐候性 | ★★★★☆ |
重量 | ★★★★★ |
ファストパッキング満足度 | ★★★★★ |
適したアクティビティ | 年間を通じて軽さと動きやすさへのこだわりを捨てない無雪期のファストパッキング・ハイキング・登山・トレイルランニング |
詳細レビュー
素材(耐久性・防水性・重量):IPX4の防水テストに合格した、軽さと耐候性・耐久性に優れた生地
Veil XP のボディに採用されている生地は、超薄手のロビックナイロン・リップストップを採用。いくら強度の高いロビックであるとはいえ、この薄さで大丈夫か?と一見心配したくなりますが、裏地に補強と防水を兼ねたシリコンコーティングを施すことで、生地の重量を削ぎ落としながらも耐久性はキープされるように工夫されています。おまけにこのコーティングと縫い目に施されたシームテーピング処理によってバックパック自体が完全防水仕様となっているため、その分防水スタッフサックやパックカバーを省略することにもつながり、結果として強度と軽さを高い次元で両立することに成功しています。
重量は30リットルサイズで公称553 g。これは普通にウルトラライト系のバックパックとして考えてもトップクラスの軽さであり、後述する豊富な機能性を考慮すればとんでもない数字であることは特筆すべきことです。昨年の Muon が(重荷を背負うことを考慮して)軽さよりも快適さをやや優先していた一方で、この Veil XP は軽さに対して少しも妥協しないという姿勢がはっきりとうかがえます。
背負い心地(快適性・安定性):抜群の通気性とフィット感で長時間快適さが続く背面システム
極限まで重量を削ぎ落としてしまうと、どうしても背負い心地、快適さが犠牲になってしまいがち(特に重荷になるほどその違いが顕著に分かるもの)ですが、そうした不安はパックを背負って歩けば歩くほど、どこかへと消え去っていきました。
背面システムには、肩・腰・背中部分に疎水性の極めて高いモノメッシュ素材の表地、背面にはふわっふわの高いクッション性と抜群の通気性を備えた立体成形パッドを配置。さらに肩口の荷重を受ける部分にはフォームパッド(肉抜きアリ)を搭載し、重量を削ぎ落としながらも高い通気速乾性・クッション性を実現しています。
ユニークなのはウエストベルトで、側面から腰を包み込むようなデザインの、パンチ穴入りモノメッシュ・ベルトになっています。通常20~30リットルサイズの軽量バックパックにはブレを抑えるためのシンプルなストラップが付いているだけで、フィット感や荷重分散にはほとんど何も貢献してくれないのですが、この軽量・幅広・高通気ストラップはただブレを抑えるだけではなく、素晴らしいフィット感と フットワークの良さを提供してくれます。
Veil XP のショルダーハーネスは幅広でフラットなモノメッシュ・パッド。薄いのに優しく心地よいフィット感で、身体のラインに沿って違和感なく自然に肌に密着し、パックの重さを背中と胸全体で受け止めてくれます。
なお30リットルモデルのみに、肩口にトップテンショナー(ロードリフター)が付いており、パックいっぱいの荷物になっても重心を身体に近づけつつ固定して、ブレを防いでくれます。これがあると無いとでは重い荷物になった場合での安定感が大違い。30リットルモデルにはしっかりと付けている部分に、さすがのきめ細かさを感じます。
ブレにくさや安定感も高い一方で、超軽量パックの限界も
ただ、通常の使用ではほぼ不満はなかったものの、限界近くの重さで走ったりした際に、パックの揺れがまったく気にならなかったかといえば嘘になります。
おそらくパックの生地の薄さや伸縮性、柔軟な構造などから(フレームレスで、パック全体をくしゃくしゃに丸められるほど柔らかい)、しっかりと圧縮してもどうしてもブレは感じられてしまいました。またショルダーパッドのクッション性も最小限のため、食い込みもやや気になることも。ただ静止した状態での重心位置については問題なく、後ろに引っ張られるといった感じもないので、いずれも常に問題となるようなレベルではないのですが、やはり超軽量スピードハイキング向けということで、どんな極端な使い方にも耐えられるという類のものではないことは留意が必要です。
収納性と使いやすさ:軽量バックパックと思えないほど豊富で多彩な収納類と使いやすいパーツ
Veil XP には行動中に歩みを止めずにアクセスできるように考えられた多数のポケットやアタッチメント類が搭載されています。
決して軽量ランニングパックとは思えない、通常の登山用バックパックに勝るとも劣らないスマートで臨機応変な収納性の高さを備えているのが個人的に何よりも大きな魅力に感じられました。そのなかから実際のフィールドでの使用を考えた、使い勝手の良い収納を以下にいくつか紹介します。
防水性と拡張・圧縮性の高いロールトップ式メイン収納
メイン収納は雨蓋がなくても中に水が入りにくい、軽量なロールトップ式を採用。防水生地ということもあって非常に密閉性が高く、中に空気が入っているとまったく抜けませんので(それだけ防水性が高いということではありますが)パッキング時には中の空気を抜くことを忘れずに。
またロールトップ式一般の利点でもありますが、荷物の量に合わせて拡張・圧縮の幅が広いということが挙げられます。メイン収納はギリギリまで拡張すれば、実際には同じ30リットルの他社モデルと比べて明らかに荷物がたくさん入ることが分かりました。また逆に少ない荷物の時には、出入口をめいっぱい絞り込み、さらにサイドのコンプレッションドローコードを締めることでパックをかなり圧縮できブレにくくなるので、その点でも安心。日帰りから数日のテント泊まで幅広い容量に対応できる高い汎用性はかなり魅力ではないでしょうか。
ただやはり個人的には(欲しがり過ぎとは思いつつも)メイン入口を開けないで中身にアクセスできるダイレクトアクセスジッパーが欲しい。これは重量とのトレードオフなので悩ましいところですが。
大きなフロントスタッシュポケット
フロントの大型スタッシュポケットはストレッチ性抜群で、レインジャケットから行動食、キャップやグローブ、サンダル、ゴミ袋など大きめの荷物も難なく入ります。
立ったままさまざまなギアにアクセスできる大型サイドスタッシュポケット
個人的に特に気に入っているのが、左右のサイドスタッシュポケットです。ストレッチ性のあるメッシュのサイドポケットという作り自体は当然として、その余裕のある容量と出し入れしやすさが半端なく使いやすいのです。その大きさたるや、下の写真のように1Lの太めのナルゲンボトルがすっぽりと入ってしまいます。
左右のポケットは非対称になっており、左側のスタッシュポケットは入口が大きく、ペットボトル等を出し入れするのに便利。出入口が斜めにカットされているので手を伸ばせばバックパックを背負って立ったままアクセスできます。
一方右側のスタッシュポケットは入口の大きさは左ほど大きくないもののジッパー付き出入り口となっており、小物や万が一落ちたら困るもの等を入れておくのに便利です(下写真)。
左右ともに上から長物を入れてサイドストラップで固定して持ち運ぶこともできるようになっているので、その使い方は用途やスタイルに合わせて自由自在。サイドポケットに求められる利便性がすべてクリアされています。
必要十分なショルダーストラップポケット
幅広のショルダーストラップ左右には広くて便利なストレッチメッシュポケットが配置されています。ソフトフラスクや500mlのペットボトルも入れられる汎用性の高さに加え、ジッパー付きのポケットも備えているので、スマホやコンパクトカメラ、ジェルやスナック、日焼け止めなど、幅広い小物を安全に収納して素早くアクセスすることができます。
トレッキングポールアタッチメント
トレッキングポール収納は2パターン用意されています。まず両サイドに設けられたスリーブ「Zポールキャリー」に収納する方法。長時間ポールを使用しない時にはここに収納することで快適に持ち運ぶことができます(下写真)。
さらにこの他、左右のショルダーストラップ下部にトレッキングポールを固定するループが2つずつ付いており、岩場の通過など一時的に両手を使いたい場合などには、さっとここに固定することで、時間のロスを最小限にすることができます(下写真)。
またフロント下部にもアックス・ポール用のループが備わっているので、必要に応じてこちらに固定することもできますね。
ハイドレーション対応
ハイドレーション用スリーブはメイン収納の外部に配置されています。このため1日の途中で水を補給する際などでもメイン収納を開け閉めすることなくスムーズな出し入れがしやすくなっています。
まとめ:トップクラスの軽さにして機動力と快適さ、使いやすさにも妥協せず。アクティブな軽量バックパックの新たなスタンダード
最小限の荷物でより速く、より遠くへと志向するランナーやハイカーを想定してデザインされた Rab Veil XP 30 は、日帰りから数日のテント泊までのファストパッキングをはじめ、スピードと軽さにこだわる多様なアクティビティに対応する完成度の高い軽量ランニング・バックパックです。
本文にあるように、気になるところがまったくないわけではありませんが、それは Rab に対する個人的な期待の高さからくるものがほとんどであり、軽さが必要とされるアクティビティでこのパックを選択して満足できなかったという場面が、正直自分には想像できません。そのくらいの欠点のなさ、完成度の高さが実感できました。
あらゆるアウトドア向けバックパックの中でも最軽量の部類に入る軽さは、ベースウェイト5kg以下を目指すようなストイックな超軽量ハイカーやランナーにも響くこと間違いありません。もちろん登山やトレッキングの延長線上としてファストパッキングを始めてみたい初心者から、軽さと快適さどちらも譲りたくない欲張りなハイカーまで幅広い層が満足できるクセのなさです。年間を通じて軽さと動きやすさへのこだわりを捨てない無雪期のファストパッキング・ハイキング・登山・トレイルランニングに最適ですが、個人的には防水性の高さから日帰りの沢登り(渓流釣り)などにも使えるのではないかとひそかに企んでいます。
また一歩、長く過酷なルートに連れていけそうな頼もしい相棒が増えました。今シーズンも良い旅を。