ダウンを越える日も近い!?より軽く、より暖かい、プリマロフトのエアロゲル内蔵インサレーションが増殖中
冬山アクティビティでのレイヤリングに欠かせないミドルレイヤー(中間着)の代表格、インサレーションジャケットの進化は、内部に詰め込む化繊中綿素材の技術革新とともにあると言っても過言ではありません。
そして今シーズン、この化繊中綿市場に新しいタイプの中綿素材を採用した製品が続々投入されていることをご存知でしょうか。NASAによって実用化され、ここ数年さまざまな産業での普及が加速しているハイテクでユニークな絶縁素材「シリカエアロゲル」です。
アウトドア業界では、おなじみ”インサレーション界の巨人”ことPrimaLoft® (プリマロフト)が2017年に繊維の中にエアロゲルを搭載した新製品、PrimaLoft® Cross Core™ Seriesを発表し、近年徐々にその素材を採用した製品が手に届くようになってきています。
目次
調べるほどにヤバい、エアロゲル内蔵インサレーションジャケット。秘密は驚異的な「断熱性」の高さ
この新素材の何が激アツなのか?それについて1から説明するのは手に余ることになりそうなので、できる限り要点をかいつまんで話します。
エアロゲル(aerogel)とは端的にいうと、気体(エアロ)で満たされた、微細で均一な骨組みをもった多孔質の構造体のこと。エアロゲルはその90%以上が空気で構成された、つまり中身がスカスカの構造体です。エアロゲル自体は構造体のことを意味するので、骨組みにあたる物質にはシリカやゼラチン、寒天、セルロース、炭素などで作ることができ、それぞれの性質は若干異なるのですが、これ以上突っ込むと話がややこしくなるので、今回の話では特に断りがない限り「シリカエアロゲル」のこととして考えてください。
その透き通った見た目から“凍った煙”や”個体の雲”などとも称されているこの物質の何より注目すべき特徴は、地球上で最も密度が低くて軽く、断熱性の高い固体だということです。
秘密はその構造にあります。ミクロの骨格が空間を均一に仕切っているため、エアロゲル内では気体が温度を伝達するときに生じる対流や分子の熱運動量交換が起こりません。つまり断熱のために必要なデッドエアが自然に作られる素材、いわば天然の極小保温ボトルのようなものです。
そんなエアロゲルの特性を理解するのに分かりやすい動画がありましたので、参考までに。
断熱性能が高いということは、少ない量で高い保温性を実現することができるということ。つまり今よりももっと軽くて暖かいジャケットが作れる。そんな願ってもない特徴を、アウトドアやアパレル業界が見逃すはずはありません。
実はエアロゲルそのものは今から100年近く前の1931年に科学者のスティーブン・キスラーによって発明されています。その頃から、みんなこの素材がスゴイことは分かっていた。
にも関わらず、本格的に産業用に応用され始めたのは21世紀に入って大分経った後でした。それも、最初のNASAによる宇宙服、シャトル、衛星など以外では、産業用断熱材や低屈折率・高透過性を利用した光学部品など。汎用的な用途というよりも、用途も規模もごく限られていたのです。
なぜエアロゲルは普及しなかったのか?
なぜここまで待たされていたのでしょうか?優れた断熱性をもったエアロゲルが、アパレル業界で普及しなかった原因は、もちろんコストの問題もありますが、主にその構造上の特性にあると言われています。
エアロゲルはとにかく衝撃に脆く、耐久性に欠けるのが弱点と言われていました。例えばせっかくエアロゲルでガラスを作ったとしても、虫が飛んできて当たっただけで粉々になってしまう。それほど衝撃に弱い材料だとか。そこで強度をあげようとすると、骨格を太くするしかなく、これでは軽さや断熱率といったせっかくのメリットが失われてしまいます。加えて通気性に乏しい、濡れると性質が変わりバラバラになってしまうという点なども、この夢の素材を衣服に応用しにくくしていました。
「驚異的に軽く、信じられないほどコンパクトになる保温素材」PrimaLoft® Cross Core™ Series
そんな扱いにくいけど夢のような断熱材エアロゲルを、PrimaLoftのデザイナーは何年にもわたって衣服に使用しようと長い試行錯誤を繰り返し、ついにこれらの障害を克服して生まれたのが「PrimaLoft® Cross Core™ Series」というワケです。
その仕組はこう。PrimaLoftはエアロゲルの周りに薄い防水膜を追加して「カプセル化」し、その粒子を繊維と一体化させることで、エアロゲルの最大の課題である「衝撃や圧力」、そして「濡れるとバラバラになる」「通気を塞ぐ」といった課題をクリアすることに成功しました(細かい仕組みは省きますが、興味のある方のために特許情報へのリンクを載せておきます)。
PrimaLoftの社長兼CEOであるMike Joyceはこう述べています。
PrimaLoft Cross Coreシリーズは、
消費者の快適性を高めるために素材の革新の限界を押し広げるための当社の絶え間ない努力の成果であり、大幅な性能の進歩であり、そして これまで達成できなかったレベルの軽量な保温性、快適性、 プロテクションを誇る製品を生み出したことになります。
PrimaLoft® Cross Core™ Seriesはどれだけスゴイのか?
開発の経緯と苦労が分かったところで、実際のスペック上でどれだけスゴイのかについてチェックしてみました。
衣類の保温力を測定する一つに、ASHRAE (アメリカ暖房冷凍空調学会 ) が提唱した、衣類の熱抵抗力を表わした「clo値(クロー値)」というものがあります。PrimaLoftの中綿素材はこの基準に基づいた数値が公開されており、これによって以下の表にあるような同社の他ラインナップとの比較が可能です。もちろんこれらの数値はあくまでも目安であり、数字上での性能がそのまま実感として必ず現れるとは限らず、実際の用途や使用状況、個々人の感じ方によっても評価は違うでしょう。ここで示す評価が絶対的なものだということが言いたいわけではありませんのであしからず。
中綿素材 | clo / oz / yd2(乾燥時) |
---|---|
PrimaLoft Black Insulation | 0.65 |
PrimaLoft Silver Insulation | 0.79 |
PrimaLoft Gold Insulation Active | 0.81 |
PrimaLoft Silver Insulation Active | 0.82 |
PrimaLoft Black Insulation ThermoPlume | 0.85 |
PrimaLoft Gold Insulation | 0.92 |
PrimaLoft Silver Insulation ThermoPlume with Cross Core Technology | 最大0.95 |
PrimaLoft Gold Insulation with Cross Core Technology | 最大1.40 |
※PrimaLoftプレスリリース、メーカーカタログ等より抜粋
これによるとCrossCore™テクノロジーを採用したPrimaLoft®ゴールドは、ベーシックな断熱材として最も暖かい化繊中綿であったPrimaLoft®ゴールドと比較して、同じ重さで最大約1.5倍(0.92 → 1.40)の暖かさを提供できることになります。つまり見た目はまったく同じでも、昨年までに比べて、飛躍的に暖かく、軽いジャケットが作れるようになったということです。にわかには信じがたい話ですが、これは楽しみ以外のナニモノでもありません。
PrimaLoft® のエアロゲル技術を採用した注目のインサレーションジャケット8着
ワクワクするようなPrimaLoft® のエアロゲル技術を採用した新しいインシュレーションジャケットは、2018年当初は主にグローブやシューズなどの衣服以外、ジャケットではL.L.Beanなどのごく一部のブランドで供給が開始されていましたが、この秋冬シーズンから満を持して採用ブランドが爆発的に広がり、興味深いアイテムがたくさん登場してきました。当サイトでもいくつかのモデルを調達し、すでにレビューを始めていますが、そんな今年注目のエアロゲル技術採用モデルをチェックしていきたいと思います。
Patagonia DASパーカ
一時期販売が途切れていたパタゴニアのビレイ用パーカの定番、DASパーカが今シーズン、PrimaLoft® Cross Core™ 技術とともに復活しました。冬期クライミングにおけるビレイでは、極寒の中じっとしているだけでなく、気温が高めのときには氷が溶けて滴り落ちてくる水滴や雨でビショビショになりながらのビレイもあり得ます。そんなとき、ダウンはいくら軽くて暖かいとはいっても濡れてしまえば役立たず。
DASパーカはそんなクライマーの厳しい要求に応えるべく、可能な限りとにかく暖かく、さらに濡れの心配をせずに着ていられるというコンセプトのインサレーションジャケット。その要求に今回のPrimaLoft® Cross Core™ 技術が適していないわけがありません。今回の新素材の特徴を踏まえた上で、「保温力」に全振りしたのがこのDASパーカ。まさに最強のビレイパーカであり、最暖軽量化繊中綿ジャケットと言えるでしょう。ラインナップで最高のClo値を叩き出すPrimaLoft Gold Insulation with Cross Core Technologyのecoバージョンで、なおかつ133グラムクラスの潤沢な厚手中綿を採用し、さらに要所に40グラムの中綿を補完。まるで寝袋をまとっているかのようにフカフカで心地よいぬくもり。それなのにまったく着たときの重量感を感じない軽さは本当に驚きです。
NORRONA trollveggen Primaloft100 Zip Hood
北欧発、こちらもシリアスなアルピニストのためのブランド、ノローナから、厳冬期登山やクライミングで重宝すること間違いなしの極暖化繊インサレーションジャケット。ノローナは他メーカーに比べてより緊密なパートナーシップを結んでいるため、発売は2019年と、より早くから投入されているモデルです。こちらもPrimaLoft Gold Insulation with Cross Core Technologyを採用し、暖かさにほぼ全振りしていますが、中綿のボリュームは100gクラスでDASパーカに比べるとやや少なめで、若干の軽量コンパクトさが感じられます。とはいえ、極寒のなかで袖を通したときの、ふっくらとパフィーでモコモコした感触は格別で、すぐに温かみが感じられ、なおかつこれまででは考えられなかった軽さがひと時の安堵感を与えてくれるのに十分。さすがというべき立体裁断によるフィット感と動きやすさも間違いなしで、ビレイ用にはもちろんのこと、冬期のアウトドアで、アウターにもミドルレイヤーにも活用可能な保温ジャケットです。
NORRONA lofoten Primaloft80 Anorak
同じくノローナですが、こちらはフリーライドやバックカントリーなど、スキー・スノーボードを想定したテクニカルな仕様のインサレーション。ここでの中綿は同じCross Core Technologyを採用したPrimaLoft Goldですが、さらに生分解可能原材料を使用した、さらに環境対応を推し進めた素材を採用。そしてボリュームは80gサイズとやや薄手にし、アクティビティに最適な断熱性と機動力のバランスを確立しています。一方で肩、胴体下部、袖口にGORE-TEX® 2-Layerの補強を加えることで要所の防風・防水性能を加え、アウターとしても活用できるような汎用性の高さを備えています。裾から両肘にかけて施されたベンチレーションジッパーも面白い。大きめのハンドウォームポケットやはゴーグルクロス付きのチェストポケットなど、スキーヤーにとって嬉しい仕様が満載。
L.L.Bean プリマロフト・パッカウェイ・フード・ジャケット
L.L.Beanは長年PrimaLoftと良好なパートナーシップを組んでいたこともあり、この新しい素材を使っていち早く製品化することができたようです。2018年春に登場したL.L.Beanのプリマロフト・パッカウェイ・フード・ジャケットは、新しいエアロゲル入り素材の「軽量さ」を全面に活かした、軽量コンパクトなのに暖かいモデル。PrimaLoft Gold Insulation with Cross Core Technologyの60gというボリュームは決して冬の登山で防寒着として耐えられるものではないかもしれませんが、秋冬や街着として考えれば丁度いいとも言えます。おまけにポケットを裏返して袋状に畳めるパッカブル仕様。イメージとしてはPatagoniaのナノ・パフに近い感じでしょうか。こちらも実際に試している最中ですので、詳細は試用レビューをお待ち下さい。
THE NORTH FACE ワンダーラストフーディ
見た目はほぼほぼダウンジャケットですが、中身はれっきとした最新エアロゲル内蔵中綿が封入されているのが、このTHE NORTH FACE ワンダーラストフーディ。こちらのモデルで特徴的なのは、エアロゲルをGoldのように典型的な板状の中綿ではなく、数年前に登場したThermoPlume®というダウンに限りなく近い形状の中綿に混ぜてある、PRIMALOFT® Silver ThermoPlume® PROという種類の中綿を使用している点です。断熱性能こそPrimaLoft Gold Insulation with Cross Core Technologyに劣るものの、このタイプはダウンジャケットと同じようにふわっとした感触と復元力を備え、保温性と軽量性、そしてデザイン性を兼ね備えているというメリットを提供しています。合わせてバッフルには糸を使わない接着方法を使用することで、わた抜けを軽減しつつ軽量化し、冷気の漏れも防いでくれます。各所にeco素材を採用しているのもユーザーにとって安心の、街にアウトドアにと汎用性の高い1着。
THE NORTH FACE ポラリスインサレーテッドフーディ
こちらは上のワンダーラストフーディと同じPRIMALOFT® Silver ThermoPlume® PROを採用しつつ、中綿の量を増やし、さらに表地にはナイロン100%の高耐久なPERTEX® Quantumでプロテクションを高めた純然たるエクスペディション向けモデル。「冬期の長期山行を想定」と説明があるように、収納時はコンパクトにまとまりながらも高い復元力を保持しながら、濡れても断熱力を失わないというThermoPlumeのメリットを活かしています。その他コールドスポットを少なくする効果のある袋折り状のバッフル構造や、気兼ねなく家で洗濯できるなど、これほどの高機能・手入れのしやすさでありながら、街でも溶け込むスタイリッシュさも兼ね備え、個人的にはかなりパフォーマンスの高い1着という印象です。
THE NORTH FACE レッドランプロフーディ
ノースフェイスが今回のプリマロフトよりもずっと前から製品化していたエアロゲル中綿「THERMOBALL® PRO」採用のジャケット。そう、これはエアロゲル内蔵中綿ですが、厳密に言うとPrimaLoft® Cross Core™ Seriesではありません。しかし、蓋を開けてみると実はこのTHERMOBALL® PRO、今年の商品スペック欄を確かめてみると昨年までなかった「THERMOBALL® PRO(PRIMALOFT® CROSS CORE™)」という言葉が堂々と書かれていました。つまりどういう理由かはうかがい知れませんが、ノースフェイスがプリマロフトと共同で開発を進めていたエアロゲル中綿は、PrimaLoft® Cross Core™ Seriesと根っこの部分で同じ技術を使用しながら、最終的にそれぞれのコンセプトの下でアウトプットされた別の中綿素材と考えられます。実際のところこのジャケットに封入されているTHERMOBALL® PROはコロコロとした球状の中綿で、PrimaLoft® Cross Core™ Seriesの中綿とは見た目からして性質は違っていそうな様子。肝心のレッドランプロフーディの印象ですが、まず化繊とは思えないくらいに復元力が高い。ボール状の中綿は偏りにくく、袖を通したときの形も気に入っています。今年のモデルは脇下の4WAYストレッチフリース部分が袖下にまで広がり、運動時の使いやすさも向上。寒冷時期のランニングやトレイルランに使いたくなる1着です。
OMM Barrage Jacket
これまでのモデルはすべて表地は耐久撥水加工(DWR)のみであったのに対し、OMMのBarrage Jacketには耐水圧10,000mm(透湿性10,000g)のPoint Zero H2Oファブリックを採用した完全防水のインサレーションジャケット。これだけでもスペックに敏感な山好きにはたまらないのに、中に封入された中綿はPrimaLoft Gold Insulation with Cross Core Technologyの80gと、ボリューム的にも冬場に使うのに十分なものを持ち合わせています。元々無雪期のファスト&ライトなアクティビティのためのブランドであるため、もちろん雪山やスキーでも使えますが、よりトレイルランや街着として使いやすい特徴を多く備えているのも注目。同社のMountain Raidシリーズと合体させてスリーピングシステムを構成することのできるコネクタも付属しており、寝るときにはこれをシュラフ代わりにすることも可能。こうして明確なコンセプトのもとでムダを省いた合理的な装備が構築できるのもこのブランドの魅力。
最後に
ここ数年で徐々に普及してきたエアロゲル中綿ですが、今シーズンの盛り上がりを見るにつけ、いよいよ定番化の元年となりそうな勢いはこれからますます目が離せません。当サイトではその実力をしっかりと確かめて見るべく注目モデルを実際に購入し、現在、独自に比較テストを実施中ですので、準備でき次第比較レビューしていきますので、楽しみに待っていてください。